日本に平和は訪れただろうか?反グレの台頭、海外マフィアの進出、ナイトビジネスの衰退...私はヤクザを容認するつもりはないが少なくとも我が国は悪化したように思える。
土曜日ニューアクア-
休みということもあり、網岡駅近くのショッピングモール・ニューアクアは人で溢れかえっていた。しかし殆どは連絡橋を通じて駅へ行く『通行人』で利用者は5分の1もいない。そんな中で隆之は藍魅を待っていた。約束していた恋愛レッスン第一回目。今回は服装についてレクチャーしてやると息巻いていたが...
「待たせたな」
「いえ。今来ましたから」
藍魅は雑誌で見るようなオータムファッションでやってきた。元々体型が恵まれているのでより見栄えがする。それに比べると隆之はチェックのシャツにジーンズ姿である。通行人の誰もこのダサ男があの読者モデル高木涼佳の彼氏とは思うまい。
「ったくなんだよその恰好は」
「選んだんですけど..」
「センスがない」
「うっ...」
「チェック柄って一昔前のオタクか!それにジーンズもボロボロじゃねぇか」
「これってダメージジーンズってやつじゃ」
「故意的じゃなくて自然破損だろこれ!年季の入ったヨレヨレのジーンズはダメージって言わないんだよ。謝れジーニストに、木村○哉に!」
「す、すみません」
「それは隆之が選んで買ったのか?」
「いえ、母親が」
「お前は着せ替えリカちゃんか!くぅぅ..そりゃファッションセンスがないわけだ。まぁ教えがいがあるか。じゃあ早速行こうか」
「どうかお手柔らかに..」
隆之たちはファストファッションの店に入った。隆之自身でこういった店に入ることはない。着られればいいというほど服装には無頓着なので藍魅に先ほど着せ替え人形と言われても仕方のない状態だった。隆之はメンズの服を物色していると藍魅が話しかけてきた。
「あの彼女とはそういう話はしないのか?読モなんだろ?」
「してはくれるんですが、呪文のような言葉が飛んでくるので全くついていけなくて..」
「服屋にも行かないのか?」
「行きませんねぇ..僕はこのままで十分だって言うので」
「ふぅん」
藍魅は涼佳に恫喝されたときのことをふと思い出した。放っておいても他の女になびくなど1ミクロンの可能性もないがそれでも可能性を1%でも高めることを嫌がったのだろう。しかし、それが将来的に隆之のためになるかと言えば違う。藍魅はあの後お節介かと思ったがある種の老婆心というか母性に駆り立てられ隆之をモてる男にしようと思った。
「これとかどうですか?」
「いいんじゃないか」「試着してきます」
隆之は試着室に向かっていった。残された藍魅は自分の服でも見に行こうと思うといるはずのない高木涼佳がこちらを見ていた。通路に点々と置いてあるここから少し離れた椅子に座り、虚ろな目でこちらを見据えていた。そして何かをブツブツと話している。隆之に聞いたが彼女は仕事と聞いたがなんでこんな場所にしかもここに隆之と藍魅がいることが分かったのだろうか..?一瞬ゾッとしたがすぐに目を逸らす。目を合わせていると生気を吸い取られるような気分になってきた。
「アイミさんどうですか?」
「え?おお似合ってるじゃん」
隆之はマネキンの着ている服を参考にしながら服を選んだ。初めてにしてはそこそこいいチョイスだった。
「本当ですか!」
「おう!素材は悪くねぇんだ。自信持てよ。折角だ、私が買ってやろうじゃないか」
「え?そこまでしてもらったら申し訳ないですよ」
「何言ってんだ。いいからいいから。わがままに付き合ってくれよ」
「ありがとうございます!」
服を買い終え、二人はどこかで昼食を食べることにした。藍魅は涼佳がここにいてまたこちらをじっと見ていたことを隆之には言わなかった。出るときには涼佳は椅子にいなかった。きっと撮影の合間に休憩で来ていたのだと..信じたかった。
「少し歩くけど商店街に美味いラーメン屋があるんだ。」
「じゃあ行きましょうか」
隆之は藍魅と手を繋ぎ始めた。
「...エスコートってこういうことですかね?」
「やればできるじゃねぇか!エスコート、よろしくな」
*********
商店街-
休日だというのに閑古鳥が鳴いている商店街であった。ひと気が平日と全く変わらない。両親から聞いたことがあるがニューアクアの建設には商店街は大反対したそうだ。しかし、ニューアクア側は駐車場のない商店街にうちが出来ればきっとそっちにお客が来るとなんとか説得して建設されたが、客など来るわけもなく今のシャッター街が形成されることになった。そんな中で商店街も活性化に向けて色々と取り組んでいるが全てが自己満足という一言で片づけられる始末だ。
さて、隆之が連れてこられたのは藍魅のコーヒーショップのすぐ近くにある中華屋だった。
「いらっしゃい。お、アイミちゃん!弟さんかい?」
「おじさん違うよ。うちの客でさ..」
「へぇいいねぇ。俺もアイミちゃんとデートしたいなぁ」
「奥さんいるでしょ」「最近じゃ張り合いもないんだよはははで、注文は」「いつもの。2つで」「はいよー」
店主と思われるおじさんと藍魅は楽しく談笑していた。一方隆之は店付きのテレビを見ていた。話の腰を折るのもなんだと思ったからだ。おじさんは注文を受けると調理を始め、バトンを渡される形となった。
「ここも昔は繁盛してたんだ。」
「昔ってここら辺に住んでたんですか?」
「あ、そうか。北口が工業団地だった頃は知らないか..ほんの十年前は買い物できるとこといえば商店街だった。裏路地は夜の街でサラリーマンがいたもんだ..まぁ北口にニューアクアが出来てからは見ての通りだけどな」
「なんとか...なんとかお客さんは呼び戻せないんですか?まだ食べてないけどこんなに美味しいラーメンがあって、コーヒーがあって..」
「...出来ればな。」
藍魅は悲しげに呟いた。変な空気の中、ラーメンがやって来た。醤油ベースの所謂中華そばでとても美味しかった。そして隆之はここには魅力があるのにほとんどの人はそれに気づいていないことが悲しく思った。いや、藍魅やこの街が半ば諦めていることに悲しんでいたのかもしれない。
昼から営業があるということで二人は店で別れることにした。藍魅は店にいてもいいのにといったが1日中付き合ってもらうのは申し訳ないと解散した。藍魅は店のシャッターを開け、開店の準備を始めた。
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ニューアクア廊下-
ショッピングモールの通路に点々とある椅子は足腰の弱い高齢者にとって一里塚にある大樹のような小休憩所である。とある老人は買い物疲れで近くにある椅子に座ろうとすると先に女の子が座っていた。老人は隣に座るとその少女はか細い声で何かを呟いていた。しかし老人は気にも止めず暫くすると立ち上がり買い物を続けた。
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス...」
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