それぞれのシーズン   作:四月朔日澪

5 / 5
ドラマ「相棒」でヤクザが触れられましたね。そのせいで右京と角田係長が...
警察組織はヤクザを必要悪と認めているのは事実だったりするんですよね。警察OBの犯罪専門家の方もそう言っていますし。


秋の頃5(終)

濁流高校-

 

 もう金曜日。明日は高木さんとのデートだが、ここ一週間高木さんは学校に来ていない。僕は高木さんが来ているか高木さんが所属する芸能クラスを訪ねてみた。芸能クラスは僕の所属する普通科とは校舎が違い、彼らを入れるために新しく作った新校舎にある。教員も別々でクズの集まりと言われている濁流高校の生徒とは隔離して学校生活を送っている。そんなクラスに普通科の僕が入っていくのは場違いなのだけど、やはり高木さんのことが気になる。勇気をだして今日も新校舎へ向かった。

 

網岡拓流大学付属高校タレント学科-

「涼佳なら今日も来てないよ」

「そうですか..ありがとうございます」

「それより彼氏から何か聞いてない?涼佳のこと。仕事もすっぽかしちゃってるし、鬼電してもでないしさ」

「僕も電話やメールはしてるんですけど、返ってこなくて..」

...芸能クラスは高木さんが人攫いにあったのではないか、など騒然としている。高木さんは読者モデルの中でもトップにいる今売れっ子だからそうなるのも当然か。いや、そもそも僕みたいなのがそんな有名人の周りにいるだけでも驚きなのに彼氏なんだもんな..本当に僕なんかが彼女でいいんだろうかと考えることが..ううん。こんな考えじゃダメだ!藍魅お姉さんに特訓してもらった意味がないじゃないかっ...

『....やっぱり福本とかいう男みたいに殺されたとか..?』

『涼佳、あの男と遊んでたみたいだしね』

『事件の時にも一緒にいたんでしょ..きっと証拠隠滅だよ..』

...?教室のどこかでそんなひそひそ話が聞こえてきた。高木さんが福本くんと遊んでいた?これは別に嫉妬ではなく疑問だった。先週のこと、高木さんは福本くんが亡くなったことを「天罰」とか福本くんを「ごみクズ」とくそみそに罵っていたし、何より殺意を持っていたはずなのになんで遊んでいたんだろう...

 

『.....いつかあのごみクズ○そうと..』

 

...いやいや。高木さんが実行しようなんてありえない...枝木のような華奢な腕では体格のいい福本くんに傷一つもつけられないはずだ。そんな馬鹿なことするわけない。でももしその現場に出くわしていたとしたら...高木さんは証拠隠滅で殺され..trrrrr...

 最悪の展開を想像していたとき、携帯電話が鳴った。着信の相手は....高木さんだった。動揺を隠しきれず電話を落としかけたが、気を落ち着かせ電話に出た。

「たたた、高木さん?!心配したんですよ。一週間も連絡もしないで」

『心配してくれたの~嬉しいな♡』

一週間ぶりの高木さんの間延びした声にとりあえず安堵する。

「それで一週間何してたんですか?芸能クラスのみんなも心配してましたよ!」

「う~ん..ちゃんと話すから今から前連れてってくれたコーヒー屋さんに来てくれないかな~?学校だとリュウ君と静かに話せないし..」

高木さんと話したいのはここにいる芸能クラスのみんなも同じできっと高木さんが学校に来てもあっという間に人垣ができるだろう。先生、クラスメイト...優先順位から言えば話せるのはずっと後になる。

「分かりました。10分くらいに着きます!」

電話を切り、芸能クラスを後にする。今は授業中だがこの高校で授業をまともに受けている生徒など誰もいない。それ以前に教室に生徒がパラパラといないということなどザラだ。

 通用口から学校を抜け、駅方向に向かって走る。信号を抜け、ニューアクアに入って連絡橋から駅の構内に入って南口に行く。網岡駅は駅の構内に入らずに南側に行く道はここからでは遠く、殆どの人が駅を通って向かう。でもシャッター街と化した南口に立ち寄る人もおらず人を避けること無く走り抜けられた。駅の階段を降り、200m先の藍魅お姉さんのコーヒーショップへ一直線に走っていった。

 

コーヒーショップ-

「はぁはぁはぁはぁ...」

1kmにも満たない道を走っただけで息切れをしてしまう。僕は運動が苦手な方だ。こうやってなんでもないことで走るなんて久しぶりのことで体がついていけていない。コーヒーショップに着いたけど、お店は閉まっている。看板や折り畳み式の看板も無く中も照明がついていない。

「本当にここなのかなぁ...」

前行ったコーヒー屋とはここのことではないのか?でも、高木さんと最近コーヒーを飲んだのはここしかないはずだ。ドアを押してみる...開いた。休みかもしれないけど「ごめんなさい。お邪魔します」と静かに声を掛け中に入った。

「いらっしゃい♡リュウ君♡」

カウンターの前には高木さんがいた。しかし、客側ではなく藍魅お姉さんがいるはずのキッチン側に。

「駄目ですよ高木さん!そっちにいちゃ」

「大丈夫だよ。今ここには私たちしかいないから」

つまり店番をしているって訳ですか...本題に入ろうとしたら高木さんが制してきた。

「色々聞きたいことがあるだろうけど~少し昔話をするね..

 

昔々、いじめられていた女の子がいました。女の子のおうちは産廃業者でゴミ回収を仕事でしていました。だから女の子はみんなから「ゴミ屋」と言われ生ごみを投げられたり、「近寄るな」と言われていました...」

「....」

「でもある日、ある男の子が女の子をかばいこう言いました「人の仕事をバカにするのはよくないんだぞ」って。そして男の子はいじめっ子と喧嘩をはじめ女の子を守りました」

「高木さん...」

「その男の子の名前は隆之というので女の子は「タカくん」と呼んでそれから仲良く遊ぶようになりました.....

でもそれは長く続きませんでした。タカくんは地元の公立学校、女の子は私立一貫校に行くことになったからです。そして女の子はまたいじめに遭ってしまいます。ポルノ写真をバラまかれ、殴られたり蹴られたり、モノが無くなったり壊されたり...でも女の子はタカくんとまた会えることを楽しみにしながらそれに耐えました」

「っ.....あ」

「高校入学の時、女の子は地元に久しぶりに戻ります。何故ならあのタカくんと同じ学校に入るためです。どれだけ待ったことか...女の子は会えることを胸膨らませ入学式を楽しみにしていました。入学式の時はうれしくて抱き着いちゃいました。タカくんは驚いてたけどね♡」

「リョウ...ちゃん...?」

「今頃気づいたんだね...そうだよ。タカくん....ずっと昔から好きだった。だから邪魔者を消していったんだよ。」

次々と紡がれていく言葉...高木さんが幼稚園の頃に仲が良かったリョウちゃんだったこと、そして語られたリョウちゃんの過去。でも最後に異物が入るような言葉が放たれる。『邪魔者を消し』た...?

「リョウちゃん、それってどういうこと?」

「どうってそのままの意味だよ?まずはあのごみクズから殺ったよ♪タカくんと私の仲を引き裂くだけでも罪なのに、タカくんを傷つけるなんて万死に値するよ♪だって酷いんだよ!あいつを騙して殺そうと思って付き合うふりをしていたのにまだタカくんに別れろって脅してたんだから。だから私がパパに頼んで殺してもらったんだ~」

まるでいつもフードコートで話すようにリョウちゃんは犯行を自供していく。福本くんはやはりリョウちゃんの手によって殺されたのか。

「驚かないんだね」

「うん...事件の時に一緒にいたって噂で聞いたから」

「チッ..誰だ?始末しないと...」

「リョウちゃん!これ以上罪を重ねるのはやめてよっ!僕はそんなこと望んでない!」

「え?.......ふふっそんな訳ないかっ!だって、タカくんが私を否定することなんてしないもんね。気が動転して素直に喜べないだけだよね♪」

リョウちゃんは言葉を都合の良いように曲解している。リョウちゃんに罪の意識はないのだろう。善悪の判断は僕を中心にあるようだ。

「それと一番聞きたいのはなんで私が一週間学校に行かなかったか、だよね?」

「うん....そうだよ」

「あれを見せたほうが早いか」

そういってリョウちゃんは奥の調理場に入っていった。あれとはなんだろうか?

「こいつを始末するのに手こずっちゃって」

「あ.........あ、あ、」

高木涼佳が手に載せていたのは...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この店の店主『聖川藍魅』の首だった。

 

「あああ....うっ##############

「もう汚いなぁ。生首見たくらいで吐くなんてだらしないよ。まぁそこもかわいいけどね」

「う....ぶっ........だん"であ"い"み"お"ね"え"ざん"を"」

「ダメだよ。あんな女の名前を口にしちゃ」

涼佳は藍魅の首を床に落とす。つまらないおもちゃを見るような目で無慈悲に。そして虚ろな目線を隆之に向き直り話を続けた。

「あいつが死んだのはタカくんのせいでもあるんだよ?タカくん、あの女とデート。してたよね?」

「勘違いですそれは...藍魅お姉さんは僕に自信を付けさせようと..」

「理由なんてどうでもいいの。私以外の女がタカくんに近づいただけで罪だよ。それに、私が他の男になびくなんて絶対ないよ。そのままのタカくんが好きだよ」

「僕は...僕は.....リョウちゃんを受け入れられない..」

「あっ...」

隆之は店を飛び出し、逃げようとした。しかし、ドアの先にはサングラスにシャツを着た怖い男たちがいた。

「兄ちゃん、悪いな」

「な、なんですか」

「嬢」

「パパの部下だよ。あまり手荒な真似はしたくないんだけどな...でもこれ以上逃げるなら...おい」

「ちょっと眠って貰うぞ兄ちゃん」

ドッ

鈍い音と同時に腹部に痛みが走る。そして視界は狭くなり、意識はそこでなくなった。

「タカくんが私が受け入れてくれるまでたっぷり『教育』してあげるね...フフッ」

 

終わらない




秋の頃はとりあえず完結。次は冬の頃を書く予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。