PV、評価、感想、本当にありがとうございます!
とてつもなく拙い文章ですが、こうすればいいみたいなのがあれば言ってください。極力頑張ります。
どうして、と自分に問う。
返ってくるのは「さあな」という無責任な返事。
これが俺の行動の結果だというのだろうか、それとも彼女たちは最初からこうだったのだろうか。
考えたところで答えはでなかった。
俺を見つめる夕立の瞳には攻撃的なものは感じられない。けれど、その瞳は確実に俺を捉えて離さない。
縛り付けられた体が自由にならないか、と体を動かしてみるがどうにもはずれない。縄を解くことを早々に諦め、誰かが助けに来てくれることに賭け、時間を稼ぐことにする。
「何がしたいんだ?」
聞かれた夕立は駆逐艦とは思えないくらいに妖艶な笑みを浮かべて答える。横にいる時雨も何が面白かったのかはわからないが笑っている。
「何、って……提督がこうしたんじゃないか。僕だって提督をこんなふうにはしたくないんだ」
時雨は細い腕を俺の首元に巻き付け、耳元で囁く。言葉の間に入る息遣いまで聞き取れるほどに近い。
段々と声が近づき、ピチャ、という音が耳に響く。同時に迫るぞわりとした感覚。
「……提督、僕たちはまだ大丈夫なんだ。あの人たちに比べると優しいものだよ」
「何を言ってるんだ……」
時雨は意味深な言葉を囁く。
「――っ」
首筋に感じた痛み。咄嗟にそちらへ振り向き、痛みの正体を知る。
「夕立、何して……」
空想上の吸血鬼のように夕立は俺の首筋に噛み付く。
口元に血を滲ませ、嬉しそうに笑う。狂気的で猟奇的な表情は得体の知れぬ気味の悪さを感じさせる。
夕立に便乗するように時雨も片方の空いた首筋に歯を立てる。
「マーキング?っぽい」
小首を傾げ、顎に手を当てていい慣れぬ単語を言うように答える。
「僕たちは提督と一緒にいられればそれでいいんだ。でもね、現実はそうは簡単にいかない。提督だっていつまでも僕たちと一緒にいられるわけじゃないし、僕たちの方だっていつまでも提督を見てられないんだ」
そう言う時雨の表情は下を向いているせいで何一つ読み取れない。起伏のない声は俺の恐怖感を煽る。
「――――建前、だね。本音の部分はただ提督を独占したいだけ。他の誰にも渡したくない。『なぜ』か?そんなのは簡単だよ……僕たち、いや、この鎮守府にいる皆全員、提督がいなきゃダメなんだ。わかるかな?だからいつも提督を感じていたくて監視カメラを仕掛けるし、提督と話がしたいだけで食堂に行くんだ」
時雨は徐々に徐々に顔を上げていく。
瞳の黒はとても濃く、影のせいで光はない。
口元だけが笑っており、目には何もない。感情が抜け落ちたような、そんな表情。
引き込まれそうな程に深い瞳、時雨は俺と目を合わせて確かに笑った。
「みんな、提督と仲良くなりたいんだ。でもその気持ちが次第に強くなって自分じゃ抑えきれなくなる。抑えきれなくなれば行動に移す。……まあ、瑞鶴さんや暁みたいなのはまだ可愛いものだよ。一番闇が深いのはきっと――――」
ドンッ、という音が扉から聞こえてくる。何かがぶつかるような音。一定の感覚を置いてその音を響かせる。しかし、その音はすぐに止まる。なんだったのか、と考える間もなく腹にまで響く衝撃が来る。
爆発音とともに黒い煙が立ち込め、狭い部屋は一瞬で黒に染まる。薄明かりでは当然、その闇を晴らすことはできない。
何かに体を持ち上げられる。喋ろうとして口を開いた瞬間に誰かの手で塞がれる。そしてその人は俺を抱えて走り出した。
「提督!大丈夫だった?!」
黒い煙をぬけ、視界が開ける。辺りは木。どうやらあの小屋は森の中に建てられたものだったようだ。
あてられていた手がはずされ、外の新鮮で冷たい空気が肺へ入り込む。数日ぶりに味わうような感覚の空気に懐かしさを覚えたが、すぐに状況を思い出し、それどころではないと自覚した。
「鈴谷か……!」
「ちょっと待ってね、今縄を解くから」
鈴谷は俺を座らせ、手に持ったナイフで縄を切り離した。自由になった両手の感覚を確認し、異常はないことを確認。
「鈴谷、助かった……ありがとう」
よく見れば鈴谷の肌は黒く煤けている。右手には艤装。先の黒煙は艤装による攻撃によって生じた爆煙だったわけだ。
「怪我は……してなさそうだけど、大丈夫?」
「ああ……ここは?」
「私もよくは知らないの。詳しい話は執務室に戻ってから!」
鈴谷は心配そうに後ろを確認し、すぐに俺を立たせた。
状況は分からないが、とにかく逃げられるのなら逃げるべきだ。今あの場に戻るという選択肢はないはずだ。
情報が目まぐるしく移り変わり、脳の処理が追いつかない。
鈴谷はそんな俺の様子を察し、「ついてきて」とだけ言って走り出した。
執務室までは問題なく辿り着けた。
部屋の電気をつけ、ソファに腰を下ろす。
ようやく落ち着ける。
俺はそう思っていたが、鈴谷の方は未だ落ち着いた様子はなく、終始窓の外へ視線を送っている。
「鈴谷、悪いが事情を説明してくれないか?」
「……うん」
鈴谷はまだ窓の外を見ていたいようだったが、この状況を把握しないことには始まらない。鈴谷をソファへ落ち着かせ、話を聞くことにした。
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提督が執務室をあとにしてすぐに瑞鳳さんは動いたの。
瑞鳳さんが何をしていたのか詳しいことは何も覚えていないけれど、なんだか良くないことをしている事だけは覚えていた。
瑞鳳さんが提督の机を調べ始めたあたりから私の記憶は曖昧。きっと寝てしまったのだと思う。
そんな私を起こしてくれたのは叢雲ちゃんだった――
「鈴谷さん、私についてきて。もし、中に提督がいたらお願い。あとは私がやるわ」
叢雲ちゃんは何かを理解しているようだったけれどそれを私には説明してくれなかった。ただ、とても焦ったように早口だった。
そして叢雲ちゃんに言われるがままに私はついていき、小屋の扉を撃った。
爆煙が立ち込める寸前に提督の姿が見えたから何も考えずに抱えた。そして言われた通りに叢雲ちゃんに全てを任せて執務室まで急いだ。
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「という訳なの。だから私も詳しくは知らない……とにかく叢雲ちゃんが戻ってくるまでは何もできないの」
「叢雲が、か……」
今頃彼女はあの小屋で何をしているのだろう。時雨たちは無事だろうか。そもそもあの小屋はなんだったのか。過ぎる疑問は数多い。
「ねえ、提督……」
「――なんだ」
鈴谷は何かを聞きたそうにしているが、その何かを言い出そうとはしない。
鈴谷にしては歯切れが悪い。確かに、あんなことがあった後では雰囲気が悪くなるのもわかる。
「……ううん、なんでもない」
明らかになんでもない訳じゃなさそうなのだが、今それを掘り下げる必要はないと感じた。
落ち込んだ雰囲気を元に戻すためちょっと気になっていたことを聞いてみる。
「そう言えば鈴谷。どこかに行きたい、とかないのか?」
「え?なんで?」
「なんで……って忘れてるのか」
あれだけ不貞腐れていたくせにもう忘れているのか。鈴谷は窓から外を見下ろし、「あっ」と一言。どうやら思い出してくれたようだった。
少し照れくさそうに頬をかきながら鈴谷はこちらを向いた。
一呼吸、鈴谷は自分のペースを取り戻す。
「提督といられればそれでいい……かな」
「それじゃあいつもと変わらないだろ」
「いいの。あ、でもそのときはあれね……一日私の言うこと聞いてね」
すぐにいつもの鈴谷の笑顔へ戻る。闇のない純粋な笑顔。あのときとは真逆の感情が働く。
鈴谷は自分の言ったことに恥ずかしさを覚えたようで、すぐに窓へ向き直ることで目をそらした。
鈴谷と話し、少しだけ落ち着いてきた。
瑞鳳、時雨、夕立、彼女たちは何故ああなってしまったのか。それはきっと俺にあるのだ。
俺が気づいていないところで確実に彼女たちは壊れていた。
そして、時雨が言っていたのが本当ならばこの鎮守府にはまだ『いる』ということになる。
今後、同じことが起こらないとも限らない。警戒を強め、不用意な行動は避けるべき、か。同時にやらなければならないこともある。
――時雨の言っていたことの裏付けが必要だ。
……が、彼女たちもそうだったように前兆はなかった。
いや、俺が気づかなかっただけで前兆はあったのかもしれない。
であれば今後は少し注意深く生活すべきか…………。
艦娘たち一人一人確認していく必要があるな。
そう思い、俺はそうするための作戦を練り始める。
既に蠢き出した闇は止まることなく侵攻を続けていたことに気づくことさえできずに――――