指摘、感想ありがとうございます!
新しく物語も展開していくと思いますので引き続き感想等お願いします……!
翌日、叢雲が執務室を尋ねてきた。要件は言わずもがな、時雨たちの事だ。
鈴谷の言った通り、叢雲はあの後例の小屋で時雨たちと対峙していたらしい。
「時雨たちの動機は聞けたわ。でもそれは教えられないの」
なんでも『約束』があるとの事。時雨たちがあんな行動をとった動機が気にならない訳ではないが、叢雲曰く、いつもの事だと言うので恐らくは気の迷い、艦娘としてのストレスによって生じた事だったのだろう。
だから俺は動く必要はないとのこと。逆に俺が動けば事態が悪化するからやめてくれ、と頼まれるほどだ。
「叢雲、俺からの提案なんだが……」
動くな、と言われてすぐに提案するのは気が引けるが、不安は簡単には拭えない。
「何よ」
まるで言うことを聞かない犬を見るかのような目で射抜かれ、萎縮しそうになるが、ここで引いてはまた同じ轍を踏むことになる。
「しばらくの間でいい。鈴谷と二人、秘書艦として働いてくれないか?俺としてもお前がいると安心できるのだが……」
「嫌よ。あんたと一緒にいると私の身も危ないのよ。私はあなたに近寄りたくないの」
歯に衣着せぬ言い方にこれまでにない衝撃を受ける。叢雲とはこの鎮守府で一番の付き合いだ。だが、叢雲の本心を聞いたことはなかった。まさかこんなふうに思われていたなど……
「………………そんなに落ち込まれるとは思わなかったわ。そうね、確かにあんたの身は心配ね……」
俺の様子が予想外だったのか、叢雲は珍しく狼狽え始めた。
「鈴谷さんは?いいの?」
今まで一言も話さずにぼーっとしていた鈴谷だったが、急に話を振られたのにも関わらず、即答した。
「え、あ、大丈夫だよ!」
訂正。何も聞いてなかったからこその即答だ。
あたふたと手を横に振っているあたりその焦り具合がどれだけのものなのかわかる。
確かに昨晩色々ありすぎて混乱しているのはわからなくもないが、切り替えは大事だ。
「なら、私も秘書艦として働くことにするわ」
「ありが――」
「けど、公表はしないでちょうだい」
公表する、しないに関しては簡単なことだ、この場にいる三人が口を塞げばいいのだから。
――――だが、情報が漏れることに関して言うのなら俺はどうしようも出来ない。
先日、時雨が言っていたことが確かなら監視カメラの類が設置されているはずだ。それを探し出せていないため情報が漏れることは避けられない事態だ。
「監視カメラのことなら心配しなくていいわ。盗聴器も含めて全部壊したから」
「い、いつの間に……」
本当にいつの間に処理したのかは分からないが、とにかく叢雲のお陰で漏洩の心配はない。そもそも叢雲がその可能性を考えていない訳がなかったのだ。
叢雲は長い髪を片手で払ってから少し得意そうな顔で笑った。
「叢雲がいてくれるなら俺も安心できるよ」
「そう、それならよかったわ」
「照れなくてもいいだろ?」
「うるさいっ!」
叢雲は顔を赤くし、執務室の扉を勢いよく閉めて部屋へ戻っていった。
少し懐かしいやり取りだった気がした。
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あれから時雨、夕立、そして瑞鳳の姿は見ていない。俺の方から会いに行こうとすると叢雲に思いっ切り叩かれた。
叢雲が言うには三人とも謹慎中とのことで今後しばらくは俺に近寄れないとのこと。ひとまずは安心できるものの、彼女たちへの心配が少しだけ残る。
叢雲が秘書艦になって一週間。今現在、執務室に入れるのは三人のみ。この前の件を踏まえて執務室に人を入れるのを制限するそうだ。例の通り叢雲が入れるというのは極秘事項だ。
叢雲は執務室に住み込み、と言ってもいいような加減で働き始めた。幸いなことに叢雲の同室はいない。本人たっての希望でにより個室にしているのだ。理由は言わなかったが、「秘書艦は大変なの」とだけ愚痴っていたので一人で休みたかったのだろう。
「ていと――」
「ちょっとあんた、これ。資材足りてないんじゃないの?遠征させてるのかしら」
「あ、そう言えば最近は……」
「ダメよ、資材に余裕があるからと言ってサボるのは」
叢雲の手伝いにより仕事が一層捗る。警戒にもなり、仕事も進む。まさに一石二鳥というものだ。
叱られ慣れている俺は別に気にしはしないのだが、ここのところ鈴谷が空気だ。
なんと言うか、仕事はこなしてくれるのだが話に入ってこない。
「鈴谷?何か悩みでも……」
「い、いや……ないよ。仲いいな、って思って」
腰に手を当て子どもを叱るような叢雲と椅子に座り叱られ続ける俺という構図で言われても説得力はないが、叢雲は最古参の一人だ。仲がいいのは当然のことだ。
「……鈴谷さんも遠慮しなくていいのよ。こいつ、強く言わないとすぐ同じミスするから」
叢雲が鈴谷の隣に座り秘書艦のコツとやらを教え込んでいる。
ガールズトークに花を咲かせている中、男が入るのは無粋だろう。俺は窓からグラウンドを見下ろし、鬼ごっこ中の暁たちを見つけた。
雷から逃げていた響がいち早く俺に気づき、こちらへ手を振る。それにつられた雷もこちらへ両手を振り、まんまと響に逃げられていた。
「ちょっとグラウンドに行ってくる」
「提督、仕事は?いいの?」
叢雲と鈴谷のガールズトークに水を差すようで申し訳ないし、響たちも気になる。
「仕事は明日でもいいだろ?それに二人が仲良くなるいい機会じゃないか」
「そうね、じゃあ気をつけてよ。一応、これ」
そう言って叢雲が渡してきたのは護身用のナイフ。この前縄で縛られたのをいい教訓に、ナイフを持ち歩くことになったのだ。
受け取ったナイフをポケットにしまい、落ちないことを確認して執務室をあとにした。
グラウンドには響たち四姉妹の他、少し離れたところでは重巡洋艦の何人かが本気のドッジボールをしていた。あれはなんなのだろうか。
「司令官、久しぶりだね。ここ最近忙しそうだったからかな」
真っ白な髪をなびかせて響が俺の隣に立った。
鬼ごっこの途中だというのに余裕の態度。余程雷から逃げられる自身があると見た。
暁と電は走り疲れたのか木によりかかり空を仰いでいる。どれだけ追いかけられればあんなに疲れるというのか。
「司令官っ!響抑えて!」
俺を中心に、雷と響は走り回る。響は俺を盾にするように雷を翻弄し、とても上手く逃げる。
雷が肩で息をし始めた。対して響にはまだ余裕がある。
「雷はなんであんなに必死なんだ?」
さすがにずっと響と雷のとこにいるのも邪魔になるので俺は電たちのもとへ来ていた。
「……プリンなのです」
「は?」
「プリン、なのです」
どうやら五つあったプリンの残り一つを奪い合う戦いだったそうだ。普段なら暁のものになるそうなのだが、そのプリンが間宮お手製のものらしく、それで奪い合いになったそうだ。
ちなみに、俺が鬼ごっこだと思っていたこれはカバディだそうだ。先日、テレビで特集されてたのを見て影響されたのだろう。子どもは簡単に影響されてしまうな。
というより――
「プリンくらいなら俺に言ってくれれば用意できるぞ」
「ホントなのです!?」
暁は何も言わなかったが、驚いたように勢いよくこちらを向いた。そんなに驚かなくてもプリンくらい用意できる。
「それ、もっと早く言って欲しかったのです」
響と雷の戦いにも決着が付いたみたいで響が勝ち誇った顔でこちらへ戻ってきた。雷は向こうで大の字になって天を仰いでいる。
「おーい雷ー!行くぞー」
呼びかけても返事がなかったので抱きかかえて移動することにした。間宮の所へ行く途中、暁、響、電を片手に交互に抱き上げねばならなかったが、全員満足しているので良しとしよう。俺の腕は後で湿布でも貼っとけば問題ない。
間宮には変な目で見られたが、そういうことなら、とプリンを五つ、人数分用意してくれた。
「そう言えば、提督」
「どうした?」
珍しく間宮が厨房から出てきて俺の隣に座った。昼もすぎ、食堂に人もおらず暇だったのだろう。雷たちもプリンを食べ終え、食堂に置いてあったオセロなどで遊び始めた。
間宮は4人を我が子のように見ながら、俺へと視線を戻した。
「最近食堂に来ることが少なくなりましたよね」
確かに、ここ一週間は叢雲に言われた通り執務室からあまり出なかった。夕飯も鈴谷が用意してくれるものを食べていたため食堂にも来なかったのだ。
「確かにな、最近は仕事の量が増えたせいで缶詰になってたからな……」
そういう事になっている。実際に仕事が増えた訳では無いが、俺が執務室から出てこない理由を考えた場合、これしか思い浮かばなかった。
間宮は「そうだったんですね」と優しいく微笑んだ。
「でも、あまり根を詰めすぎるのもよくないですよ。たまには食堂に顔を出してくださいね。腕によりをかけたご飯でもてなしますから!」
力こぶを作り、その気合を見せてくれる。
少し恥ずかしくなったのか腕を下ろし、顔を赤く染めて下を向いた。
「じゃあ今日の晩は豪華に頼むよ」
叢雲は俺が言いくるめれば大丈夫だ。たまには食堂で皆の様子も見なければならない。俺の楽しみの一つなのだから。
「司令官さん、一勝負どうです?」
電が持ってるのはオセロ盤。後ろで暁が響の胸に顔を埋めているのを見ると負けたことがわかる。そこまで悔しいか、暁。
「電が勝ったら今日は司令官さんの部屋にお泊まりしたいですっ」
「おういいぞ。勝ったらな」
軽率に口約束することがどれだけ馬鹿なことなのか。俺は数十分後に思い知ることになる。
――結論から言おう。
電は強かった。それも、全てを自分の駒色で盤面を埋め尽くすほどに。暁が悔しがるのもわかる。
俺はぼろ負けした。
「ちょっと待ってくれ、確認してくる」
叢雲にどれだけ怒られることか。
とりあえず、言い訳を考えておくことにしよう。