実生活が落ち着いてきたら更新ペースが上がると思います…
「しれいかーん!」
バンッ、と勢いよく扉が開けられ、そこから飛び込んできた暁に抱きつかれる。不意をつかれたこともあり、バランスを崩して倒れてしまう。
寝間着姿の暁というのは珍しく、数年前、ここへ来たときに夜中トイレに着いて行った以来だろう。
「暁、いきなり飛び込むのはよくないよ。司令官を確認してから飛び込まないと」
そう言って響も涼しい顔で俺のもとへ飛び込んでくる。残る雷と電の二人は飛び込む場所がないのを見てやめたらしく、少し寂しそうにこちらを眺めている。
「そう言えばよく許可を取れたね」
「ああ、我ながらなんで取れたのかわからない」
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「は?泊まり?ここで?なんで?」
叢雲の言葉は最もだ。勝手に賭けた勝負に勝手に負けて勝手に事が進められているのだ、叢雲が怒ることを誰が抑えられるか。
叢雲に怒られ、正座させられている俺を見て、ストローつきの珈琲牛乳を飲んでいた鈴谷が目つきを鋭く変え、一言、
「提督、ロリコンだよね」
これが恐らく今日一、いや提督になって以来初の衝撃を受けた言葉だろう。
叢雲もその言葉に同調しているのか、そういう思いの篭もった瞳で見下ろす。
珈琲牛乳を飲み終えた鈴谷は一度洗面台の方へ行ったあとすぐに執務室を出た。ここ最近の鈴谷はいつもこんな感じだ。心ここに在らず、とでも言うのだろうか。違うと思うのだが……兎に角、ここ最近の鈴谷には元気がない。ふらりと執務室に訪れてはふらりといなくなる。執務室での仕事は主に叢雲が終わらせているため鈴谷がすべき仕事はかなり少ない。そのこともあってなのか俺と鈴谷の会話の時間も少なくなっている。
叢雲は去っていく鈴谷のことを目で追いながらすぐにこちらへ視線を戻した。
「…………まあ、約束しちゃったならいいんじゃない?どうなっても知らないけど」
青天の霹靂。まさか許可されるとは思ってもいなかったので、驚きのあまり硬直する。
「そのかわり!何かあったらすぐに呼びなさい!」
「了解したよ」
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『何かあったら』のときのために渡された小型イヤホンを右耳に付け、ここからいつでも叢雲に連絡が可能となる。このイヤホン自体は明石に作ってもらったそうだ。変なものに資材を使わないでくれ、と言ってみたが「必要なことなの」と一蹴された。
ザザっ、という機械音のあと『あー、あー』と叢雲の声が聞こえる。
『こちらから指示やら何やらは出さないから。何かあったときににだけ連絡頂戴。あと、私もいつでも反応できるわけじゃないから』
「……あぁ、ありがとう」
「……?司令官さん、どうかしたのです?」
「いや、なんでもない……さて、もう寝るのか?」
寝るのだと答えてくれれば何事もなく手早く終わる。半ばそういう期待を込めて聞いた質問だが、遊びたがりのこの4人、さらには泊まりに来ているという状況も相まって彼女らの気分は最高潮に達しているようだった。
「何言ってるの!まだ間宮さんのところ行ってないじゃない!」
「いや、でもあれは晩飯のことで……」
「あのあともう一度聞きに行ったら私たちのために少しだけ時間を空けておいてくれるそうなのです。司令官さんも連れていくと約束しちゃったのです」
断られることを恐れてなのか電か怖ず怖ずとした様子で俺を見上げる。その仕草はとても愛らしく、今すぐにでも頭に手を置きたくなる。
『あ、一応言っておくけど、犯罪だと感じたらすぐ憲兵呼ぶから。そこの辺りわかっといてよ』
そんな気は一瞬で失せた。
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「ん?夜遅いのに賑わってるんだな」
食堂が普段よりも長く営業しているからなのか少しだけ人がまだ残っており、晩飯時の賑やかさがほんのりと感じられる。
と言っても食堂に来ているのは俺たち五人と重巡の酒呑みチームがほぼ全てだろう。
「あ、提督、来てくれたんですね」
「まあな、約束もあったし、何より……」
俺は腰元の服を掴んだ暁の頭に手を置き、雑な手つきで頭を撫でる。
「んっ」と声を漏らし、照れくさそうにもそれを受け入れるが、周りの目を気にしたのか手を振り払う。
「子供扱いしないでよねっ!」
「じゃあ司令官、私の頭を撫でればいいよ」
「私は司令官を撫でてあげるわよ?」
「電も撫でて欲しい……です」
『こちらからは何もしない。と言ったけれど危うい場合はガンガン言うから。いいわね?』
叢雲の冷たい声が耳に届き、冷静さを取り戻す。
間宮の目の前、カウンター席に座り、メニュー表を取る。
「提督、申し訳ありません。通常メニューは今はやっておりません。軽めのおやつ程度のものだけですので」
間宮は横目で暁たちを見やる。
子供の成長を害する可能性があるから、ということだろう。
そういうことなら、と暁たちが好きな飲み物をそれぞれ頼むことにした。
こうして談笑するというのも悪くない。
ここ最近は色々なことが起こり、艦娘との交流が少なくなっていた。それを埋めるようなこの時間は心地好いものだった。
「……ん?暁、箸でケーキ食べるのは無理なんじゃないか?」
「そっ、そんなことないわよ!」
――ああ、やっぱり落とした。
暁が落としたケーキを見て残念そうに肩を落とす。
……仕方がない。
「ほら、暁」
「……!いいの?!」
「気にするな、やるよ」
口を大きく開けてケーキを頬張る暁。愛らしく、いつまでも見てられる幸せそうな笑顔を見れると、ケーキを上げた甲斐があるというものだ。
「し、司令官さん……電も落としちゃったのです」
「わ、私も……」
「司令官……」
タイミングがいいものだな。全員揃って落とすなど。流石は姉妹というものだろうか。
『そんなわけないでしょ、適当に相手して波を立てないようにしてちょうだい』
――心を読むのはやめて欲しいのだが
「三人とも、新しいのあげますから、ね?」
間宮が新しく三人分――今度はチョコレートケーキだ――を持ってくる。
一瞬、表情を曇らせたが、三人は新しくきたチョコレートケーキの方へ興味が削がれたようで、無事、回避できた。
正直、先程暁にケーキを上げたときは周りに加賀がいないことを確認しての行動だった。流石にあれほど言われた挙句また、など向ける顔がない。……まあ、やったのだが。
『誰も見てないから大丈夫でしょ』
「…………そうだな」
長年……提督になって以来の付き合いともなると思考の先読みが可能なのだろう、叢雲には思考を読まれすぎだが。
「ん、鈴谷さんに熊野さん!」
と、暁が声を上げる。食堂に入ってきたのは鈴谷と熊野の二人。
鈴谷は一度こちらへ視線を送ったあとすぐに逸らし、熊野と二人でここから離れたテーブルに座った。
『嫌われたものね』
――いや、何か違う気がする
うっすらとだが、そう思えるのだ。
確かに鈴谷の態度は嫌っているものに見えないことも無いが、どうもそうだとは思えない。根拠たる根拠はないのだが、不思議とそう思うのだ。思い切って鈴谷に聞いてみようと思っても、理由をつけて逃げられてしまう。
「あー、4人とも、少し席を離れる」
「鈴谷さんのとこ?」
「まぁな」
「早く仲直りした方がいい」
響にいらぬ心配をかけていたようだ。というか、鈴谷の態度が他にも伝わっているということに驚きだ。
暁たちに断りを入れてから立ち上がる。少しだけ足取りは重いが聞かなければならない気がするのだ。
「……鈴谷、ちょっといいか――」