「おーい!七海ー!」
俺は七海を探すために、ジャバウォック島を散策している。砂浜、ロッジ、マーケット、ホテル、レストラン……。近場の場所を隅々まで探した。
(どこだよ……七海……)
しかし、どこにも七海の姿はなかった。次は、遺跡の方かな……と移動しようと、歩みを進めるとーー
ピコピコーー
どこか懐かしい電子音が聞こえてきた。
「っ……!!」
俺は音のする方へ、すぐさま走り出す。こんな場所で、こんな懐かしいゲームをする奴なんて、俺は一人しか知らない。音のするのはどうやらロッジの方からだ。でも、さっきロッジを探したときは誰もいなかった筈だ。俺が見落としたのか……?なんて考えたが、そんな事よりも、この音を出している本人に会えることだけしか、俺の頭には無かった。
ガチャっ
「七海……!!」
ドアを開けたと同時に、本人であって欲しいと望む少女の名前を口にした。そして、ドアの向こうには……
「あれ?日向君?」
淡いピンクの髪色で、先の方が跳ねているショートヘアー、可愛らしい猫のフードとリュックを身につけており、片手にはゲーム機を持っている。その少女はこちらを向きながら、くりっと可愛らしく首をひねり不思議そうに見つめている。
「本当に……本当にいた……!」
「どうしたの……?」
俺は嬉しさのあまり七海を抱きしめてしまった。でも、一生会えないと思っていた愛しい人が目の前に現れたら、仕方のない事ではないだろうか?少なくとも俺は、その気持ちを抑えきれなかった。
「えっと……、これだと攻略はできないよ?」
「ははっ……、七海は変わんないな」
俺はそっと腕を離した。表情はいつもと同じだけど、頬が少し赤くなっているのは気のせいだろうか?でも今は、七海に会えた事の嬉しさで、あまり深く考えなかった。
「他の皆は……?」
七海は心配そうに聞いてくる。それもそうだ。目が覚めたら、誰一人この島に居なかったのだから。最悪の事態を考えていたのかもしれない。だから、俺は微笑み、不安を拭うように事情を説明する。
「皆は、外の世界にいるんだ。あの後、未来機関の苗木達が助けに来て、皆一緒に脱出したんだ」
「そっか……」
七海は心なしか安心した様な顔を浮かべる。その顔は、自分の子を見つめる慈母の様に優しかった。
「なぁ七海、今からちょっと散歩しないか?」
「散歩……?」
急な誘いに七海はキョトンとする。でも、また消えてしまうかもしれない彼女と、もっと一緒にいたかった。もっと沢山のものを一緒に見たい、もっと沢山の事を一緒に経験したい。望みをを言ってしまうとキリがない。それくらい、俺は七海が好きだと自覚する。
「どこに行こうか?」
「……日向君に任せるよ」
「……分かった」
七海にそう言われ、少し考えてからある場所に向かう。もし、もう一度会えたなら、絶対にここに来ようと決めていた。
「ここって……遊園地?」
「あぁ、七海と来たかったんだ」
ジェットコースターやメリーゴーランドなどがあるテーマパークだ。もし七海と会えたなら、ここで一緒に遊びたいと思っていた。
「……ここ、前にも一緒に来たよ?」
「前来た時は、他の奴らも一緒だったからな。二人で来たかったんだ」
言っていて恥ずかしくなった。引かれたか……!と恐る恐る七海を見ると、そうなんだ……と言って、俯いてしまった。
「ずるい……」
「へ?なんか言ったか?」
「……何でもない」
そう言うと、ぷクゥっと頬を膨らませた。頬をプニプニしたい。
「とりあえず……行くか」
「……うん」
七海は俺の袖をキュッと掴んで、俺の後をトコトコと着いてくる。親鳥はこんな気持ちなのかな……と、ホッコリした。
「何乗るかな……ん?」
何やら七海が一点を見つめて、目をキラキラさせて、裾をグイグイっと引っ張って来る。それほど興味が引かれるものでもあったのだろうか?七海が見つめている方向を見てみると……
「……なぁ、七海……」
七海が熱心に見つめていたのは、屋台に数台あった箱ゲーだった……。
「せっかく遊園地来たんだから、アトラクションに興味持とうな?」
しかし、そんな俺の声が聞こえないくらい夢中になっているのか、七海はひたすら箱ゲーをしていた。
「……まぁ、いいか」
本当は、七海と色々なアトラクションに乗ってみたかったが、箱ゲーを嬉しそうにしている七海を見ていると、これでもいいか……と思った。
「まさかここに、伝説の箱ゲー、ストリームファイターVlがあるなんて……!!」
「良かったな」
「ねぇねぇ日向君!!これ、2プレイ用だから一緒にやらない!?」
七海がずいっと顔を寄せて、少し興奮した様子で誘って来た。待って……!顔が近い近い……!!俺は七海とは違う理由で少し興奮した。
「そ……そうだな、やるか!」
「うん……!!」
「っ……!」
ふとした時に出る七海のこの純粋な笑みが、俺をドキッとさせる。自覚してるのかなぁ〜……。まだ治らない心臓を感じながら、ゲームをした。勿論の事だけど、七海には惨敗した。