職業ヒーロー志望者の学園生活 作:のんびりリハビリ中
一応、職業「ヒーロー」とヒーローの違いが焦点になる予定。
とりあえず、気楽にどうぞ。
はじまり
「超常」が「日常」となった世界。突如出現した多種多様なその力は「個性」と名付けられ、幾多の混乱を伴いながらも、世代を経るごとに社会へと浸透していった。
そして人類総人口の八割が何らかの力を宿すようになった今日。ある一つの職業が脚光を浴びていた。
公の場では禁止された「個性」という強大な力を己の欲望のままに好き勝手にふるって人々を傷つけ、社会に不安を引き起こす敵性存在――ヴィランに対抗する者達。
超常が当たり前となった社会の新たな守り手であるその職業の名は「ヒーロー」といった。
そして1人のヒーローが平和の象徴として君臨する時代にこの物語の幕は上がる。
近年発展がめざましいある新興都市の郊外。都心から電車でおよそ二時間ほどの距離にその施設はあった。
小さくとも険しい山に見下ろされるその敷地は広大で、潮風を跳ね返す高い白壁と波を砕く長く伸びた堤防が、およそ数キロに渡る海岸線を切り取っている。
その内には円形ドームや複合トレーニング施設といった巨大建造物や数ヘクタールの面積を誇る広場にグラウンドといった運動場の他、遊技場や温泉施設果ては宿泊施設までもが抱え込まれている。
また沖合いに向かって伸びる長い浮き橋の先には、建物が乱立する島と大小二つの人工島が存在していた。
一見すると何かの研究所か、あるいは収容所のような印象を持つこの施設の正式名称は「アマニワ総合訓練所」。
私設とはいえ日本初の個性訓練施設である「天庭個性訓練所」を前身とし、設立から半世紀以上が経った現在においても、国内有数の多目的訓練施設として世に知られていた。
限定的とはいえ公共の場で行使を禁じられている個性の使用が認められた数少ない場所であり、現役ヒーローのみならず一般の利用客も多い。
また個性に関する相談所としての一面を併せ持ち、個性に関する研究や協力にも力を入れている事で有名だ。
最も現在の時刻は午前六時。当然だが敷地内はまだ静まり返っており、人影も少ない。その数少ない例外の一つである
小柄な体を包むジャージは軽く汗で濡れ、腰のポーチに納まったペットボトルの中身もほとんど残っていない。
、
日課の朝練を終えた積杜は、広場の隅の簡素な東屋で火照った体のクールダウンに努めながら、ぼんやりと明るくなった海を眺めていた。
「……ああ。今日はここにいたんだ」
ようやく上ってきた朝日に目を細めていた積杜へ声がかけられる。
まだ眠気の残るその声の持ち主は十年来の付き合いがある少女のもの。今しがた広場に入ってきた巨大な着ぐるみに抱えられながら彼女、
エフォルメされた赤白の熊の着ぐるみは、その鈍重そうな見た目とは裏腹に動きは軽快で、歩行速度もかなり早い。ほんの数分で広場を横断した着ぐるみは、東屋に到達すると役目は果たしたと言わんばかりに動きを止めた。
停止した着ぐるみの上から軽やかに降りた繰乃は、積杜が出て来た東屋をしげしげと眺めてコメントする。
「なんか、手を抜いてない?」
「今週はあまり製作時間がとれなかったんだよ。前の使い回しにちょこちょこ手を加えただけで精一杯」
彼女が辛口評価を下したこの休憩所は、積杜の個性によって作られたものだ。
積杜の個性”
基本的に作り出す事ができるのは十センチ四方の箱だが、生成後も材質や形状は自在に変化でき、質量は変わらないが大きさも自由に変えられる。
また重ねて強度などを上げることもできるため、これらの性質を駆使する事で小物からちょっとした建造物まである程度は創りだすことが可能だった。
この東屋もそうやって創られたものだが、個人の手によるものとしては四方に立てた柱の間に板を渡し、梁の上に二つ屋根とシンプルな造りである。
高床式にして手すりのついた短い階段を入り口に設けているところが、多少の努力の現れと見えなくもない。
この訓練所では、鍛錬を目的とした個性利用による建造物やオブジェはそう珍しいものではない。当然許可が必要でありスタッフによるチェックも入るが、後は説明を兼ねた立て札の一つでも立てておけば問題はないとされている。
数年前から積杜もまた許可を得て、この広場でこういった休憩所やオブジェを設置していた。
時間のあった去年ならば、西洋の城とも見間違うような休憩所や工夫の凝らした遊び場などを作ることもあった。しかし内部進学とはいえ受験生である現在は、製作に当てられる時間も少なくなっている。
「ふーん。装飾はまあ適当でもいいけど、強度は大丈夫? 試してもいい」
積杜の返しを聞くや否や、繰乃は待機中だった着ぐるみに命令を下した。すなわち「この手抜き工作を全力でぶっ壊せと」と。
彼女の個性「人形師」によって仮初の命を与えられた着ぐるみは、速やかにファイティングポーズを取ると、百キロ超の体重を拳に乗せて怒涛のラッシュを東屋へ叩き込み始める。
「……えーと。気は済んだ?」
「うん。大分目が覚めた」
重量級の乱打を叩き込まれてもまったく揺るがない東屋を見ながら、積杜は繰乃へと声をかけた。対して繰乃は、着ぐるみと意識を同調させて行った適度な運動(?)のおかげか、すっかりと眠気もなくなったようだ。
寝起きの悪い彼女が完全に目を覚ましたところで、積杜は本題に移る。
「ところで、何か用があってきたんじゃないの? 寝ぼすけのクノちゃんには珍しく早起きしてるし」
「あっ、そうだった。そうだった」
ばっちりと機嫌も治った寝ぼすけ少女は、朝の散歩に出る羽目になって経緯を語りだす。
「どうせ学校は休みだからって、さっきまで気持ちよく寝ていたんだけど、お母さんに叩き起こされて。それで先生たちへの差し入れついでにセキトを探して来いって、さ。なんでもタマおじさんが呼んでるみたい」
「父さんが? 再来週まで出張って聞いてたのに、もう戻ってきてたの?」
「そうみたい。えーとだから今日の朝食はウチや食堂じゃなくて積杜の家の方で取ってほしいって言ってた」
「ふーん、何の話だろ」
積杜の父、
なのでそんな忙しい両親に代わり、積杜の日々の生活は隣の形代家が時折面倒を見てくれることになっていた。
そんな忙しいはずの父が朝早くから一体何の用なのかと、積杜は首を傾げる。その仕草をジト目で見た繰乃は、遠慮も無しに疑問をぶつけた。
「何、やらかしたの?」
「いや、全く心当たりはないんだけど」
「本当に~?」
積杜は否定するが、繰乃は疑ったままだ。少し前まではけっこうヤンチャをしていたので、信用のなさはお互い様なのだが、だからといって心当たりは全くない。
「ま、いっか。もう帰るつもりだったし。直接聞けばいいや」
ここで悩むだけ無駄と積杜は思索を打ち切り、家に向かって歩き出した。繰乃もまた再び熊の着ぐるみに飛び乗って、後を追った。
積杜や繰乃の家は、訓練所を見下ろす山のふもとにある。訓練所のスタッフのための集合住宅や一軒家が連なるストリートからはやや外れており、そこそこ広い敷地を持った家が集まる場所だ。
裏手には積杜の祖父が設立した児童養護施設があり、その先は中腹の武道館や頂にある神社に向かう山道へと続いている。
ちょうど出勤するところだった向かいのヒーロー夫婦と挨拶を交わし、玄関先で繰乃と別れて家に入った積杜は、久方ぶりに自分以外の住人の気配を感じた。
日当たりのいいリビングを覗けば、そこにはおよそ一ヶ月ぶりに見る積杜の父、玉丸の姿がある。
「ただいま」
「おう、お帰り。元気そうだな」
久しぶりに会った親子の会話としてはそっけないかもしれないが、別に仲が悪いわけではない。積杜にとっては今更の事だ。むしろいつも父についているはずの母、重子の姿が見えない方が積杜には気になった。
「再来週一杯まで出張って聞いてたけど、随分早い帰りだね。母さんは?」
「いや、母さんはまだ関西で仕事中だ。私だけ一足先に戻ってきた」
「へっ?」
父の返答に積杜は首を捻る。個性の相性から仕事でも日常でも常に共に行動を共にしている夫婦である。公私共に仲も良く、息子の積杜ですら時々邪魔者に感じる事があるぐらいだ。
それなのに今は別れて行動しているという。その異常事態を知った積杜は、素直に質問をぶつけた。
「喧嘩でもした?」
「いーや。父さんと母さんはいつも新婚のようにラブラブだぞ」
「……じゃあ、なんで?」
臆面もなく気恥ずかしい事を言う父の態度に、考えるのが面倒くさくなった積杜は素直にその理由を聞いた。
「いや、少し気になる事を知ってな。それで母さんと相談して積杜にある提案をする事になったんだ」
「提案?」
「でも仕事の方がどうしても抜けられなかったから、泣く泣く母さんに後を任せてきた」
それでも今日の昼にはここを出るという父は次の瞬間、積杜にとって衝撃的な提案を口にした。
「なあ、積杜。お前雄英に行くつもりはないか?」
個性を鍛える訓練所とか個性体験型テーマパークとか。初っ端から無茶苦茶な捏造設定がてんこ盛りですが、要は裏で色々あって云々という事で今のところは流してください。
のんびり書いていくつもりなので、次回の更新は未定。気長にお待ちください。