職業ヒーロー志望者の学園生活   作:のんびりリハビリ中

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続き。前回よりも少し長め。


訓練所

 積杜の祖父、天庭 陣内(アマニワ ジンナイ)は今日のアマニワグループの祖を築いた人物である。

 

 無個性だった彼の父が彼の母他数人と共に始めた自警団活動を引き継ぐ傍ら、当時はまだ数が少なかった個性持ちやヴィランに狙われた人達の保護を積極的に行い、また彼らの社会参加に尽力した。

 

 実は現在施行されているヒーロー制度の立ち上げにも初期から携わっており、その成立に多大な貢献をした人物として挙げられることもある。

 

 最も方針の違いから成立前に数人のメンバーと共に離脱したため、その時のゴタゴタもあってあまり取りざたされる事はない。

 

 そんな理由もあり現行の制度からは少し距離を取った陣内だが、訓練場所の提供やサポートアイテムの開発等でヒーロー達への支援活動を続けていた。

 

 しかしその一方で、ヴィラン退治以外の別の個性利用の道を模索し始める。

 

 その方針は現在のアマニワグループにも受け継がれている。個性研究の主導やその社会的、商業的利用が有名だが、他にも個性に関する相談所の開設から個性を暴走させがちな子供のための個性教育環境の構築などと、その活動は多岐に渡る。

 またヴィランの更生やその後の社会復帰の協力や支援にも力を入れていた。

 

『個性に関することなら、ヴィラン退治以外はアマニワへ』

 

 そんなキャッチフレーズが世に浸透する程度には個性に関する活動では日本国内でもトップを走り、世界でも有名な企業として知られている。

 

 ともかく世間的には個性を専門とする珍しい企業グループとして有名だが、個々人はともかくとして集団としてのヒーローやその支援者である公安委員会などとは、かなり微妙な関係にあるのが実情だ。

 

 そして国内でもトップのヒーロー育成実績のある雄英との関係もまた同じなのだった。

 

 そんな微妙な関係を崩しかねない父の発言を、積杜は即座に聞き間違いとして判断した。なのでもう一回聞き返す。

 

「ごめん。聞き損ねた。悪いけどもう一回聞かせて」

 

「ああ。雄英に行かないかって話しだ」

 

「えーと。待って待って。……そうだ! ユーエイって海外かどっかの学校の話か。なんだ、海外に留学しないかって話かあ」

 

「いや、違うぞ。国内トップで偏差値79 のあの雄英だ。雄英のヒーロー科な」

 

「あーじゃあ。ちょっと代理でお使いに行って来いって事で……」

 

「いやいや。来年雄英に進学しないかって提案だよ」

 

「……うん、分かった。とりあえず詳しい話を聞かせて」

 

 逃げ道を尽く潰された積杜は、諦めてその提案の意味を尋ねる。

 

「あー。悪いんだが、ちょっと事情があって詳しい理由は説明できないんだ。せいぜい来年から雄英が新しい教育を始めるって事ぐらいか、な」

 

「それで、言広叔父さんが納得するの?ライバル校に進学ってどう考えても反対されるんじゃ……」

 

 積杜が出した言広叔父さんこと穏屋家 言広は積杜の母重子の兄であり、積杜の叔父だ。彼は親友だった陣内と協力して幼稚園から大学までを備えた「彩花原学園」の設立者の息子であり、現在は亡き父から引き継いで理事長を務めている。

 

 まだ20年ほどの歴史しかない新しい学校だが、幼年期からの個性教育をうたって急速にその勢力を伸ばしている。

 近年では国内トップの雄英や関西の有名校である士傑に並ぶと言われることも多い。

 

 積杜と繰乃も「彩花原学園」の中等部に通っており、つい先日の進路調査でも高等部への進学を希望したばかりだった。

 

「最初は反対されたが、理由を話したら積杜次第って認めてくれたぞ」

 

「じゃあ、僕次第って事かあ」

 

「そうだな。父さんとしてはどっちでもいいんだ。ただ来年の雄英は少し特別だから考慮に入れて欲しいだけで」

 

「でもその理由は教えてくれないんでしょ」

 

「仕方ないだろう。だからあくまでも「提案」なんだ」

 

「まあ行こうと思えば行けなくもないけど。でもなあ……」

 

 積杜の学力は同学年でもトップクラスであり、全国的にも一桁と二桁の境をうろついている位なので、最難関といわれている雄英であっても学力に問題はないだろう。特徴的だと噂の実技試験も幼い頃から訓練所を遊び場代わりにしてきた積杜にとってはむしろやりやすく思える。

 

 国立ゆえに設備だって充実しているし、有望なヒーローの卵達と知り合えるのは将来的に価値がある。

 なぜか近年大量の除籍者を出しているとか雄英出身のヒーローは競争意識が強くて協調性に欠ける人が多いといったことも聞くが、所詮は噂なので気にすることもないはずだ。

 

 しかし学力なら進学予定の彩花原だって負けていないし、設備だって同等以上。何より幼馴染といってもいい友人達が大勢いる。

 将来有望というなら彼らだって負けてはいない。いやむしろ初等部以前から付き合いのある彼らのほうが素質としては上だろうと積杜は思っている。

 

 新たな知己を得られるという点は魅力だが、別にそれは雄英に進学しなくても果たせることだ。

 

「……でもそれを踏まえても雄英を勧めるんだよね?」

 

 積杜の言葉に、玉丸は静かに頷いた。つまりそれだけのモノが雄英にあるのだろう。一度その何かが気になってしまうと、どうしてもその方向に考えが引っ張られてしまう。

 

「……ちょっと考えさせて」

 

「ああ、構わない。積杜の人生なんだから、積杜の好きにしなさい。そもそも……」

 

「?」

 

 後に続く言葉は小さすぎて積杜には聞き取れなかった。我が侭と言ったようにも聞こえたが……。

 

 

 

 話が終わると、よく考えなさいと言う言葉を残して玉丸は訓練所へ出かけていった。かなり急いでいたので、もしかしたら人を待たせていたのかも知れない。

 

 そんな貴重な時間を割いた、面と向かっての突然の提案。それがどれだけ重要な事かをしっかり受け止めた以上、積杜もまた真剣に考える必要がある。

 

「うーん。「何か」がなければ迷うことなくこれまでどおりなんだけどなあ」

 

 そもそも積杜はヒーロー免許を取得するつもりでいるが、別にヒーローを目指しているわけではない。将来家業を手伝う時のため、ある程度自由に使える個性の使用許可が欲しいのだ。

 なのでヴィラン退治や名声、財産にはさほど興味がない。

 

 極端な話、免許さえ取れればそこらのヒーロー科でも構わなかったりする。

 

「まあ、行けるなら行くべきなんだろうけど」

 

 どちらを選んでも決め手となるほどの違いはない。しいて言えば友人関係だが、彼らとはすでに十年近い付き合いなのだ。例え雄英に行った所で、これまでの関係が崩れる事はないと積杜は信じていた。

 

「あああ駄目だ。決められない!!」

 

 数時間の自問自答を経ても、積杜の結論は出ないままだった。途中で戻ってきた父への見送りの言葉も適当になるほど悩んだにもかかわらずである。

 

「あーだめだ。少し外に出て気分をかえよう」

 

 

 

 久しぶりに上る山道は、すっかり秋の気配に満ちていた。天気も良く、考え事をしながら散策するには絶好の場所だ。

 

 途中で鉢合わせた施設の子供と軽くじゃれあい、中腹の武道館に簡単な差し入れをして喜ばれた後でも、積杜の頭の片隅には二つの進路の悩みが消えずに残っていた。

 

「さーて、どうしよう」

 

 答えが決まらないまま、積杜は山頂近くの神社へたどり着いた。長い山道と急な石段のせいか年始や祭りの時以外に人気は少ないが、その分考え事をするには最適の場所だ。

 

 境内の外れには参拝客のための休憩所があり、そこから訓練所を含む周囲の景色が一望できる。

 

 社務所に顔を出した積杜は、顔なじみの管理人さんから先程繰乃が訪ねてきたことを教えられた。

 

「どうしたのセキト。おじさんとの話は終わったの?」

 

 もしやと思った積杜が境内を探せば、やはり休憩所として使われている小さな建物の縁側で、憂いに満ちた彼女を見つけた。

 

「あー、話は終わったよ」

 

「……つまりまだ何か悩む事があるからここに来たんだ」

 

「そうだね。少し落ち着いて考えたくて。……それで?クノちゃんはどうしてここに」

 

「私も多分、同じだと思う。雄英に行かないかってさっきお父さんが……」

 

「やっぱりかあ」

 

 薄々は予想していたが、やなり繰乃も積杜とほぼ同じ時に同じ話を持ちかけられたらしい。それで同じように悩んで同じ場所に来るのだから、つくづく幼馴染と言うやつの思考は似ていると積杜は密かに笑う。

 

「来年の雄英には「何か」あるってお父さんは言ってたけど。おじさんは何か教えてくれた?」

 

「いや。聞いたけど、教えてくれなかった。おかげで今、悩んでる」

 

「そっかあ。私もそれが気にならなかったら彩花原一択なんだけど……」

 

「おや。君たちは……」

 

 そんな風に話していると、休憩所に新たな人がやってきた。酷くやせてガリガリの骸骨みたいな風貌のその人は、積杜たちを見つけると近づいてくる。

 

「あれ。八木さんじゃないですか」

 

「あっ。お久しぶりです、八木さん。お元気……ですよね?」

 

 夜道であったら絶叫間違いなしの細身のこの男性。積杜の祖父の知人であるらしく、積杜や繰乃の父とも古い付き合いがある。本名はよく知らないが、積杜たちは「八木さん」と呼んでいた。

 

 なんでも五年ぐらいまでは海外に行ってたらしいのだが、向こうでいろいろあって体を壊してしまい帰国。今はどこかのヒーロー事務所で事務員をしているらしい。

 

「ああ、心配してくれてありがとう。大丈ぶっ、ぶほっ」

 

「相変わらず変な人だよね」

 

 トマトジュースを片手に吐血の振りをする八木さんに聞こえないように、こっそりと繰乃が積杜にささやきかけてきた。

 話してみると面白くノリも悪くはないのだが、いかんせん外見のせいか話しかけにくい空気を持つ彼を繰乃は苦手としていた。

 

「ところで。何か悩んでいるみたいだけど、どうしたんだい。相談にのろうか」

 

「あー、実は……」

 

 ありがたい年長者の言葉に乗り、積杜は相談してみる事にした。いい加減自分だけで考えるのに疲れたということもある。

 

「実は進路で彩花原か、それとも雄英を目指すか迷ってて……」

 

 積杜としては、軽い気持ちで発した言葉だったが、しかし彼の反応は劇的だった。

 

「!? あ、ああ。うん。そうかあ。それは……」

 

 滅多に見たことがないその慌てぶりを奇妙に感じ、繰乃が尋ねてみる。

 

「どうしたんですか?いきなり挙動不審になりましたけど」

 

「……もしかして何か心当たりがある、とか?」

 

「い、いやだなあ。私は何も知らないよ」

 

((じー))

 

「ああ、うん。分かった。知ってる事を教えるからその目はやめてくれ」

 

 そんな風にして八木さんから聞きだした情報が、積杜たちの悩みを終わらせる決め手となった。

 

「そっかー。あのオールマイトが雄英の教師に」

 

「あー。だから理由は教えられないけど、雄英に行かないかって話が出てきたのかあ」

 

 オールマイト。ヒーローランキングトップを独走するキングオブヒーロー。「平和の象徴」として民衆に笑顔を、ヴィランに恐怖を与える社会の守護者。

 そんな彼が母校の教鞭をとるというのは確かに大ニュースである。

 

「あれ? でも八木さんはなんでそんな重大な事を知ってるの」

 

「うぐっ。すまないけどそれは秘密なんだ。君たちも他の人には話さないでくれよ」

 

 そう念押しして、彼は足早に立ち去った。これ以上ボロを出さないうちに退散しようということらしい。

 

「……さーて謎は解けたけど、結局セキトはどうするの?」

 

「そうだなあ。せっかくだし、挑戦してみようかな」

 

 優秀なヒーローが教育者としても優秀かは不明だが、それでも長年この社会を支えてきた生きる伝説の人物自らが教えてくれる大チャンスだ。興味がないと言えば嘘になる。

 

「……そっか。じゃあ、私も行こうかな。向こうでセキト1人だと寂しいでしょ」

 

「いや、全然。へーきだよ、平気」

 

「あのねえ、セキト。忘れてるかもしれないけど、雄英ってバリバリの体制派だからね。アマニワ(ウチら)にはかなり風当たりが強いって皆言ってるよ。そんなところにセキト1人放り込んで何かあったら、みんな困るんだけど」

 

「心配性だなあ。気にしなくてもいいのに」

 

「いいから。私も雄英に行くね。これ、決定!」

 

「まあ、いいけど。……で、本音は?」

 

「雄英に行くと、憧れの1人暮らしをしてもいいって、母さんが」

 

「そしてクノちゃんがダラけた生活をしないように、僕が面倒見させられるんだね」

 

「うん。それじゃ、いろいろよろしくね」

 

 

 

 




訓練所が存在しているのは、陣内が政界や財界に多大な影響力を持っていたためです。故人となった現在でもアマニワはその影響力を引き継いでおり、玉丸の副業もその一つになります。

またヒーロー制度については成立の時期がよく分からなかったので、半世紀ほど前としました。場合によっては制度の成立にかかわったのは陣内ではなく、その父の方に変更になります。

後、しれっと八木 俊典=オールマイトが登場。ちなみに歴代OFA継承者と交流があった陣内やオールマイトの友人である父の玉丸はその正体まで知っていますが、積杜と繰乃は知りません。

次回から入学試験に入ります。
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