職業ヒーロー志望者の学園生活   作:のんびりリハビリ中

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いきなり長くなりました。

前回の予告どおり入学試験となります。




入学試験

 雄英高校。

 

 国内屈指の養成校であり、オールマイトを初めとした著名なヒーローを多く排出している名門中の名門校。毎年ヒーローに憧れる優秀な多くの若者がその狭き門を目指し、その大半が涙を呑んで脱落していく。

 

 今年度のヒーロー科の志望倍率は実に300倍。それでもなお合格を目指そうというのだから、当然のごとく会場も殺気立っていた。

 

 すでに筆記試験は終了しており、後は実技試験を残すのみ。最難関だけあって筆記試験も決して楽ではなかったのだが、それでも個性使用が許された実技試験は多くの受験者にとっては一番の難関とされている。

 

 なにせ一般的に個性の使用が禁じられている現代社会では、実技の対策をしようにも訓練場所の確保すらままならないからだ。

 

 特別個性特区などのごく少ない個性使用が許された場所を除けば、あとは私有地を使うしかない。

 

 おまけにヴィラン退治が基本の荒事前提の職業を目指す関係上、受験者も戦闘に向いた強力な個性の持ち主が多くなる。

 

 しかし強力だという事は当然扱いも難しいという事であり、広大な私有地で思う存分に個性を使える環境でもなければ、周りに被害を与えないようにびくびくしながら注意して実技対策をするしかなくなってしまう。

 

 つまり試験の難易度は高いうえに、対策が不十分になりやすい。そのため大半の受験者にとっては実技試験こそがヒーロー科合格の鬼門となっている。

 

「まあ、私達には関係ないけどねー」

 

「昔から訓練所が遊び場代わりだったからね。こんな時は有利だよ」

 

 そんな極僅かの例外の1人である繰乃が緊張の欠片もない声で呟いた。対する積杜の返答もまた気負いのない緩んだものだ。

 

 両親が揃って忙しく、また立地上行くところが限られていた積杜たちにとっては、訓練所こそが遊び場であった。

 

 ほとんど一日中入りびたり、訓練に来たヒーローに構ってもらったり、来場者に混じったり、手の空いたスタッフに遊んでもらったりしていたため、基本的に遊び相手に欠くことはなかった。

 少し大きくなってからは、広場の監視や園内の案内をしたり、またはすっかり馴染みとなったスタッフを手伝ったりすることもあった。

 

 当然、個性も使い放題である。これで上達するなというほうが無理があるだろう。

 

「まっ、油断は禁物ってことにしておこう。一昨年受けた試験よりは楽だろうけど、一応は天下の雄英。何が課題として用意されるのか分かったもんじゃないし」

 

「セキトは相変わらず慎重だよね。私達が無理な試験なら、誰が合格できるのさ」

 

「うーん。あそこで座っている彼とか?」

 

 そう言って積杜が視線を向けたのは、前列に座る一人の少年だ。怪我をしているのか両手にグルグルと包帯を巻いている。

 二人の視線に気がついたのか振り返った彼は、くすんだ金髪の下から得物を射抜くかのような鋭い目で積杜たちを見返してきた。

 

 軽く手を振った積杜たちへ特に反応も無く、再び前を向いた少年の様子を伺いながら繰乃が呟くく。

 

「あの子って確か……」

 

「そう。留学先で一緒だったツバサ=サンダーソン君だよ。クラスは違ったけど覚えてない?」

 

「あー。ライ君とよく喧嘩していた男の子だっけ。確かハーフだって聞いた覚えがあるような、ないよーな」

 

「確かお母さんが日本人らしいよ。だからこっちに来たのかな」

 

 一昨年、半年の間だけ二人が留学していたのは、全米のみならず世界中から将来有望なヒーローの卵達が集まる長い伝統と厳格な規律で有名なエリート校だ。

 当然、生半可な実力ではその門を潜ることすら出来ないので、そこに通っていた彼が実力者なのは間違いない。

 

「あそこは化け物の巣窟だったし、当然彼もそうだった。見たところ怪我をしているようだけど、一緒の試験会場になるかも知れない事を考えたら、ウカウカはしてられないよ」

 

 積杜の言葉を聞きながら繰乃は昔、数回話しただけの少年を少しの間観察していた。其のうちに満足したのか、彼女の視線は会場の彼方此方へ移る。

 

「ふーん。よく見れば訓練所で何度か見たことのある人もいるね」

 

「だから油断は禁物。分かった?」

 

「はーい。気をつけますー」

 

「……ほんとに分かってるのかなあ」

 

 楽観的な幼馴染の様子に積杜がため息をつく頃、ようやく実技試験の説明が始まった。

 

 雄英が選んだ今回の実技試験は、市街地を模したフィールドに放たれた数種のターゲットを撃破し、その数を競うものだった。

 目標となる三種類のロボットにはそれぞれ個別にポイントが設定されていて、討伐した目標の持つポイントの総合で競うものらしい。

 

「……これって多分、他の加点要素があるよね?」

 

「絶対にあるね。無ければ戦闘に向かない個性の持ち主が圧倒的に不利だし」

 

 勘違いされている事が多いのだが、ヒーローに求められるのは個性の強さではなくその使い方である。当然ヒーロー科の試験もそれを前提としているはずだった。

 

「うーん。なんだと思う」

 

「目指すのがヒーローなんだから、負傷者の救助活動に二次被害の防止ってところが妥当かな?」

 

「あとは、あれかなー。他の受験生に対する行動」

 

「他の受験生への妨害行為は失格と言っていたし、他にも減点行為が設定されていそうだ」

 

 説明を聞きながらも二人は試験の目的の推測と合格基準の推定を進めていく。求められているのは何か、やるべき事は何かという行動指針は、こういった試験では基本中の基本だからだ。

 

「じゃあ、私はコッチ。セキトは別会場だね」

 

「同じだったら酷い食い合いになりそうだし、良かったよ」

 

「持ち込みがある程度までオッケーだから割りと万全の状況でいけるし、互いが障害にならないなら、もうこの試験はもらったようなものだもんね」

 

 そう言って繰乃は笑う。彼女のような物や生物を操る操作系の個性ためか、実地試験にはある程度の持込みが許される。

 最も当初彼女が持ち込もうとした、非殺傷武器内蔵型強化着ぐるみ一個中隊は流石に却下されたらしいが。

 

「じゃっ、お互い頑張ろう」

 

「うん。セキトもね。それじゃあ後でー」

 

 繰乃と軽いエールを交わして別れた積杜は指定された会場へ向かった。およそ二キロ四方の区画に、廃墟を模した建造物が立ち並ぶ。

 

「想定は市街地かな。路地が多いから目標が見つけにくい上に、不意の遭遇戦も多くなる。目標の撃破は手早くして、常に移動。とりあえず行動範囲を広くとって接敵回数を多くすればいいか」

 

 会場を見て試験での動き方を決めた積杜は、腰のポーチに手をかける。その中には厚さ五ミリほどの板状の物体が整理されて詰め込まれていた。

 

 ポーチ内に設けられたいくつかの仕切りの中から積杜が取り出した名刺大の物体は、ガラスのように透明で、うっかりすると空気に溶け込んでしまいそうになる。

 

「移動と護身用はこれでいっか」

 

 取り出した不思議なカードの表面を積杜が一撫ですると、途端に変化が生じる。そして次の瞬間。積杜の手の中にあった物体はカード状から長さ一メートルほどのやや丸みを帯びた角棒へとその姿を変えていた。

 

「ほいっ。これでよしっ、と。……後は攻撃用に、水入りの万重を一つ。それと……後は十重も五つ出しておくかな」

 

 杖のようになった物体を足元に指し、積杜は再びポーチから別の板を取り出す。こちらは最初のものよりも透明度は低く、ずっしりと重い。

 透かして見える向こうの景色も歪んでおり、内部を通った日光が乱反射してきらめいていた。

 

 攻撃用といったこの板をひとまずポケットにしまった積杜は、こんどは前二つとは別の仕切りから、五枚の板を取り出す。

 その表面を撫でて今度は長さ五センチほどの角棒に変え、左手首にはめたリストバンドで挟んで固定した。

 

 ポーチの中に収められているのは、積杜が事前に個性を使って作っておいた”箱”達だ。重ねがけした箱を変形させ、大量に持ち運びしやすいようにして種類ごとに収納してある。

 

 一々その場その場で箱を作りだす労力をかけることなく、必要な時に取り出して変形させて使うことができるこの方法は、持ち込みが許されたこの試験において、かなりのアドバンテージといえた。

 

「……こんなものかな」

 

 最後に胸にしまった黒いカードを右手に持ち換えて準備を終えると、積杜は同じ会場で受ける受験生達とは少し離れた場所で試験の開始を待つ。

 

「それじゃスタート!」

 

 それから間も無く、不意に試験の開始が告げられた。同時に積杜は左手に持った杖を脇に挟んでしっかり固定すると、己の個性を発動する。

 

「伸びろ!」

 

 声を発した次の瞬間には、積杜の体は会場の中に飛び込んでいた。地上五メートルほどの高さを進む積杜がちらりと後方を見れば、置き去りにした大半の受験生の姿と共に、後ろへ長く伸びた棒がするすると短くなって戻ってくるのが見える。

 

 一瞬で五十メートルの長さまで伸びた杖の勢いを借り、猛烈なスタートダッシュを決めたのだ。

 

「おっと見つけた!」

 

 短くなった杖を今度は横の壁面に向ける。そして再び杖の伸縮を利用して減速と方向転換を行った積杜の視界にターゲットの姿が映った。

 距離にしておよそ十メートルほど。宙にいる分を考えれば、もう少し長くなる。

 

「よっと」

 

 右手のカードを変化させて短い棒状にした積杜がその先端部をターゲットに向ける。次の瞬間には、爆発したかのように伸長した棒がターゲットを貫き、地面に縫いとめていた。

 

「一体目、撃破」

 

 しゅんと音をたてて手の中に戻った右手の棒を振り上げ、今度は路地から出てきたばかりの二体目のターゲットに勢いよく振り下ろす。

 上面を叩きのめされダウンする目標を蹴り、左手の杖を使って速度の調整と方向転換を再び実行する。

 

 狭い路地やその両面にそびえ立つ高い壁を足場として杖の伸縮させ、あるいは高所に細くした杖を引っ掛けてワイヤーのように扱いながら、積杜は三次元的な機動力を発揮して会場内のターゲットを狩りだして行く。

 

 基本は一撃必殺。たまに距離が遠かったり複数の目標に出会う事もあったが、そんな時は補助として用意したカードを即席の槍と変えて飛ばし、倒し損ねたものは直接攻撃でしとめる。

 

「よーし、調子が出てきた。どんどん行こう!」

 

 まるで会場にいるターゲットを1人で狩り尽くそうとするかのように、積杜は会場中を飛び回ってポイントを稼いでいく。

 

「ええと、今ので五十体目……だったかな」

 

 大型のターゲットを真正面からぶち抜いて壁に縫いつけたところで積杜は一息ついた。杖の伸縮を用いた三次元の動きをずっと続けていたせいか、立っているはずの地面が揺れているように感じる。

 

「あーだめだ。まだ揺れてる気がする。これ以上の機動は無理かな?」

 

 壁面などを足場に会場を縦横無尽に駆け回るこの機動方法の効果は絶大だが、同時に積杜の体と集中力にも負担をかける。特にほとんどの時間を空中で過ごすせいか、平衡感覚などにズレを感じ始めていた。

 

 このままだと、うっかり制御の一つでもミスをすれば、勢い余って壁に叩きつけられたり、猛烈な勢いで地面に激突するなんて事にもなりかねない。

 

「残り時間は……あと、五分か」

 

 まだ試験時間が半分残っていることを確認すると、積杜は再び試験に戻った。ただしこれまでよりも移動速度は落とし、ビルの合間を飛び回るのではなく地面の少し上を走る気持ちで移動する。

 

 当然前半に比べて接敵の回数は減り、撃破数も稼げなくなるが、その分は他の方法でカバーすればいいのだ。

 

「よしっ。ここだ。ここを塞げば、この先は袋小路になる」

 

 ある路地の入り口にたどり着いた積杜は、己の個性を使って作りだした障害物を配置した。巨大化したブロックのような箱で道を塞ぎ、板状の薄い箱を渡して十字路を半分に仕切る。

 

 そうして出来上がるのは、一度入ったら出られない巨大な迷路だ。高さはほどほどに制限してあるので受験生ならば乗り越える事も可能だが、ターゲットならば迂回する方を優先するだろう。

 

 結果、内蔵の地図が役に立たないと気がつかずに迷路の奥へと誘い込まれ、そこで待つ積杜のポイント稼ぎに貢献する事になる。

 

「前半が狩りなら、後半は罠で勝負ってことで」

 

 最後の障害物を置き、さて後は狩り場に行って待つだけと思った時、会場内に轟音が響いた。同時にあちこちから聞こえていた他の受験生の戦闘音が途絶え、何人もの悲鳴が上がる。

 

「何だろ?」

 

 音の元を探ろうと、積杜は足元に突き刺した左手の杖を伸ばして上昇する。建物の上に出たところで上昇を止め、近くの屋上に降りた積杜はその正体を知った。

 

「……アレか」

 

 積杜の視線の先には、轟音を立ててビル群を倒していく巨大な機械があった。あらかじめ受験生に知らされていたターゲット以外のロボ。受験生を妨害するお邪魔虫。

 

 しかし……

 

「アレって確か災害地とか紛争地帯に送られる奴だったはず。それを難関とはいえたかが高校入試に投入って、随分と大盤振る舞いだなあ。言広おじさんが知ったら羨ましがりそう」

 

 そう言いながらも積杜はビルの上を伝って、お邪魔虫のほうに向かっていた。

 

 残りの時間は少ない上に、倒しても0ポイント。試験の合格を考えるなら無視するのが最善だろう。

 しかしだからといってあの危険物を放置する事を積杜は良しとはしない。

 

「まあ、せっかく作った迷路を壊されるのも嫌だしね」

 

 言い訳するように言って、積杜はデカブツが暴れている区画へとやってきた。下を見れば、暴れるお邪魔虫から必死に逃げる受験生達が何人も見える。

 

「とりあえずこのまま暴れさせてると、危ないな。まずは動きを止めよう」

 

 そう言うや否や、積杜は腰のポーチを開けて中から黒い板状の物体を数枚取り出した。ポーチの中にストックしてあった五枚の内の一枚を手に取ると、積杜は左手の杖を伸ばしてデカブツの上を目指し飛び出していく。

 

「……最初の囲いは一キロ四方、いや二キロ四方かな。まずはそれぐらいで」

 

 山なりにデカブツの上を飛びながら冷静に目標の大きさを測ると、積杜は右手に握った黒いカードを下へと向けた。

 

「それ!」

 

 軽い気合いを合図に積杜の手の中にあった黒のカードはその色を失いながらも瞬く間に四方に広がった。やがて充分な大きさになると、今度は辺を作るように下へ折れ曲がって地に届く。

 

 出来上がった半透明の大きな箱は積杜の目論見通りにデカブツを内に捕らえ、その行動範囲を大きく制限する。

 

 瞬く間に完成したオリの中でデカブツは暴れるが、積杜は残ったビル群や地面に深く埋め込めさせた箱の縁を使ってしっかりと固定した。

 どれだけ中で暴れても箱がびくともしない事を確認した積杜は、その表面にもう一枚の黒いカードを重ねる。

 

「これで拘束!」

 

 言葉と共に大きな箱に溶けるように消えた黒のカードは、そのまま十メートルほどの厚さを抜けて内側にひょっこりと顔を出す。それから同じように膨張し、外側よりもかなり小さい箱としてデカブツをぴったりと捕らえるオリになった。

 

「後はこいつで終わりっと!」

 

 積杜が呟くと、外側の箱が収縮を始める。やがて内側の箱と入れ替わるように内部に潜り込んだ最初の箱はそのままデカブツを取り込むように小さくなり、脱出しようと必死に動く足を半ば出したあたりで固定した。

 

 暴れようにも移動のための足を途中で固定されているために一歩も動けず、強引に振り払おうとしっかりと固められているせいでピクリとも動かない。

 

 やがて無理に動かそうとした反動で機関部から煙を噴出し、幾つもの足を折り、関節を壊した辺りでようやくデカブツは機能を停止した。

 

「さーて。大丈夫だとは思うけど取り残された人はいないかな?」

 

 ほんの一分ほどで邪魔者を片付けた積杜は、念のために箱の内側に感覚を広げて受験生が取り残されていないか確認する。

 

 最初の箱を形成する際、避難する受験生の妨げにならないように箱の裾には間隔を開けて脱出口を作っておいた。

 また二つ目の箱でデカブツの動きを封じる際には、宙で固定するようにして速やかにデカブツの拘束を行っている。

 

 なので箱の中には誰もいないはずだが、それでも怪我か何かで動けなくなって内部に取り残されている可能性もある。

 

 その危険を潰すべく、積杜は箱に感覚を伸ばして、その内側を探った。箱を形成する直前で留めるような心持ちで個性を使えば、積杜は自分が作り出したものの内部限定で物体の存在などを探る事が出来る。

 

「ああ、いた。瓦礫に足を挟まれているのか」

 

 果たして1人、箱の中で逃げ遅れた受験生の存在を積杜は感じ取った。反射鏡の原理を使ってその当たりを覗けるようにしてみると、どうやらデカブツが崩した瓦礫に足を取られて動けなくなっていた事が分かった。

 

「……これって僕が巻き込んだのかな? だとすると試験妨害になりそうで後が怖いな」

 

 そんな事を危惧しつつ、積杜は箱に小さな穴を開けて侵入する。

 

「いたっ! あそこだ」

 

 ガラス越しのような柔らかな日光を浴びてデカブツは沈黙していた。それから少し離れた場所で崩れた瓦礫が山になっており、件の受験生がうんうんとうなっている。

 

「おーい。だいじょーぶ?」

 

「大丈夫、です」

 

 その女の子は気丈な声で強がって見せた。とはいえ顔色はあまりよくなく、会話の途中でも痛みをこらえるかのような顔をしていた。

 

「ちょっと。まずそうだね。……とりあえず今からその瓦礫をどけるから、動かないで」

 

「……あ、ありがとう」

 

「いいって。困った時はお互い様」

 

 そう言いながら積杜は瓦礫の様子を探った。はさまれている部分はともかく、全体的に崩れていてうっかり抜き出そうとすれば崩落の危険がある。

 

(まずは周囲の安全確保。その後で隙間を作って引っ張り出す。急がないと試験時間が無くなるし、手早くやろう)

 

 ある程度のポイントを稼いだ積杜はともかくとして、受験生ならば可能な限り早く試験へ復帰したいはずだ。怪我の事も考えると、急いで救出作業を完了する必要がある。

 

「……こことここだな! よしっ」

 

 ポーチから新たに取り出した黒い板を変形させ、積杜は受験生が挟まっている瓦礫の部分を箱状に囲った。これでもし作業中に崩落が起きても、二人の安全は確保できる。

 

「これから隙間を広げるから。抜け出せるかどうか試してみて」

 

「は、はい!」

 

 受験生に声をかけ、積杜は瓦礫にはさまれている足の両側に杖を差し込んだ。それから杖を瓦礫を押し上げる柱としてゆっくり変形させていく。

 

「よし、隙間が出来た。抜け出せる?」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと無理みたいです」

 

「なら、しょうがないか。御免、ちょっと触るね」

 

 受験生に一言断り、積杜はその体を支えて瓦礫の間から引っ張り出した。はさまれた足は幸い折れてはいないようだが、それでも足首が真っ赤に腫れて痛々しい。

 

「……酷い怪我ではないけど、試験の復帰はちょっと厳しいかな」

 

 怪我の具合を見た積杜はそう判断すると、個性を発動して新たな箱を作りだした。それを使って怪我した足首を固定しようとする積杜を受験生が止める。

 

「あっ。大丈夫です。この程度の怪我なら……」

 

 そう言って受験生は痛みに耐えながら両手で患部を押さえると己の個性を発動した。手の中で生まれた仄かな光が捻った足首に宿り、やがて消える。

 

「治りました。これで大丈夫です」

 

 彼女の言葉に連が患部を見ると、なるほど先程まで赤く変色していた部分がきれいな肌色に戻っている。

 

「治癒系の個性持ちだったんだ……」

 

「私の個性<癒光(ヒールライト)>です。これで試験に復帰できます」

 

 そう言って立ち上がった彼女は、問題がないとばかりに右足で数回地面を踏んで見せた。

 

「じゃあ、後三分もないけど、頑張って」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 もう問題はないだろうと展開していた箱を回収した積杜は、健闘を祈る言葉を送りあって受験生と別れた。

 

 何の問題もなく走っていく彼女の背を見送った後、積杜も試験へと復帰する。再び杖やロープを使った移動で向かうのは、先程仕掛けた罠の最奥。想定どおりならばここにターゲットが溜まっているはずだったが……。

 

「……ちょっと時間をかけすぎたかな」

 

 途中でターゲットを数体撃破しつつ、のこり一分を残して目的地には辿りついた積杜だったが、すでにその場所では何人もの受験生がターゲットを追い回していた。

 どうやら積杜の仕掛けに気がついて、この場所を探し出したらしい。

 

「まっ、しょうがない。人の獲物を横取りして時間を無駄にするよりも他のを探しにいこう」

 

 取り合いの愚を起こさずに、すぐさま方針を切り替えた積杜は迷路の奥から入り口に向かって逆走を始めた。

 まだ途中に何体か残っているかもと考えた故の行動だ。

 

「……なんとか二体。でもここで終わりか」

 

 積杜が路地で出くわした二体目を撃破したところで残り時間が尽き、試験は終了した。最終的に56体を撃破、獲得ポイントは83点。他に加点があるかもしれないが基準が分からないので勘定には入れないことにする。

 

「基本だけで90はいくつもりだったけど、まあしょうがないか」

 

 軽く肩をすくめた積杜は、試験終了のアナウンスを聞きながら会場を後にした。

 

 

 

 




ちょっとやりすぎた。正直反省している。

原作をみるにA組の合格ラインは総合でおそらく50ポイント前後。トップの爆豪が救出点なしで77ポイントで、デクが救出点のみで60ポイントで7位なので、やっぱり積杜の点数は盛りすぎたかもしれません。

あとオリキャラを二人ほど投入。ただしツバサについてはしばらく登場の予定はなし。

この部分は元々は轟についての会話だったのですが、よくよく考えれば、彼は推薦なのでこの試験を受けませんし、いるはずもありません。
なので慌てて用意していた新キャラを引っ張り出して放りこみました。

次の一話で入学前の話は終わりとなります。


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