職業ヒーロー志望者の学園生活 作:のんびりリハビリ中
ちょっと積杜たちがやらかした過去の出来事について言及されます。
「それで、どういたしますか?」
モニターから目を離した男性が、一同にそう問いかける。
場所は雄英のとある会議室。十人ほどばかりがテーブルについて、モニターに映し出されたいくつかの画像を見ていた。
彼らの表情はそれぞれだが、あまり好意的でない視線が多い。
映っていたのは積杜が個性を使ってデカブツを拘束する場面だった。その隣には繰乃がリボンを巻いた大量のぬいぐるみをけしかけて、別のデカブツを圧殺している様子が映し出されている。
その他には癖の強い髪を持つさえない少年が一撃でデカブツを破壊した瞬間を捉えたものや、包帯を巻いた少年が電光を散らしてデカブツを沈黙させている画像もあった。
とはいえこの場においては、大きく拡大された画像に映る積杜と繰乃の二人が問題にされていた。
「どうもこうもないだろう。まさか合格させないわけにもいかない」
「ですが、この二人は異常です。お邪魔虫として用意した超大型ですら、どちらも一分とかからずに無力化しております。ポイントも他の受験生を大きく引き離していますし……」
「確かにこれでは他の会場との差が大きいな。彼らと同じ会場になった受験生達が可愛そうだ」
沈黙した超大型機動兵器を操って再起動させる繰乃の様子を画面に見ながら壮年の男性は呟いた。
「しかしだからと言って、採点の基準を変更するのは……」
「いや、試験の公平性を考えれば……」
現在話し合われているのは先日終了した入学試験についてだった。とある二人の受験生が異常ともいえるポイントを獲得した結果、他の会場に比べて獲得ポイントが一様に低い受験生ばかりとなってしまい、彼らのために合否の判定を再考するかどうかで揉めているのだ。
「救出点も含めれば150点オーバー。明らかに突出しています」
「一部からは試験妨害ではないかとクレームも出されていましたが……」
「無理だな。対処も対策も為されている。大方試験の不備と言いぬけられて問題には出来ないだろう」
「合間に行われた救助活動も問題無しですし」
「状況判断も適切だ。やはり慣れているな。他の受験生とは一味も二味も違う」
「流石はアマニワの秘蔵っ子といったところか」
「だったら何で雄英に来たんでしょうねえ。彼らのホームは彩花原でしょうに」
「さてな。向こうの思惑は我々にはよく分からん。あるいは例の件がらみかもしれんな」
忌々しそうに吐き出されたその言葉に、その場の視線がある一点に集まる。注目を一身に浴びたその男はきらりと光る歯を見せながら、立ち上がって発言する。
「ハハハ。それは唯の偶然ですよ。……それに今話し合うべきなのは、彼らではなくその他の受験生達への配慮についてでは?」
そう言って現代最強のヒーロー、オールマイトは笑った。
「……そろそろかな」
「今来た便に乗ってるはずだから、後少しで出てくるでしょ」
三月も終わりのある日、積杜と繰乃は空港に来ていた。現在、国際線の入国ロビーで人待ちをしている最中だ。
「何年ぶりだろ。つくり姉さんに会うのは」
「えーと。4年ぶりじゃない? 一昨年、私達が向こうに行ってたときには忙しくて会えなかったし」
「……そっか。じいちゃんの葬式の時以来なんだ……」
積杜の言葉を聞き、繰乃が指を折って数える。その様子を見ながら、積杜は昔の事を思い出していた。
積杜と繰乃が話題にしているつくり姉さん事、松戸 つくりは二人の古馴染みだ。積杜たちよりも干支一回りほど年長で、小さかった頃はよく遊んでもらっていた。
訳あって積杜の家の裏手にある養護施設で育ち、高校卒業後は海外に留学していた。大学卒業後も向こうで研修を行い、そして今年の春から日本に戻ってアマニワで働く事になる予定だった。
「今年の春からは、彩花原市にある病院で医者をやるんだっけ」
「そうそう。国内でもほとんどいないっていう個性を利用した医療チームのリーダーだよ。本格的な始動は夏からみたいだけど」
「じゃあ、入れ替わりになるのかあ」
「そうだねー。私達は春からピカピカの雄英生だよ。おまけに特待生」
つい先日、二人は雄英から合格通知をもらっていた。何でも今年は特別な事情があって合格枠を増やしたらしい。
「良かったといえば良かったけど。なんで急に増えたんだろ?」
「さあ。やっぱりオールマイトの教師就任が関係してるんじゃない?」
その理由の一つが他ならぬ自分達であるとは露とも思わず、二人はのん気に合格を喜び、春からの生活を楽しみに語り合っていた。
「……随分と楽しそうだね、君たち。できれば私の事も思い出してくれるとありがたいんだが」
そんな二人に声をかけたのは、二十代後半の女性だった。ぶっきらぼうな口調なのは、長いフライトで疲労しているからだろう。
「あっ!? つくり姉さん。こんにちわー」
「あっ!? お久しぶりです、つくり姉さん。お元気でしたか?」
気がついた繰乃はつくりに抱きつきながら再会を喜び、その様子を笑って見ながら積杜は久しぶりに会う姉貴分に挨拶をした。
「やあ、二人とも相変わらずに元気そうだ。一昨年は会えなくて残念だったな。あの時は随分と皆に迷惑をかけたらしいじゃないか」
「む、昔の話ですよ。もうしません。……多分」
「そうです。そうです。若気の至りって奴です! それにそもそも悪いのは……」
「待った! その話は後で聞こうか。ここで話す話題でもないだろう。今夜、ゆっくり聞かせてもらうさ。それより迎えの車は何処だい?」
「ああ。急な用事が入って来れなくなったので代わりに私達が来たんです。タクシー呼んであるので、荷物回収したら行きましょ。ちなみに経費ですよ、けーひ」
「ふーん。ならすぐに行こうか。長時間のフライトでもうクタクタなんだ」
「姉さん。相変わらず飛行機苦手ですよね。船には強いのに……」
「どうも地に足が着いてない感覚になれなくてね。向こうでも結構乗っていたんだが、どうにも苦手だ」
「じゃっ、早く帰りましょう。皆待ってますよ。お母さんもご馳走用意して楽しみにしてます」
「織子さんの手料理か。そういえば久しぶりだな」
よく食事に招かれていた昔を思い出したのか、つくりは懐かしそうに目を細めた。
「私も手伝ったんですよー」
「……ごめん、積杜。ちょっと売店に行って胃薬買ってきていいかな?」
同じく昔に繰乃の料理を食べさせられた事を思い出したらしく、先ほどよりもさらに遠い目になったつくりは、積杜に一言断ってからロビー内にある売店へと足を向けた。
「大丈夫ですよ、つくり姉さん。今ではちゃんと食べられるものになってますから。実験台としてかなり付き合いました」
「そうか。それはありがたいな。君も随分、苦労したね」
「ひ、酷い!」
そんな風にわいわいと騒ぎながら、積杜たちは荷物を取りに向かってロビーの中を歩き始めた。
「成る程。君たちが海外留学させられたのは、そんな理由があったからか」
「あー。色々噂になっているけど要は反省しろってことです」
「それでしおらしくするんじゃなく、二種とはいえライセンスを取ったのが君たちらしいな」
翌日早朝。いつもの朝錬の最中に散歩に出てきたつくりと遭遇した積杜は、彼女がいなかった間の出来事を主題に話をしていた。
一番に聞かれたのは、一昨年に突然積杜や繰乃を含めた数人が半年ほど海外留学をすることになった顛末だ。
他言無用といわれているが、彼女にならば話してもいいだろうと判断して、積杜は発端から経緯までをざっと話した。
「……しかし君たちも無茶をする」
一通りの話を聞いたつくりは呆れたように笑った。どうやら面白がっているらしい。
一般人ならば眉を潜めるか、あるいは聞かなかったことにする話も、波乱の人生を歩んできた彼女にとっては痛快な出来事なのだろう。
「本来なら地方の、それもちょっと話題になる程度の事件のはずだったんですよ。ちょっと予定外の乱入があっただけで……」
「ははっ! なんだあの有名な一件はただの偶然だったのか。そりゃ、君たちも焦っただろう」
「あー、まあ、結構ビビリました。でもそれが話題になったおかげで、結果として本命のいい目くらましになったんですけど……」
「まさに災い転じてナンとやらだな。ところで、その愉快な事を思いついたのは誰だったんだ? 繰乃か、それとも
「あー、僕です。その二人はもっと手っ取り早くて強引な解決方法を推してました」
堂々と騒動の主犯だと宣言しながら積杜は当時を思い出して苦笑いする。
確証がなくかといって他の方法では時間がかかって手遅れになる。どうせ秘密裏に葬られるべきなのだからと、少々の無茶は承知の上の行動だった。
とはいえ騒ぎは思わぬ形で大きくなり、予定外が相次いだ結果、本来の事件の中心から大きくズレて終わる事になった。
そのせいで最後の辻褄あわせが大変だったが、最低限は上手く収める事が出来たはずだ。
「……もう少し上手くやっていれば、父さんや先生たちにもバレずに終わったんですけどね」
「いや、無理だろう。あの人たちの目を誤魔化すのはね。トラブルメーカーだったわたしが保証するよ」
唯一の失敗を告白した積杜に、つくりは首を横にふって否定を返した。それからにやりと笑い、楽しげに彼女は言う。
「しかし、そんな君たちが数週間後には雄英生になるんだから、世の中は面白いな」
やらかし第二段。A組から誰かを省くのもなんなので、強引に枠を増やしました。B組も増えますが、そこはオリキャラの投入で埋めます。
次回から入学編に入ります。