職業ヒーロー志望者の学園生活   作:のんびりリハビリ中

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少し時間が空きました。予告どおり入学編となります。

一部にすまっしゅ!ネタがありますが、気になる方はスルーしてください。




入学編
個性テスト


 春。それは出会いと別れの季節である。

 

 小学校以前からの付き合いがあった友達や慣れ親しんだ実家に一度の別れを告げ、隣合って1人暮らしを始める繰乃と積杜にとってもそれは例外ではない。

 

 新しい環境。新しい学校。そして新しい友達。天下の雄英高校で、希望に満ちた生活が始まるはずだった。

 

「……なのになんでこんな事になってんだろ」

 

「さあ?」

 

 入学初日からなぜか体育着に着替えてグラウンドにいる自分たちの現状を思いながら、積杜と繰乃はため息をついていた。

 

 雄英の新入生の内、この場にいるのは一クラスのみ。ヒーロー育成を目的とするヒーロー科二クラスの内のA組22名だけである。

 

 他の新入生たちは今頃、遥か遠くに見える大講堂の中で入学式の真っ最中だろう。

 

「……巌おじさん。今日は仕事休んで見に来るっていってたよね? 織子おばさんも最新型のデジカメ買ったとか言ってたし」

 

「タマおじさん達も飛行機で飛んで来るつもりだって聞いてるよ」

 

 互いに顔を暗くしながら、積杜と繰乃が出ていない入学式のためにわざわざやってきた家族の事を思ってため息をつく。

 

 入学式をボイコットしたA組がこれから始めるのは体力測定である。それも個性の使用が可能という一般的にはありえないもの。

 つまりは現在の己の個性の程度を知るための、個性把握テストというわけだ。

 

 それを指示したのは混乱する生徒たちの前に立つぼさぼさ髪の男性だった。寝袋に包まっての登場といい、多くの来賓も招かれているだろう行事を無視しての特別授業といい、かなり破天荒な人物らしい。

 

 この相澤 消太と名乗る不健康そうな男性教師は生徒たちの混乱と不満を一蹴すると、早速測定について話し始めた。

 

 測定は二回行われ、良い方の記録をとるのは同じらしい。さらに個全種目で最下位になった生徒はもれなく除籍処分だと相澤が告げると、それまで個性解禁で浮かれ気味だったA組の間に一気に緊張が走った。

 

 気にしてないのは積杜達を含む少数の生徒だけである。少なくとも二人にとってはどのみち全力で挑むだけなので、除籍だろうと表彰だろうと関係はない。

 

「どうする?」

 

「うーん。いつものようにやればいいんじゃないの?」

 

「じゃあ一回目は普通で、個性の使用は二回目だけだね」

 

 個性を使った体力測定は訓練所でも行われていたので、積杜達はそのやり方に乗っ取って測定を始めた。

 

 個性を使った記録の方がよくなるのは当たり前だが、だからといって基本的な身体能力をおろそかにしていいはずがない。

 個性が『強力だが、けして絶対的でも万能でもない』能力であることを二人はよく知っている。

 

「それに半端な記録を出すと、『たるんどる!!』とか言われてまた先生たちに特別課題出されるし」

 

 受験終了の後で課された特別特訓の事でも思い出したのか、繰乃は入念に準備体操して、真剣な目で種目の確認を行う。

 

 他の同級生達も、多少の不満はあれどテストに取り組み始めていた。その対応の早さは流石は雄英のヒーロー科といったところか。

 

 とはいえその個性の使い方は直接的で、応用に乏しい。個性の制御は出来るが、使いこなすには経験も錬度も不足しているようだ。

 

 どうにか慣れない個性を使ってクラスメイト達が記録を伸ばそうと試行錯誤をしている中で、積杜はクラスメイトの1人が個性を使わずにテストに挑んでいる事に気がついた。

 

「あれは、……緑谷君だっけ?」

 

「えっと誰だっけ、緑谷君って? ああ、朝にガラの悪そうなボンバー君と頭も性格も堅そうな真面目君に絡まれていた……大人しめの男の子だよね、確か。あの子がどうかしたの?」

 

 他に比べればあまりパッとしない記録を出したその名前を確認しながら、積杜が呟いた。すると隣で新品の体操服やハンカチなどの持ち物に簡単な顔を描いて即席の人形を作ることに勤しんでいた繰乃が、その緑谷の何が気になったのかを積杜に尋ねてきた。

 

 繰乃が少し話の中で触れたのは、朝に登校してからグラウンドに出るまでの僅かな時間に起きたちょっとした騒ぎの事だろう。

 爆豪という名前らしい男子生徒の粗暴な言動と行動に我慢できなくなった真面目そうな飯田という男子生徒との間で起きた一件である。

 その口論にもならないただの言い合いに巻き込まれた不運な男子生徒が、緑谷だ。

 

 すぐに収まったものの、騒ぎの中心だったガラも口も目つきも悪い爆豪や、訓練所の顔見知りから話だけは聞いていた眼鏡すら四角い真面目な飯田の二人のクラスメイトに比べれば、終始二人に押されっぱなしの緑谷は、積杜の目にも大人しく地味に見えた。

 

 なまじこの二人が一回目の測定で己の個性を使って高めの成績を出したため、その印象はますます強くなるばかりだ。

 

 繰乃が途中で言葉を濁したのも、あまり特徴のない生徒だからだろう。

 

 ほぼ魔境な彩花原選抜クラスほどではないが、割と見た目も性格も主張が強い生徒が多いA組では目立たない部類に入る男子なので、なんと評していいのか困ったらしい。

 

「いや。さっきの測定で、個性を使ってないみたいだからさ。ちょっと気になっただけなんだけど」

 

「あー。ほんとだ。なんでだろ? 使いたくないのか、使えないのか。どっちかな」

 

 入学試験と同じように棒の伸長を利用して一気にゴールへ飛び込み、50m走1.1秒という記録を出した積杜と、もはやパワードスーツと形容した方がいいかもしれない体操服人形の補助を受けて3.4秒という記録を出した繰乃がこっそりと見守る中、緑谷の二回目の50m走の測定が始まる。

 

「……普通だね」

 

「うん、普通だ。走りのフォームもあんまり良くないせいか、ちょっと身体能力が高いかなってぐらいの記録だね。それに個性も使ってないみたいだ」

 

 さっきの測定で無理をさせた体に入念なアフターケアを施している繰乃が、一言で感想をまとめた。対する積杜の感想も似たようなものだ。唯一分かったのは、今回も個性を使っていないという事ぐらいだろう。

 

 最初は自分達と同じように何らかの理由があって個性を使っていないのかと思った積杜だが、二回目の測定の後の悔しげな様子を見れば、どうも違うらしい。

 

「うーん。ってことは、使えないほうかな。どうする?」

 

「あー。除籍とか面倒な事を最初に言われたから、アドバイスしにくいね。変に警戒されて気を散らすのも悪いし。うーん、タイミングを上手く見計らって後は簡単に一言でまとめて……」

 

 個性にも向き、不向きがある。この体力測定が元のこのテストでは、<洗脳>など直接人に作用したり、<暴風雨>といった規模や効果が大きすぎて迂闊に使えないような個性では厳しいだろう。

 

 訓練所で育ち、幾度と無く己の個性の扱いに苦しむ大勢の姿を見続けてきた積杜としては、助言の一つぐらいはしてやりたいというのが正直な気持ちだ。

 

 しかしまだ初日で相手の個性も知らず、何に悩んでいるのかが分からないとくれば、アドバイスのしようもない。

 

「おーい、緑谷君。何か悩んでいるなら相談に乗るけど……」

 

 ならば直接聞いてみようかとこっそり緑谷へ話しかけてみる積杜だが、返ってきた反応は無かった。

 

 追い詰められているのか、それとも極限まで集中しているのか。ぶつぶつ言いながらテスト項目を睨み、或いは頭を抱えて悩んでいる緑谷は外部の声を完全にシャットアウトしまったらしい。

 

 せっかくの高い集中力を切らすのも悪いかと思い、何より「アドバイスは禁止だ」とばかりに向こうから相澤が睨んできたので、渋々ながら積杜はテストに意識を集中する事にした。

 

 目立った記録が中々出せない緑谷の苦戦をよそに、積杜と繰乃の二人は順調に高記録を叩き出し続けていた。

 

 握力測定では体操服人形の助けを借りた繰乃が、新記録を出そうと張り切った挙句に測定器具を破壊して周囲を戦慄させ、反復横飛びでは平べったい板状の箱に乗った積杜が、左右に運ばれているだけで、まるで分身しているかのような移動を見せる。

 

 個性把握テストといっても、基本はあくまで個性使用可能な体力測定でしかない。訓練所で経験していたテストに比べれば格段に優しく感じられ、その分余裕があったからだろう。

 

 また個性を使う機会を一回に絞った事で、集中力を高められた事も大きい。さらに一回目のテストで測った素の身体能力を基準にすることで、個性を使ってどれだけ高くその記録に上乗せできるかという具体的なイメージが浮かべやすかった事も一因だった。

 

 途中で相澤に二回とも個性を使わない事を咎められたものの、積杜と繰乃が理由を話すと一応納得してくれたようだった。

 

 アングラ系ヒーロー”イレイザー”として活動していた彼にとって、その理由が頷けるものだったのも大きいだろう。

 

 相澤の個性”消失”は対象の個性の発動を一定時間封じる強力な能力だが、それだけでは相手を制圧し、拘束する事はできない。

 それを補うために捕縛術を身に着けた彼にとって、己の個性に頼り過ぎないという姿勢は共感できるものであった。

 

 少なくとも扱いなれない個性に頼って出したその場しのぎの記録で除籍を免れようとした生徒に比べれば、よっぽどテストの意義を考えている。

 

 ――自らの限界を知らなければ、その先に行くことなどできるはずが無いのに。

 

 とはいえ相澤にとっては手放しに認めるわけにもいかない二人でもあった。特に助言をしたり、ちょっとした指導までやろうとする点については、さすがに見逃すわけにいかない。

 

 今回のテストでは自らの限界に挑む姿勢を見る目的もある。故に親切なおせっかいを排除するべく、相澤は二人の挙動に目を光らせ、時には手を出して問題行動を抑えながら、テストを進行していった。

 

 

 

 結局、すべての測定が終了した後で相澤から除籍発言が皆を発奮させるための合理的虚偽だと明かされ、最後に雄英のスローガンらしい「さらに、向こうへ(プルスウルトラ)」と激励されて入学初日は終了した。

 

 その後、積杜と繰乃は待ち構えていた親に捕まり、入学式の鬱憤を晴らそうとするかのようにあちこちを連れ回されて写真を取り捲られた。

 

 

 




積杜と繰乃が少しA組と距離があるのは、まだアマニワの帰属意識が強いためで、今のところはアマニワから雄英に留学しているような感覚だと考えてください。

なので、これから徐々に距離を縮めていく予定です。


ただしデクに関してはとある事情から、警戒が強めの少し距離がある関係がしばらく続きます。


次回は屋内訓練の予定です。対戦相手で迷って筆が止まっているため、少し時間がかかるかもしれません。




そろそろタイトルを変えたいけど、いいのが思いつかない。
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