「少しづつ守護者同士との生活に慣れてきた『理を盗むもの』。その矢先に少し小さな事件が起こる……。」
「――あぁ、私の『未練』は…もう…………ありがとう……。」
「ローウェンっ! ねぇ、ローウェンってば! しっかりしてよ!」
「な、なにが起きたんだ?」
と、20層に帰ってきたこの層の主であるティーダは困惑していた。
ローウェン達が30層で召喚されてまだ早く、ティーダもいまいち状況が呑み込めない。
それでも取るべき行動は一つだ。
「まあ、とりあえず――魔法《
「――ぁ、あれ?……っておい! なんて事するんだ、ティーダ! 私は今やっと自分の『未練』を果たそうとしていたのに! また『舞闘大会』の時みたいに邪魔をしてぇっ!」
「だからその時も言っただろう。「私が消えるまで、ローウェンは消えないように。親友との約束だぞ?」って。『闇の理を盗むもの』、ヤクソクヤブラナイ。」
「くっ、確かにそう言ってたけど……。言ってたけど!」
消えるのを妨害され、さらにはあっさりと丸め込まれてしまったローウェンを見てリーパーは「ふいー、よかった。」と安心していた。
渦波もアルティもアイドも迷宮の外にいて、必死に消えそうになるローウェンを引き留めようと頑張っていたのだろう。心が成長していないリーパーにはローウェンとの別れはきついものもあるに違いない。だから『
そうティーダは考えた。
「ただいまーでいいのかな。慣れないなこういうのは。」
「師匠、そろそろ僕の財布が……。」
そこにやってきたのが渦波とアルティであった。先の『舞踏大会』でのアルティを宥めるための甘味処巡りの3日目をようやく終え、財布を気にする渦波と落ち着いてきたアルティである。
二人の目の前に飛び込んできたのは泣きそうな表情で膝をつくローウェンと「いっえーい!」とハイタッチを交わすリーパーとティーダだった。
渦波は「やっと私は自分の『未練』を……」と割と本気で落ち込みかけているローウェンを見て、いち早く察し傍にいって肩を叩く。
「ローウェン……。今日は僕が奢るからおいしいものを食べにいこうよ。」
「ありがとう。お言葉に甘えて今日はごちそうになろう。さすが私の
「ああ、
そういう事で親友で似た者同士の二人は20層を出て地上に向かっていった。
「アルティのおかげで財布が寂しいと嘆いていたのに、流石は渦波だな。」
「うん。私もそろそろ機嫌を直した方がいいのかもしれない。まあそれは置いといて、リーパー、なんでこんなことに?」
「それがね、おねーちゃん。分からないの……。」
「分からないと。」
「分からないのか。」
不思議そうに首を傾げるリーパーと顔を見合わせるティーダとアルティ。
二十層は濃い闇魔法の痕跡を纏っている。剣を帯び、先程まで中々激しい剣戟をしていたかのようなローウェンの服の乱れ。
リーパーとローウェンの首には珍しく黒のマフラーをつけている。リーパーのは自身の魔力の構成物だろうが、デザインは同じ、言わばお揃い。
付け加えるなら彼のそれは渦波とリーパーの合作で昨日渦波が着けていたものともお揃い。
ここまでくれば自明で確認のつもりでリーパーに問うた二人には意外な反応であった。
「よし、ならば今まであった事を順に並べて推理してみようか。」
「教えてくれないの? お兄ちゃんがそういうならやってみるけど……。」
焦らすようなやり方にティーダに視線を向けるアルティだが、それに大丈夫だという視線を返す。
「むむむっ……まずはローウェンが20層にきたパーティーと『剣術』を競い合ってて、……子孫みたいな人もいたかな?」
「フェンリル・アレイスもいたのかい?それはすごいな。」「かの『剣聖』ならまだ善戦できてたのかな?」
「それで圧勝したローウェンにすごいとか教えて欲しいって言われて、喜んで剣舞を見せてそれでパーティーは帰っていて……。」
「さすがローウェン。つよいつよい。」 「さすがローウェン。ちょろいちょろい。」
「その後驚かせてやろうと思って奇襲したら偶々鎌が当たって……。」
「闇魔法はその時か。」 「つまりその時にもう『未れ……なんでもない。続けて。」
「なんでかさらにローウェンが喜んで、それでちょうど昨日お兄ちゃんと一緒に作った三人お揃いのマフラーを渡してない事に気付いて……。」
「とどめを指しにいったー。」 「リーパーが成長したんだって思ったんだろうなぁ。」
「渡して巻いてあげたら、急に『死者は夢を失い』『屍となって世界を……って言い始めて……。」
「あー。」 「あー。」
「さっきから少しづつ減ってた魔力が急にすごく消えていってローウェンが消えかけて……。」
「そこにティーダが帰ってきたと……。」 「んー。リーパー、もうちょっと考えたらわかるよ?考えてみようか。」
それを聞いてリーパーは腕組みをして「うーん。」と首をかしげたりクルクルと回ったり、小動物のような動きをしながら長考する。
ここでアルティはティーダが焦らした理由を理解する。
――リーパーかわいい。
ただでさえだれかさんの『理想』を模ったような性格に幼い容姿、『理を盗むもの』の『呪い』もないのにローウェンとの絶妙なすれ違い、その仕草で人を魅了する。
悩み続けるリーパーを鑑賞する二人組ができたのも仕方のない事だろう。
最後には「ねぇー、やっぱり分かんないよー。」と答えをねだるリーパーだったが明日に教えるとティーダが言ったので、渋々アルティと一緒に寝る事にした。この時アルティは顔が思わずにやけてしまいそうになるのを抑えていた。
ティーダもその場で思い付いたプレゼントの成功に口元を綻ばせ、満足げに闇に消えていった。
そして次の日。
早く答えを教えてほしくて早起きをしたリーパーは渦波に夜中慰められてやっと気を取り直して戻って来たローウェンと鉢合わせしてしまった。
20層に気まずい雰囲気が流れる。
「……。」
「……。」
しかし意外にも沈黙を破ったのはローウェンの方であった。
「あの……そのだな、リーパー……。昨日はすまなかった。」
「…え?」
唐突な謝罪に驚いたリーパーにローウェンは続ける。
「昨日渦波に言われたんだ。もっとリーパーの事を考えてみようって……。それで私は決めたんだ。リーパーが消えるまで私は消えない。少なくとも自分の意思では……。リーパーが消えるなら私も一緒に消える。だから昨日私が消えようとしてしまった事をどうか許してほしい。」
「ローウェン……。」
昨日の事にローウェンはとても後悔していた。リーパーを置いていってしまう所であったと、まだリーパーに『親友』だと言えていないと。
だからこそ彼はリーパーが自分の消失を受け入れられるまではこの世界にしがみついていようと決めた。『感応』がこの世界のリーパーが受け入れられるようにはならないと感じた気がして、それで彼は今の言葉を言った。頼りなさげにも『世界』に宣言するようにしっかりと言い切った。
その言葉にリーパーは泣きそうになっていた。
「アタシは最初から怒ってないよ……。だから許すも許さないもないんだよ……。でもありがとね……。アタシもローウェンと一緒に……。ローウェンはアタシの……。」
――『親友』だから。
そう言えないのは仕方がない事だった。言うまでもない事で、言わないと伝わらない言葉であった。しかしこれを機会に二人の友情がさらに厚いものとなったのは言うまでもないだろう。
結局リーパーはティーダから答えを聞くのも忘れていた。
『
それが『正解』であると考えた。
二人はどちらともなく手をだしてこれ以上ない笑顔で握手する。リーパーの『呪い』で触れられなくても、間違いなく握手であった。
「なあ、渦波、アルティ、相談したい事があるんだ。」
「奇遇だね、僕もティーダと師匠に相談したい事があるんだ。」
「私も二人に相談したい事がある。」
斯様な状況に無粋にも入り込めるものはここにいるはずもなかった。