いぶそうあれこれ   作:量産型ジェイムス

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異世界に行かず渦波が陽滝の問題を解決したとかいう絶対ありえなさそうな世界線となっています。(湖凪ちゃんはすでに死んでます。鵜飼先生の絵のifと分岐は違います。)色々ご了承の上読んでいただけると幸いです。(解釈違いの可能性とか最終章のネタバレとか)
メリークリスマス!!



好き合う二人はいつだって(最終章)

 サクサクと四つの靴が白く輝いている雪道を進む。太陽が照っていても肌寒いこの時期として普通の格好といえるコートと手袋を身に付けた男女が手を繋いで、白い息を洩らして仲良く歩いている。

 

「なあ、陽滝。一つ聞きたいんだけどさ。」

 

 そう切り出したのは相川陽滝と共に歩いている相川渦波である。その言葉に、何気ない会話の始まりに陽滝は嬉しそうに自分の考えた答えで応じる。

 

「何でしょうか、兄さん。」

「それ。」

 

 なにやら納得のいかないような顔で首を振って不満気に続ける。

 

「僕達ってあの長い兄妹喧嘩の末に仲直りして僕の『呪い』や陽滝の『生まれもった病』を解決したわけで。やっと『二人』になってさ。それからこうして日々を暮らしているのに陽滝はどうして僕に未だに敬語なの?」

「――ふふっ、少し深刻そうな顔をして何を言うのかと思ったら……。どうしてでしょうね。やはりずっと続けてきていたからでしょうか。それに演技をやめてもそれよりも前から私は兄さんに敬語だったはずです。」

 

 どこかの世界でできた妹に親しげに話しているのは知らなくとも、敬語だとまだ少し距離を感じるようだ。兄の言葉の意味を自ら考えて理解した陽滝はそのこどもっぽい不満に呆気にとられた後思わず頬を綻ばせる。

 

「それは確かにそうだったし、その後も僕のせいだから何も言えないけど。陽滝の兄としてはさ。今までの事もかねて、もう少し妹に何かしたいというか、甘えて欲しいというか。」

「――――。」

「陽滝?」

「……ふふふ、そこまで言うなら一つ甘えて差し上げますよ。妹としてっ。」

 

 そう言ってひょいと兄の前に出て、一瞬身を縮ませた陽滝は思いきり渦波の胸に抱きつく。驚いて僅かによろめいたが、しっかり受け止めた渦波は微笑み、妹の長くて綺麗な黒髪を撫でる。

 

「それで陽滝は何をして欲しいのかな?」

「私とキスしてよ、兄さん。」

「――っ。」

 

 意地悪そうにも楽しそうに、とびっきりの笑顔でお願いを伝える。もれなく兄の要望も叶えながら。

 その可愛さに渦波息を呑みながらも先程の微笑みを引き攣らせる。

 

「あ、あの陽滝……。」

「なーに?兄さんあの時世界で『一番』はお前だ! って言ってたのに、その私にキスの一つもできないの?拗ねるよ?」

「いや……あの、そのですね。」

「あれー?兄さんの方こそ敬語になってる。私が止めても兄さんが変わったら意味がないよ。はぁ……、兄さんはやっぱりチキンで中二病。」

「いや、中二病は関係ないし、そもそも違うし。」

 

 笑顔の兄妹から一転、にこやかに責め立てる陽滝にたじたじの兄であった。兄としてどうなのだろう。

 

「そうねー。兄さんはヘタレでかっこつけの甲斐性なしで優柔不断の女誑かしな口だけ男で期待させるだけさせて放置して酷い事にする生きてるだけで周りが迷惑してる人類の敵で大事な所ばっかり負ける負け犬なのに負けたら女の子の所に逃げる人間のクズだからキスするなんて事できないって妹だから知ってる。」

「そこまでのクズじゃない! そこまでの覚えはないよ! そんな酷い事した記憶はない!」

「兄さんの記憶なんてあてにならないよー。私は今まで何回弄ってたことやら。」

「今は弄ってないだろ! それにどれだけ弄られても根は変わらないから!」

「根は変わらないよね」

「暗に今もそうだって言わないで!」

 

 罵詈雑言を吐いたり涙目で否定しつつも、未だに抱き合ったままの姿勢で見つめ合っている兄妹。なあなあな言葉の交わしながらも想いは通じあっている。

 

「でも兄さん心当たりはあるでしょ。とくに甲斐性なしとか口だけ男とか『人類の敵』とか負け犬とか女の子の所に逃げるクズとか。」

「うっ……。ひ、陽滝に勝てなくて甲斐性なしとか言われても! こ、湖凪ちゃんの所へは別に逃げたわけじゃないし!」

「あったね。心当たり。私とか湖凪姉にも。」

「違うって!」

「じゃあキスしてよ。それで疑いは完璧に払拭されるよ。」

「そんな……。」

 

ここで相川渦波はこの理不尽によって少し拗ねる。

ここで相川陽滝はこの楽しさによって調子に乗る。

 

 二人ともこの言い合いが楽しくて、嬉しいのだから終わりようがない。終わり方は決まりきってはいるけれど。

 そうして続く口論はいよいよ終盤にさしかかる。

 

「……もしかして兄さんは同性愛者なの?」

「えぇ……。なんでそうなるの……。」

「だって『一番』だとまで言ってくれたのにー。こうもつれないなんて、もうそれしかないよ。」

「だから陽滝は妹だし。」

「じゃあ兄さんはそういう事で。」

「いや、その、あの。」

「私は兄さんがどんな兄さんでも大丈夫だから。」

「うぅ……んんっ、分かったよ! 僕は陽滝を愛してるからキスくらい大丈夫に決まってる!」

「……ふぇっ」

 

 想定より遥かに早く折れる兄に普通の女の子のように驚き慌てる。

 『理想の兄』を目指している今の渦波にとって「どんな兄さんでも大丈夫」という言葉は妹に我慢を強いているように感じられたからであったのだが。

 しかしここに四つの思考スキルはなく、調子に乗っていた事を考えれば当然の帰結である……のか?

 

「あぁ、そうだ。大切な家族への愛はいつでもどこでだって示せる。陽滝の言う通り陽滝は僕の『一番』大切な家族で『世界にたった一人の運命の人』だから。」

「いや、兄さんの『一番』の家族は父さんですよ……。何もしてないのに勝手に自分で自分を洗脳しないでください。」

「僕は二度とこの想いの先を間違えたりはしないと誓った。なのに何を迷っていたんだろう。陽滝が甘えてきたんだ。だから僕は全力でそれを叶える。ただそれだけでいいんだ。」

「――《フリーズ》……あっ、氷結魔法はもう『水の力』に……。ど、どうすれば。」

「心配ない。僕が助ける。陽滝の甘え言くらい叶えてみせる。もう二度と『妹を一人にはしない』。」

「あぅ――……ぅぅ……」

 

 不意打ちに陽滝は顔を赤く染めて俯く。

 『詠唱』までして約束してくれる、洗脳してもいない弱くもない渦波は陽滝にとって理想の兄であるのだ。勿論普段の情けない姿もだが。

 さながら『主人公(ヒーロー)』に助けられる『運命の人(ヒロイン)』のようでたまらなく嬉しく感じてしまう。

 だからこそ元からあまりない勇気ある振り絞って顔を上げた。

 自分の知る『運命の人(ヒロイン)』らしく。

 自分らしく。

 

「兄さん、どこからですか?」

「最初からだよ。」

「ふふふ……。」

「あはは……。」

 

 先程の変調は最初から分かってやっていたという事である。向かい合っていた二人は並び直して、またベルの鳴る道を歩き始めた。

 

「あんなかっこいい『詠唱』はもっといい雰囲気の時に取っておいて欲しかったです。」

「ごめん、ちょっとしたプレゼントの気持ちで。」

「そうですかー」

「そんな怒らないで……。」

「怒ってないですよ、つーん。」

「プレゼントありがとう。」

「ふふっ、私だけ貰っても不公平ですから。」

 

 返答に少し間が空いた。

 

「陽滝と敬語をやめて話した時合わないなって思ったんだ。」

「だから強引に戻したんですね。」

「積み重ねもなくこういう話で変えるには……なんというか『足りない』とも思ったよ。」

 

 再び返答に少し間が空く。

 

「私は昔兄さんが嫌いだったのは知ってますよね。」

「当然。」

「期待して失望して嫌いになって、辛くなって苦しくなって止まっている時兄さんに救われて、好きになりました。大好きです。」

「あ、はい。」

「でも嫌いだった時もあって、だから私もこれでいいと思います。どんな時期でも兄さんとの事は止めたくないです。」

「わかった。」

 

 二人の向かう先に一軒家が見えてきた。装飾されたモミの木があって、今夜のプレゼントを準備してそうな父さんと母さんのいる、『みんな一緒』の家。渦波は続ける。

 

「心を折られたり嫌いな時はあったけど、僕も陽滝が大好きだ。愛してる。」

 

 

 終わり方は決まりきっている。

 

 

ーー二人は幸せなキスをして終了。




「ただいまー!」
「ただいまです。」

元気な声がその家に響く。

 がたっとか、がさごそと物音がする。二人が靴を脱いでいると玄関と居間の扉が開いた。

「おかえりだ、渦波。」
「おかえり。」

相川父、相川母が朗らかに二人を出迎えた。相川父が渦波に言う。

「陽滝との散歩は楽しめたか、渦波。後メリークリスマスだ、渦波。」

 息子との距離感も掴み、生来の勝利が全てという考えが変わったこの父はちょっとおかしい。もう少し落ち着けば治りそうだが。本編にもっと出演できないものか.…。

「楽しかったよ。メリークリスマス。」
「なら奨めた甲斐はあったな、渦波。それでこの前買った対戦ゲームしようか、渦波。」
「うん!」

と早々にテレビを陣取り電源をいれていた。

「お母さん、なにか手伝う事ないかな?」
「じゃあ、今からチキンを作ろうとおもってるの。そこのそれ取ってくれない?」
「はーい。」

そう言って台所に向かう陽滝は感傷的に呟く。

「湖凪姉にも見せてあげたかったな……。」

 ふと室内のクリスマスツリーを見るとその下の絨毯が盛り上がっているのに気付いた。
それが何なのかは明らかだ。
しかし中身までは今の陽滝では分からない。
その感覚を陽滝は気に入っていた。

 その中身が二人を考えて喜んでくれるように決めてくれた事と自分達がとても喜ぶ結末を信じていた。


 そう、自分の誕生日である事をすっかり忘れていた陽滝がサプライズに驚き泣いてしまうまで後数時間の事でしたとさ。

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