ぐらんぶる secondary creation   作:全て儚き名も無き遠い理想郷

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前回はかなり長くなりましたが今回からは半分くらいの文字数になります。
全部の回がそうってわけではないのでご了承を。
伊織サイドが多くなったり場合もありますが主人公は千秋です。
あと、展開の都合上原作の一部シーンをカットする事がありますのでご了承ください。
それではどうぞ。


第2話 十年

ー千秋sideー

 

「お、戻ってきたな後輩」

 

全裸でジョッキ一杯の酒を飲み終えた寿先輩が伊織を見つけた。

それに続いて時田先輩が声をかける。

 

「片付けお疲れさん」

「とりあえず服を着てください」

 

真顔でツッコミを入れる伊織だが聞き入れるはずがない。

先輩たちにとってこれは最早当たり前のことなのだから。

 

「じゃあ私は伝票整理してるから伊織君の事よろしくね」

「「うーす」」

 

時田先輩と寿先輩が伊織を抱えてサークルメンバーの元へと戻って行く。

伊織は奈々華姉さんに手を伸ばして助けを求めるが奈々華姉さんはニコニコの笑顔でそれを見送った。

 

「そういえば千秋君」

「何?」

「アナちゃんはいつからだっけ?」

「明日のガイダンスが終わったら来るってさ。荷物はまた後日に送るって言ってた」

 

アナとは俺の彼女の名前である。

本名は少し長いのでここでは言わないが、高校時代から付き合ってる彼女で通っている大学は別である。

明日から同じ家に住むことになっているのでその事で話をしていたのだ。

 

「楽しみだね♪」

「…うん」

「照れてるの?」

「ち、違うよ!」

「ふふっ」

「れ、連絡してくるから!」

「はーい♪」

 

奈々華姉さんめ、からかって楽しんでるな…。

…まあ、嬉しいのは事実だけどさ。

気恥ずかしくなった俺は店の外に出た。

 

 

 

ー伊織sideー

 

「さあ、今日はお前の歓迎会だ!」

 

ドンッ!と俺の前に出されたのは大量の酒。

 

「思いっきり飲んでくれ」

「ちょっ、待ってください!」

 

色々問題があるだろ!

第一に俺はまだ未成年だから!未成年はお酒を飲んだらいけないって法律があるだろ!

先輩たちはまだ理解ができる。四月から三年なのだから二十歳の人もいるだろう。だが俺はまだ二十歳じゃないんだ。

 

「俺はサークルに入る気ないですし、そもそも未………」

「それ以上は言うな後輩」

 

さっきとはガラリと変わった形相で俺の言葉を遮る寿先輩。

 

「へ?」

「俺はお前の年齢を聞いていない、お前も自分の年齢を言っていない。それで皆が幸せになれる。わかるな?」

「わかりませんよ!」

 

わかってたまるか!

要するにそんな事は気にすることではないと言いたいだけろうが!

 

「いいですか?俺はまだ………」

「言わせるものか!」

「ゴボォッ!」

 

ブンッ!と時田先輩が投擲した酒瓶が俺の口に突き刺さるようにして俺の口に放り込まれた。

突然飲み物を口に放り込まれたので思わず酒瓶の中身を飲んでしまった。

ゲホッゲホッと咳き込みながら先輩に向かって叫ぶ。

 

「何するんですか!思いっきり飲んじゃいましたよ!?」

 

未成年なのに、と心の中で付け加える。

それを口にしたらさっきの二の舞になるのはわかっていたから。

 

「いいか後輩、いや伊織」

「なんですかっ!」

「聞いているとお前は食わず嫌いが多いように思える。アレは俺に合わない、アレは俺の領分じゃないと」

「べ、別にそんな事…」

 

的を得ている部分があるので否定しづらい。

さっき寿先輩に言われたこともあるからな…。

 

「あるだろう?やった事がないのに文句を言っているんだから」

「それは良くないな後輩。やった事もないのに全裸で公道を走るのは良くないなどと」

「それはこっちが正しくないですか!?」

 

食わず嫌いの事は理解ができた。

だが全裸で公道を走ることに関しては理解ができん!できるわけがない!

公道を全裸で走る事は法律に触れるだろ!?公然わいせつ罪に引っかかるだろうが!

そんな俺を無視して先輩たちは続ける。

 

「とりあえずコレを飲んで野球拳から始めてみるべきだろう」

「そうだな何事も経験だ」

「必要のない経験を押しつけられてますよね!?」

 

全裸で公道を走る経験は必要だろうか?

否、必要ない!必要であるはずがない!必要であっていいはずがない!

野球拳は……、まあ、うん!必要かな!

 

「バカを言うな。世の中に無駄な経験なんてものは存在しない」

「騙されたと思ってやってみようぜ?な?」

「断固拒否します!」

 

警察のご厄介になる経験が必要と言っているのかこの二人は!

 

「そこをなんとか」

「減るもんじゃないし」

「いいえ、やりません!」

 

俺は決めたんだ!

 

「俺は先輩方みたいなノリには絶対に染まりませんから!」

 

 

 

ー千秋sideー

 

『それじゃあまた明日』

「うん、また明日」

 

アナと電話を終えたので中に戻るかと思い壁にもたれていた体を起こすとちょうど千紗姉さんが帰ってくるのが見えた。

 

「あ、千紗姉さんおかえり」

「千秋、待っててくれたの?」

「アナと電話してただけ」

「明日からだっけ?」

「うん」

「そういえば今日からは伊織があるんだっけ?」

「うん。もう中にいるよ」

 

帰って来たのは双子の姉の千紗姉さん。

千紗姉さんも俺や伊織と同じ伊豆大で学科は伊織と同じ機械工学科だったはずだ。

 

「いくら従兄弟だからって年の近い男と一緒に暮らすなんて…」

「俺とアナはどうなるのさ」

「二人は付き合ってるからいいじゃん」

「まあね」

「…十年ぶりか」

「うん…」

 

そんな感じで話しながら店の中に戻ろうとするが、中から聞こえてくる叫び声に千紗姉さんは戸惑ったのか扉を開ける手を一度止めがすぐに扉を開けた。

扉を開けて広がっていた光景は………。

 

「だっしゃあーっ!ナンボのもんじゃい!」

 

どおおおおお!といつものように盛り上がった雰囲気の中に一人新人がいた。

ビールが入っていたであろうジョッキを二つ掲げた伊織がパンイチの姿でそこに立っていた。

 

「ヒューッ!やるじゃねえか伊織!」

「三人抜きたぁ恐れ入ったぜ!」

 

伊織の足元には空の酒瓶が数本、空のビールの缶が数個。

それに加えての伊織の対戦相手だったと思われるサークルの先輩の一人が四つん這いで倒れている。

それに加えての時田先輩と寿先輩の発言。

つまり似たような勝負を三回やって三回勝ったという事になる。

 

「早く負けて俺のご立派様をお披露目したいです!」

「よく言うぜ!どうせ爪楊枝だろ!?」

「負かして確認してやろうじゃねえか!」

 

うおおー!とさらに盛り上がる〈PaB〉のメンバー+伊織。

 

「……」

 

伊織の変わり果てた衝撃の光景に無表情になる千紗姉さん。

常に無表情なのだが今の表情はゴミを見るような目だ。

あれだ、養豚場の豚を見るような目ってやつ。ジョジョ第二部でリサリサ先生がジョセフにしてたやつ。下手したらそれより酷いぐらいのやつ。

 

「お前、変わりすぎだろ…」

 

思わず俺も目に手を当ててしまう。

ちょっと待て、奈々華姉さんと一緒に店の中に入った時には男子校のノリから距離を置きたいとか言ってたよな?

なあ伊織?

あの言葉は嘘だったのか?

そんな伊織は千紗姉さんと俺の存在に気づかない。

 

「いいでしょう!何人かかってこようとも俺のパンツは………」

「あ、千紗ちゃんと千秋君おかえりなさい」

「「…ただいま」」

 

奈々華姉さんのおかえりの言葉で俺と千紗姉さんは現実に戻った。

そして千紗姉さんがいると認識した伊織は驚愕の表情を見せる。

そんな伊織を千紗姉さんはゴミを見るような目で睨みつける。

 

「……」

「……」

 

静寂の空間が伊織と千紗姉さんの間に出来る。

コホン!とそんな静寂を先に破ったのは伊織の方だった。

 

「よ、よう。久しぶりだな千紗。俺のこと覚えてるか?これから同じ学校の仲間になるわけだし仲良く………」

 

千紗姉さんの肩に伊織の手が置かれると同時に伊織の手を千紗姉さんの手がパシッ!と払い除けた。

伊織はえ?みたいな表情を浮かべる。

だが千紗姉さんは伊織の手の置かれた上着の部分をゴミが付いたような目つきで暫し見つめると、

 

「お姉ちゃん、これもう捨てないとダメみたい」

 

そう言って上着を脱いで奈々華姉さんに渡した。

 

「汚れてないよ!?お前が思うほど俺はまだ汚れてないんだよ!?」

 

千紗姉さんに手を伸ばしてそう叫ぶ伊織。

十分に汚れきってるだろ。言い逃れは無理だろ。

 

「…伊織がこんな頭の悪い人間になってるとは思ってなかった」

 

トドメを刺すように千紗姉さんは伊織にゴミを見る目を向けながら言う。

だが伊織は変に諦めが悪い。

 

「違うんだ!俺のこの姿は本意ではない!」

 

伊織が手を伸ばしてそう叫ぶが千紗姉さんには届かない。

 

「じゃ、さようならゴミク……虫けら」

「話を!話を聞いてくれ!」

 

それだけ言うとスタスタと部屋に戻っていく千紗姉さん。

千紗姉さん、そこまで言ったんなら言い切っても良かったと思うよ。

伊織、多分今のお前が何を言ったところで評価は変わらないさ。

 

「うああああ…なんでこんな事に……」

 

顔に手を当てて絶望している伊織を無視して俺も部屋の中に戻ろうとする。

 

「待ってくれ千秋」

 

伊織は何故か俺を呼び止めた。

 

「…何か用か?変態」

「俺は断じて変態じゃない!」

「いや今の自分の格好わかって言ってるのか?」

「そんな事は今は問題じゃない!」

 

問題だろ。

 

「お前から千紗になんとか言ってくれ!俺は変態じゃないと説得してくれ!」

「嫌だ」

「お前は俺の仲間だろ!?」

 

ガシッと俺の肩を掴んでそう言ってくる伊織。

ふむ、千紗姉さんの気持ちが身をもってよーく理解できた。

パシッ!と伊織の手を払い除けて奈々華姉さんのところに向かう。

 

「奈々華姉さん、消毒液ってある?」

「だから俺は汚れてないんだよ!?」

「ちょっとしたのでいいから」

「無視!?」

 

汚れてないなどと戯言を叫ぶ伊織を無視する。

奈々華姉さんはわかったと一言言うとカウンターの奥に行き、すぐに戻ってきた。

 

「はい、消毒液とハンカチ」

「ありがと」

 

ハンカチに少しだけ消毒液をつけて伊織の手が触れた部分を拭く。

 

「ありがと、じゃあ部屋に戻ってるね」

「うん」

「待ってくれ!頼むから待って!」

 

伊織の叫びを無視して俺は部屋に戻った。

 

 

 

ー伊織sideー

 

千紗と千秋の二人に立て続けで汚物のように扱われた俺は心が折れそうだった。

 

「なんで…なんでこんな事に…」

「そうか伊織は千紗ちゃんと千秋君とも知り合いなんだよな。奈々華さんと従姉妹なわけだし」

「贅沢者だな。親元を離れて海の見える部屋に引っ越し、同じ家には美人の従姉妹、最高のシチュエーションじゃないか」

 

そんな楽観的な感想を述べる寿先輩と時田先輩。

 

「たった今汚物のように扱われたばっかりですけどね」

 

千紗は俺を虫けら扱い、千秋は俺を変態扱い。

千紗に至ってはゴミクズと言いかけていたし…。

でも、俺にはまだ希望がある。

 

「でもいいんです。同じ家には奈々華さんがいるんですから。それだけで俺は満足です」

 

涙を流しながら俺はブツブツと希望を語る。

 

「ああ、それは諦めろ伊織。彼女は絶対にお前になびかない」

「む…、どういう意味ですか?」

 

時田先輩がそれは諦めろと俺の希望を否定する。

どういう意味かわからないので聞いてみると時田先輩は奈々華さんの方を見ながら答えてくれた。

 

「いやな…、奈々華さんは隠してるつもりだろうし。実際、当事者達にだけはバレちゃいないんだが………」

 

時田先輩の視線の方を見ると千紗の上着を持ちながらキョロキョロと周囲を見回す奈々華さんの姿があった。

見回し終えると千紗の来ていた上着暫しの間見つめるとボフッと顔を沈めて、

 

「はあああ……」

 

心の底から幸せそうな表情を浮かべた。

それだけでかなり衝撃の光景なのだが千紗の上着をカウンターに置くと今度は千秋の使った消毒液のついたハンカチを水洗いして水を絞ると再びキョロキョロと周囲を見回してハンカチを頬に当てて、

 

「はあああ…」

 

再び心の底から幸せそうな表情を浮かべた。

 

「あの人、重度のシスコンでブラコンなんだ」

「この十年であの人に何があったんだ!!?」

 

膝をついて絶叫してしまう。

あんまりだ!奈々華さんだけは、奈々華さんだけは信じていたのに!

 

「あんまりだ…今日会った人の中で唯一の癒しが…」

「気にするな。バラ色の家庭環境なんて手に入らないのが普通なんだからな」

 

そうだな、確かにそうだな。

時田先輩の言葉で俺は目が覚めた気がする。

 

「まあ確かにそうですね。家の中にドラマなんて求めちゃいけませんよね」

「そうそう」

「それならその分大学生活で頑張ります!可愛い女の子と知り合って、恋愛したり、仲の良い友達と青春したり!」

「おお、燃えてるな」

「無論です!憧れの大学生になったんですから!俺は絶対にドラマのような最高のキャンパスライフを送るんです!」

 

そうさ。俺の目的は家の中にロマンを求めることじゃない。

ドラマのような最高のキャンパスライフを送ることなんだ!

 

「そうか、まあ戯言はいいから飲め飲め」

「アンタ今、俺の宿願を戯言って言いませんでしたか?」

「ん〜〜?楽な授業を教えて欲しいって?」

 

その言葉を聞いて俺はすぐに土下座をした。

そんな事をおっしゃる先輩にはそれ相応の態度を見せねばならない!

 

「宜しくお願いします先輩」

「うむ、わかりやすくて良いなお前は」

 

この後、先輩達に連れられて明日が初日のガイダンスなのにも関わらずめちゃくちゃ飲んだ。

 

 

 

ー千秋sideー

 

今日はいよいよ初日のガイダンス。

そして憧れの大学生活の始まりの日だ。

柄にもなくいつもより早く起きてしまったが後悔はしてない。

講堂に続く門の前で一息吐いて、記念すべき一歩を踏み出そうとした時だった。

 

「ん?」

 

何やら人混みができているのが見える。

何だろうかと思い人混みの前の方へと向かう。

そこには、

 

「アンタはバカかあああーっ!!!」

 

パンイチの伊織と〈PaB〉のメンバーがいた。

…おい、嘘だろ。

 

「ああああ!チクショー!!」

 

伊織が頭を抱えて絶叫している光景を尻目に俺はその場を立ち去った。

…俺は何も見てない、俺は何も見てない。

…パンイチの従兄弟なんて見てない、見てないよ。

 

「あ、千秋。早かったね」

「うん。柄にもなくワクワクしちゃってさ」

「そっか。また後でね」

「うん」

「あ、今日ってさアナさんが来るんだよね?」

「うん」

「そっか。それで、あれは?」

「あれって?」

「あの集団は?」

「あれは……」

 

千紗姉さんはどうやらあれをまだ見てないようだ。

今ここで伝えるべきなのだろうか、伝えないべきなのだろうか。

数秒悩んだ俺は、

 

「見ない方がいいよ…」

 

そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

「「絶対に嫌(だ)」」

「だからお前の着ている物をくれないか?」

「半裸の変態が着ている物をよこせと迫ってきていて」

「待ったぁーッ!!!」

「謀ったな貴様ぁーーッ!?」

「火がつく時点でそれはもう大部分がアルコールだ!」

「千秋君はどうする?」

「やってみようかな…」

第3話 新歓コンパ

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