彼が目覚めたのは寒い寒い夜も更けた星空の事。何だか身体が気持ち悪かった。
段々体の感覚が接続されてくると、口元と手がおかしい。それが恋人つなぎとキスの感触と思い出した頃には彼の伽藍堂の瞳が見開かれる。
目に写るのは大きな傷と白い肌、瞑られた大きな瞳。髪の灰鼠色でその予想外の正体を思い出す――――――どうしようもなく、UMP45だ。
「――――――ッ!?」
途端に覚醒するなり、彼は肩を押しのけようとしたが手付きが止まる。それにつられて目を開いた45が、それでも止まらなかった奇妙さ故だ。
黄金の瞳に自分が映り込むのを眺めながら、それが妙に揺れているのに既視感。思い出す限り、AR15と同じ匂いを彼は感じてしまっていた。
どんどん青ざめるような45の表情と裏腹に、織り込まれた指が力強くなる。何となく舌まで蠢いていた気がしたが、流石に彼もそれは拒否する。声を出すなら「TPOを弁えないと却下」とでも答えるだろう。
かなりの時間が経って、ゆっくりと唇が離される。途中から彼女は顔を逸らして気まずそうだ。
「…………どういう流れなんだコレ」
「ごめんね」
「いや謝れってんじゃなくて」
「軽蔑しただろうし」
彼に対してと言うより自分に吐き捨てるように45が呟くと、そのまま外へ走ろうとするのを彼は手を引っ張って止める。
「うーんストップ、流石にな」
「今のは謝るから、取り敢えず一人にして欲しいな」
――多分な、一番ワースな回答なんだわそれは。
ボソリと呟くと彼は立ち上がる。
ぼんやりと星を見る。顔を合わせられないから星に逃げたのか、元々空が好きだったから空に頼っているのかは彼自身がもうあまり思い出せない所。
固まっていた空気に彼が楔を打つ。
「俺な、一等星が好きなやつニワカだと思うのよ」
「…………ニワカ?」
「そうだ。ミーハー、だって何時でも見れるものなんてわざわざ好きになってどうすんの? お前ロミジュリを読んだこと有るならすぐ会えちゃうような恋愛許せねえだろっていう」
何の話かさっぱりだったが、45は力なくふーんと答えた。
45が何気なく足元に手を着こうとすると、夜中に吹き荒れていた吹雪の名残か雪に当たる。無視して沈み込ませると結構深くて、予想よりちょっと不格好な手の付き方になった。
彼女の気が逸れているのを知ってか知らずか、彼は淡々と話を続ける。
「それでさ、一等星好きだって言った知り合いにニワカだニワカって言ったこと有るんだけど」
「うわ、ソレ凄い押し付けがましいよね」
「ソレを言うな」
全くそのとおりだと思っているフシが有るから彼も苦い顔をする。
伽藍堂と黄金色。二つに映る星空は似ているようでまるで似つかない、伽藍堂の方は目が輝いていて、黄金色のほうがむしろ景色がくすんで見える。
さて、と話を切り替えたつもりで話が流れていく。
「そしたらお前アホだなーって言われてさ」
「私も概ね同意」
「何と!? いやそんな話じゃなくて、その時ソイツが言った言葉が印象的でなあってオチを話させてくれます?」
ヤケに素直にタネ明かしをしたのにつまらない気分になりつつ、好きにすればと素っ気なく答えた。
素っ気なさなど無かったように彼の口調が重々しく、弾む。矛盾している。
「いや、「いつも見えてるからって誰も好きじゃなくなったらさ、マイナーCPが公式CPより圧倒的に人気出るとかいう原作レイプじゃん」って答えたんだよ」
「え、何の話」
「まあ待て。此処まではオタ話だ、与太話のヲタ話」
巧いこと言ったつもりなのか、と45が冷たい視線を浴びせるが彼は実際得意げだった。しかも45を見てもその自信は全く揺らいでいないと見える、もう彼女にはお手上げだ。末期である。
ようやくオチらしいオチが添えられた。
「今、ちょうどそういう感じなんだなあって」
「どういう事、私は公式CPなの? 自分でも何言ってるか分かんなくなるんだけど」
「そうそう、お前は公式CP」
意味不明な文章に彼が一人でに笑いだした。元気なものだと45はちょっと呆れている。
このままだと一種罵倒の類か何かだと思われる現実にようやく思い当たったのだろう、彼は違う違うとニヤける顔を振って真面目な表情をした。
反則じみた凛々しい面構えに面食らってしまう。
「実はだな、45がもしやすると俺を好きなんじゃないのかな~ってのは気づいていたわけだ」
「何それ。酷い話」
「いや全くなあ? 転がり方が最悪だ」
ケタケタと笑う。率直に言うと彼女はとても不快だった、理由は分からない。間違いないのは、此処まで明確に「人間を」嫌悪することには、自分の正体へ思いを馳せざるを得ないことだけ。
眉をひそめた45を見るなり、目を丸くした彼はそっと頭に手を乗せる。
「悪かった。先に答えておく、ノーだ」
――まあ、前にもそう答えてるし?
義理堅くもないくせにあの桃色の後頭を思い出すと、彼は小さく頷いた。
わしゃわしゃと乱暴に撫でるのの45は不満そうだったが、手を払い除けたりはしない。ソレに関しては、お互いに最初から見えてる結論だっただろう。
「そう。まあ、分かってたけどね」
「…………物分かり良いなあ、俺はお前みたいなタイプ苦手」
「えーっと、もうこれ以上カッコつけるの辛いから此処までなんだが――――――――辛かったら泣いていい」
フッと。45の中で何かが千切れる音がした、良くない結び目を手で千切ってしまったような、ちょっと無理のある音。
「嫌なら嫌でいい、怒ってるなら怒ればいい、何でわざわざ言わなきゃお前は出来ないんだ? 俺は自由第一主義だから分からないんだが、これはちゃんとしようぜ?」
ぶちぶちと、音を立てて千切れていく。45の視界が曇った。
――反則。やっぱり貴方は反則ばっかりなんだ、何でこんな人。
笑ってるのか泣いているのか分からない顔になる。前とは違う、それは開放されたようなちょっとした高揚感の伴った苦痛じゃない表情。
彼はその顔を見て困った表情で頭を掻く。
「あー、うーん、えっと――――――もうよく分かんないわ。悪い」
取り敢えず。そんな調子で45の背中に手を回すと、柔らかく抱き締める。
「もっと気の利いたやり方有るんだろうけど、俺は虐待された身でだな。辛かった時にやって欲しかったことって言えば、これだ。うん」
彼はそもそも転生者であるのは事実だろうが、もう此処での記憶以外というのは薄れて掠れて読めない本みたいなものだ。愛情は特に分からない、与えられなかった時間が長すぎた。
動物でも分かる肉体的な愛情表現しか、彼にはマトモな手立てが思いつかない。
原始的であることがどれだけ直接的かも、もうあまり分かっていない。
45が顔を隠すように彼の右肩に顔を埋めた。
「よし、言いたいこと全部言え。もうな、俺に死ねとか言っても良い――――――お前にそれだけのことをした可能性もある」
「好き」
「ああ」
「匂いも、言葉も、表情も、手が届かないところも好き」
「ああ」
「独り占めしたい」
「ああ」
「私ともっと喋って欲しい」
「ああ」
「もっと知らないことを教えて欲しい」
「ああ」
「G11と楽しそうに喋ってるのも好き」
「ああ?」
「9ももっと相手してあげて欲しい」
「ええ?」
「416の息抜きもしてあげて欲しい」
「んん?」
「だから、好きだったことにしたい!」
知らない間に嗚咽混じりだった声が消えると、顔をふいに上げて涙を堪えてメチャクチャになった顔で彼を睨むように見つめる。
――そして、また涙を掬って顔を埋めた。
「でも、やっぱりまだ好き」
「そうか、じゃあ精々頑張れ。大事なのはな、取り敢えずお前が今誰かにちゃんと吐き出せた所だ。我儘でいいぞ、人間も人形もそんなもんだ」
正直な所、彼は異性が好きだとか嫌いだとか言われてもあまり分からない。こんな生活をするぐらいの変人な以上は当然というか、まあ妥当な話だ。
だが人が辛い、楽しい、怒っているぐらいなら分かるし。最低限の共感ぐらいは出来る。
他のやり方は分からないから、彼は非常に中途半端にこういう事ばかりしているが――――――一周回って、それが彼女達に好かれた理由なのだろう。
W月Y日 忙しない雪
今日は疲れたので特に書くことはないのだが、人間より人形の方が感情豊かで大変そうだなあとは何となく思った。
時間も近い、尾けてきてる趣味の悪い奴をそろそろ釣り上げようじゃねえか。
全く、何時になったら親の遺恨は消えてくれるのかねえ。鬱陶しいこった。
タイトル回収に真面目な作品だと常々思うなあ。
女が感情とか滅茶苦茶に吐き出す感じのやつ大好きなんだよなあ…………。
あ、多分後5話ぐらいで本編完結ね。一個ずつちゃんと終わらせられればよかったんだが。
そもそも45姉が発狂しかけたりする予定なかったしこの回とか割と大真面目に突然生えてきたから、やっぱ俺自身が重い男なんだなあとふと。