世界は愛で満ちている   作:杜甫kuresu

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弱者が強者に勝つ方法は幾つか存在しますが、うち一つ。
『勝ち目がない方法で挑む』というものがあります。

何故って、勝ち目が無いことをするなんて想定する強者は中々居ないからです。強すぎる故に、人形なら殊更に強さによる怠慢が滲む。
そういうものだと思います。


箒星は駆け抜けて【後編】

 俺はもう死んだんだろうか。天国はだいぶ肌寒いらしい、早めに暖房とかをつけるべきだと切に感じる。死んだだけでもお先真っ暗で不安な人間にこの寒さばかりは堪える。心だって凍えてしまうだろう。

 

 背中が痛すぎる。何処かで読むであろう一般読者には描写できない可能性は多分にある、死んだ後くらい元気な姿で神様と会うなり閻魔様に怒鳴られるなりしたいのだが、まあ痛いのでどうしようもない。

――でも、痛いだけで済むか?

 

 よくよく考えたら、胸のあたりだけ暖かい。

 死んで、なさそうだな。

 

「うっ…………ケホッ、ゴホッ!」

「起きたかしら!?」

「かあ、さん?」

「違うわよこの馬鹿!」

 

 違うらしい、じゃあ416だな。多分。

 ズシャリズシャリと雪を踏んで走る足音と、何だか銃声も聞こえてくる。少し遠い、俺が揺れてるってことは、アレか。俺を背負ってやってるのか。

 

 それは申し訳ねえな。

 

「おろ、せ」

「頭でもイカれたの、却下よ却下」

 

 これは俺が勝手にやって、俺が勝手に野垂れ死ぬ事案だ。俺は誰の縛りも受けない代わりに、誰の助けも得られない人生を選んだ。

 都合が良すぎる。手間をかけるには安くて、あんまりにも非人道的な男だ。

 

「やめとけ、損するぜ」

「アンタが死んだ方が私達は損するのよ、もう黙ってなさい役立たず!」

 

 はっ。凄い言われよう、よっぽど余裕が無いらしい。

 通信に416が答えてるのが少しだけ分かる。

 

「ウソ!? もうダミー切れそうって、手は抜いてないでしょうね!」

「あー分かったわよ、すぐ行く! 後ろのお荷物が居るから前には出過ぎれないわ、G11! 危険だったらアンタ盾にするからそのつもりで居なさい!」

 

 成る程…………。そうか、行けそうだ。だがもう一個、何か。

 

 欠けたピースの在処を探しながら辛うじて動く首で後ろを向く。もう左目しか見えない、機械だから無理やり映像を送ってきてるんだろうな、自動ブレ補正も有って何とか景色は見える。

 

 

 

 

 

 一瞬、遠くで何かが光っていた。見覚えがある、いつも親父が俺に見せてた射撃の光に。

――そっか。小説かよ、俺の人生は。

 

「…………ははっ。そうか、神様は飴と鞭が巧いもんだな」

 

 そーやってすぐ、俺にチャンスを残していく。憎たらしいな。

 じゃあ、やるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバイ、そろそろ押し負けるよ!」

 

 G11が激しい射撃音混じりの通信で叫ぶ。定点射撃を崖上から努めていたようだが、流石にダミーが品切れとあっては走りながら撃ち逃げざるを得ない。

 

 傍聴していた人形が、少しだけ思案する。

――代理人の機銃は数、レート、共に暴力的。頑丈なのもあってただ押し勝つのは不可能ですね。

 それに加えてお荷物1名と来ては苦戦するのも致し方ない。恐らくこうなることを見越して自分をこんな極秘任務につけていたのだろう、と彼女は得心行きつつ苦笑い。

 

「45姉、スモーク残り2つ!」

「あたし一応3つ!」

「私はもう無いからしっかり考えて使って! 瞬間的なタイミングが重要だから各自に任せるよ!」

 

 かなり酷い状況だ。そもそもあの掃射の速度ではグレネード関連がほぼ機能しておらず、むしろ投げ続けて漸く五分かという惨状なくらいなのでどうしようもない事だった。

 マガジンの入れ替えもほぼしていない辺り、まさしくハイエンド。代理人というコードは伊達ではない。

 

 数を活かして全方位からの射撃を試みてもあちらのアームの数からして無力。はっきり言って、お互い万全の状況で戦って何とかなるような人形ではないのだろう。

 通信に新しい人形が参加した。

 

「私も出るわよ、ちなみにグレネードとかとっくに切らしてるからアンタ達が全力で私を守りなさい!」

 

 走ってきた416が――――――待て。思わず彼女が絶句する。

 男を背負っている。本当に連れてきたらしい、確かに撤退戦の様相で崖と崖の溝で戦闘している以上は余程距離を取らないと彼が危険なのは分かる。

 

 だが感情論でリスクマネジメントを怠るとは思えなかった。

 とうとう潮時かもしれない、と彼女は口を引き結ぶ。

 

「ほんとに連れてきたの!?」

「策があるの…………ほら行くわよ! 突っ込むから援護して」

 

――嘘ですよね!? 絶対に勝ち目なんて。

 思わず彼女が銃身を構えてスコープを見た瞬間、一瞬だけ彼と目があった。

 

 手を振っている。小さく、明らかに疲労しているのが分かる。それよりもこちらが見える筈のない距離であることに驚くべきだったが、彼の口元が何か喋っているように見えたのに思わず目で追ってしまう。

 明らかにこちらに話しかけている。傍聴まで把握されていたのだろうかと彼女は焦り、少しだけ恐怖する。

 

 読唇するにはこうだ。

 

『撃ちあぐねてるだけなら、近づいたら一瞬だけ時間を稼いでくれ。賭けるしか無い、ミスったら多分俺死ぬんで』

 

――彼、おかしくなってしまったのかしら。

 彼女の頬に冷や汗が流れていく。今回の任務は『いざとなればリンドウ・アマギを救護しグリフィンまで連れ帰ること』だ。ご丁寧にこれまでの期間も全く干渉しない形を取ることで、あらゆる陣営から見て飛び道具になりうる状況を保っていた。

 これも不測の事態で彼を必ず手に入れるために過ぎない。

 

 本人が突っ込むとなれば、彼女は援護せざるを得なくなった。

 

「貴方、随分と悪知恵が働くようですね――――――!」

『ごめんな、付き合ってくれ。Kar98kさん――――かね?』

 

 Kar98kは舌打ちしながら銃を構える、ダミーも総動員だ。

 チャンスは五回。最早彼女までもが追い詰められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の案は単純に無謀だ。とは言うものの、無謀が必ず失敗に繋がってきたかと言うとそれは違う。

 頭を使って怖気づくよりは、読み合いで負けるくらいなら、やはりシンプルさが答えとなってくれる時は沢山ある。俺は逃げる最中、それに関してはいつも強く感じていた。

 

 必ずしも機械的な結論は正解にならない。やっぱり、世の中というのはそういうものだ。理不尽、とでも言い換えるか。

 

「本当に突っ込むの!?」

 

 45が明らかに狼狽した声で聞き返すが、もう俺達は答えない。

 必要なのはランダム性だ。アイツは演算処理能力がとてつもなく高い、それが鉄血の、ハイエンドモデルという名前の強さだ。真っ当に撃ち合いで勝てるなら俺はあの時コイツを殺せていた。

 

 走り寄る俺達に代理人が気づくと、すぐさまに機銃の幾つかを構える。言うまでもなく誰かがスモークを焚くなり発砲、今までのような連続性など考慮しない一斉射撃だ。

 此処で誰かが欠けるといよいよ終わりなのは分かっているから。

 

「死にに来ましたか、死に損ない」

「悪いな代理人――――――」

 

 アイツはこの程度でブレない、ぐちゃぐちゃに歩みよった俺達に的確に機銃を向ける。一個で十分とばかりに一個だけ。

 それがミスだ。

 

 代理人の後ろから弾丸が彼女に飛ぶ。

 

「――――ッ!?」

 

 恐らくあの人形の弾だ。思わず代理人が振り向く、きっと想定外の一撃だ。

 さて、俺はそれで十分だった。ワイヤーで上の枯れ枝に上体だけで飛び乗る時間で十分で、それしか期待もしてなかった。

 

 どうやらダミーをバラけさせていたのだろう、断続的に撃ってきた銃撃に代理人の機銃が少しだけ、少しだけ俺から逸れた。

 だから、今。

 

「貴方、まさか」

「そのまさかって奴だ」

 

 ”俺が真上から飛びかかってくる”なんてアホな想定は、きっと人形は出来ない。

 効率的であることを強いられてきて、効率的であることが正解で、そんなアイツラじゃ分からない。人形は人間のようで、俺は人間と大差ないと思ってしまうが、やはりまだ機械だ。

 

 効率ばかりを求められすぎた。

 落下の勢いでKar98kの先につけたバヨネットを頭に突き刺す。辛うじて動く足でみっともなく腹に絡みついてやった、泥臭いことこの上ない。ちなみにちょっと細すぎて俺は焦った。

 

 頭がいいやつは凄い事だ。俺には真似できない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()? お前らみたいなのを作るくらい、大馬鹿だ。

 頭がいいお前らに嫌われることが思いつかなかった馬鹿が、お前らの思うような戦略なんか練れねえよ。みっともないやり方で勝たせてもらう。

 

「悪いがな」

「人間様はド阿呆しか居ねえんだよッ――――――!」

 

 眉間にバヨネットを力いっぱいぶっ刺しながら引き金を引く。辛うじて俺を狙った機銃が結構当たったらしく、自分の体が地面に落ちる感覚だけ残して意識が消えた。

 

 まあ助けてもらった借りというか、後始末は出来たのでもう良いだろう。地獄の沙汰も金次第というらしいし、借金返済できれば十分だ。




『お、おい普通に終わってないぞ! 前回のかっこつけはどーしてくれる!?』
『ま、まぁ最後まで? お楽しんじゃってくれ、うん。ハッズこれ!』

リンドウの名前は「私自身が子供につけたい名前」なぐらいで、両親は本当に悪い人とだけとも言えません。ただ少し弱かっただけ。
銃も実は両親から教わっていて、銃自体も彼らがいざという時のために家に置いていたものです。

Kar98kは初期案時点でまあ一話冒頭から居ました。伏線がなかったのホント駄目。ごめんね。

勝ち方はいろいろ考えましたが、やはり「人間が勝つ」ならこれだけでしょう。
皆賢いですから。みっともなくて泥臭い、卑怯なやり方でしか人間は絶対に勝てないはずです。
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