――紅葉は好き?
ずっとずっと昔。まだあたしとギンが一緒に暮らしていた頃。まだあたし達は幼くて小さかった頃。あたし達は力もお金もなかったあの頃。ギンといつも二人で身を寄せあって生きてきた小さい頃。
小さい頃からギンはあたしになにも告げずどこかへと消えていく悪い癖があった。時には1日帰って来なかった時もあった。そんな時はあたしがギンの頬をひっぱたいて言うのだ。
「どこに行ってたのよ!!心配…したのよ!何回も、探しに、行ったのよ!」
それを聞いたギンは少し目を見開くと嬉しそうに言うのだ。
「すまんなぁ乱菊。乱菊に心配かけて。もうせえへんから」
何度も約束した。勝手にいなくならないって。だけどいつもギンは約束を破って勝手にどこかへと行ってしまうのだ。
ある日、夢を見た。あたしとギンでずっとこの暮らしをしている楽しい夢。けれどそれもずっと続かずギンがあたしを置いてどこかに行ってしまう夢。とても恐くて目を覚ました時には汗びっしょりで息をするのも忘れてた。それぐらい恐かった。ギンがいない家なんて、人生なんて楽しいと思わないから。
あたしはギンを慌てて探した。あれが本当に夢だったのか、ただの悪夢であって欲しい、そう信じてあたしはギンを探した。
ギンは家にはいなかった。ギンの草履も見当たらなくて外に出ていることがわかった。
――あたし、捨てられた…?
あれは夢じゃなかった、そう思い始めた頃机の上に紙が置いてあるのを見つけた。紙にはギンの字で「散歩してくるわ。心配せんでええよ」と書いてあった。
安心したら頬がいつの間にか濡れてた。ギンに会いたくて仕方がなかった。だからあたしはギンのいそうな場所を転々と探した。
しばらくギンを探した。ギンは中々見つからなかったけど…ようやくギンを見つけた。ギンは大きな紅葉の木を見上げる形で見ていた。あたしはそんなギンの後ろ姿を見て呟く。
「――キレイ」
赤や黄色の紅葉が吹雪となって舞っている。ギンを引きだてる紅葉もギンの後ろ姿もキレイに見えてあたしは見惚れる。目に焼き付けるようにずっと見ていた。
ギンはあたしの気配に気づいたのか振り返った。そしていつもの笑み…いや、いつもよりも優しい笑みで「キレイやな」と言った。あたしも笑って言う。
「ええ。キレイね。紅葉もギンも世界も」
「え、ボクもなん?」
一瞬きょとんとした顔をギンはするとあたしにそう聞いてきた。あたしは笑いながら「ギンもキレイよ」と言った。するとギンはあたしに近づいてきて、あたしの髪の上に乗っていた紅葉をとりあたしの耳に囁く。
「ボクは紅葉よりも世界よりも…乱菊がキレイやと思うで」
「っ~!」
あたしは顔を真っ赤にさせるとギンの足を蹴って家に帰る。
「男にキレイなんて言うからやで?」
「…キレイなものにキレイって言って何が悪いのよ」
「男は“キレイ”よりも“カッコいい”って言われたいのや」
「………あんたは充分カッコいいわよ」
あたしはボソッと本音を呟いてしまう。無意識に呟いていたのでギンの「え、なんやて?」と言う声でハッとする。
ギンは本気で聞こえていなかったようで「さっきなんて言ったんや」と横でうるさい。
「早く帰りましょ。お腹すいたわ」
「も~教えてくれてもええやん」
「……ヒミツ」
――これがギンと紅葉を見た最初で最後の記憶
――紅葉は好きよ?
だって
――ギンが一段とカッコよく見えるから