「ただいまー。似ーちゃん。お腹空いたからご飯作って一緒に食べよ!」
僕には、お姉ちゃんがいた。年が4つほど離れていて、しっかり者の。
「お風呂洗ってくれてたの?ありがとう!今日は特性カレーだよ!いっぱい食べてね!」
僕、いや僕たちに親はいなかった。お姉ちゃんだけが唯一の家族だった。けれど、寂しくはなかった。だって、優しくてとっても強い、お姉ちゃんがいたから。親がいないことを理由に同じくらいの子にいじめられていた時は、お姉ちゃんがすぐにやってきて懲らしめてくれた。
「はい、おまたせ。今日は給料日だったから、鶏肉じゃなくて牛肉を入れてみました。えっ、お仕事?今日は大丈夫だったよ。
お姉ちゃんは艦娘(かんむす)だった。海から突然現れた深海棲艦から、人々を守るヒーロー。1年前、お姉ちゃんに艦娘としての適性があることが分かり、駆逐艦「望月」として近くの鎮守府という場所で働くことになった。艦娘としての「望月」は、怠け者でマイペースだというが、お姉ちゃんは全然違った。誰よりも訓練を行い、海では誰よりも深海棲艦を倒し、又資源を多く持って帰るのだという。その功績と僕への配慮から、非常時以外はこうして家から鎮守府に通うことが許されている。
「もうすぐ大きな作戦があるんだって。これが終わったら、似ーちゃんとちゃんと暮らせるようになるから、私も頑張らなくちゃ。あっ、心配しないで。私は似-ちゃんのずっとそばにいるから。」
僕にないものを沢山持っているお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんが憧れで、そして大好きだった。」
「うん。お姉ちゃん、ずっと一緒だよ!」
翌日、お姉ちゃんは笑顔で家を出て行った。それが、僕が見た最後の姿だった。
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3か月後、艦娘と深海棲艦の戦いは、艦娘の勝利で終わった。けれど、お姉ちゃんは帰ってこなかった。
さらに1年後、お姉ちゃんが返ってきた。焼け焦げた艤装の残骸と、黒ずんだ眼鏡として。僕は大声を上げて泣いた。それからのことは、よく覚えていない。
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「・・・君。磯積似仁君!」
「は、はい。」
自分の名前を大声で呼ばれ、顔を上げる。正面に、少しおどおどとしている女性がいる。自分の名前を呼ばれる機会があっただろうかと少し考え、ようやくここが高校の教室であること、そして今が入学式後のHRの時間であることを思い出した。
「えっと、今自己紹介をしていて、『あ』が終わって次が『い』の磯積君なんだよね。だからね、じ、自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
今こうして僕に話しかけている女性は、1年1組副担任の山田真耶先生だ。
「分かりました。」そう言って、席を立つ。入学式後の、顔合わせのためのHR。そして自己紹介。日本全国津々浦々、どの高校でも行われている風景だ。
けれど、この教室、いやこのIS学園は他の高校とは一線を画す。この高校には、男性は僕以外他に誰もいない。生徒も、教員も、職員も皆女性だ。
教室の中を見やると、クラスメイトとなる女子の視線が容赦なく僕に突き刺さる。男性という存在があってはならないこの学園で、彼女たちの目は何か別の生物を見るような、分かりやすく例えるならば動物園のパンダを興味津々に見るようなものだった。
「初めまして。磯積似仁(いそつみ にひと)です。これから一年間、宜しくお願いします。」無難に挨拶をして、席に着く。
直後、教室全体がざわざわとし始める。『なんで男の人がここにいるの?』『何か他に喋ることは無いの?』『男の子だけど、何か中性的な感じ』etc・・・前2つはともかく、最後のは気にしてるんだからそっとしてほしい。次第に収拾がつかなくなり、山田先生がおろおろし始めるとーーー
「静かにしろッ!授業中だ!」喝が教壇から降ってくる。そこには黒いスーツを着た、目つきの鋭い女性。彼女の一言で、教室が途端に静まり返る。
「・・・ったく、諸君。私が1年1組担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になるIS操縦者に育てるのが仕事だ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな。」
IS、『インフィニット・ストラトス』とは、宇宙空間での行動を想定して作られたマルチフォームスーツ、あるいはパワードスーツである。もっとも、現在では艦娘の技術が応用され、武器ととしての転用がなされている。もっとも、ISには技術的な欠陥があり女性しか装着できないことだ。ここIS学園はIS操縦者を育成するための訓練学校であり、当然ながら生徒は皆女性である。何故男の僕がこの学園の生徒としているのか。話せば長くなるので3行でまとめると、
高校入試の受験会場を間違えた。
試験官が僕を女性と間違え、試験用のISに触れさせる。なぜか起動する。
直ちに拘束され、解放されたときにはすでに学園の入学手続が済まされていた(家に帰ると制服や書類一式)。
以上である。
「HRは終わりだ。早速だがこれより講義に入る。教科書の124頁を開けろ。」どうやら自己紹介は終わったらしい。早く顔と名前を一致させなければ。
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二時間目の授業が終わり、机に思わず突っ伏す。ISの基礎知識及び行動理論について授業が行われていたが、全く意味が分からない。事前に資料が配られていたが、六法全書よろしく、とてつもなく分厚いボリュームに圧倒され、43ページで断念した。(なお全部で2000頁強)ここに入学してくる女子は皆IS操縦の為の学習と訓練を受けてきており、入学試験の倍率も途轍もない程である。一方、僕は一か月前まで普通の中学生として生活し、当然ながらISについては名前しか知らなかった。僕と他の女子とでは、知識・技術の差は月とスッポンだ。
「ちょっと、よろしくて?」
自分の馬鹿さ加減に軽く鬱になっていると、いかにも英国育ちの女の子が声をかけてきた。お姉さんが昔言っていた、金剛さんとは違ったような。あの人はフレンドリーな人だったらしいが、この子はどこか高貴な、それでいて近寄りがたいオーラを醸し出している。
「訊いてます?」
「ああ、ごめん。で、何かな?」
「まあ!なんですの、そのお返事は。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相当の態度というものがあるんではないかしら?」
・・・・。だったら敬語を使えばいいのか。同学年なのに。確か、セシリアという人だったか。彼女は前の時間、織斑先生に当てられてスラスラと答えていた。僕も当てられたが・・・・まあ察して頂きたい。
「大体貴方、ISについて何も知らない癖に、よくこの学園に入れましたわね。男性がISを操縦できると聞いて、少しくらい知的さを感じさせるかをと思ってましたけど、期待外れですわ。」
「期待外れで、悪かった」
「ふん。まあ、私は優秀ですから、貴方のような人間にも優しくしてあげますわよ。その、
「おい、その言葉取り消せよ。」「えっ、何を・・・・」
「取り消せっつってんだよ!!!!」
瞬間、握りしめた右の拳を机に叩きつける。ゴンッという鈍い音。すんでのところでセシリアにこれを振るうことは止められた。どんなに頭に血が上っても、それは駄目だ。
「これは姉さんが遺した唯一の眼鏡なんだ。それを馬鹿にすることは、絶対に許さない。」低く、けれど憤怒の籠もった声。
「そ、そうですか。随分はしたないことをしましたわ。」セシリアが申し訳なさそうに言う。
キーンコーンカーンコーン。始業のベルが鳴る。教室が少々気まずいことになってしまった。
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「はぁ、はぁ、ぜぇーッ。」
「やっぱり、大したことないですわね。磯積さん。」
第三アリーナ。ここで、僕とセシリアはISを装着して模擬戦を行っている。クラス対抗戦の代表を決めるための試合だ。最初、他の女子が、唯一の男子ということで僕を推薦してくれたが、それに納得のいかないセシリアが自薦した。結局、この模擬戦の勝者が代表者、ということになった。
そして、その模擬戦は、というと、もはや勝負とは言えない代物だった。彼女のIS,『ブルー・ティアーズ』は、レーザーライフルやミサイルを搭載した、最新鋭のISだ。彼女のISは専用機と呼ばれるものらしく、その性能は今僕が操縦している打鉄よりも一回りも二回りも上回る。その上、技量面でも僕を上回るから、もうどうしようもない。セシリアの攻撃にISのシールドエネルギーは容赦なく削られ、残量は50を切っていた。あと一発当たれば、0になるだろう。
最初あれだけ賑わっていたギャラリーも、今では誰もいない。管制部に織斑先生と山田先生の姿が見えるだけだ。
「これでフィナーレですわ。一撃で仕留めてあげます。」そう言って、セシリアがライフルを構える。その表情は、生まれたての子犬を憐れむようなものだった。
ここで、負けるのか。悔しい。姉さんを馬鹿にしたあいつに。
負けたくない。でも力がない。憧れだったあの人は、もういない。
レーザーがライフルから解き放たれ、思わず目を瞑りーーーーーーー
刹那、世界が灰色に静止した。
《ニーチャンハワタシガマモッテアゲル。ダッテワタシハオネエチャンダモン。ソウネ、イマハアノオンナガジャマ。アイツニハ、
懐かしく、けれどどこか冷たい声がしたと当時に、僕の意識は暗転した。
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レーザーが目標に直撃した。いや、直撃したはずだった。けれど磯積はまだ立っている。いや、あれは磯積なのか?
白く、綱のように絡み合った長髪を掲げ、頭には黒い眼鏡、そしてヘッドフォンのようなものをしている。彼は元々黒髪だったから、この時点でおかしい。いや、それ以上におかしいものがある。黒く、髑髏の塊のようなものを両手に持ち、その背後には黒い角の生えた不気味な生物が漂っている。これは、
『ブルーティアーズ。解析をお願い。』私はISに解析を命令する。すぐに返答が返ってくる。
That object is the fleet living in abyssal ocean called "Codename.Syuseki".