「さて、ようこそ、世界の舞台裏へ」
何もない、虚無の空間から、男の声が響いた。何処か落ち着きのある、老人の声だ。
「いきなりですいませんが、あなた様の世界に危機が迫っております。いや、過去の災厄が再び訪れてしまったというべきでしょう」
パチンッ、という音とともに、目の前に4つのカードが現れる。そのどれもが、禍々しく見えた。強烈な不快感と恐怖が巡り、見続けていると頭がおかしくなりそうで、とっさに目を伏せる。
「正しい判断でございます。カードに身を宿したとはいえ、彼らは本来、その姿を表すだけで、世界を滅ぼしかねない力を持っていますから。そろそろしまいましょうか、これ以上はあなた様にとっても私にとってもよくありません」
カードが消え、先ほどまで感じていた不快感や恐怖は和らいだ。
「私が今見せたのはあくまで虚像。しかし、いずれ彼らはその身を現世に墜とし、世界を狂わせます。それを止められるのは、あなた様と、あなた様のお仲間方だけでございます」
老人の言葉を理解しかねている時に、再び、目の前にカードが現れた。今度は7枚、暖かい光を帯びて、周りを回っている。しかし、そのカードはイラストはおろか、テキストすら描かれていない、真っ白なカードだった。
「微力ながら、あなた様がこれから立ち向かう敵と渡り合えるようにと、私からのプレゼントにございます。あなた様の強い意志に応え、必ずや力になってくれるでしょう」
7枚のカードは自分の中に取り込まれていく。
「そろそろお時間でございます。彼らの追っ手は優秀でございますので。ここもじき取り込まれてしまうでしょう。あなた様もこれからの夜には、お気をつけください。では、またお会いしましょう」
すべてのカードを取り込み、老人の言葉と同時に、体が落下して行く感覚に襲われる。意識が途切れる直前に見たのは、空間を裂いて現れる、おぞましい触手だった。
……
ガバッとベッドから身を起こした。身体中をペタペタと触りまくり、自分に異変はないことを確認して、ホッと息をついた。
「高1にもなって、我ながら痛々しい夢を見たものだわ……」
自分の見た夢の内容にため息を出しながら、ベッドから起き上がる。
時刻は6時半。
大丈夫、寝坊はしていない。
新しく買った制服をハンガーから下ろして、私は洗面台へと向かった。女子として、身だしなみをキチンとしておくのは基本中の基本だ。
私の名前は姫野夕香ひめのゆうか、今年から高校一年生の16才。この世界ではほとんどの人間がやっているから、趣味と呼べるかは判断できないが、一応、趣味はデュエルモンスターズだ。あとは読書とお菓子作りぐらいだろうか? 個人的には普通の女の子のつもりだけど、友人達が言うには、私はそうではないらしい。
洗面台で一通りのことを済ませて、母が用意した朝ご飯を一人で食べる。なんてことのない、いつも通りの日常だ、ここだけは、中学から高校に上がっても変わらない。
食事を済ませ、自分の部屋に戻ってパジャマから制服に着替えながら、今日見た夢のことを思い出す。
やけにリアルな夢だった気がする。世界の危機が迫っているということと、胸に強烈に焼き付いている不快感と恐怖の感情をもたらした4枚のカード。そして、自分の中に取り込まれた7枚のカードのこと。そして、深い闇に落ちて行く感覚も、鮮明に記憶している。
「まあ、それでもただの夢にすぎないだろうけど」
制服に着替え終えたあと、机に置いてあるデッキケースを取り、鞄に入れる。教科書は今日は必要ないから、これで準備完了だ。
「いってきます」
そう言って、私は鍵を閉めて家を出た。綺麗な晴天、絶好の登校日和。これから私たちが直面する世界レベルの危機が、直ぐ目の前に迫っていたことを、私は知る由も無かった。
みなさん始めまして、ろくしきというものです。
遊戯王の小説を今回書かせていただきました。しばらくはこの話を書いていこうかなと思います。
亀更新なのでそこは許してください。感想等などをいただければ更新が早くなるかもしれません。
では、これからもよろしくお願いします。