遊戯王 NEWDAYS   作:rokusiki

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01 始まる高校生活

「俺のターン! モンスターでダイレクトアタック!」

「なんの! 手札からバトルフェーダーを特殊召喚! まだまだデュエルはこれからだぜ!」

 だだっ広いグラウンドで、少年少女の熱い掛け声が聞こえてくる。

 

 デュエルアカデミア・オセロ校

 私が住んでいるオセロシティに立つ、今となっては珍しい高等部だけのアカデミアで、主に将来デュエルモンスターズ関係の仕事に着きたい者たちが通う学校だ。デュエルモンスターズが幅広い世代に愛され、デュエルで物事が解決できるこの世界では、この学校はとても人気があり競争率も高い。生徒は3年かけてデュエルモンスターズについて深く学んで行くことになっている。今日は入学式翌日ということもあり、生徒会主催の高校一年生のデュエル親睦会が催されていた。

 私はというと、こういう熱気あふれる場所は得意じゃないので、グラウンドの隅で適当にデュエルを観戦している。

「夕ちゃ〜ん!」

 静かに出来るだけ目立たないようにしていると、無邪気な声を発しながら、私めがけて女の子が走ってきた。嫌な予感しかしない。

「久しぶり〜、ってうわ!」

 予想通り、彼女は足をもつらせて、こちらにダイブするように飛んできた。避ける訳にもいかないので、両腕を広げて彼女を受け止める。すると彼女は嬉しそうに顔を私の胸元にすりつけてきた。

「えへへ〜、夕ちゃんあったか〜い」

「まずありがとうでしょ?久しぶり、果音」

 私がそう声を掛けると、私に抱きついていた少女、柴田果音は顔を上げてその天真爛漫な笑顔を私に向けた。

 身長145センチほどの小柄な身体、栗色のボブカットに大きな瞳、誰もが認める絵に描いたロリっ娘幼女、それが私の長年の友人柴田果音だ。信じられないくらいのドジっ子(計算されたドジだということは多分、私しか知らない)だが、その笑顔を向けられるとどんな悪人でも許してしまう、守ってあげたくなる系の女の子である。

「それにしても、こんな大人数の中からよく私を見つけられたものね」

「わたしにかかれば、夕ちゃんの居場所なんてお茶の子さいさいだよ!」

 元気いっぱいに手を振り回して果音は私に話す。可愛い。

「それでね! 聞いてよ! さっき私がデュエルしに行ったらね!みんな上から目線でわたしとデュエルしてくれないんだよ? 失礼だよね! まったく、プンプンだよ!」

 頬をふくらませて腕を組む果音は、強がって拗ねている子供そのものだ。ほんと可愛い。

 先に言っておくが、私に百合の趣味はない。断じて、だ。私が果音に抱く感情はきっとあれだ、小さな子供をかわいがりたいという純粋な感情に間違いないのだ。

「だからね、そんなかわいそうなわたしと久しぶりにデュエルしようよ! ね、夕ちゃん!」

 キラキラと目を光らせながら、果音は私に迫る。

「ごめん、今日はパス」

「え〜、なんで? まさか、めんどくさくなっちゃった?」

「ま、そういうことかな。大体、学年2位だった果音にかなうはずないでしょ」

 言ってなかったが、果音はかつて中学で2位の成績をキープしていたほどの腕前を持っている。

「またまたあ、そんなこと言っちゃって、ほんとは強いのにめんどくさいからって大会を毎回棄権してたのにね〜」

 果音はそう言いながら私に抱きついて、頬をスリスリする。

「夕ちゃんって真面目なのに変なところでめんどくさがりだよね。だがそれがいい!」

「そう言ってくれるのも果音ぐらいね」

「あと一人いるじゃん」

「ん? 誰?」

「ふふ〜ん、あそこあそこ」

 いじわるそうに笑う果音の指差す先をみると、大勢の人だかりのなかに、一際目立つ容貌の少年が対戦相手の女子生徒とデュエルしていた。遠目で見る限り、少年の圧倒的有利だ。

「げ、忘れてた。あいつもこの学校だったわ……」

「一途だよね〜、あ、手を振ってるよ! って夕ちゃんどこ行くの? 引っ張らないでよ!」

 咄嗟に果音の手を引いて、その場から離れる。何故かって?あいつに気づかれたからだ。

「もう、素直じゃないなあ」

「あいつがいると私が恥ずかしい目に会うか知ってるでしょ?」

「とか言って満更でもないくせに〜」

「う、うっさい! とにかくあいつの視界から離れるの!」

 私はそのまま、あいつが見えなくなるところまで、歩いていくのだった。

 あいつの見えない場所に移動したあと、私と果音は休みの間のお互いの話や、カードの話、どうでもいい話をしながら、同級生たちのデュエルを見ていた。立体技術の進歩から、今のデュエルディスクから投影されるモンスターは、迫力はさることながら、モンスターごとの細かいしぐさも違っていたりと、実に見応えがあるものに仕上がっている。

 しばらく観戦していると、グラウンドで何やら結構な人数が集まっていることに気づいた。よく見ると、あまり自信はないが、私のクラスの生徒がほとんどだ。

「ちょっと行ってくるわ」

「何々? ひょっとしてデュエルする気になった?」

「違う。私のクラスがなんか集まってるみたいだから、確認してくるだけ」

「じゃあ私も行くよ! 夕ちゃんに集る悪い虫をやっつけておかないとね!」

「中学の時みたいに騒ぎを起こさないでね、後始末は結局私なんだから」

 物騒なことを言う果音をたしなめ、その人だかりに行くと、その中心で2人の男子がデュエルをしていて、勝敗が決まるところだった。

「バトル!俺のモンスターで貴様にダイレクトアタックじゃ!」

「うわあ!!」

 長学ラン風に改造した制服を纏った生徒のモンスターが、相手男子のライフポイントを0にして、試合終了のブザーが鳴った。長学ランの男子はそれに呼応するようにデュエルディスクのついている腕を上げる。

「よっしゃあ! これで38人抜きじゃあ! あと一人は誰じゃい!

名乗り出て俺と勝負しろい!」

 すごいな、一組の38人を連続で倒したのか。連続で相手をすれば対策くらいは練られるはずだから、実力はかなりのもののように思える。

「ごめん、今なにやってるか教えてもらえる?」

「え? ああ、この小久保ってやつが一組の人全員倒したら、あいつが委員長になるって言い出してさ。噂じゃ、この街の中学不良のヘッドだったらしいぜ」

「なるほど〜、1クラス40人だから、あと一人倒せば小久保君は一組の委員長になれるんだ。番長だね、夕ちゃん」

 隣にいた男子に事情を聞いている途中でも、その小久保君は威勢のいい声で対戦相手を探していた。

「どこじゃあ! 隠れとらんで、出てこんかい! 俺とデュエルせんかい!」

 うわあ、めんどうくさいことになった。ここは私のクラスの人たちがほぼ全員いるので、いくら昨日今日顔を合わせたばかりとはいえ、さすがに数人は私のことを知っている。周りの視線が痛い。隣をみると、果音がニヤリと笑っていた。

 こいつまさか。

「はいは〜い! 最後の1人はここだよ〜!」

「この腹黒幼女め! なんてことを!」

 果音が大声でそう言ったとたん、私の周りの人は私から離れた。小久保君と私の間に道が出来る。

「貴様見覚えがあるのう、確かに俺のクラスの生徒で間違いない」

「俺のクラスってまだ決まった訳じゃないのに、ずいぶんな自信ね」

ゴゴゴゴッと謎の効果音を出しながら歩いてくる小久保君を前に、誤魔化せないと悟った私は、諦めて彼と対峙した。

「当たり前じゃい、コソコソと隠れておった貴様を倒すことなぞ、赤子の手を捻るより容易いわ!」

 その言葉に、私の中で何かが切れた。

「ほう、言ってくれるじゃない……」

「来たー! 夕ちゃんの本気だー!」

 興奮気味に声を上げる果音を無視して、私は腕に巻いてある薄い長方形の装置のボタンを押した。

 カシャカシャンと小気味のいい音と同時に、装置の内部が外に展開して、小久保君の付けているものと同型のデュエルディスクが出現した。最近のデュエルディスクは非常にコンパクトに出来ていて、持ち運びも便利になっているし目立ちにくいのだ。私は小久保君を睨みつけながら、彼を指差した。

「おい、デュエルしろよ」

「な、なんじゃいきなり!?」

 私の勢いに戸惑いつつも小久保君は私に返して来た。

「アンタのくだらない御託は良いから、早くスタンバイして。私がデュエルしてあげるんだから感謝しなさい」

「何を抜け抜けと調子に乗りおって! 貴様の軟弱なデッキなぞ俺が潰してくれるわ!」

「私のデッキが軟弱かどうか、その目で確かめることね」

 私はデッキケースから大切なデッキを取り出して、ディスクにセットした。デュエル開始のブザーが鳴り、私たちは身構える。久しぶりの感覚。緊張感が気持ちよく身体中を駆け巡る。大丈夫、いつも通りだ。私と小久保君は同時に叫ぶ。

「「デュエル!!」」

 記念すべき、私の高校生になって初のデュエルが始まった。

デュエルスタート。

姫野夕香 Lp4000 H5

小久保竜馬 Lp4000 H5

「先攻は私がもらうわ。ドロー!」

 勢いよくデッキからカードを引く。うん、悪くはない。が、相手のデッキがあまり良くわかっていない以上、焦ってはダメだ。一旦様子を見ることにする。

「私はモンスターを1体セット。カードを2枚伏せてターンエンド」

姫野夕香 Lp4000 H3

セットモンスター×1

セットカード×2

「ふん! 軟弱者め! いきなりセットとは、その根性、叩き直してくれるわ! 俺のターン! ドロー! 俺はジェネティック・ワーウルフを攻撃表示で召喚じゃ!」

 小久保君のフィールド上に4本の腕を持つ人狼が現れた。

ジェネティック・ワーウルフ

レベル4/地属性/獣戦士族

攻2000/守 100

 先ほどのデュエルで小久保君が相手にとどめをさした時に使っていたモンスターだ。効果を一切持たないものの、通常モンスターならではのサポートの多さ、そして、何よりも攻撃力2000という高いステータスがこのカードの魅力だ。

「そのままセットモンスターに攻撃じゃい!」

 小久保君のジェネティック・ワーウルフは雄叫びをあげて、私のモンスターに襲いかかる。

「セットモンスターはクリッターよ」

クリッター(制限カード)

レベル3/闇属性/悪魔族

攻1000/守 600

 裏返ったクリッターが相手のジェネティック・ワーウルフに果敢に迎え撃つも、あっけなく粉砕される。

「クリッターの効果発動!フィールドから墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを1体手札に加える。私が手札に加えるのは、極星獣タングニョースト」

……あの姫野ってやつ、極星使いか?馬鹿な、神のカードはこの世に1枚ずつしかないのに……

……あの人、親睦会でほとんどデュエルしてなかったけど、強いのかな?……

 周りのひとが私の詮索を始める。まあ、私のデッキタイプは、初見じゃあ見抜くには無理があるかな?果音は見慣れているからか、特に目立った反応はなく、

「夕ちゃんがんばって~」

 とエールを送ってくる。誰のせいでこうなったと思ってる。

「小賢しい真似をしおって!」

 小久保君は苛立たしげに私を睨む。私のモンスターを倒したものの、私のメリットにしかならなかったからだ。

「バトルフェイズは終了でいいかしら?」

「ああ、終了じゃ!」

「では、バトルフェイズ終了時、トラップカード、リビングデッドの呼び声を発動するわ。墓地に存在するクリッターをフィールド上に攻撃表示で特殊召喚」

 リビングデッドの呼び声の効果で、私のクリッターは墓地からフィールド上に舞い戻った。理想と遜色ない展開だ。

「蘇生されたか! 仕方あるまい、メインフェイズ2に入り、手札からツーマンセルバトルを発動じゃ!」

「さらに、手札から永続魔法、凡骨の意地を発動じゃ!」

 ここまで来たら、もう小久保君のデッキは割れている。十中八九通常モンスターを軸にした【ハイビート】だ。通常モンスターは攻撃力が高いモンスターが多い。このまま展開されてしまえば、私のライフは一気に0になってしまう。

「最後に、エンドフェイズ時にツーマンセルバトルの効果発動!手札から、剣闘獣アンダルを攻撃表示で特殊召喚じゃ!」

剣闘獣アンダル

レベル4/地属性/獣戦士族

攻1900/守1500

 ツーマンセルバトルの効果で召喚されたアンダルは、フィールド上にいるジェネティック・ワーウルフと熱い腕組みを交わした。暑苦しい絵面だ。

「俺はこれでターンエンドじゃ!」

 大きな声でそう宣言して、小久保君のターンは終了した。

小久保竜馬 Lp4000 H2

ジェネティック・ワーウルフ、剣闘獣アンダル

凡骨の意地、ツーマンセルバトル

 相手モンスターの攻撃力は私のクリッターの攻撃力を差し引いても私のライフを半分以上削り取れる。伏せカードのないこのターンでなんとかしたいけど、能動的に動ける手札じゃないのが歯痒い。

「じゃあ、私のターン、ドロー!」

 引いたカードを確認する。このターンでなんとかしたかったが、ここは相手の攻撃を待つしかなさそうだ。

「私はクリッターを守備表示に変更して、モンスターをセット、カードをさらに1枚セットしてターンエンド」

姫野夕香 Lp4000 H2

セットモンスター×1、クリッター

セットカード×2、リビングデッドの呼び声

「ええい! またもセットとは何事じゃあ!」

 小久保君が地団駄を踏みながら、そう叫ぶ。

「仕方ないでしょ! 今はこれぐらいしかやることないのよ!」

「ふん! まあいい、どうせその伏せてあるモンスターはリクルーターじゃろう。ならその効果を使わせないまでよ! 俺のターン! ドロー!」

 小久保君はドローしたカードを確認し、それを私に見せる。この流れはまさか……

「俺は凡骨の意地の効果発動! ドローしたアレキサンドライドラゴンを相手に見せ、カードをさらに1枚ドローする!」

 カードから男が出現して、ハァァァッと気合を込める。そして、小久保君はカードをドローした。

「お前は気合込めるだけか!」

 私は思わず突っ込んでしまった。

「俺の大事なダチに何を言う! こいつがいなきゃ、俺はこの効果を使えんのだぞ!」

「いやそうだけど! せめてもう少しエフェクトに力を入れられなかったの? あとお前、『一仕事したぜ』みたいなどや顔をやめなさい!」

 凡骨の男は汗を拭いながら爽やかな笑顔をこっちに向ける。こっち見るな、そして何事もなかったようにまた気合を込めるな!

「俺は凡骨の意地の効果発動!ドローしたヴェルズ・ヘリオロープを見せて、カードをドローじゃ!」

ドローしたカードを見て、小久保君は不敵に笑った。

 凡骨の意地の恐ろしさは、単に手札が増強出来ると言うことではなく、魔法、罠カードを確実に手札に呼び込めることだ。相手は自分のモンスターじゃあ対応できない様々な魔法、罠、モンスターカードを対処するカードを大量に積んでいるはず。私の考えが間違いなければ、小久保君の手札には多分……。

「メインフェイズ! 俺は手札から、大熱波を発動じゃ!」

「やっぱり来たわね……」

 大熱波はメインフェイズ1に発動でき、効果モンスターの通常召喚、特殊召喚を次の発動者のスタンバイフェイズまで封じる魔法カード。まずい、これじゃあタングニョーストは特殊召喚できないし、伏せモンスターの効果も発動出来ない。

「そして俺は通常モンスター、ヴェルズ・ヘリオロープを召喚! バトルフェイズに移行して、まずはアンダルで伏せモンスターを攻撃じゃあ!」

ヴェルズ・ヘリオロープ

レベル4/闇属性/悪魔族

攻1950/守650

 相手のモンスターは合わせて三体、それも全員高攻撃力のモンスター、私のモンスターの守備力をたやすく超えている!

「ここで使うのは忍びないけど、仕方ないわ、リバースカードオープン! 聖なるバリアーミラーフォース!」

「なんじゃと!」

 私のモンスターに襲いかかったアンダルの拳は、光り輝くバリアーによって弾き返されて、仲間モンスターに直撃して3体とも破壊された。

「まさかそのようなカードを伏せてあったとは、油断した! このターンのエンドフェイズ時にツーマンセルバトルの効果で、アレキサンドライドラゴンを攻撃表示で特殊召喚し、ターンエンドじゃ!」

アレキサンドライドラゴン

レベル4/光属性/ドラゴン族

攻2000/守100

 呼び出されたアレキサンドライドラゴンは周りに仲間がいないことに、こころなしかしゅんとしている。

小久保竜馬 Lp4000 H2

アレキサンドライドラゴン

凡骨の意地、ツーマンセルバトル

「じゃあ、私のターンね、といっても、できることはほとんどなさそうだけど。私のターン、ドロー」

 私は新しく手札に加わったカードと手札を確認しながら、次の行動を思案した。本来ならば攻撃する絶好のチャンスだが、あいにく今は大熱波の効果で私は効果モンスターを召喚、特殊召喚できない。ここはやはり……。

「私は魔法カード、調律を発動。デッキから『シンクロン』と名のついたモンスターを手札に加える。私は、ジャンク・シンクロンを手札に加える。その後、デッキの上から1枚墓地に送るわ」

 落ちたカードは……極星獣グルファクシ。かなり痛い。

「これ以上は特にすることはないわね。カードを1枚セットして、ターンエンドでいいわ」

これで手筈はそろった、あとは相手の出方次第だ。

姫野夕香 Lp4000 H2

セットモンスター×1、クリッター

セットカード×2、リビングデッドの呼び声

「貴様ぁ! なぜセットばかりなんじゃ!」

「いや、あなたがガチガチに召喚を封じてくれたからだけど」

「うるさい! 貴様のモンスターなぞ、このターンで消し去ってくれるわ! 俺のターン!」

 小久保君はカードを引き、それをわたしに見せた。すると小久保君の隣にいた男が気合をこめる。またか……。

「凡骨の意地の効果発動! ドローしたブラッド・ヴォルスを見せ、カードを1枚ドロー! そして俺は悪魔への貢物を発動じゃ!」

 私のクリッターが緑色の腕につかまれ、墓地へと連れて行かれた。

「悪魔への貢物は相手の特殊召喚されたモンスターを1体を墓地に送り、手札からレベル4以下の通常モンスターを召喚することができる! 俺は手札からブラッド・ヴォルスをフィールド上に特殊召喚じゃ!」

ブラッド・ヴォルス

レベル4/闇属性/獣戦士族

攻1900/守1200

 今度は緑色の腕が凶悪な顔をしたモンスター、ブラッド・ヴォルスを手に乗せ、フィールド上に運んだ。

「やっぱりサポートカードの多さが厄介ね。私は墓地に送られたクリッターの効果で、デッキからすばやいビッグハムスターを手札に加えるわ」

「まあ関係ない! 俺はさらに暗黒の狂犬を召喚じゃ!」

暗黒の狂犬マッドドッグ

レベル4/闇属性/獣族

攻1900/守1400

 あっという間にさっきとほとんど変わらない戦力が展開された。だけど

「暗黒の狂犬の召喚成功時、トラップカード、奈落の落とし穴を発動するわ。暗黒の狂犬を破壊して、除外する!」

 暗黒の狂犬の足元に穴が出現し、狂犬は登場早々奈落へと落ちていった。

「おのれえ、いやらしい罠を次々と! 卑怯じゃぞ!」

「別にルール違反をしているつもりはないし、デュエルに卑怯もへったくれもないと思うけど。そのままバトルフェイズでいいかしら?」

「言われんでもそうしとるわ! バトル!アレキサンドライドラゴンで、そのセットモンスターに攻撃じゃ!」

アレキサンドライドラゴンは私のセットモンスターに向かって噛み付いた。

「セットモンスターは素早いビッグハムスターよ」

素早いビッグハムスター

レベル4/地属性/獣族

攻1100/守1800

「な、ハムスターじゃと!? それは手札にいるはずじゃ!」

「別に、手札に加える候補がハムスターしかいなかっただけで、別に場にいないわけじゃないでしょ? じゃ、素早いビッグハムスターのリバース効果を発動。デッキからレベル3の獣族モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する。私はデッキから素早いモモンガを裏側守備表示で特殊召喚。どうする? 攻撃する?」

「いま攻撃してもあとから攻撃しても変わらん! ブラッド・ヴォルスで素早いモモンガを攻撃じゃ!」

 血塗れているというよりは、綺麗に手入れされた斧を振りかざし、ブラッド・ヴォルスが私の素早いモモンガを切り裂いた。

素早いモモンガ

レベル2/地属性/獣族

攻1000/守100

「では素早いモモンガの効果発動。このモンスターが戦闘によって破壊され墓地に送られたとき、1000ポイントのライフを回復して、デッキから素早いモモンガを2体まで裏側守備表示で特殊召喚するわ」

 フィールド上に2体のモモンガがフィールドにセットされる。これで、私の場のモンスターの数は変動しない上に、私のライフポイントは小久保君を上回った。

「さらに、モモンガが戦闘破壊されたことにより、手札から極星獣タングニョーストを表側守備表示で特殊召喚!」

極星獣タングニョースト

レベル3/光属性/獣族

攻800/守1100

 黒い山羊がフィールド上に特殊召喚される。これで私のフィールドには3体のモンスターが並んだ。

姫野夕香 Lp5000

 ……すげえぞ、あいつ小久保の攻撃全部押さえてる!……

 ……終わってみれば、どんどん姫野さんが有利になってる……

 野次馬のざわつきが大きくなる。38人を連続で倒した相手をほぼ完璧に押さえているんだから無理はない。自分だってここまでうまくいってるのが不思議なくらいなのだ。

「まあいい! メインフェイズ2にカードを1枚セットして、ターンエンドじゃ!」

 小久保君は苛立ち気にカードを一枚セットして、ターンを終了した。

小久保竜馬 Lp4000 H0

アレキサンドライドラゴン、ブラッド・ヴォルス

セットカード×1、凡骨の意地、ツーマンセルバトル

「私のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見て、自然と笑みがこぼれる。すべてが整った、ここから逆転だ。

「私は手札からサイクロンを発動、そのセットカードをを破壊するわ」

 黒い旋風が小久保君のセットカードに向かって飛んでいき、破壊する。破壊したのは、ジャスティブレイク。通常モンスター専用の迎撃トラップだ。

「な!? ジャスティブレイクが!」

「まあ大体予想通りね、これであなたを守るものがなくなったわ。覚悟はいい?私は、2体の素早いモモンガを反転召喚! そして、ジャンク・シンクロンを通常召喚!」

 2体のモモンガの間にジャンク・シンクロンが舞い降りる。かの救世主、不動遊星が使っていた強力なチューナーだ。その効果は言わなくても、全員が知っているだろう。

「ジャンク・シンクロンの効果発動! 墓地に存在するレベル2以下のモンスターを表側守備表示で特殊召喚する! 戻ってきて! 素早いモモンガ!」

 最後のモモンガがジャンク・シンクロンの作ったワープホールからフィールド上に舞い戻る。

「さっきまでの防御重視の戦法から一気に切り替えてきたか!」

「あなたがひたすら攻撃してくれたおかげだけどね!私はレベル2素早いモモンガに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし星が新たなる力を呼び起こす。光指す道となれ!」

「その口上、まさか!」

「そのまさかよ、シンクロ召喚! いでよ、ジャンク・ウォリアー!」

ジャンク・ウォリアー

レベル5/闇属性/戦士族

攻2300/守1300

 光輪から、巨大な拳を携えた戦士が現れる。救世主不動遊星の切り込み隊長であり、数々の戦いをともにしてきた、不動遊星の代名詞のひとつでもあるモンスター、ジャンク・ウォリアーは小久保君のモンスターの前に対峙した。

「さて、効果なんていまさら説明しなくてもわかるわよね?ジャンク・ウォリアーのシンクロ召喚成功時、自分フィールド上に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計値分、このモンスターの攻撃力をアップさせる! パワー・オブ・フェローズ!」

 ジャンク・ウォリアーが拳を掲げると、素早いモモンガがその力を分け与え、拳に光が宿る。

ジャンク・ウォリアー

攻2300→4300

「キター!夕ちゃんの反撃開始だー!」

 周りが一気に沸き立つ。と同時に私の心も高ぶっていた。これだから、デュエルモンスターズはやめられない!

「攻撃力4300じゃと!?」

 小久保君は突然現れた高攻撃力のモンスターに若干たじろいだ。しかし、すぐさま持ち直す、当たり前だ、いくら攻撃力が4300でも、これだけでは小久保君を倒すことはできないからだ。

「さらに、私はレベル2の素早いモモンガ2体でオーバーレイ!2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!大地の戦士よ、鋼に劣らぬ肉体で、仲間を守る厚き盾となれ!」

 モモンガたちが渦巻く光の中に飛び込んでいき、中からモンスターが現れる。

「エクシーズ召喚! ガチガチガンテツ!」

ガチガチガンテツ

ランク2/地属性/岩石族

攻500/守1800

 筋骨隆々の灰色の大男がフィールドにズシンとフィールドに足を踏み入れた。

「エクシーズ召喚じゃと!」

「もう実装されて結構経つから、珍しくないんじゃないかしら?」

 エクシーズ召喚。数年前、デュエルモンスターズに関して絶大な権威を持つI2(インダストリアルイリュージョン)社が発表したシンクロ召喚に代わる新たな召喚方法だ。

 同じレベルのモンスターを2体以上そろえて、それを重ねた上にモンスターを召喚する。シンクロ召喚に比べ、チューナーとモンスターを揃えなくてよいという利点があるが、同じレベルを揃えないといけないという制約もある。どっちもどっちだと思うけど、最近のテレビはやたらとエクシーズ押しである。新しいものに敏感なのはいいことだが、この流れには何かの企みがあるような気がしてならない。

「ガチガチガンテツの効果は、このモンスターの持っているオーバーレイユニット1つにつき、自分フィールド上に存在するモンスターの攻撃力、守備力は200ポイント上昇する。ガチガチガンテツのオーバーレイユニットは2つ、よって私のフィールド上のモンスターの攻守は400ポイントアップする!」

 ガチガチガンテツの持つオーバーレイユニットが共鳴を始め、波動をフィールド上に放つ。その波動を浴びた私のモンスターたちは強化される。

ガチガチガンテツの効果

ガチガチガンテツ

攻500→900

守1800→2200

極星獣タングニョースト

攻800→1200

守1100→1500

ジャンク・ウォリアー

攻4300→4700

守1300→1700

 順調に私のモンスターの攻撃力が上がっていく。だけど、まだだ、これだけじゃあ小久保君を倒しきれない。

「まだまだ終わらない!私は極星獣タングニョーストを攻撃表示に変更して、タングニョーストの効果発動! デッキからタングニョースト以外の極星獣と名のついたモンスターを表側守備表示で特殊召喚する! 出でよ、極星獣タングリスニ!」

極星獣タングリスニ

レベル3/光属性/獣族

攻1100/守800

ガチガチガンテツの効果

攻1100→1500

守800→1200

 黒いタングニョーストとは対照的な、白い山羊がフィールド上に召喚される。これで、レベル3モンスターは2体フィールド上にそろった!

「私は、レベル3の極星獣タングニョーストと極星獣タングリスニでオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 大地を照らす目映い輝きは、その身にまとう聖なる光! エクシーズ召喚!NO.20! 蟻岩土ブリリアント!」

「ナンバーズ! 貴様そんなレアカードどこで!」

 ……馬鹿な!? ナンバーズだって!?……

 ……ナンバーズって、世界に1枚ずつしかない超レアカードなんじゃ?……

 周りのざわつきがさらに大きくなる。まあ、仕方のないことだ。彼らの言うとおり、世界に一枚ずつしか存在しないエクシーズモンスター、ナンバーズのカードがフィールド上に現れたのだから。

 エクシーズ召喚のシステム基盤そのものを設計した当時新進気鋭のデザイナー、ハワード。彼はエクシーズ召喚のシステムをI2社に託した後、忽然と姿を消した。その彼が失踪したあとの自宅から発見されたスケッチブックから、1から100までナンバリングされたエクシーズモンスターが残されていた。それが、ナンバーズの原型である。ナンバーズは1枚ずつ製造され、エクシーズ召喚発表時に、カードパックの一部に封入されたり、抽選で家に送ったりと、世界の各地にばら撒かれた。噂では、I2社はまだ一部のナンバーズを保有しているらしい。

 そしてこの子がナンバーズのうちの1体、空からブリリアントが巨大な球体の状態で舞い降り、輝く蟻の姿へと変形した。背中に生える羽の右側には、その存在を示す20の番号が刻まれている。

No.20 蟻岩土ブリリアント

ランク3/光属性/昆虫族

攻1800/守1800

ガチガチガンテツの効果

攻1800→2200

守1800→2200

「この子はちょっと昔にある人からもらったカードよ。運がよかっただけ。それよりも、ブリリアントの効果を発動させてもらうわ! オーバーレイユニットをひとつ取り除くことで、自分フィールド上のモンスターすべての攻撃力を300ポイントアップさせる! レディアンス・オブ・グレイス!」

 ブリリアントが羽を羽ばたかせ、燐粉が私のモンスターに降り注ぐ。

No.20蟻岩土ブリリアントの効果

No.20蟻岩土ブリリアント

攻2200→2500

ガチガチガンテツ

攻900→1200

ジャンク・ウォリアー

攻4700→5000

「攻撃力……5000じゃと……」

 5000という高攻撃力に、さすがの小久保君も引いたようだ。モンスターたちも私のモンスターに萎縮しているように見える。

「バトル !ジャンク・ウォリアーで、アレキサンドライドラゴンに攻撃! スクラップ・フィスト!」

 ジャンク・ウォリアーがその巨大な拳を振りかざし、突進しながらアレキサンドライドラゴンにたたきつける。

「さらに、ダメージステップ時、速攻魔法、収縮を発動! フィールド上のモンスター1体選択して、このターンのエンドフェイズ時までその攻撃力を元々の攻撃力の半分にする! 選択するモンスターは、アレキサンドライドラゴン!」

収縮の効果

アレキサンドライドラゴン

攻2000→1000

 収縮により本来の半分の大きさになってしまったアレキサンドライドラゴンがジャンク・ウォリアーの攻撃に耐えられるはずもなく、粉々に粉砕されてしまう。そして、ダメージの衝撃(もちろんエフェクトに過ぎない)が小久保君を襲う。

「うおおおおおおお!!!!!」

小久保君は吹っ飛ばされる。重ねて言うが、エフェクトである。そこらへんは、デュエリストのノリってやつだ。

小久保竜馬

Lp4000→0

勝者:姫野夕香

 デュエルモードが解除され、モンスターたちの映像が消え去ると同時に、私は腕を突き上げる。それに呼応するようにあたりは熱狂に包まれた。

 勝った……!

 私の高校始めてのデュエルは、白星で飾られたのだ。

「やったー! 夕ちゃん勝ったね!」

果音が私に飛びついてきたので。それを受け止めて、回りながら衝撃を和らげ、彼女を離す。

「自分でもビックリなくらいデッキが回っていただけよ。1歩でも間違えたら私の負けだったわ」

「そんなこと言って~、切り札出してないくせに♪」

「手札にこなかっただけよ」

そうこうしているうちに、小久保君は立ち上がった。

「大丈夫?」

「これしき、問題ない。しかし、見事なデュエルじゃった。完璧な防御、鮮やかな切り替えし。俺の完敗じゃ、先の無礼、許してほしい」

 そういうと、小久保君は手を差し出した。なんだ、見た目は怖いけど結構いい人じゃない。私もそれに応えようと手を差し出すと、

 グワシッ、と手をつかまれた。そして小久保君はそのまま私の手を掲げ、高らかに宣言した。

「皆の者! 1年1組委員長、姫野夕香の誕生じゃあ!」

はい?

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」

辺りが再び熱狂的な歓声に包まれる。え?

「ちょっと待って、私一体何のことかわからないんだけd」

「皆の者、胴上げじゃあ!」

「「「「うおおおおおおお!!!!!わっしょい!わっしょい!」」」」

 もはや冷静さを失ったとしか思えないクラスメートに胴上げされながら、私はどうしてこうなったと心の中で叫んだ。

 はあ、高校はゆっくりできると思ったのに……、やっぱりうまくいかないのね。

 

 そんなことより

 

「誰か助けてええ!!!!!!」

 

 こうして、私の高校生活が始まったのだった。

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