遊戯王 NEWDAYS   作:rokusiki

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02 短き平穏(前編)

 あの波乱の親睦会からはや一週間ほど、生徒たちは学校の雰囲気にようやく慣れ始めたころだ。時間は昼休みで、私は教室でゆっくりと今朝用意した弁当を食べている……

 

「委員長! 今日のデュエルもみごとじゃった! 実に見ごたえのあるタクティクス、感服したぞ!」

 

「夕ちゃん夕ちゃん! そのエビフライ頂戴!」

 

 はずだった。

 

 私の机を囲むように、対面に小久保君、隣に果音が座り、ひっきりなしに私に話しかけてくる。私は別に構わないけど、たまにはゆっくりさせてほしい。

 

「ありがとう。でも、もし聖杯を伏せていなかったら、私は間違いなく負けていた。攻撃力7000のワイトキングはさすがに鳥肌が立ったわね」ねだる果音にエビフライを箸であーんさせて食べさせながら、私は今日のデュエルを思い出していた。

 

 このデュエルアカデミア・オセロ校は、週3回ずつ、デュエルの講習と実習の授業がある。講習では主にカードや各種戦術、単語について勉強し、実習は全クラス合同で行い、二人一組または2vs2の四人組でデュエルを行い、講習で学んだことなどを生かし、プレイングを磨く。今日はちょうど実習の日であり、私は隣のクラスの瀬良あゆみさんとデュエルをした。いいとこのお嬢様らしいけど、話してみると気品があって親しみやすい人だった。

 

 結果は私の勝ちだったが、正直最後はヒヤッとした。私の場には攻撃力4000オーバーのジャンク・ウォリアーとボルテック・バイコーンがおり、残りライフ100、彼女は場に何もいない状態から、死者転生で馬頭鬼を捨ててワイトキングを回収して召喚、さらに馬頭鬼の効果でワイトキングを墓地から特殊召喚。2体のワイトキングの攻撃力は7000、私のジャンク・ウォリアーを軽々と超えてきたのだ。聖杯を伏せていなかったら、私のモンスターはきっと軽々と粉砕されていたことだろう。最後まであきらめなかったあゆみさんの表情も素敵だったし、機会があればもう一度デュエルがしたいな。

 

「そういえば、あいつ遅いわね」

 

「うーん、たぶんまた女の子の相手をしてると思うよ? モテモテだからね♪ もしかして夕ちゃん、気になってる?」

 

「そ、そんなわけないじゃない! ただ、いつもなら昼休みが始まってすぐに『遅れましたああ!!』って……」

 

「遅れましたああああ!!」

 

 教室のドアが勢いよく引かれ、購買で買ったであろう焼きそばパンを片手にもった、金髪の目立つ容貌の少年が現れた。所々制服が乱れているのは、きっと女子たちに揉みくちゃにされたからだろう。少年は私の目の前にすたすたと歩み寄ると、私にかしずいた。。

 

「姫、申し訳ありません。不肖、九王子宏人(ひろと)、ただいま参上いたしました!」

 

「はあ……、だからそういうのやめなさいって言ってるでしょ? 早く立ちなさい、宏人」

 

「そう言わないでよ。姫は僕のプリンセスで、僕は姫だけのナイトなんだから」

 

 宏人は笑いかける。こいつはほんとに絵になるなあ。

 

 九王子宏人。カード業界で名を馳せている九王子グループの御曹司であり、果音と同じく、私の小学校からの友人? いや、腐れ縁というべきか。文武両道、才色兼備、間違いなくエリート路線を突き進んでいる彼が、なぜ私たちと知り合ったのか。その馴れ初めは実のところあまり覚えていない。ただひとつ言えるのは、宏人がこのアカデミアを主席で入学できるほどデュエルモンスターズの技術を磨いたのも、私に頼られる男になるため。つまり私に惚れているということだ。

 

 そういうことだから、宏人は所構わず私にアプローチしてくる。出会ったころはあんなに恥ずかしがり屋だったのに、彼がここ数年で一番磨かれたのはメンタルかもしれない。その素直な気持ちはうれしいのだけれど、そのせいで私は散々な目に遭ってきたのも、話しておくべきだと思う。

 

 宏人は先ほどにも言ったとおり相当なイケメンで勉強もそこそこできてデュエルの腕もピカイチだ。つまるところモテないわけがないのである。知らないうちに派閥ができるレベルでモテる。そして彼女たちにとって、私は邪魔な存在なのだ。当時から、私は宏人に恋焦がれる少女たちの洗礼を受けてきた。靴を隠される軽いものから、見知らぬ大男に誘拐されかけるあわや事件になるものまでさまざまだ。まあ、時間がたてば諦めて九王子宏人様の恋を見守る会とかに変わったりするので、人生に加えるスパイスとして半ばあきらめている。現に教室の外から殺意のこもった視線を感じる。それでも彼との交友を続けているのは、一連の出来事が彼のせいではないからだ。

 

 恋愛感情? ないない。だって弟分みたいなものだし。弟に恋愛感情を抱くって社会的にアウトでしょう? 最近の風潮を見ると、そういう考えも揺らぎそうになるけど。

 

「宏人ぉ! 貴様また委員長に迷惑をかけおって! 第一貴様は特進クラスじゃろうが、特進は特進で食え!」

 

これももはやお約束というべきか、小久保君が宏人に噛み付いた。あのデュエル以降、小久保君はなぜか私と行動を共にするようになった、曰く今の彼は私の舎弟らしい。何でも敗者は勝者に従うとかで、ここ数日彼は副委員長として(勝手に立候補、反対者はなし)私とともにクラスの雑務をこなしている。ここまで話すとわかると思うけど、小久保君は見た目の割りに真面目で勤勉な好青年だ。しかし融通は利くから、普段ならこういった他クラスの生徒が入ってきても注意しない。なんで宏人にはこんな態度をとるかというと、話は小久保君とのデュエル終了後に遡る。

 

 

 

……

 

 

 

「たすけてえええ!!!」

 

 デュエルに勝利し、なぜか委員長に就任することにされた私は、クラスのみんなに胴上げされ、あまりに突然のことに私は軽いパニック状態に陥っていた。そのとき、

 

「姫!!!」

 

 と、宏人が駆けつけて、ジャンプ、投げ上げられた私をキャッチして、華麗に着地したのである。お姫様抱っこにちょっとだけドキッとしたのは内緒だ。私を降ろし、泣きそうな顔で私にしゃべりかける。

 

「ごめん! 大丈夫だった? 僕が遅かったばっかりに……」

 

「ええ、大丈夫。だからあんたも泣きそうになるのやめなさい。とはいえ、ありがとうね」

 

 私が大丈夫なのを確認して、宏人の顔はぱっと明るくなる。

 

「よかった……。ひさしぶり、姫。逢えて嬉しいよ」

 

 その立ち振る舞いは、まさに少女たちの描く王子そのもの。男女問わず注目を集める宏人に、まあ当然だが

 

「貴様なんじゃあ! 俺らの委員長になにいきなり口説いとんのじゃ!」

 

 小久保君が突っかかったのだった。私と宏人の間に割って入り、宏人と対峙する。突然邪魔が入り、宏人のほうも不機嫌そうだ、顔は笑っているけど目は笑っていない。

 

「騒がしいなあ。そういう君こそ、姫の何なんだよ」

 

 宏人の問いかけに、小久保君はビシッと人差し指を天へと指差す。そして高らかに名乗りあげた。

 

「俺は小久保竜馬! いずれこのアカデミアのキングになる男じゃ!」

 

 続けて、私のほうを指差し、

 

「そして! 1年1組委員長、姫野夕香の舎弟1号じゃ!」

 

 知らない間に舎弟を抱えていた私だった。小久保君、それさえなければそれなりに決まっていたシーンだったと思うよ? そうこうしていると宏人もその金髪をかき上げて言った。

 

「君が舎弟1号? じゃあ姫の騎士として付き添ってきた僕は舎弟0号だね!」

 

「争いのレベルが低い! 男が舎弟争いってどうなの!?」

 

 それに周りの視線が怖い! 主に女子の!

 

「ええい! 委員長は黙っておれ! これは俺とこいつの問題じゃ!」

 

「そうだよ姫! 小久保君といったね、君も男なら、やるべきはひとつだろ?」

 

「笑止! そんなもの、こいつしかないじゃろうが!」

 

 二人はさも当たり前のようにデュエルディスクを構える。おかしいな、ここは拳と拳の殴り合いとかの方がポピュラーよね? いきなりデュエルを挑んだ私が言えたことじゃないけど。

 

「「デュエル!!」」

 

「ああ……。私には男が理解できない……」

 

「まだまだ修行が足りませんなあ、夕ちゃん♪」

 

 呆然とする私を尻目に、二人は熱い歓声のなかでデュエルを始めた。話せば長くなるから大まかに話すが、38人抜きの実力をもつ小久保君は序盤こそ有利に攻めてあと一歩まで追い詰めたけど、学年主席の宏人に最後のターンでモンスターを3体召喚は小久保くんのモンスターを全て破壊、綺麗に逆転し勝利を収めた。この結果に小久保君は納得がいかなかったらしく、以降ことあるごとに宏人と衝突している。仲良いわねこいつら。

 

 

 

……

 

 

 

「竜馬はそんな些細なことを気にする男じゃないだろ? だいたい、そんなことを言うなら果音も特進だけど?」

 

 宏人は小久保君の言葉を軽くあしらった。小久保君はぐぬぬ、っと唸っている。

 

 さっきから特進特進と言っているけど、この学校には大まかに分けて三つのクラスがある。一つ目は私と小久保君の所属する普通科、主に将来カード関連の企への就職を目指す人たちがほとんどである。そして、プロリーグやデュエルの専門家を目指す特進科。ここはカードに関する授業がほかのクラスよりも多く、デュエルモンスターズのエリートが所属するクラスといえる。ここにいる生徒はちょっと他のクラスの生徒たちを見下している節があるけど、厳しいテストによって鍛えられたデュエルの腕前は確かだ。最後に、カードを使ったさまざまなエンターテインメント関係の仕事に就く生徒が所属する芸能科。アイドル研修生とかプロチームのコスチュームデザイナーの卵などがが多く在籍しており、他のクラスと比べて学校を休むことも多い。1学年には5クラスあり、普通科が3クラス、特進と芸能が1クラスずつあり、宏人と果音の所属する特進クラスは4組だ。

 

 ちなみに、小久保君の実力を見るかぎり、彼も特進クラスにいてもおかしくない。なぜ彼が普通科にいるか聞いてみたら、

 

「俺を女手一つで育ててくれた母親のために、安定した職手に入れて孝行したいんじゃ」

 

 と返ってきた。小久保君、なんていい子……。

 

 ともあれ、宏人が私の隣に座り、いつもの面子が完成する。いつもなら、学校で起きたこと、特に今日は実技があったので、今日のデュエルについていろいろ討論するのだけれど、宏人が口にしたのは別のことだった。

 

「姫、今日の放課後なんだけどさ、一緒に帰らない?」

 

「へ?」

 

妙に真剣な顔で言われたせいか、少し変な声が出てしまった。そこで果音が茶化すように横槍をいれてくる。

 

「夕ちゃん、広くんは夕ちゃんのことが心配なんじゃないかな~、今日のニュースでもやってたじゃん。もうこれで5件目だって」

 

「今日のニュース? そうじゃった ! 俺も委員長に今後の登下校ついて話があったんじゃ!」

 

「ダメだよ竜馬! 姫に先に持ちかけたのは僕なんだから!」

 

「まるで連鎖反応みたいね……。おかげで私もわかったけど。弘人や小久保君が心配してるのは、失踪事件のことでしょ?」

 

次から次へと言葉を発す友達の姿を見ながら、私は今この街で起きている失踪事件について思い出していた。

 

ここ、オセロシティでは最近、行方不明者の数が増えている。最初はあまり話題にならなかったけど、今では無視できない人数になって、連日ニュースで集団失踪事件として取り沙汰されている。被害者の数は確認できるだけで15人、誰一人見つかっていない。

 

今日のニュースでも、事件に手を焼いているセキュリティを批判し、被害者の親族にインタビューした映像を流していた。戸惑う親族にしつこく話しかけるリポーターには、あまりいい印象を持たなかったけど。

 

「さすが姫だね。僕は姫と帰り道違うけど、少し遠回りすれば問題ないから、事件が解決するまででいいからさ、みんなで固まって帰った方がいいと思うんだ」

 

「宏人と同じ考えなのは癪じゃが、委員長、俺もそうした方が1番いいと思うぞ」

 

二人の提言を受けて、私は考える。いつもなら果音と帰るのだけど、私の方が先に家に着く。果音を一人にするのは現状良くないことは明らかだし、一緒に帰るのが一番いいだろう。そう考えた私は、宏人たちの提案を受け入れた。

 

「それと委員長、この件についてホームルームでクラスの皆にも通達しようと思うんじゃが、どうじゃ?」

 

「それは心配ないんじゃないかしら? 多分先生たちも検討してるだろうし、今日中に先生の方から言ってくれると思うわ。言わなかったら、私たちが言えばいいし」

 

「そうか、わかった」

 

「できる男だねー小久保くん」

 

果音が私の弁当のおかずをはしでつまみながら言うと、小久保君はフンッ、と息をはきながら胸を張る。

 

「当たり前よ、この小久保竜馬、かつては中学生不良のヘッドだったんじゃ。このぐらいの配慮ができなければ務まらんわ!」

 

「ヒュー、かっこいいね竜馬」

 

「貴様が言うと嫌味にしか聞こえんぞ」

 

「まあ、小久保君のおかげで私もクラスの仕事が楽だし、できる男には違いないと思うわ。あ、そうだ」

 

今日は実習だったこともあり、日頃の感謝も込めて小久保君に用意したものがあった。私はカバンからそれらを包んだ封筒を取り出した。

 

「はい、小久保君」

 

封筒を小久保君に渡すと、小久保君は素直に受け取った。

 

「かたじけないのう委員長! しかしこれはなんじゃ?」

 

「あなたのデッキに使えそうなカードを一通り選んできたの。良かったら使って頂戴」

 

「本当か! 委員長の懐の深さには感服するばかりじゃ! おお、こいつはレスキューラビットではないか!」

 

小久保君はカードに目を光らせながらめくっていく。喜んでくれたみたいで、私も嬉しい気分になる。

 

「レスキューラビットかあ、僕も姫からもらったことがあるんだよね。確かに竜馬との相性は良いし、入れておいて損はないんじゃないかな?」

 

「エクシーズモンスターもあるねー、うわあオピオンとラギアドルカだあ、持ってきたやつ死ねばいいのに♪」

 

「素が出てるわよ腹黒幼女、他は一応パラディオス、打点としてジェムナイト・パールもあるわ。魔法カードとかは、小久保君の方が私よりもわかっているから入れてないわ」

 

一瞬幼女がとんでもない発言をしたが、きっと気のせいだ。

 

「しかし、これだけのカードを俺なんぞにくれていいのか?」

 

「大丈夫だよ。夕ちゃんがこうしてあげるカードは、大抵使わないか余ってるカードだから♪」

 

「そうよ、言ったでしょ、ここ一週間手伝ってくれたお礼だって。私としてもストレージに空きができるし、私のことを助けるつもりで受け取って。カードもきっと使ってあげた方が喜ぶだろうし」

 

「そうか、ではありがたく使わせてもらうぞ!」

 

そう言って小久保君はカードをケースの中にしまった。小久保君は今時珍しくエキストラデッキを持っていなかったので、新しい戦力を迎えることでもっと強くなるはず。

 

「でも、レスキューラビットは姫が使わないのに妙に気に入ってるせいで、買ったり売ったりを繰り返したりしてるだけだけどね」

 

「う、うるさいわね! あのクリッとした目にどう使用もなく惹かれるのよ、悪い?」

 

ウサギはまだ使えるからいいけど、ストレージに溜まった大量の猫は本当に困っている。あいつら禁止になってからすごい安いからついつい手を出しちゃうのよね。

 

「意外と可愛いとこがあるのが夕ちゃんのいいところだよね~、夕ちゃん大好き!」

 

「ああ、もう抱きつかないの、行儀が悪いでしょ。あんたはもっと高校生らしくね……」

 

「委員長と柴田はなんだか親子みたいじゃな」

 

「信じられないだろ?二人とも同じ年なんだぜ?」

 

そんなくだらない話をしながら、私たちは昼食をとる。何でもないような時間だけど、不思議と安らぐ。とにかく、手放したくないひと時だった。

 

 

 

……

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ、ホームルームを終え、私と小久保君は学校の入り口前で宏人と果音を待っていた。私の予想通り、先生から、出来るだけ一人にならないように二人以上の登下校を心がけるようにと言われた。

 

宏人たちは掃除当番らしく、4組の人はチラホラ見かけるけど、彼らの姿は見当たらない。そんな中、私は見覚えのある人を見つけた。その人物は顔を伏せながら、3人の生徒たちとともに校舎裏まで歩いて行く。

 

「瀬良さん?」

 

「ん? なんじゃ委員長」

 

「いや、今日の実習で私の対戦相手の娘がさっきいたんだけど、なんだか雰囲気が違うというか、他の生徒と一緒に校舎裏に行ったわ」

 

「なんと! そいつは大変じゃ! 急いで校舎裏に行くぞ委員長!」

 

そう言うと小久保君は私の手を取り、校舎裏に向かって走り出す。

 

「ちょ、ちょっと! いきなり何よ!?」

 

「校舎裏と言えば、いじめカツアゲ締め上げの聖地じゃ! もしかしたら、瀬良という娘は厄介事に遭っとるかもしれん!」

 

小久保君に連れられて瀬良さんたちが入って行った角を曲がり校舎裏にたどり着くと、そこには小久保君の言ったとおりの光景が広がっていた……




さてなんやかんやで更新です。学校が忙しくいつもちまちまとしか書けませんが、続けていこうかなと思います。この作品では5D'sの後の話ということで、TFで登場した一部ショタロリたちが同級生から先輩後輩として出てくる予定です。今回はワイト使いの瀬良あゆみちゃんです。彼女の5D'sでの境遇および結末はやってる方ならご存知のはずです。彼女はどうなってしまうのか、それは次の更新をお待ちください。
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