永遠のアセリア ~果て無き物語~   作:飛天無縫

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 風を切って空を駆けながら、シスカは不満を堪え切れず顔をしかめていた。

 眼下に広がる緑豊かな森林も、夜空に煌々と輝く満月や煌く星々も、普段なら彼女の目を楽しませただろうが今はそれらも目に入らずただ苛立ちが募る。

 

 本来、休暇中である彼女がこの世界に来たのは自分の意志ではない。思いがけず得た休息を悠々自適に過ごしていたところを、所属する組織――ロウ・エターナルの幹部、テムオリンに命じられて危急の任務を与えられたのだ。

 ただしシスカはあの法皇を気取るエターナルを敬う気持ちは欠片もない。その腹心であるタキオスは尊敬に値する武人だが、あの女の声が脳内で再生される度に胸糞が悪くなる。

 

『私の管轄の世界に異分子が侵入したことを確認しました。貴方が調査して来て下さいな』

 

 こちらの都合を一切無視した独断。相変わらずだ。まったく。

 

 そうだ。昔からあの女の独断専行には悩まされてきた。そのおかげで我々がどれだけ苦労してきたか。

 奴らが破壊するだけして回った後の周辺世界の微調整に骨を折らされた。当時、盟主はそういった事態も楽しんでおられたようだが……シスカはあの耳障りな笑い声に苛立つばかりだった。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 エターナルには大小問わず様々なグループがあるのだが、特に有名な所と言えば以下の二つが挙がる。

 

 ロウ・エターナル。

 神剣の本能である破壊衝動は全てを吸収して最終的には一本の剣になるためのものであり、それを遵守してやることこそが万物の存在理由だと考え、全てをマナに還すために活動している。

 『あるべき姿に戻るべし』のみが全世界で通じる唯一の法、という意味でLaw(ロウ)と名乗っている。

 

 カオス・エターナル。

 こちらはまったく逆の思想を掲げており、一つになることをよしとせず、あくまで自分は自分であると主張する、ある意味わがままな神剣とその契約者たちの集団である。

 『あるがままであるべし』とロウの活動の邪魔をしている内に、法を乱す邪悪なる混沌という意味でChaos(カオス)と呼ばれるようになった。

 

 シスカは前者のロウに属している身だ。エターナル全体では最も大きな集団だが、彼女が今回の任務に不満を持つように、決してまとまりがいいというわけではない。

 

 ロウ・エターナルという組織も一枚岩ではないのだ。

 全ては第一位永遠神剣のためにと言っても、そこには一人一人違う様々な思想が入り混じってくる。

 そして最終的に、《宿命に全てを奪われた少女》ミューギィと《虚空の拡散》トークォを頂点として、残る者たちが二つの派閥に分かれたのだ。

 

 即ち、法皇派と皇帝派。

 

 法皇派のトップは、名が示している通り《法皇》テムオリンだ。エターナルの中でも上位の実力を持ち、腹心である《黒き刃》のタキオスを筆頭に数多くのエターナルを部下に抱えていた。

 そう。『いた』のだ。過去形である。

 とある事件により、テムオリンと他複数の幹部と部下を残して、それ以外の全てのエターナルがミューギィによって完全消滅させられてしまったのだ。

 この事件により、法皇派は勢力の大部分を縮小された。

 

 それを見逃す皇帝派ではない。この機に乗じてロウ内部の仕組みを一気に皇帝派に染めてしまおうという動きもあった。

 しかしそれは叶わない。やや遅れて皇帝派にもとんでもない事件が起こったのだ。

 盟主《皇帝》アルバの殺害。しかも多世界に分離させていた永遠神剣第二位【創世(そうせい)】の情報媒体さえも根こそぎ消滅させるというおまけつき。

 それと同時に、皇帝派に属するエターナルが五人も滅ぼされる。こちらも同じく神剣から分離させた情報媒体も消滅されてしまったので、媒体を元にして体を再構築することも叶わず、その他にも甚大な被害が出た皇帝派は勢力を大きく削られる羽目になったのである。

 

 こうなってしまえばもはや派閥だの勢力だの言っている場合ではない。残るエターナルたちを統合し、ロウ・エターナルを再編しなければ組織の活動にも支障が出る。そうなれば敵対しているカオス・エターナルともまともに渡り合えず、自然消滅しかねなかった。

 幸いと言うべきか、テムオリンを始め、組織をまとめる能力を持つ者がそれなりに残っていたこともあり、なんとか組織としての活動ができる程度に被害は治められた。

 

 問題はその先だ。

 何故かミューギィは一切の動きを止め、近付くことさえ叶わなくなった。

 唯一彼女に近づけるトークォはその側を片時も離れようとしない。

 実質的にトップである二人がいなくなったようなものであり、これ幸いとばかりにテムオリンがロウ・エターナルを自分の好きなように動かし出したのである。

 

 皇帝派の生き残りにとって、これは堪ったものではなかった。

 シスカはかつて第四位【謎掛(なぞかけ)】の主として、多次元世界の成り立ちと根源を探る旅を繰り返していた。その果てに第三位【超克(ちょうこく)】と契約してエターナルとなった彼女は、自らを《超越の使徒》と名乗り、ロウ・エターナルに加わった。

 そこで出会ったアルバの思想に心を打たれ、皇帝派に己の力を捧げると決意したのだ。決してテムオリンの思想に感じ入ったのではない彼女は、法皇派を毛嫌いしているのである。

 

 何が言いたいのかというと――シスカは今回の仕事に全く気が乗らなかったのだ。

 その心の持ちようが仇となり、この日が彼女の命日となる。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 それらしき気配のある場所に着き、シスカは地上に近づく。そこは山の中腹辺り、深い森の中で少しだけ開けた広場になっていた。

 そこにいたのは人間だった。

 男である。黒髪の下にある顔は若く、少年と青年のちょうど中間……どちらかと言うと少年寄りか。小奇麗な紺色の服からは清潔さが伺える。

 目を閉じたままやや顔を上向け、何をするでもなくただそこに立っているようだ。

 

(本当に?)

 

 否――見た目で受ける印象を、シスカは即座に否定する。

 何故なら感じるからだ。この者が纏う神剣の気配を。

 

 油断はしない。天敵である猫に噛み付く窮鼠もいるように、どれだけ矮小な存在であろうと上位の存在に牙を向くのが命あるものだとシスカは理解している。

 例え自分がエターナルであっても、それが絶対的な有利になる理由にはならない。現に神剣を持たない身でありながらエターナルと渡り合った者さえ存在するのだ。

 慢心は身を滅ぼす毒である――【超克】と出会う前からある己の信条に従い、気持ちを引き締める。

 

 そんなことを考えながら広場に降り立ったシスカに気付いたのか、少年は目を開いてこちらに顔を向ける。

 

「もう来たのか。けっこう早かったな」

 

 驚いた様子はない。自分が来ることが分かっていたような物言い。

 

 シスカは警戒を強める。永遠神剣を持つのなら、自分がエターナルであること――少なくとも超常存在であることは感じていよう。なのに動揺が見えないとは。

 こういう状況に慣れている?

 もしくは恐れを隠している?

 疑問は尽きない。当初の予定通り、問い質すとしよう。

 

 腰に佩いた刀【超克】を抜き放ち、少年に向かって突きつける。

 

「答えてもらおう。お前は何故ここにいる?」

「誰が言うかバーカ」

 

 ご丁寧にもアッカンベーまでする少年に、些か毒気を抜かれたような気分になる。いくらなんでも、ここまで幼稚な返され方をされるとは思わなかった。

 しかしその気分も、続けて出た少年の言葉を聞いて一瞬で反転する。

 

「けどこっちの質問には答えてもらうぞ。お前、秩序側か?」

「っ!!」

 

 さらりと出た言葉は、その軽い調子とは裏腹に見逃せない重みを以ってシスカに圧し掛かった。僅かに目を見開くシスカを見て、少年は溜息と共に頭を振った。

 

「やーれやれ。さっそく面倒なやつが来やがった……ああもう、ほんっとめんどくさい」

「貴様、何者だ!?」

「だから言わねーっての。けど、そうだな……せっかくここまで来たんだ。何も無しで帰すのももったいないか」

 

(こいつは何を言っている!?)

 

 不可解を通り越し、不愉快さえ置き去りにして不気味に思うほど少年は平静だった。

 そうやって戸惑うシスカを放ったまま、少年が口を開く。

 

「無限の時が鼓動を止め、人は音もなく炎上する」

 

 緊張に身を固めるシスカの前で、少年は『それ』を素早く完成させた。

 

「誰一人気付く者もなく、世界は外れ、紅世の炎に包まれる――封絶(ふうぜつ)

 

 ――世界が、ずれた。

 一瞬だった。気が付いた時には、少年を中心として広がる魔方陣の帯が自分の横を走り、その力を発揮させていた。

 辺りの風景は鮮やかな色彩を失い、明滅する魔方陣の光がやけに際立って見える。

 

(これは結界? 閉じ込められた!?)

 

 シスカは自分の立つ場所――正確には座標が先ほどと極僅かにずれていることを察知した。本来立つ世界とほんの少しだけ座標を移した結界空間に取り込まれたのだ。

 

 恐るべき手腕だった。これほどの結界を張るための魔法、その術式構築やマナの収束は超一流と呼ぶにふさわしい技術である。

 しかし何よりシスカの心胆を寒からしめたのは、これほどの大魔法を発動前から目の前にいる自分にさえ隠し、いざ発動させてから刹那の間で完全に効果を発揮させたことだ。

 どんな動作にも必ず隙が伴う。効果の大きい魔法ほど比例してその前後には大きな隙が生まれるものだ。なのに目の前の少年は、魔法を発動するために高めたマナを気取られないように自分の内に完全に隠し通し、その状態のまま結界を展開させる魔法を僅か数秒で構築してみせたのだ。

 シスカは決して気を抜いていたわけではない。だと言うのに気が付けば魔法は発動され、結界に捕らわれてしまっている。

 

 これは、本気で当たらなければ……負ける?

 

「そう睨むなよ。ほら、遊ぼうぜ」

 

 眼差しに込められた敵意を笑って受け流し、少年は軽く跳躍する。膝も使わない少ない動きにも関わらずシスカよりも高く跳んだ。途端に渦巻いた風がその体を掬い上げ、空の高みへ連れて行く。

 

「逃がすか!」

 

 無論、シスカが黙って見送るはずもなく、自分も両足に力場を作って空中を駆け上がった。

 後を追いながら少年への対応を考える。

 

 とにかく不審の一言に尽きる。永遠神剣の契約者なのだろうが、それらしい得物は見えない。隙を突こうと体内に隠しているのか。少なくとも相当の実力者であることは確かだ。

 恐らくこちらの問いに真面目に答える気はないだろう。こちらの敵意を受け流したあの目つきには間違いなく嘲りの光があった。舐められていると思うと業腹だが、油断をしているとも取れるので先手は取りやすいかもしれない。

 取り押さえて尋問することは、難しいかもしれないが不可能ではないだろう。しかし果たしてそうするだけの価値を見出せる状況だろうか? 手を抜いてあの少年に勝てるとは思っていない。戦いの最中に余計なことに気を囚われていると思わぬ隙が生まれかねないのだ。

 そうだ、元々ここはあの気に入らない法皇の管轄なのだ。何故自分が危険を犯して生け捕りにするなどとわざわざ骨を折らねばならない。あの少年が侵入した異分子なのだろうが、面倒はあの女に任せて自分はさっさと事を終わらせよう。

 結論――全力を以ってあの少年を葬る。

 

 定めた心の在り様に【超克】が歓喜の声を上げて力を送り込む。この神剣は立ち塞がる壁、疑念、試練を乗り越えんとする志の強さを力の糧とする。

 相棒から得た力でさらに速く高く舞い上がり、動きを止めた少年と対峙した。

 

「観念したか?」

「あーっとね、やる気満々になってるとこ悪いんだけど、俺は俺でちょっと確認したいことがあるんだよ」

 

 【超克】を握り締めるシスカの前で少年は飄々とした態度を崩さない。

 努めてそういう態度をして見せているようには見えなかった。この少年、自然体でありながらこうも他者を侮っているのか。

 

「ずっと長いブランクがあってさ。自分なりに鍛え直したつもりなんだけど、ちゃんと鍛えられているかいまいち自信が持てないんだ。俺ってば臆病者なんで」

 

 だからさ、と言って少年は人差し指を立てて――

 

「先手は譲るよ。一発攻撃を仕掛けてみてくれ。俺はそれを受けるから」

 

 ――とんでもない発言をした。

 唖然とするシスカを見て、少年はさらに続ける。

 

「別に遠慮することはないんだぞ。あんたの一番強い攻撃をしてくれていいし、力を溜める必要があるならそうしてくれ。何ならこの一撃で俺を殺したっていい」

「ふざけるな……!」

 

 意図は分かる。要するに彼は自分を実験台にしようとしているのだ。

 

 シスカは自分が最強であるなどと思い上がってはない。ロウ・エターナルの中だけで見ても自分より強い者は数多くいるように、上には上がいることをよく知っている。

 かといって自分を卑下しているわけでもない。【謎掛】や【超克】と共に今まで積み重ねてきた研鑽はそのまま自負になっているし、ロウの皇帝派に属しているこの身はそれ自体が彼女の誇りである。

 だからこそ、会ったばかりなのにも関わらずこちらを侮る少年の態度が許せなかった。

 

「いいだろう……そんなに死にたいのなら、我が最強の技で葬ってくれるわ!」

 

 侮っているならそのまま殺してやろう。

 罠に嵌めようとしているなら諸共打ち砕いてみせよう。

 舐めてかかる少年への怒りの意志に同調して爆発的に高まるマナがシスカの身を包んだ。

 

 自身の内と周囲のマナを制御下に置く。無差別に散らすのではなく、怒りの感情さえも力の糧として一つに束ねる。

 束ねた力をオーラフォトンへと変え【超克】に伝わせる。鋭利な刀身を包むマナが伸び、十メートルを超える長大な刃を形作った。この時点で竜種を一刀の下に両断できるほどの力が込められているが、シスカの本領はここで終わらない。

 彼女の意志に従い、刀身を包む巨大なマナが収束していく。そう、縮小ではなく収束だ。込められたマナ量を変えず体積だけを縮め、どこまでもその密度を高めていく。覆うマナが輝き、眩く彩られた光の剣が現れた。

 燦然と輝く【超克】を両手で握り締め、大上段に構える。宣言した通り、自身の最強の技で少年を一撃で葬るために。

 

 使徒剣(アポステル・セイバー)と名付けたこの技は、ただ大量のオーラフォトンを込めた斬撃ではない。刀を覆う光に隠れて目には見えないが、【超克】の表面に幾つもの小さな魔方陣が隙間無くびっしりと浮いている。

 この魔方陣は、浮かんだ対象の運動を加速させる効果を持つ。一つ一つは単純で性能も低いが、数多くの陣が作用し合うことで驚異的な加速性能を発揮するのだ。

 かつてタキオスと手合わせした時に繰り出したこの技の斬撃速度は通常の二十倍。愚直なまでに強さと速さを突き詰めた刃は彼の強固な障壁を切り裂き、その体躯に傷を与えるに至った。

 あの時より、この斬撃はシスカの確かな自負になった。さらに研鑽を積んだ今、三十倍に達しようかという加速性能を持つ。

 

 相変わらずヘラヘラ笑う少年に向かって、一度正眼に構える。そこからもう一度【超克】を上段に構えようとして、気付いた。

 こちらに向けられた少年の指から僅かな力を感じる。見ればその指先に小さな光の玉となったオーラフォトンがあった。

 だが、それがどうしたというのだ。

 あんなちっぽけな力でこの使徒剣に対抗すると言うのか。片腹痛い。どんな策があろうと、その策ごと真っ二つにしてくれる。

 

「消え果ろ少年、我が刃によってマナの塵となれ!」

 

 再び【超克】を上段に構え、シスカは少年に向かって突進した。

 【超克】のオーラフォトンに引きずられ、空間に漂うマナが変質して白く輝き、空を翔る一筋の流星を描く。

 繰り出されるのは絶対の剣閃。何人もこの刃を防ぐことはあたわざる――強き意志を以って振り下ろす!

 

 ――その剣閃に合わせるように、少年は指を動かした。

 

 白光が視界を満たし、耳障りな高音が響き渡った。

 ありえないはずの強い抵抗を感じてシスカは目を剥く。

 

 露になった光景に、シスカは目を疑った。

 振り下ろした【超克】。添えられるように接する少年の人差し指。

 油断も慢心もなかった。加減など考えず、間違いなく自分に出せる全力の一撃を放った。

 その攻撃が、指先一つで防がれたというのか!

 

「ふむ、なるほどね」

 

 ポツリと呟いた少年から一気に飛び退く。

 イテテ、と痛がって手を振る少年を見ながらシスカは驚愕の中にいた。

 

 触れていた【超克】を通じて、あの小さな光の玉に込められていた異常な量のオーラフォトンがはっきりと感じられたのだ。少なく見積もっても使徒剣の十倍近いマナを感じた。そんな途方もない量のマナを一点に凝縮するなど……いや、できるからこそこうして無事でいられるのか。

 たったあれだけで使徒剣を受け止めるなどありえない、という思考をあっさり覆して逆にシスカは納得してしまったのだ。

 考えてみればそうおかしなことでもない。この結界を展開させるためのマナを顕現もせず自身の内に完全に収束させていたのだ。指先への一点凝縮という難しいマナ操作も、この少年なら不可能では――

 

 そこまで考えてシスカは戦慄した。

 冗談ではない。自分の全力の攻撃を文字通り指一本で事も無げに防いだ。そんなことができる存在などそうそういるものではない。

 シスカの脳裏に浮かぶのはあるエターナルの名。尊敬するタキオスの剣を片手で受け止めたという少年。ロウにとって許すべからざる敵の象徴。

 

「貴様……ローガス、なのか?」

 

 意図せず、漏れる声に畏怖が滲む。

 《全ての運命を知る少年》という二つ名であらゆるエターナルに畏敬と畏怖を抱かせる規格外の存在。敵対するカオスのトップがこんなところに来ていたのか。

 

「はあ?」

 

 対する少年の反応は冷めたものだった。握り開きを繰り返していた手を下ろすとしかめ面でこちらを見やり、心外だと言わんばかりに吐き捨てる。

 

「俺をあんな笑ってばっかの得体の知れないアーパー馬鹿といっしょにすんな。こちとらちゃんと喜怒哀楽あるっての」

 

 失礼だぞ、と憤る少年の言葉を聞いてシスカは軽いパニックに陥っていた。

 確かに噂に聞き及ぶローガスは赤髪の少年。腰に一位神剣【運命(うんめい)】を携え、顔には常に笑顔が浮かんでいるという。目の前の黒髪の少年とは別人なのだろうが、それ以外に思い当たる存在がなかったのだ。

 躊躇いなくローガスを罵倒するこの少年は、恐らくカオス・エターナルとも繋がりがないのだろう。だからこそ、その正体の不明ぶりに拍車がかかる。

 ローガスではないというのなら、この少年はいったい何者なのだ。これほどの実力者が知られていないはずがないのに、シスカにはまったく見当が付かない。

 

「よーし、今度は俺の番ね。第八段階の解放を宣言する」

 

 混乱するシスカを放ったまま、無造作に右の腕を横に伸ばして少年は口を開いた。

 

「逢魔が時に秘められし汝を顕せ――【黄昏(たそがれ)】」

 

 その言葉に反応して凄まじい勢いでマナが渦巻き、その腕に収束していく様子がシスカには見て取れた。

 やがて収束したマナが手首の周りに凝り、輪の形になって――現れなかった。伸ばされた少年の右腕に姿を見せないのだ。

 だがシスカの目には、収束したマナが不可視の腕輪を形作る様子がはっきりと見えていた。

 

「それが貴様の永遠神剣か」

「ん、まあ、そんなところかな」

 

 不可視ではあるものの、それは単純に目だけで見た場合の話だ。シスカの感知力ではそこに存在することはありありと感じられる。

 【黄昏】と呼んでいたか。やけに大きく角ばった腕輪だ。あれでは腕を振る時に邪魔になりかねないし、腕輪を構成する部分同士に奇妙な隙間がある。まるで変形することが前提であるような形だ。

 

「そんじゃ俺のターンね。あ、別に無理して耐えなくていいぞ。どっちにしろ殺すから」

 

 さも当たり前であるように言い放ち、少年は腕輪に抱かれる右手を高々と掲げた。

 

「黄昏よりも暗きもの。血の流れよりも紅きもの。時の流れに埋もれし偉大なる汝の名に於て、我ここに闇に誓わん」

 

 少年の詠唱に同調して掲げた右手に桁外れのマナが収束していく。練り上げられたマナは黒のオーラへと姿を変え、恐怖の権化として顕現する。

 

「我等が前に立ち塞がりし全ての愚かなる者に、我と汝が力以て、等しく滅びを与えんことを」

 

 信じ難い密度で凝る力。

 闇よりも尚深い虚無を思わせる暗黒の塊。

 それを見て、今度こそシスカは理解した。

 

 間違っていた。舐めてかかっていたのは自分の方だったのだ。

 油断をしている? 違う。あれは余裕の表れだ。

 この少年は、本気を出さなければ勝てない、というレベルの相手ではない。

 形振り構わず全力で逃げ出したとしても生き延びれるか分からない、正真正銘の化け物だ!

 

「っく!」

 

 反転し、可能な限り足の力場にオーラを注いで全速で駆け出す。少年との間が一気に開き、その姿が小さな点になるまでそう時間はかからなかった。

 尤も、今のシスカには振り返って少年の姿を確認するほどの余裕はなかったので、その小さな点となった少年の姿を視認できなかったのだが。

 

 そして、その少年が次に何をするのかも。

 

「なんだ。突っ張りあいじゃなくて鬼ごっこがお望みか?」

 

 そう言って、少年は暗黒の塊を右手に保持したまま、左手の人差し指と中指を揃えて自分の額に当てた。

 

「それならそれでいいけどさ――逃がさないよ」

 

 

 

 

 

(ありえないあるはずがないあってはならない!)

 

 空を翔るシスカの脳裏ではひたすらこのフレーズが繰り返されていた。

 確かに突出こそしていないが、それでもエターナル全体から見れば決して弱いわけではないシスカの斬撃を指一本で受け止めてみせたのだ。何よりあの得体の知れなさが恐怖を倍化させる。混乱するのも無理もない。

 

 それでもシスカの中に残る冷静な部分が、逃走の必要性を訴えていた。

 元々彼女は調査のためにこの世界に来ていたのだ。看過できない異分子を発見したと報告する義務がある。然る後に体勢を整えた上であの少年に対処すればよい。何も単独で当たる必要はどこにもないのだ。

 逃げ帰ったことをあの法皇に嘲笑われるだろうが、生き延びれば挽回の機会はある。無駄死にこそがもっとも恥ずべき行いだとシスカは心得ていた。

 

 さしあたってはこの結界を脱出しなくてはならない。

 結界の脱出方法は主に二種類ある。

 一つ目は、展開された魔方陣の核の破壊、この場合はあの少年を殺すことだ。この方法はどのような結界であろうと適応される最もポピュラーなやり方だ。何しろこの上なく分かりやすい。維持するためのマナの供給がなくなれば結界は自然と消滅するのだから。

 しかし、あの少年を殺すなどシスカには思い浮かべることさえできなかったので、この方法は破棄せざるを得なかった。

 二つ目は、結界の綻びを抉じ開けることである。こちらは少年をどうこうするのではなく、シスカ自身の技量が物を言う分野だ。隙間を見抜く目と、外への道を切り開く力さえあればいい。

 

 まずは綻びを見つけなくてはならない。このまま少年から逃げ回りながら結界を構成するマナを調べ――

 

「よ、また会ったな」

「っっ!!??」

 

 ――られなかった。

 前触れなく目の前に現れた少年に腰を抜かしそうになりながら、方向転換を試みる。

 しかし最高速で飛んでいた身ではそれも叶わず、自ら少年の間合いに突っ込むことになり、

 

「んでタッチ」

 

 あの暗黒の塊が保持された右手が突き出された。

 

竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!!」

 

 少年が叫んだ力ある言葉に従い、虚無が解き放たれる。

 極大の爆発がシスカを襲った。球状に膨らむ闇の奔流はその勢いを地表にまで伸ばし、樹木や山肌を蹂躙する。

 咄嗟に張った七枚重ねの障壁も瞬く間に破壊され、シスカは暗黒の渦に飲み込まれた。

 

 そこからどうやって逃げ出せたか、はっきりと思い出せない。

 気が付けばシスカは死を思わせるあの闇から逃れていた。爆発は余波を残して消え、未だ鳴動の鳴り止まぬ空間の中、必死に体勢を立て直して宙に浮く。

 

「ぐ……っは……」

 

 被害は甚大である。たったの一撃で既にシスカは戦闘続行が難しいほどのダメージを負ってしまった。障壁を張るためにかざした左腕は肘から先がズタボロだ。マナも随分と消費している。

 しかし幸いと言うべきか、行動不能になったわけではない。

 辺りにまだ漂う爆煙に紛れてこの場を離れて、早く結界の綻びを探さなくては。

 

 だがそれは叶わない。動こうとしたシスカを逆巻く風が取り囲み、その体を押さえつける。

 風によって煙が吹き散らされて清浄さを取り戻した視界の中、薄笑いを浮かべた少年がシスカを見据えていた。

 

「だから逃がさないって」

「く……おのれ……!」

 

 最早成す術もないシスカにできることは、忌々しげに少年を睨みつけることだけだった。脱出を図ろうにも、弱った体を押さえる縛鎖の風は小揺るぎもしない。たかが風とは侮れない、敵ながら見事なマナ制御の賜物だ。

 

「もう十分足掻いただろ? これでお終いだ」

 

 そう言って少年は右腕をシスカに向ける。すると不可視の腕輪【黄昏】が光り、その姿を現した。

 青と白のパーツで構成された腕輪の周りに花びらのような緑の文様が浮かぶ。膨れ上がったマナが変形し、掌から伸びる指のように五本の歪な棒が大きく広がる。向けられるそれはさながら砲台のよう。

 そこに異質なマナが充填されていき、砲口から虹色の光が漏れ出てきた。

 

 ゾクリ、と背筋に悪寒が這い寄る。

 あれを食らってはいけない。心が、全身が、【超克】までもが悲鳴を上げて訴える。

 

 不意に、シスカの脳裏に閃くものがあった。

 あの光を、自分は知っているのではないか。

 見たことがあるのか。それとも聞いた覚えがあるのか。不吉な印象を与えるあの光、少年の姿。あれのことをどこかで――

 

 ………………

 …………

 ……

 

「何故だ! どうして盟主が殺された!」

「落ち着かないかシスカ」

「黙れ! そもそも貴様が側にいながらどの面を下げて――」

「僕が悔しくないとでも思うか!!」

「……!」

「編成した僕を含む追撃隊は全て撃退され、途中でカオス・エターナルに横槍を入れられた。できたのは生き残りを回収して逃げ帰ることだけ。それが現実だ」

「くっ……」

「ねえシスカ、覚えているだろう? アルバ様の教えを」

「……過程がどれだけ惨めであろうと最後に笑う者が勝者、か」

「そうだ。主を失い、仇からおめおめ逃げ帰った僕らは確かに惨めさ。それでも生きていれば汚名返上の機会は必ず来る。神剣の意志を担う我々にとって、無駄死には最も愚かな行いだ」

「……そうだったな。すまなかった」

「こうなれば四の五の言っていられない。法皇派の連中とも連絡を取らなければ」

「しかし、いったい何者の仕業なのだ? 何か特徴は?」

「強かなやつだったよ。残した情報は少ないけど――」

 

 ……

 …………

 ………………

 

(そうだ、私はあれを知っている……!)

 

 昔、シスカが任務で主の下を離れていた時に、皇帝派の本拠地としていたある世界が襲撃を受けたのだ。

 帰還したシスカは驚愕した。エターナル最大とも言える勢力の一角ロウ・エターナルの一派が襲撃され、なんと盟主《皇帝》アルバは殺されたというのだ。しかも、怒りに囚われた彼女を諭した幹部のエターナルが言うには、敵はたったの一人とのこと。

 

 世界を消滅こそされなかったものの、更地にするどころか混沌と呼べるほど破壊されまくった場所からは残留思念を読み取ることもできず、敵の情報は極少ないものしか判明していない。

 分かっているのは名前と、七色の――

 

「貴様、それは……! その力は……!」

「ん? あーそうか、これのことは知られてるのか。分かっちゃった?」

「果て無き者……タクミ!!」

「自己紹介はいらないね。まあ、そっちはしてくれなくていいけど」

 

 何ということか!

 この少年こそが、自分たちが探していた仇だったのだ!

 彼の《皇帝》アルバを下し、多くの同胞を手にかけた張本人!

 我等の盟主を殺した憎き怨敵!

 

 その瞬間、シスカから恐怖が消えた。全身の痛みも、マナを消耗した自身の危うさも忘れ、ただ目の前の少年――タクミへの憎悪が心を満たす。

 そのシスカへ、タクミは変わらず緩んだままの表情で言い放った。

 

「そんなわけだからさ、俺の『娯楽』のために死んでくれ」

「く……くっそおおおおお!!!」

「データドレイン――発射」

 

 迸る七色の光が視界を埋め尽くす。

 その閃光が自分の体を貫いた時、シスカは己を構成する根源的な何かが失われたことを悟った。

 数秒の内にその体は崩れ出し、虚空に溶けて消えていく。痛みは無く、意識さえ混濁の果てに薄れ、何も考えられないまま最期を迎えた。

 

 こうして《超越の使徒》シスカは、彼女の仇の手によって消え去った――永遠に。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

「ふー、お邪魔虫の排除完了、と」

【ついてないね、渡ってすぐ見つかっちゃうなんて】

「仕方ないさ。ロウには神経質なやつらが多いからな。管理してる庭に余所者が紛れてりゃ気にもなる」

 

 喚いていた女性のエターナルが消滅したことを確認すると、匠は大きく息を吐いた。いい仕事をした、とばかりに額の汗を拭う。

 しかし匠も、【悔恨】が言うように、この世界に訪れて一日もしない内に見つかるとは思っていなかった。あのエターナルもそれなりに有能ではあったらしい。自分にはどうでもいいことだが。

 

「何にせよ、さくっと片付けられたわけだし無問題(モーマンタイ)だ」

【おいおい、オレのおかげだってこと忘れんなよ?】

「分かってるって。感謝してるよ」

 

 匠の右腕で、呼び出された神剣が声を上げる。

 第三位【黄昏】。この腕輪型の永遠神剣は、匠が【最後】と契約してから割と早い段階で生み出された神剣だ。彼には他の神剣にはない特殊な能力がある。

 

 データドレイン。貫いた対象の存在情報を貪り、奪い取る異質の技。

 エターナルは生物と言うより情報としての側面が大きい。故にその情報に揺らぎが生まれると途端に存在が危うくなる。データドレインはその情報を破壊して、マナへと還元して吸収する技だ。使う前、予め対象の情報に届きやすくするために大きなダメージを与えて消耗させておかなければならないが、効果は折り紙つきである。

 また、ほとんどのエターナルが保険のために別世界に安置してある情報媒体もデータドレインは逃がさない。本体との繋がりを辿って全てを分解して吸収してしまうのだ。

 まさに対エターナル専用の必殺技である。

 そしてエターナルを殺すということは、情報を止めること。死人に口無しと言うように、匠に関する情報の流出を阻止して、その存在を隠蔽するのにも一役買っている。

 

【んじゃ、オレはそろそろ戻るぜ】

「ああ。吸収したマナはいつものように無限の剣界(なか)に振り撒いといてくれ」

【またねー【黄昏】ー】

 

 匠と【悔恨】に見送られて【黄昏】は姿を消した。

 

 さて、と匠は思考を改める。

 あのエターナルは反応を見た限りロウ所属のようだった。彼女を殺したことで、無視できない異分子がこの世界に侵入していることは連中にバレてしまったに違いない。

 看過できない存在を排除しようと、再び誰かを仕向けるだろうか?

 

(いや、それはない)

 

 確信を込めて匠は断ずる。

 異分子という括りで考えるなら、調査に来た先ほどのエターナルもそうなのだ。調査が目的なのにうっかり邪魔をしてしまっては本末転倒。既に舞台の幕は上がっている。引っ掻き回して物語を崩しかねない行為は慎むはずだ。

 であるなら、今後は横槍を入れられる心配をしなくてもいい。少なくとも当分の間は大丈夫だろう。

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、匠は色々なことを考える。一歩間違えればかつての倍以上の敵を作りかねない今の状況を娯楽に見立て、心から楽しそうに。

 ああ、こんなに楽しい気分になったのは久しぶりだ。またとないこの機会を心行くまで堪能させてもらおう。

 

「感謝するぜ。燻ってるしかなかった俺にこぉんな娯楽を与えてくれてよ」

【ほんとラッキーだね。お膳立ては整っていて、しかも入場料までタダだしさ】

「まあ、こっそり舞台の端っこに忍び込んだってのが正しいんだが」

【あはは。でも来ちゃったからには楽しもうよ。邪魔するつもりはないんでしょ?】

「とーぜん。せいぜい踊らさせてやるさ……やつらの好きなように」

【楽しい舞台劇のはじまりはじまり~】

 

(そう、邪魔はしない。せっかくの面白そうな舞台を壊したりはしないさ。飛び入りゲストとして参加させてもらうよ。たっぷりと楽しませてもらうぜ……)

 

「くっくっくっく……ふははははは!! あーっはっはっはっは!!」

 

 封絶の結界が薄れ、彩りを取り戻していく夜空の中、匠はいつまでも哄笑し続けた。

 

 

 





【こんにちは、次回予告の席にて司会を務めます【悔恨】です。この度は、果て無き物語の序章が無事に終わりを迎えられたことに喜びを、お読みいただいた読者の皆様方に感謝の意を申し上げます】
【……【悔恨】、何やってんだ?】
【あ、【黄昏】ってばそんなとこにいないでこっち来て。今日はめでたい日なんだよ。作者の念願だった自作SSの序章が終わったところなのよ。作者が感謝の気持ちを表したいらしくて、私たちを通じてこの場を借りたんだってさ】
【そりゃあそうと、さっきの薄ら寒い口上は何だよ】
【それひどーい。私が一生懸命考えたお祝いの言葉だよ。薄ら寒くて悪かったね】
【ああ、悪いね。あまりにも変すぎて来たところ間違えたかと思ったぜ】
【ぶーぶー、相変わらず口汚いでやんの】
【うっせえな、グダグダ言ってないで次に進むぞ】
【ちょ、ちょっと、司会は私n】

【ちっす、始めましてだな。オレは腕輪型の永遠神剣、第三位【黄昏(たそがれ)】だ。元ネタは『.hack』(サイバーコネクトツー/バンダイ)っつーテレビゲームで、そこに登場する黄昏の腕輪っていう名前の目に見えない腕輪だ。
 主人公が持ってるんだが装備の一種じゃなくて、パソコンにインストールしたソフトみたいな、特殊な能力なんだよ。まあ、詳しいことが知りたきゃゲームをやってくれ。説明めんどくせえや】
【……少なくとも、能力の説明くらいしたら? 読者のみんなに分かってもらえないとここに呼んだ意味ないじゃん】
【何拗ねてんだよ? じゃあサラッと説明するか。黄昏の腕輪の能力は基本的に二つ。データドレインとゲートハッキングだ。
 データドレインは名前の通り、情報を吸収する力だ。敵のプロテクトを壊し、剥き出しになったデータを奪い取って弱体化させる。すげえタフな敵がいるとするだろ? そいつにがんばってダメージを与えても回復されたら意味ないじゃん。データドレインはその敵のレベルや最大HPを削るんだよ。『.hack』では主人公たちの弱い攻撃でもあっさり倒せるくらいに弱めるんだけど、匠がオレを使う時は即死攻撃になるんだよな。たぶん続編の『.hack//G.U.』のデータドレインとごっちゃにしてるんじゃないかな。
 ゲートハッキングも名前通り、裏技を使って閉ざされた門を開く力だ。『.hack』ではウイルスコアっていうアイテムが門を開く鍵みたいなものなんだけど、オレの場合は『門』のプロテクトを抉じ開けて通り抜ける隙間を作るんだ。ただ、これって正しい開け方じゃないからな……力技ってわけじゃないんだけど、どうしても歪な感じが残っちまうから匠は嫌いみたいなんだ。だからゲートハッキングはあまり使ったことがない。
 さて、説明するのはこんなところかな。結構しゃべって疲れたわ】
【……結局たくさん説明してるじゃない】
【だから何で拗ねてんだよお前は。言うこと言ったからオレはもう引っ込むぞ】
【ああ待って質問! データドレインは即死攻撃って言ったけど、誰が相手でも通用するの?】
【いや、これは対エターナル専用の力だぜ。ってか本編でそんな感じのことが書いてなかったか? 生物としての側面が強い相手は存在情報を剥き出しにするのがめちゃくちゃ難しいんだ。ダメージ与えすぎたら殺しちまうからな。使いたくても使えないんだよ】
【なるほどね、オッケーオッケー、疑問解決】
【じゃ、後よろしくな司会さん】

【司会は私なのに……なんか【黄昏】に振り回された気がする……
 き、気を取り直して! 次は能力の説明に入ります!

 封絶(ふうぜつ)は、『灼眼のシャナ』(高橋弥七郎/電撃文庫)に登場する、自在法っていう、まあ一種の魔法みたいなものかな。
 小説内では『存在の力』でドーム状の壁を作って、内部の因果を世界の流れから切り離すことで外部から隔離、隠蔽する因果孤立空間を作り上げる自在法として書かれてるよ。要するに、中で何をしようが外に秘密が漏れない結界を作る魔法なんだね。
 匠が使うのは、自分がいる場所の情報をコピーしてそっくりな空間を一から創っちゃう、似て非なるものなんだよね。効果は同じでも、原作と違って封絶を解いても元の世界には一切影響を出さないから。

 竜破斬(ドラグ・スレイブ)は『スレイヤーズ』(神坂一/富士見ファンタジア文庫)に出てくる、人間が使える中では最強の威力を誇る魔法だよ。
 実際の効果は本編の通り。小さな町なら丸ごと吹き飛ばせるほどの大爆発を生む魔法なの。長い詠唱と爆発範囲のせいで使うことはあんまりないけど、その分使った時の爽快感はピカ一だね。今回のように封絶の中なら気にしないでいいし。

 瞬間移動は『ドラゴンボール』(鳥山明/ジャンプコミックス)に登場する、感じ取った気の持ち主のいる場所に移動するテレポーテーションだよ。
 漫画の中じゃ強さを気って呼んで表現してるけど、これは気配とも言い換えられるよ。永遠神剣シリーズだと、マナを感じるって言えるかな。
 本編では匠がシスカのマナを捉えて、逃げ出した彼女の目の前に一気に飛んだのよ。

 続けて次回予告に移ります!
 少しだけでいい、普通の女の子のように過ごしてみたい――ただそれだけだった。
 一陣の風と共に、少女は少年と巡り合う。
 出会いがもたらすのは幸ある未来か、あるいは呪いの末路か。それは誰にも分からない。
 突如現れた少年の存在は、何の前触れとなるのだろう。
 生まれ持つ責務と心に秘める願望の間で揺れ動く少女は、己の歩む道を決められるのか?

 ……なんか、見る人が見ればすぐ内容が分かっちゃいそうな予告だよね。作者ももうちょいぼかして書くようにすればいいのに。
 まあいっか。色々想像して楽しみにしててね。
 それじゃ、次は第一章で会いましょー、ばいばば~い】

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