そして三年経った今だと「何勝手にムコーダさんを女体化させとんねんボケェ!!」という気持ちすら湧いてくるレベルに心変わりしてしまってて我ながら草。
キールスの街から出発して三日目。
現状、ようやく折り返し地点までたどり着いたか?といったところだね。
時間はかかっているけど、旅路で大きな問題は特に起こらなかった。
魔物が出ればアイアン・ウィルの皆がどうにかしてくれるし。
そしてそのどうにかなった魔物は解体して今日の晩御飯と今後の資金に。
むしろ冒険者に頼んで正解だったかもね。
「もうすぐ日も落ちる。今日はここまでだ。」
ヴェルナーさんの言葉に各々が野営の準備を始める。
私は言うまでもなく料理担当。
暗くなるまでの時間は長いようで短い。
明るいうちに作っておかないと後々困る事になるのと、異世界の地の食基準に合わない事もあるかもしれないので、凝ったものは作れない。
ただ、毎晩コンソメスープとサンドウィッチというわけにもいかない。
いや、本人達はそれで大満足してて文句一つ言わないんだけど、そこは私のなんちゃって料理人の血が騒ぐというか、ぶっちゃけ私が同じメニューなのに耐えられないというか。
なので、今日は軽く焼いたソーセージとレタスをまたこっそり購入したネットスーパー産のパンで挟んでお手軽ホットドッグ。
そして今回作るスープは簡単ミネストローネ風のトマトスープ。
……とかいいつつ、実はこれ、昨日まで作ってたコンソメスープにトマトの水煮缶を入れて煮てるってだけなんだけどね。簡単だけどやっぱり味の変化って大事だし。
それに、トマトは『トマトが赤くなると医者が青くなる』『トマトのある家では胃病無し』なんて言われる程栄養価の高い野菜。 ビタミンAに変換されて健康維持に役立つβーカロテン、美容に役立つ栄養素として誰もが知っているビタミンC、血管や皮膚の健康を保つ上で重要な役割を持つビタミンE、カリウム、リコピン……等々。
しかも加熱する事でリコピンは吸収率が3倍に……んん、まあ、とにかく。
トマトは凄い野菜って事。
「わあ!今日もおいしそう!」
「熱いので気を付けてくださいね。」
受け取ってすぐにがつがつ食べ始めるアイアン・ウィルの皆。
「うめえ~~~!!やっぱムコーダさんのメシは最高だな!!」
「体の芯からあったまる……毎日これが飲みたいくらいだよ。」
「あはは……気に入っていただけて良かったです。」
いや、ほんとに受け入れてもらえてよかった。
異国どころか異世界の料理だから口に合わなかったらどうしようかと思ったよ。
予想以上に料理を気に入ってもらえたみたいで一安心。
「やっぱり料理がおいしいお陰かな、あたい、いつもより身体のキレが良い感じなんだよね!」
「私もムコーダさんの食事を頂くようになってから、身体に力が漲るような気がしますわ。」
「だよねだよね!」
……んん……気に入っているとは言え、体のキレが良いとか力が漲るとまでなるかな……私は良く分からないんだけど。
「人にとって食う事は最も大切なことだ。これだけ美味ければ気の持ちようも変わってくるさ」
気の持ちようか……でも、一応鑑定で確かめてみようかな。
================
【 名 前 】 リタ
【 年 齢 】 16歳
【 職 業 】斥候
【 レベル 】18
【 体 力 】135(+54)
【 魔 力 】64(+2)
【 攻撃力 】119(+11)
【 防御力 】107(+9)
【 俊敏性 】138
【 スキル 】短剣術 聞き耳 忍び足
================
「ン゛ッ!!」
「うぇっ!?ど、どうしましたムコーダさん!?」
「ゲッホゲホ!!い、いえ、スープが変なとこに……ゲホゲホッ!!」
な、なにその+54とか+9って……?
もしかしなくてもこの料理のせい……?
まさかそんな訳ないよね?
……鑑定。
【トマトスープ】
異世界の食材を使って作られたトマトスープ。
1時間の間、体力をおよそ20%向上。
1時間の間、攻撃力をおよそ10%向上。
1時間の間、防御力をおよそ8%向上。
【ソーセージ】
異世界のソーセージ。
魔力を10分間およそ2%向上させる。
oh……。
完全にこのトマトスープが原因でした本当にありがとうございました。対アリ。GG。
……こ、これってヤバくない……? 一定時間とはいえ、食べるだけでステータスを底上げする事が出来るって……。依存性の無いドーピングみたいなもんじゃん。
幸い、鑑定スキルは勇者以外は持ってないし、鑑定の魔道具も個人がもてるような代物じゃない……私が口を割らなければバレない、はず……! 異世界の食べ物にステータスアップの効果がある事は絶対に他人に話さないようにしよう……お口にチャックだ。
――――――――――――――――――――――――
【キールスの街を出発して5日目】
「今日はこの辺で野営しよう。」
「それじゃこのレッドボアの肉、ありがたく使わせていただきますね。」
「おう、楽しみにしてるぜ!」
レッドボアというのは、旅路で出くわしてアイアン・ウィルの皆が倒してくれたデカい猪の魔物だ。
ゴブリンや狼の魔物(グレイウルフというらしい)は、肉は臭いし毛皮も硬いしで金になるような素材にならないので倒しても放置していたんだけど、レッドボアは肉も皮も牙もそこそこの値段で買い取ってもらえるらしい。
倒した後は流石は冒険者というべきか、スムーズに解体をしていった。
だが、問題はそのレッドボアのサイズだ。もし仮に馬車があったとしても全部は載せられない程の巨体を誇るレッドボアは、その素材を全て回収して持っていく訳には行かず、ある程度は置いて行かなければいけない。
そこで役立つのが私のアイテムボックスだ!
まだまだスペースに余裕があるから入れるだけ入れていきませんかと言ったらそれならこちらからも是非ともお願いしたいと言われ、骨の一本も残さずアイテムボックスに詰め込ませていただいた。
……まぁ、そのせいで私のアイテムボックスが通常のそれとは明らかに容量の規模が違う事がバレた訳だけど、結果オーライ。
そして、回収した肉はただ持っているだけなのも宝の持ち腐れなので、ご飯の時に出しても良いというお達しが出ている。
今日はさっそくこのレッドボアの肉を使って夕飯の準備をするわけだけども……。
あまり時間をかけるのもあれだし、サッと出来る生姜焼きにしようかな。
まず、豚に……じゃなくて、レッドボアの肉をなるだけ薄切りにする。
肉そのものがデカくて大変なのでここだけ少し手伝ってもらった。
用を足す振りをしてこっそりネットスーパーで購入した市販の生姜焼きのタレに……密閉出来る袋やタッパーだとちょっと目立つかもなので、大きめの木のボウルに入れて漬け込んでおく。
漬けている間に、キャベツを千切りにしておく。それが終わったら、フライパンを弱火で熱してサラダ油を引く。
焼く直前に、肉の両面に薄く薄力粉をつけて、あらかじめ熱しておいたフライパンに並べて、並べ終えたら火を弱火から中火にする。
肉の色が変わってきたらひっくり返す。
……豚肉の要領でやっていたら油が若干足りなさそうなのでちょっとだけ足す。
焼きあがったら、お皿にキャベツと一緒に盛り付けて……完成!
「夕飯できましたよ~。私の故郷の味付けにしてみたのですが、もし合わなかったら言ってくださいね。」
私はそう言いながら、盛り付けたお皿と、トマトスープ、そしてパンを配っていく。……本当は白いご飯で食べたいけどそこは我慢だ……。
「おお、食欲をそそるいい匂い……!」
「見たことも無い料理だけど……これはウマい、俺には分かる。」
「本当にレッドボアの肉なの? 全然獣臭くない……。」
「あたい、この匂いだけでパン10枚はいけるよ。」
「うむ……それじゃ早速いただくとするか。」
誰からともなく一斉に生姜焼きを口に運び、勢いよくかぶりつく。
そして、カッ!と目を見開いて、ガツガツと物凄い勢いで食べ始めた。
ふふん……某社の生姜焼きのタレで焼いた肉はうまかろう……。
「なんだこれッ! うんっめえ~~~!!」
「あたいこんな美味いもん初めて食べた……!!」
「レッドボアの肉はあまり好きではなかったけど、これなら美味しく頂けるわ……。」
「キャベットを生で食うのは初めてだが、この味付けの肉と食うと絶品だな。」
絶賛の嵐だね……美味しいもんね、生姜焼き。
異世界だし、日本の味付けが合わない事もあるかもと思ったけど、この分なら杞憂だったかもしれないね。
あと、キャベツってこの世界だとキャベットって言うんだ。
なんて事を考えながら、自分の作った生姜焼きに舌鼓を打っていると……。
不意にアイアン・ウィルの皆が私を見てピシリと固まった。え、何? と首を傾げると、全員が「う、後ろ……!」と震えながら私の背後を指差す。
何事? と思いながら私が後ろを振り返ると、そこに居たのは……。
『人間、我にもそれを喰わせろ。』
……それは、今までに見た狼の魔物と比べるのも烏滸がましい、銀色の美しく神々しくすらある毛並み、圧倒的な生命としての差を感じる、牛ぐらいはありそうな巨体の、狼の魔物が居た。
『……どうした、聞こえんのか人間。それを喰わせろと言ったんだ。』
「……は、あの……じゃあ、どうぞ……。」
私は、恐怖でブルブル震えながら、恐る恐る今食べていた生姜焼きを木皿ごとその狼の方へと差し出した。すると、狼は木皿に顔を突っ込み、一瞬でぺろりと生姜焼きを全て平らげてしまう。
『美味いが量が足りぬ。もっと寄越せ。』
「あの、つ、作らないともう無くて……作るのに少しだけ時間がかかるので、待ってもらわないといけないんですが……。」
『うむ、ならば待つ。早く作れ。』
それを聞き終わる前に私は跳ねるように立ち上がり、再び生姜焼きを作る。
正直、恐怖で料理中の事なんてなにも覚えていないが、とにかく、あの巨体なんだし多ければ多い程いいだろうと思い、山盛りに作った生姜焼きをまた狼の魔物に差し出す。
「で、出来ました。」
『うむ。』
そして木皿ごと食う勢いで食べ始め……ものの数十秒でぺろりと食べ切ってしまった。
『うむ、美味い。もっと寄越せ。どんどん作って持ってこい。』
「は、はいぃ!」
それからはもう、私は生姜焼き作りマシーンと化していた。流れるように肉を漬けては焼き、漬けては焼き……そしてこの狼の胃の中へと消えていく。
もう無理限界! となったところでその魔物は満足したらしい。
『美味かったぞ。それにしてもお主、これっぽっちの肉で我をここまで満足させるとは、中々やりおるな』
これっぽっちって……あなた7~8キロは食べてるんですけど。
普段はどれだけ食べているんだろう。
『うむ、お主気に入ったぞ。お主と契約してやろう。』
「はぇ……? け、契約……?」
『お主と従魔の契約をしてやろうと言っておるのだ。』
「はぁ……えっと、一応念の為聞いておきたいのですが、その従魔契約というのはどのような物なのですか?」
『なに、簡単だ。お前はこれから我の飯を作れ。その代わり、我はお前に降りかかるあらゆる災厄から護ってやろう。たったこれだけの事で風の女神ニンリル様の眷属であるフェンリルたる我の守護が得られるのだ。悪い話ではあるまい?』
じゃあ目の前の災厄を今すぐ掃って欲しいんですけど……なんて言ったら絶対頭からパクリといかれちゃうよね……これは……。
アイアン・ウィルの皆に無言で振り返ると、彼らはジェスチャーで「いいから言うとおりにしろ!!」「こっちみんな」「機嫌を損ねない内に早く!!」と訴えていた。
こんなんYES以外選択肢無いやん……。
「わ、分かりました。」
『うむ、では近くに寄れ。』
そう言われ、恐る恐る獣の前へと近づく。
『もっと近う。我の目の前まで来るのだ。』
そして、言われた通りに獣の目の前に立つ。
うわ、改めて見てもでっかいなあ……私なんか軽く猫パンチしただけで吹き飛ぶんだろうなあ……。
『では契約の儀式を始める。』
そう言うと、獣は私と額同士をくっつける。
すると、ほんの一瞬、私の身体が仄かに光った後、あっさりと獣は離れた。
「こ、これで終わり?」
『うむ、契約は確かに契られた。……うん? なんだ、お主鑑定のスキルがあるな。召喚勇……「ちょちょちょちょ!!」むぐっ何をする!』
「そ、その事はどうか内密に! 訳は後でお話ししますから……!」
『おお、そうなのか。相分かった。それでは、ステータスを確認してみろ。』
ステータスを? 確認するのはいいけどなんで? そう思いつつ、獣の言う通りに自分のステータスを確認してみる。
【 名 前 】 ヨシコ・ムコウダ
【 年 齢 】 27
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 1
【 体 力 】 100
【 魔 力 】 100
【 攻撃力 】 78
【 防御力 】 80
【 俊敏性 】 75
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス
従魔
《契約魔獣》 フェンリル
【固有スキル】 ネットスーパー
スキル欄になんか増えてる……!? っていうか、フェンリルって……コイツ、フェンリルだったの!? いや、言われてみれば、確かに他に良い表しようがないぐらいフェンリルだわ。っていうか多分さっき自分でもなんちゃら様の眷属であるフェンリルがどうのこうのって言っていたような……。
『うむ、大丈夫そうだな。』
「……っていうか、普通に見えてるんですね。」
『当たり前だ。風の女神の眷属たる我だぞ? 鑑定のスキルぐらい当然持っておる。』
さようで……。
あとで異世界の食材にドーピング効果がある事を教えて黙っていてもらう用に言っておかないと……一応……。
『それでは、三度の飯、楽しみにしているぞ。』
……てか、まって、コイツ風の女神の眷属? なんだよね? 所謂、こう、神獣っていうか……そういう類の存在なんだよね……? そんなのが従魔ってヤバくない? 目立つどころの騒ぎじゃないような……? つーかコイツそんなヤバイ存在なのに私の飯に釣られてホイホイ契約してきた……ってコト!?
『む。おい、そこの者達。我はこの女と契約を交わしたのだ。そのようにビクビクせずとも良い。襲ったりせん。』
声を掛けられてビクッとするアイアン・ウィルの皆。チラ、と私の方にも顔を向けてくるので、私も「多分大丈夫だと思います」と返すも、全員まだ困惑して互いを見合わせてオロオロしている。
『おお、そうだ、忘れておった。お主よ、我と従魔の契約を結んだのだから、我に名前をつけろ。』
「名前? フェンリルというのは?」
『それは所謂種族名というやつだ。それとは別に、従魔としての名前が必要なのだ。』
そうなんだ……まぁ良く分からないけどそういうものなんだと納得しておこう。
「じゃあ、フェルで。」
『……安直だな。まあ妙な名前をつけられるよりかはいいか。では我はこれからフェルである。よろしく頼むぞ、我が主よ。』
こうしてフェンリルの名前はフェルに決まった。
そんな中、私とフェルのやり取りを見ていてようやく動き出したアイアン・ウィルの面々。その中でいち早く立ち直ったヴェルナーさんが恐る恐るといった感じで声をかけてきた。
「む、ムコーダさん……。」
「あ、ヴェルナーさん、大丈夫ですか?」
「い、いや、俺は大丈夫だが……まさか、伝説の魔獣、フェンリルをこの目にする日が来るとは……。」
エッ、伝説の魔獣……? フェルが?
「300年ほど前に目撃したという伝説は残っているが、そのフェンリルと従魔契約を結ぶなど、聞いたこともないぞ……。」
さんびゃくねん……!?
ちょっと待ってよフェル! フェンリルってそんなヤバイ存在なの!? 食い物に釣られて契約するようなフッ軽の癖に!?
『まぁ我らフェンリルは数えるほどしかおらんからな。聞いた話では、700年前に従魔契約を結んだフェンリルがいたらしいが。我も1000年ほど生きているが、契約を結ぶのは初めてだ。』
あ、そ、そうなんだ……ってか1000年も生きてるんだ……へぇ……。
「そんな凄い人……凄い魔獣? なのに、食事の為だけに従魔契約なんてして良かったんですか……?」
『なに、これだけ美味いものが食えるのだ。数十年人間に仕えたところで我に損はない。』
あ、もう食い物に釣られたって事に関しては否定しないんですね。