ナザリックと同格のギルド放り込んでみた   作:ダイアジン粒剤5

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ゲヘナ後

 ナザリック地下大墳墓第九階層、ロイヤルスイート。

 その一角にある談話室にて、ナザリック最高の智者たるデミウルゴスとアルベドは、自分たちを遥かに超える至高の頭脳を持つ主人アインズ・ウール・ゴウンの胸の内を推し量り今後の方策を決めるべく、額を突き合わせて話し合っていた。

 

 「まずは≪ゲヘナ≫の成功おめでとう、デミウルゴス。 この作戦の成功でナザリックは多くの物資を手に入れることができ、王国の半分も支配下におけたわ。 流石ね」

 

 「お褒めにあずかり光栄だね、アルベド。 しかしやはり、この作戦もアインズ様の想定内であったようだ。 私はただ、至高なる御方の計画の一端を預かれた喜びに震えるばかりさ」

 

 穏やかに笑いあう彼らの内にあるのは主君に対する純粋な崇敬、そしてどちらがより主人の役に立ち貢献できるかという競争心だ。

 守護者である彼らにとって、至高なる主人の役に立つ以上の喜びと存在意義の証明はないのだから。

 

 「とはいえ目下最大の敵対勢力であるかのギルドとは、以前大きな差がある。 裏に回り慎重に事を進めてきたのが仇になった形だね」

 

 デミウルゴスの言葉にアルベドの視線が鋭くなる。

 至高なる主人が最も警戒し、同胞であるシャルティアを傷つけた敵だ。怒りを感じぬ者などナザリックには一人たりとも存在しない。

 

 「……確かに支配下においている国は多いけど、所詮は人間共が支配する国でしょう? 雑魚が集まったところで物の数に入らないわ」

 

 「私もそう思ってはいたんだがね。 だが、そうも言ってられなくなった。 これを見てくれ」

 

 デミウルゴスはアインズから渡された報告書を取り出し、アルベドに差し出す。

 アルベドは報告書を受け取ると内容を速読するが、読み進めるほどに、その端正な顔が怒りと驚愕の歪んでいった。

 

 「……超位階まで含む魔法知識や各種スキル知識の拡散に、錬金鍛冶やゴーレム作成などの各種高等技術の伝播に教育、訓練? それにユグドラシル産の動植物や希少金属の配布? 奴らは、ユグドラシルの知識や技術をこの世界の住人にバラ撒いてるの?」

 

 正気か、というアルベドの言葉にデミウルゴスは重々しく頷く。

 

 「私としても正気を疑うが、事実だ。 それどころか、ユグドラシルで培われた戦術や戦法なども伝えているらしい。 ……狂気だよ」

 

 ――信じられない、とアルベドが呟くのも道理だ。

 

 情報や技術は、力だ。

 それをどれだけ持っているか、どれだけ優越しているかで彼我の上下は決まる。

 幾ら支配下においたとはいえ、まだ日も浅い者たちに自らの持ちうる技術や知識を無造作に与えるなど反乱の種を蒔くようなものだ。

 被支配階級にある者は無力な羊、あるいは物を考えず上位者に従うだけの愚者であることが望ましい。

 彼らの持ち高めた技術や知識は全て収奪し、こちらが持つ知識や技術は限られ選別された無害なものしか与えない。

 それが正しい支配者と被支配者との関係なのだ。

 

 「まあ、彼らの正気を議論したところで始まらない。 ……私の個人的見解としては、恐らく正気なのだろうが」

 

 「正気? こんな愚行を正気で行えるなら、それはよっぽどの馬鹿か頭の中がお花畑かのどっちかよ。 奴らは頭の中にお花畑が広がっている馬鹿だと、あなたは思ってるわけ?」

 

 「いいや」

 

 嘲るようなアルベドの問いに、首を横に振ってデミウルゴスは答える。

 

 「我々がこれを狂気の沙汰と思うのは、奴らの目的が我々と同じ世界征服だと仮定しているからだ。 彼らの目的がまるで違うものなら、これはそのために必要なことなのだ。 ――――彼らを馬鹿だと思っているかと聞いたね? そんなこと、君と同じく欠片も思っていないさ。 奴らは至高の御方達には劣るとはいえ、御方達と争っていたプレイヤー達だ。 我々を超える頭脳を持っていることなど、前提条件だよ」

 

 強い口調で断言するデミウルゴスに、アルベドは軽く頭を下げる。 

 

 「ごめんなさい、動揺のあまり不躾な言い方をしたわ。――それで、貴方は奴らの目的は何だと考えるわけ?」

 

 「……君と同じだよ、アルベド。 想像し想定できることは無数にあるが、情報不足でどれも確定的でなく、現時点でソレを考えることは不毛なだけだ」 

 

 報告書を軽く叩き、デミウルゴスは話を続ける。

 

 「アインズ様の構築された情報網のおかげで、我々は奴らの進める表の行動は正確かつ最速で把握できている。 ああ、アインズ様のおかげで我々は情報戦では確実に上回っていると断言できるだろう。 我々が奴らの情報を数多く入手出来ているのに対し、奴らは我々の事を恐らくほとんど把握できていない。 せいぜいがアインズ様の指示で建設された偽のナザリックの場所を知っている程度だろう。 ――だが奴らの真の目的、裏の行動はなかなか補足できない。 隠密能力に長けた高レベルモンスターを放ってはいるのだが、むこうもその程度は警戒しているからね」

 

 索敵・情報収集系の魔法も同様に、である。

 共にユグドラシルのトップギルドだったもの同士、技術系統・水準は同程度であり動員可能な人員の能力も等しいため、それだけでは互いに一方的に優位になることは難しいのだ。

 

 「故に彼らの真の目的を推察することは建設的とは言えない。 今考えなければならないのは、奴らの行動が我々にどのような影響を及ぼすかだ。 ――君はどう考えるね?」

 

 「分かり切っていることを、わざわざ聞くものではなくてよ。 当然、計り知れないほどの損害を負っているわ。 奴らが垂れ流している知識と技術は、ナザリックと同一のもの。 奴らがソレをこの世界の住人に配れば配る程、我々の知的財産と優位性が目減りしてく。 アインズ様がこの世界を支配された際の支配力が落ちてしまうわ」

 

 「その通りだ。 そしてユグドラシルの知識と技術を持つ者が奴らの配下に加速度的に増えていくという事は、奴らと我々との間の戦力差が開いていくという事でもある。 ――早急の対処が必要だろう」

 

 「妨害のためにテロでも起こす?」

 

 「それも一つの手だが、効果は限定的だろう。 それに奴らと正面から全面衝突することにアインズ様は慎重だ。 やるなら我々が直接的に行うのではなく、この世界の住人を裏から扇動し我々の関与を隠す必要があるだろうね」

 

 「――面倒ね」

 

 「ああ、そして効果も薄い。 ……やはりここは王国を完全に支配する形で我々も表の存在となり、表の世界から影響力を行使し勢力を伸ばしていくのが最善だろう」

 

 デミウルゴスの言葉に、アルベドが眉をひそめた。

 

 「王国にはまるで魅力を感じないわ。 それに今のやり方を続けるという事は、形式的であれ人間をアインズ様の上に置かねばならなくなる。 気分が悪いわ」

 

 「私もだよ、だが仕方のないことだ。 奴らは人間至上主義を掲げており、少なくとも表面上はそれを堅持している。 異形種である我々が直接人間の上に立つことは、奴らに有形無形の干渉を受ける口実を与えることになる。 人間の神輿を立てることは必要なことだ。 ――それに、彼女ならば十二分に神輿の役を果たせるだろうからね」

 

 「貴方がゲヘナの前に会ったという、人間の娘のこと? あなたがそこまで言うという事は信頼できるという事だけど、大丈夫なの」

 

 アルベドの問いに、デミウルゴスは力強く頷いて肯定する。

 

 「ああ、とても人間などとは思えない、王国で唯一価値ある存在だ。 折を見つけて君も会ってみると良い、きっと私と同じ結論に至るはずだよ」

 

 そして無論、形式的にとはいえ人間をアインズの上に置くなどという不敬極まる計画を実行する許可は貰っている。

 幾らその全てが至高なる主人の遠大なる計画通りであるとはいえ、そうでなければ不敬極まり過ぎて口にできるものでは無い。

 

 「ではこの後の事も、全てアインズ様の計画通りに?」

 

 「ああ、その深淵なる思慮の全てを把握できているとはとても言えないが、全てはアインズ様の計画の通りに進めるつもりだ」

 

 

 モモンという偶像、王国民にとっての救世主の創出。

 首謀者のみを消し、統率者の無い死都と化させたエ・ランテル。

 魔皇ヤルダバオト、恐怖の象徴たる絶対悪を生み出す魔王計画。

 

 

 この世界に初めて訪れた際にわざわざカルネ村などという人間が暮らす小規模集落を救い、その後ガゼフという王国戦士長を法国と敵対してまで助けたのも、全てはその神をも超える頭脳で全てを見通していたからに違いない。

 すべては、誰もが認める形で王国の支配層に就くために。

 

 「これより私は魔皇ヤルダバオトとして、エ・ランテルそしてカッツェ平原のアンデットたちを率いて王国に戦争を仕掛ける。 無能で邪魔な貴族たちを全て殺し、王国を間引きする。 竜帝が救助の名目で干渉しようとしてくるだろうが、そこは彼女が貴族たちを操り内政に干渉しないよう伝えて止めるだろう。 —―奴らは王国内に我々の存在を感じ警戒してあまり近づいてこないが、それでももしもという事がある。 奴らが強硬な手段をとって来た時の対処は君に任せるが、構わないね?」

 

 「もちろん、アナタがいない間のナザリックの守護は任せて頂戴」

 

 アルベドの答えに満足気に頷くと、デミウルゴスは席を立った。

 

 「では行ってくるよ。 至高なる御方にこの世界の全てを捧げるため、お互い最善を尽くそうじゃないか」

 

 

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