ナザリックと同格のギルド放り込んでみた   作:ダイアジン粒剤5

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魔皇ヤルダバオト

 ――――廃墟と化したエ・ランテルの地から、死の河が奔流となって溢れだした。

 

 

 アンデットを扱う秘密結社ズーラーノーンの手により死都と化した大都市、エ・ランテル。 

 法国・帝国との国境近くにあり、交通の要所でもあったため帰属をめぐって毎年帝国との小競り合いの要因ともなっていた戦略上の要所だったが、死都と化したことにより価値は無くなった。

 その後は小規模なアンデットの群れが周辺の領地を荒らす原因となっていたが、もともと国王の直轄領であったため貴族派閥が奪還のための兵を出すことを渋り、放置されるがままとなっていた。

 

 そんな地から、幾万ものアンデットの群れが雪崩となって溢れだした。

 しかも強大な悪魔たちに率いられた軍団となって、だ。

 

 いくつかの貴族の領地が蹂躙された後、この死の軍団を統べる者は先日王都を襲撃し、迎撃しようとした第二王子ザナックを殺害した魔皇ヤルダバオトであると判明した。

 息子を殺され復讐に燃える国王ランボッサ三世は大号令を発し、王国が動員できる最大戦力である25万の大軍勢を構築し、これを迎え撃った。

 この軍は敵が悪魔とアンデットであるという理由から青の薔薇を始めとするアダマンタイト級冒険者も参戦する、まさに王国の全戦力ともいえるモノだったが――――魔皇の率いる死の軍団を相手に惜敗した。

 ヤルダバオトと互角に戦えるモモンは奮戦したが魔皇を仕留めるには至らず、王国戦士長ガゼフや青の薔薇などの実力者は魔皇軍幹部の大悪魔相手に動きを封じられ、最後は統制を無視し無謀な突撃を行った第一王子バルブロが討たれたことにより大勢は決した。

 王国軍は散り散りになり多くがアンデットと化して魔皇軍の一部となり、王国民にとっての希望であるモモンもまた魔皇との戦いにより重傷を負った。

 魔皇軍はその勢いに乗って王都に攻め入り一日もたたず落城させ、王国は事実上魔皇の手に落ちた。

 

 もう終わりだ。

 自分たちは魂無きアンデットとなり永遠に魔皇の下棒として彷徨い続けるのだ――――王国に住まう全ての者たちがそう絶望したとき、二つの奇跡が起きた。

 

 一つ目の奇跡は辺境の集落、カルネ村から起きた。

 エンリという名の少女が率いる軍団が、魔皇の率いる死の軍団を打ち破ったのだ。

 それはゴブリンを主力にオーガ、トロール、ナーガ、そしてかつてエ・ランテルが滅んだ際に逃れた難民たちで構成された混成軍だった。

 彼らはそれぞれの種族の特性を生かした戦法で死力を尽くして戦い、防衛戦とはいえ大悪魔が率いる死の軍を退けた。

 戦略的には意味のない勝利だったが、その勝利は絶望の淵に沈んでいた王国民たちの心に希望の火を灯した。

 

 そして二つ目の奇跡、それはモモンによりもたらされた。

 モモンが自分の父だという大魔法詠唱者、アインズ・ウール・ゴウンをランボッサ三世に紹介したのだ。

 死霊魔術を扱うというアインズの手を借りることに一瞬躊躇したランボッサ三世だったが、最も信頼する家臣であるガゼフがかつてアインズに助けられたことがあり、信頼し尊敬できる人物であると太鼓判を押したため、その力に縋ることを決断した。

 そしてランボッサ三世は自らアインズの下に出向きその場で跪くと、アインズに助力を懇願した。

 大魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンは助力を快諾し、魔皇への反撃が始まった。

 

 第一の奇跡の地であるカルネ村もかつてアインズに助けられた過去があり、協調路線は容易く取られた。

 そしてアインズ傘下の死の騎兵500とカルネ混成軍、そして王国軍残存兵からなる連合軍は王都奪還作戦を遂行し、見事に王都を取り戻すことに成功した。

 その後連合軍はアインズの死霊魔術によって魔皇軍のアンデットを自軍に引き抜きながら制圧された各地を解放して回り、ついにヤルダバオトを始まりの地であるエ・ランテルにまで追い詰めたのだった。

 

 

 

 王国における魔皇の最後の牙城となったエ・ランテル。

 かつてよりも更に重厚に、そして高くなった城壁の周りをヤルダバオト配下の悪魔とアンデットたちが陣を布き防備を固めている。

 その威容を、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは傍らに立つ仮面の魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンと共に睨み付けていた。

 

 「……あれほどの城壁は、生まれてこのかた見たことが無い。 あの悪魔とアンデットからなる防衛線も強固なものだ。 ゴウン殿、疑うわけではないが、本当にアレらに魔法の一撃を以て風穴を開けられるのですか?」

 

 仮面の魔法詠唱者アインズは、ガゼフの問いに力強く頷いて答える。

 

 「御心配には及びませんよ、ガゼフ殿。 私の魔法ならばあの程度、造作もなく打ち破れます。 ……とはいえ、その魔法は私にとっても大魔法。 基本となる十位階を更に超えた位階にある魔法です。 そうですね、……十年。 次にその魔法を撃つには十年、魔法の力を溜める必要がありますが」

 

 「なんと、それは……!」

 

 アインズの言葉を聞いたガゼフは感涙し身を震わせ、深々と頭を下げた。

 

 「そのような大魔法を我らのために……! この戦は本来、ゴウン殿には関わりなきこと。 それを我らを助けるために参戦してくれたばかりか、そこまで……! とても言葉に尽くせるものではありませんが、王国に棲む全ての生者を代表して、貴公に感謝しますゴウン殿……!」

 

 ガゼフの余りにも真摯な感謝の言葉に、アインズは慌てたように手を振って答えた。

 

 「あ、いや、そこまでのことは……。 ほら、私って引きこもりでそんな魔力を使う事もありませんし? ここが魔力の使いどころですよ」

 

 「ご謙遜召されるな……! 貴公と、そしてご子息であらせられるモモン殿はまさしく王国の救世主。 このガゼフ、国王陛下への忠誠と同じほどに、貴公たち親子への報恩のため尽くすことをここに誓わせて頂きたい」

 

 感動の涙を流しながら騎士の誓いの礼をするガゼフに、アインズはどこかバツが悪そうに片手を差し出した。

 

 「その……ガゼフ殿? そこまでしていただかなくて大丈夫ですよ。 その、私は戦士長殿の事を友人だと思っています。 その友人が困っているのです、力を尽くすのは当然ですよ」

 

 「ゴウン殿……!」

 

 ガゼフは涙を力強く拭うと、笑顔を見せてアインズの差し出した手を力強く握りしめた。

 アインズの表情は仮面で隠され分からないが、それでも力強く握られた手に戸惑いつつも嬉し気だ。

 これから凄惨な戦争が始まろうとしている地ではあるが、今この時だけは、穏やかで優しい時間が流れていた。

 

 

 

 「父上!!」

 

 

 

 そんな穏やかな空気をぶち壊したのは、何処か芝居がかった気障な声だった。

 

 

 「……! パン……いや、モモン……!」

 

 二振りの大剣を背負った漆黒の戦士が、五人組の女性――アダマンタイト級冒険者チーム≪青の薔薇≫を引き連れて、アインズたちのいる全体を見渡せる小高い丘まで歩いて来ていた。

 

 「父上!! 至高なる御身の愚息モモン、憚りながら御身の眼前に参上仕りました!」

 

 クルッと一回り、華麗なターンを決めてマントをはためかせたモモンは、アインズの眼前に劇場の俳優のように跪いた。

 そしてそんなモモンの姿に瞳をキラキラと子供のように輝かせたラキュースとイビルアイは、モモンと同じように華麗にターンを決めてから、モモンと同じようにアインズの前に跪いた。

 

 「…………」

 

 ガガーランと双子忍者もまた敬意を示して跪くが、先に跪いた3人を見る目はどこか引いたものだった。

 

 「ふぐぅ」

 

 アインズの口から奇妙な声が漏れ、それと同時に痛みに耐えかねるように胸を掻きむしり身を屈めた。

 

 「ゴウン殿!? 大丈夫ですか?!」

 

 「あ、ああ。 大丈夫です、ガゼフ殿。 少しばかり、古傷がうずいて……」

 

 「なんと、おいたわしや父上! このモモン、父上の身を苦しめる痛みを取り除くためならば竜帝にも挑みましょう! ……否、否! 父上、魔法によってその痛みを愚息めにお移し下さい! 父上のためならばこの愚息、地獄の業火にも耐えて見せましょう!」

 

 「ヒギィ」

 

 オペラの舞台俳優が如きオーバーリアクションで言葉を紡いでいくモモンの姿に更に苦悶の声を挙げたアインズは、モモンの両肩をガッシと掴むとモモンの兜にぶつかる程に顔を近づけて言った。

 

 「モモン! 息子よ! 人前でそういう言動は、慎むように言ったよな!? 今すぐ、やめるんだ!!」

 

 「 Wenn es meines Gottes Wille (我が神のお望みとあらば) 」

 

 「ドイツ語もやめろォ!!」

 

 最後は叫ぶように怒鳴ったアインズだったが、そのアインズに、とどめの一撃が放たれた。

 

 「……モモンって、親しくなるとあんな感じだったんだ」

 

 「正直引く」

 

 双子忍者の言葉に、アインズは膝から崩れ落ちた。

 

 「ゴウン殿、大丈夫ですか!?」

 

 「え、ええ、ガゼフ殿。 はい、大丈夫です、安定化しました。 ……それで、モモン。 何の用だ?」

 

 アインズの問いに、相変わらずのオーバーリアクションでモモンガ答える。

 

 「はい、父上。 私を含め、集まったアダマンタイト級冒険者チーム全員の突入準備が完了致しました」

 

 「……そうか」

 

 王国には、人間世界全域からアダマンタイト級冒険者チームが集まっていた。

 それは恐るべき魔皇ヤルダバオトには人類総出で立ち向かう必要があると各国の冒険者組合が考えたためであるが、もう一つ理由があった。

 知っての通り竜帝の大遠征が始まってから冒険者の数が減り、それに伴って組合の持つ力も弱まったのだが、それを好機と今や竜帝の片腕とまで言われるようになった帝国皇帝ジルクニフが冒険者組合の完全に掌握に乗り出したのだ。

 残っていた多くの冒険者や組合の職員達は逆らい難い時代の流れと受け入れ国家の管理下に入ったのだが、それでもなお納得できない最高位冒険者や反骨の組合職員たちが、今や聖王国と並んで数少ない竜帝傘下外の人間国家であるリ・エスティーゼ王国になだれ込んで来たのだった。

 彼らはアダマンタイト級の中でも更に規格外の実力を持つモモンを旗印に一つに纏まり、国家からの独立性を維持することを条件に、対魔皇戦線における全面協力を約束していた。

 

 「では、それ以外の全ての準備も完了したのだな?」

 

 「はい、全ての準備が完了致しました、父上」

 

 アインズはモモンの言葉に頷くと、ガゼフに向き直った。

 

 「ではガゼフ殿。 全軍の準備が完了し次第、私は魔法の準備にかかります」

 

 「分かりました。 御子息は命に代えても、私共が魔皇の下まで送り届けましょう」

 

 ガゼフもまた顔を引き締め、王国に伝わる宝剣の柄に力を込める。

 アインズの大魔法により敵軍と城壁に風穴を開け、その間隙を突いてモモンを中心としたアダマンタイト級冒険者たちが矢となり突入し魔皇ヤルダバオトの首を獲る。兵士たちは残存する敵兵たちが魔皇の救援に向かえぬよう足止めする。

 それが連合軍の立てた作戦だった。

 

 「さてと……」

 

 ガゼフがモモンたちと共に去ったのを見送り、完全に姿が見えなくなったことを確認してからアインズは誰もいないはずの背後に向けて話しかけた。

 

 「いるか、アウラ?」

 

 「はい、アインズ様!」

 

 しかしアインズが問いかけたと同時に色黒な肌に尖った耳と左右で色の違う眼をしたダークエルフの少女が透明化の魔法を解いて現れ、元気よく返事をした。

 彼女の名はアウラ・ベラ・フィオーラ。

 ナザリック第六階層の守護者を勤める、100レベルNPCである。

 

 「よし、それで、奴らの動きはどうだ? この近辺に斥候は現れたか?」

 

 「それが全然来ないんですよ。 この戦争が始まったときから一貫して、向こうはあまり干渉してきません。 最初の頃は高レベルな奴とかが来てたんですけど、こっちが迎撃するとすぐ来なくなりましたし。 今は王国の国境沿い辺りに強そうなのがかなりの数潜伏してる感じです。 それとは別に表の人間を使った密偵は来るんですけど、それもたいしたことないのばっかですよ。 どうします? そっちの方も全員消しましょうか」

 

 「いや、いい。 ある程度は情報を与えて向こうの出方を知りたい。 ……しかし、そうか。 斥候すらたいして送ってきていない、か」

 

 アインズは顎に手を当て考え込む。

 あのギルドとの全面対決すら覚悟していただけに、ここまで干渉してこないとは拍子抜けであった。

 

 (こちらに興味がない? いや、少なくとも斥候を送ってきて備えとなる部隊を配備している以上それはない。 ……敵対する意思がない? シャルティアを襲っているくせに、流石にそれはないと思うが)

 

 表向きにしろ裏にしろ、この戦争中にもっとコンタクトをとってくると思っていた。

 それが無かったのは予想外であり、はっきり言ってこの戦争の目的の半分は失敗したと言っても良かった。

 

 (まあ仕方ない、もう半分の目的の王国の支配は成功しそうなんだ。 よし! 妨害が入らなかったことはむしろ幸運だったと思って、残りの仕事を片付けるぞ!)     

 

 心の中で自分に気合いを入れると、アインズは練習によって身につけた支配者にふさわしい堂々たる態度でアウラに命を下した。

 

 「ではアウラよ、私は残りの仕事を片付ける。 流石にここまで来ての介入は無いとは思うが、それでも警戒を続け、もしもの時は頼んだぞ」

 

 「はい!!」

 

 

 

 ――――それから暫くして、連合軍の作戦は実行に移された。

 アインズの魔法は絶大な威力をもって魔皇の軍勢とエ・ランテルに築かれた城壁を粉砕し、モモン率いるアダマンタイト級冒険者たちからなる突入部隊は魔皇の下へとたどり着いた。

 魔皇、そしてその麾下の幹部たる大悪魔たちとの死闘は峻烈を極め、エ・ランテルの都市を半壊させるに及んで決着をみた。

 首魁たる魔皇ヤルダバオトこそ取り逃がしたものの麾下の大悪魔たちは全て討伐され、王国は魔皇の脅威からひとまずは開放された。

 

 

 その後、ランボッサ三世は唯一生き残った嫡子である第三王女に譲り、ラナーが新たなるリ・エスティーゼ王国の女王となった。

 そして対魔皇の戦いにおいてもっとも功績のあった二人。

 元カルネ村村長であるエンリには王国の全軍を指揮する大将軍の地位が。

 大魔法詠唱者であるアインズ・ウール・ゴウンには新たに国王に次ぐ地位である宰相の位が作られた上で贈られ、この三者による王国の新体制が始まったのであった。

 

 

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