ナザリックと同格のギルド放り込んでみた   作:ダイアジン粒剤5

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戦後

 

 「クソが」

 

 数か月にも及ぶ戦いの末、停戦条約を結ぶことにより戦争は終結した。

 ルベドと無数のワールドアイテムの力により初戦で敵戦力の半分を削ったが、それでも数の差は覆せず竜帝軍をナザリックから追い出すことは出来なかった。

 二十を使えば可能性はあったのだが、結局最後まで例の女神が前線に現れる事は無かったため温存せざるを得ず、守護者が殺されワールドアイテムが奪われそうになる危険性が生じ始めたため、最終的には四層に撤退せざるを得なくなった。

 結果、一層から三層までは完全に更地にされた上で要塞化され数か月間もの間占領されることになった。

 

 「クソが」

 

 そのことによる経済的な損失自体は大したモノでは無かった。 

 もともと敵に侵入されやすい一層から三層は維持費・修復費ともに安く、更地にされ数か月占領されたところで痛くも痒くもない。 

 その程度の場所を占領するために全軍の半分を失った竜帝軍こそ、経済的な損失は甚大だろう。

 

 ――――ただ、精神的な損害は計り知れないものがあった。

 

 「クソが」

 

 仲間と共に創り上げたナザリック薄汚いを敵に占拠され、穢され続けている。

 その事実はアインズの精神に耐えがたい苦痛をもたらし続け、ナザリックという地そのものを神聖視するNPC達の精神にも深刻な傷を与えた。

 

 「クソが」

 

 苦痛から逃れるためアインズは、ナザリックを取り戻すためと心の中で言い訳しながら断腸の思いで仲間たちの残した金貨に手を付け、それにより召喚した高レベルモンスターを率い守護者達と共にナザリックを取り戻すべく奮戦した。

 

 ――――だが、それでも一度完成した要塞を攻略することは出来なかった。

 

 「クソが」

 

 敵を追い出すことが出来ずに苦悩する中、敵は降伏の条件を提示して来た。

 

 ――――それは、ギルド武器を手渡せというもの。

 

 ギルド武器を破壊されれば、ギルドは終わる。

 故にギルド武器を渡すという事はギルドの生殺与奪を相手に握られるということであり、無条件降伏に等しいとも言えた。

 

 「クソが」 

 

 無論、そんな条件を受け入れられる訳もない。 

 何とか敵を撤退に追い込むべく、ありとあらゆる手を使った。

 王国内の包囲網・占領軍へのテロはもちろん、交戦中の亜人国家に武器や技術・人材を提供しナザリックから撤退せざるをえない状況を作ろうとした。

 

 ――――だが結果として、一定の効果はあったものの敵を撤退に追い込むほどのモノではなかった。

 

 力の差がほぼ無い以上テロの効果は限定的で嫌がらせ以上のものにはならず、また竜帝支配下の各国は民主国家ではないため人命が安くどれほど民間人に被害を出そうが敵ギルドの意思決定に影響を与えることなかった。

 また戦争中の亜人国家への支援も、そもそもこの世界の存在は自分たちに比して弱すぎるため技術や武器・人材を多少送ったところで高レベルモンスターやプレイヤーが一人向かえば容易く蹂躙されてしまうため、撤退の必要が生まれるほどの脅威には成りえなかった。

 

 「クソが」

 

 さらに北方にある亜人たちの評議国を除いて周辺国は全て竜帝の支配地域のため占領を続けるために必要な物資の補給は万全であり、多少滞るようになったとはいえ南方への遠征も続いているため敵は新たな金貨を獲得し傭兵モンスターを増やすことも出来ていた。

 最期の希望を託して評議国に打診したのだが、友好的な静観を維持するという以上の言葉は得られなかった。

 

 ――――力で占領を終わらせることは出来ない。何らかの形で停戦しなければ、ナザリックが正常な状態に戻ることは無い。それが、最終的な結論だった。

 

 「クソが」

 

 とはいえギルド武器を渡すことは出来ない。完全な降伏など冗談じゃない。

 交渉を続けた結果、ワールドアイテムを一つ引き渡すという条件で停戦が成立した。

 

 「クソがクソがクソが」

 

 引き渡したワールドアイテムは『山河社稷図』。

 仮に相手に使われた場合、対応策を完全に把握しているため奪い返すことが出来るという理由で選ばれた。

 

 「クソがクソがクソがクソがクソが」

 

 停戦が成立したため竜帝軍はナザリックと王国から完全に撤退し、王国は再びアインズ・ウール・ゴウンの所有物となりナザリックは正常な状態を取り戻した。

 

 「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが」

 

 この戦い、ユグドラシル基準で言えばアインズ・ウール・ゴウンの敗北である。

 それ集めることがゲームの目的の一つとも言われる超レアアイテム、ワールドアイテムを引き渡さざるを得なかったのだ。どれほど敵傭兵モンスター軍団に甚大な被害を与えていたとしても、それは否定できない事実である。

 

 「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが」

 

 だがこの世界における評価・評判としては、竜帝の完全なる敗北であった。

 無敵にして無敗。

 圧倒的な力を以て無数のドラゴンと人類国家を従え、それを上回る数の亜人国家を完膚なきまで破壊しながら征服して来た常勝の怪物が、その近衛軍だったと思われる化物たちを動員しながら完勝出来なかったのだ。

 形式的には降伏させたとはいえ、占領地であった王国を放棄しテロにより支配地に甚大な被害を受けた。

 これを竜帝の勝利と見る方が難しいだろう。

 アインズ・ウール・ゴウンは恐るべき竜帝と同等の力を持ち、全亜人の脅威である竜帝に勝利した。

 

 圧倒的な竜帝の力に萎縮し絶望に打ちひしがれていた亜人たちはそう捉えアインズ・ウール・ゴウンを最期の希望とみなして歓喜し、逆に無敵の竜帝の支配のもと繁栄を謳歌していた人類はその無敗伝説に傷を付けたアインズ・ウール・ゴウンに恐怖し、同時に竜帝の絶対性に疑問を持った。

 

 総括して、この戦いの勝者はアインズ・ウール・ゴウンだったと言っていいだろう。

 

 「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが」

 

 とはいえそんな世間の評価など、アインズにとってはどうでもいい。

 大切なのは仲間と共に集めた至宝、アインズ・ウール・ゴウンの輝ける軌跡の成果物と言ってもいいワールドアイテムを奪われたという事実だった。

 自分ひとりの時にこんな失態を犯してしまうなど、とても仲間たちに顔向けできなかった。

 

 「クソがあぁぁぁぁっ! クソがあぁぁぁぁっ! クソッ、クソッ、クソオォォォォッ! 絶対に、絶対に殺してやるッ!! 嬲って、嬲って、徹底的に嬲り殺してやるぅぅぅぅっ!!」

 

 突っ伏していた執務机を砕かんばかりに叩き、絶叫し殺意を噴出するアインズ。

 

 「殺っ……! っ……! っ……! ……クソ、安定化かっ!!」

 

 だが精神安定化により激情は即座に沈静化され、後には鈍い怒りと不快感だけが残る。

 

 「クソッ! クソッ!」

 

 またぞろ激情が噴き出しそうではあるが、それでも安定化により冷えた頭は今回の敗因を冷静に分析し始める。

 敗因は、明らかであった。

 

 「クソがあぁぁっ…………!」

 

 ユグドラシルにおいてナザリックは難攻不落、何物にも落とせない無敵の要害だった。

 だが、転移により前提条件が変わっていたのだ。

 

 ――――ユグドラシルにおいてナザリックは、嫌らしい能力を持つ高レベルモンスターが多数生息する上にタチの悪いフィールドダメージを受けるグレンデラ沼地に居を構えていた。

 この沼地は突破するだけでも多大なリソースを払う必要がある難所であり、ナザリックを襲う敵はまずここで戦力を消耗せざるを得なかった。

 

 だが転移により、いまナザリックはなだらかな平原地帯にある。

 

 隠蔽も兼ねて魔法で丘を作ってはいたが攻めるに易く守るに難い地であることは疑いようがなく、防衛力においてグレンデラ沼地とは比べ物にならない。

 それどころかここがグレンデラ沼地であれば、そもそも今回敵が行ったようなナザリック周辺に陣地を構築しての占領作戦など出来はしない。生息する高レベルモンスターと毒の沼地のダブルパンチで、仮に陣地を構築しても維持できなかっただろう。

 

 「……いや、そのそもユグドラシルであんな作戦を実行に移すこと自体が無理だ。 あんな作戦を実行しようとすれば、最悪ギルドが崩壊してしまう」

 

 ユグドラシルはゲームである。

 故にゲームをプレイしているプレイヤー達は、ユグドラシルに遊びに来ているし楽しみに来ている。

 数か月も小競り合いだけ続ける占領などという、つまらない上に面白くない作戦などゲームではとても実行できない。

 大手ギルドであれば所属プレイヤーに義務という形である程度の行動を強制できる場合もあるが、それでも楽しくないプレイを強要し続けるには限界がある上にギルドの求心力も下がる。

 仮にゲームで長期占領作戦をとる場合、求心力の低下という問題を抱え続けるため占領側も厳しいのだ。

 

 だが転移により、ゲームはゲームでなくなり現実となった。

 

 敵の所属プレイヤーは三人と極少人数だったが、意思決定権を持つ人間が少なければ少ないほど無茶な計画というものは実行しやすいものだ。

 召喚された傭兵モンスター達は召喚者に絶対服従であり、辛い長期占領にも文句ひとつ漏らさない。

 この世界で支配下においた人間たちは文句も言うし反抗もするが、圧倒的弱者である彼らは完全に力で抑圧できるため意思決定に影響をもたらさない。

 事実彼らはナザリックの行った破壊工作により多大な被害をこうむりながらも、占領作戦への全面的な支援と協力を行い続けた。 

 竜帝の支配下で暮らす人間たちは、完全にナザリックの敵と見なしていいだろう。

 

 ――――なんにせよ転移により変化したもろもろの事情によりナザリック上層部は数か月にも及び占拠され、その占領を解くために仲間たちと共に集めたワールドアイテムを差し出さざるを得なくなってしまったのだ。

 

 「……認識を改めなくてはならない。 そして、二度とこんなふざけた真似はさせない」

 

 まずは防衛力の強化だ。

 いずれは奴らを皆殺しにしてやるつもりだが、まずは安全を確保しなければならない。

 差し当たっては、王国の強化だ。

 都合がいいことに、あのデミウルゴスが傀儡に選んだラナーとかいう少女の働きで王国は支配する価値無しと見なされ帝国や法国の占領軍は引いて行った。

 そして都合がいいことに、あの二国は元々王国に対する怒りや嫌悪が深かったらしく占領中かなり民心が離れるようなことを繰り返しており、そのおかげもあって王国民の間には強烈な反竜帝の機運が出来上がっていた。

 王国民の間で救世主として崇拝されていたモモンを竜帝軍が殺した事もそれに拍車をかけているらしく、その時の記憶はないらしいので想像だが、パンドラズアクターはそのようになることを想定して敵のプレイヤー相手に戦死するまで戦ったらしい。

 

 「そういう風に自分の命を俺のためにあっさり捨てるのは、やめて欲しいんだがな」

 

 仲間の子、そしてある意味自分の子供にも等しいパンドラズアクターの命はナザリックと同じくらいに重い。いや、その二つは繋がっていると言ってもいいだろう。

 NPC達の安住の地であるナザリックを守ることが、NPC達を守ることに繋がるのだから。

 

 「そのためにも、王国を第二のグレンデラ沼地にしなければ。 今まではこの世界の住人に技術や知識を与えることを渋っていたが、最早迷わん。 技術を与え、知識を与え、武器を与える。 そして城塞を作り、軍隊を作り、戦士を育成してナザリックを守らせる。 今あいつらと戦っている亜人たちとも手を結び、北の評議国とも手を結ぶ必要があるだろう。 ナザリックを襲えない状況を作らねば」

 

 そういう政略的なことは初めてじゃない。

 ユグドラシル時代にもセラフィムなどの敵対的上位ギルドに対抗するため他ギルドと同盟を結んだり、弱体化工作をしたことはある。

 そういった経験をもとに、この世界で奴らに対抗するための勢力を作り出すのだ。

 

 「見ているがいい、ブラックオーダー。 アンデットの俺に寿命はない。 百年でも二百年でも、なんなら千年かけてでもお前たちを打倒する軍団を創り上げてやる。 その時こそ、今回奪われたワールドアイテムは必ずや返してもらうぞ」

   

 落ち窪んだ眼下に執念の炎を燃やし、アインズは次に取るべき行動を考え始める。

 後でデミウルゴスやアルベドに精査してもらう必要はあるが、それでもある程度の方向性は自分が決めなくてはならない。 

 まずは荒廃した王国を復興し、各地の亜人勢力と同盟を結び、自分たちの持つ知識や技術を与え強化する。

 いつかは反逆される可能性もあるため慎重を期す必要はあるが、そういった細かい算段は頭のいい者達に任せればいいだろう。

 なんにせよ現状の最優先課題は、奴等ブラックオーダーに対抗しうる戦力を作る事なのだから。

 

 

 

 ――――これよりしばらく後、アインズの考えはデミウルゴスなどナザリックの頭脳たちの手により具体化され実行に移された。

 ナザリックの全面協力により王国の復興は短期間で為され、竜帝の脅威にさらされていた南方亜人国家群や竜帝の人間至上主義ともとれる政策に危機感を募らせていた北の評議国は同盟を快諾し、中には常勝の竜帝に初めて黒星を付けた存在とアインズを讃え、自ら進んで属国となることを申し出る国までいたほどだった。

 とはいえこれにより大陸の勢力は事実上アインズ・ウール・ゴウンと竜帝の二大勢力に分かれる事となり、再びの直接対決を厭う両陣営首脳部の意向により代理戦争が頻発し、一種の冷戦ともいえる時代に突入したのだった。

 




最終話は29日に投稿したいと考えています。
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