ナザリックと同格のギルド放り込んでみた   作:ダイアジン粒剤5

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リ・エスティーゼ王国

 リ・エスティーゼ王国の首都、王都リ・エスティーゼの一角にある冒険者組合。

 王国では正規軍の練度が低くモンスターの駆除を行えないため冒険者の需要が高く、冒険者組合には多くの冒険者がひしめき合い、大小の依頼を受け人々を脅かすモンスターを退治していた。

 だが、今の冒険者組合にそのような活気はない。

 多くの冒険者が先を争って受注を競っていた依頼掲示板には未達成の依頼が山済みとなり、冒険者たちが仕事の前の腹ごしらえに、あるいは依頼達成祝いに食卓を囲っていた酒場には閑古鳥が鳴いている。

 いま酒場にいるのは、たった五名の女性だけ。

 

 長い黄金の髪を靡かせた生命力に溢れる美女、ラキュース。

 男性と見紛うばかりに筋骨隆々な女傑、ガガーラン。

 細身の体に忍び装束を身に纏った双子、ティアとティナ。

 紅いマントに仰々しい仮面を被った小柄な少女、イビルアイ。

 

 彼女たちこそ王国の誇る最高位冒険者たちの一チーム。

 アダマンタイト級冒険者チーム、≪青の薔薇≫である。

 

 彼女たちは精をつけるため、そして客足が遠退いて経営の苦しい酒場にために特に高い物を注文して食事を摂っていた。

 その顔には、疲労の色が濃い。

 

 「今回の依頼は、結構大変だったな」

 

 疲労を含んだガガーランの言葉に、ラキュースは酒場で一番良い肉にフォークを突き刺しながら答えた。

 

 「ええ、まったくね。 侵攻してくるゴブリン部族連合と、それを率いるトロールたち。 あの魔法剣を使っていたグとかいうトロールは結構な強敵だったわ」

 

 「そうだな、強敵だった。 もしあのまま侵攻を許していたら町は奴らの餌場となり、そのまま奴らの前線基地となって被害は更に拡大していただろう。 ラキュース、お前のやったことは正しかったんだ」

 

 どこか自嘲するような声で答え、そのまま口に肉を運び会話を続けることを拒否するように噛み締めるラキュースに、イビルアイが慰めの言葉をかける。

 

 「‥‥本当にそう思う? 今回私は貴族としての家柄を誇示して領主から強引に軍権を奪い、無理に兵を動員してモンスター達に当たったわ。 犠牲も随分出た。 本来なら冒険者としての資格を取り消されても文句は言えないわ」

 

 「問題ない、今の冒険者組合に私たちを追い出す余裕はない。 何をやっても許される」

 

 「その通り。 組合長も今回の件で文句は言わなかった。 よくやってくれたと感謝していた」

 

 双子忍者の言葉に、ラキュースは首を振って答える。

 

 「そういう問題じゃないのよ、これは。 私の心の問題。 私はああいう事をしたくて冒険者になったわけじゃないの。 あれも、冒険者だけで対策チームを組めていれば犠牲者を出さずに済んだ。 私の蘇生魔法で全員生き返らせられたもの。 もともとの生命力が弱い民兵を動員してしまったせいで、あれだけの被害を出してしまった。 ‥‥練度の低い兵士を動かすのって、想像以上に難しかったわ」 

 

 「しゃうがねえだろ、そもそも今は冒険者の数自体が少ないんだからよ」

 

 付け合わせのサラダを豪快に口に掻っ込みながら、ガガーランが続ける。 

 

 「例のアレ、あの竜帝様とやらが始めた南への大遠征。 アレに参加するために、ここらで働いてた冒険者連中がほとんどが居なくなっちまった。 そのせいで俺達は前はやらずにすんだ小さな仕事もやらなきゃいけなくなったし、今回みたいに大きな仕事では大規模なチームを編成できなくなった。 法国の連中は人類躍進の大偉業なんて喧伝してやがるが、こっちにはいい迷惑だぜ」

 

 「それだけではないぞ」

 

 食事の必要のないイビルアイは手持無沙汰なのか、フォークを弄びながら言葉を続ける。

 

 「竜帝は各地のドラゴンを強制的に徴兵して自軍に組み込んでいるからな。 生態系の頂点を失った山や森ではパワーバランスが乱れ、大規模な混乱が起きている。 今回倒したグとかいうウォー・トロールも、本来ならトブの大森林奥地で生活していたと言っていた。 あれだけの怪物だったが、何者かに追い出されて人間の生活圏まで逃げて来たんだ」

 

 森の奥には、あのウォー・トロールすら逃げ出さざるを得ないナニカがいる。

 イビルアイの言葉にラキュースは顔を暗くする。

 現状でもいっぱいいっぱいなのだ。仮にそのナニカが森の外にまで出て来たなら、はたして自分たちは対抗できるのだろうか?

 

 「‥‥その生態系の混乱ってやつ、帝国や法国ではどうなんだ? 自分の支配下でも問題が起きてるってんなら、竜帝様とやらも困るんじゃねえのか?」

 

 もしそうなら竜帝も何らかの対策をとるのではないかというガガーランの希望的観測だったが、イビルアイは大袈裟に肩をすくめながら言った。

 

 「それが竜帝の支配下で問題はいっさい起こっていないらしい。 なにしろ竜帝の軍門に下ったドラゴン達が群れになって人間と一緒に巡回を行っているらしいからな、モンスター達も恐れて近づかん。 それどころかドラゴン達の力を借りて森や山の開発まで行っているらしい。 喜べ人間たちよ、モンスターは追われ、人類の生存圏は刻一刻と広がっているぞ」

 

 おどけた口調で法国が行っているプロパガンダを口ずさむイビルアイだったが、双子の忍者がそれに言葉を添える。

 

 「まあ、その追われたモンスターが王国に来てるんだけど」

 

 「竜帝が未だに王国を支配下に加えようとしないのは、帝国と法国が王国を忌み嫌ってるというのもあるけど、王国に負債を押し付けるためとのもっぱらの評判」

 

 双子忍者の言葉に、ラキュースは深いため息をつく。

 

 「ラナーの話では、王国も竜帝に跪くべきという話が出ているそうよ。 まあ例によって国王派と貴族派の間の政争に種になって遅々として話は進んでないみたいだけど。 まったく、そんなことを話し合ってる暇があるならエ・ランテル奪還についてもう少し真剣に考えて欲しいものだわ。 あそこから流れてくるアンデットたちが周辺にどれだけの被害を出しているか分かっているのかしら?!」

 

 憤懣やるかたないといったラキュースだが、彼女が口にしたラナーとは国王の三児にしてリ・エスティーゼ王国王位継承権3位の≪黄金≫と讃えられる王女である。

 王国最高とも言われる美貌と他に比肩する者の無い知性を持ったラキュースの友人であり、ラキュースは度々彼女から相談を受けていた。

 

 「じゃあ、やっぱりエ・ランテルの奪還作戦は行われねぇのか?」

 

 「‥‥ええ、特に貴族派の反対で無理そうね。 もともとエ・ランテルは国王領で貴族派閥の利害には関わらないし、中にはあそこがアンデットだらけになったおかげで帝国との戦争が無くなったと喜ぶ者までいる。 そのせいで周辺に深刻なアンデット被害が広がっていることなんて、誰も気にしてないわ」

 

 今はアンデットが闊歩する死都と化したエ・ランテルも、元々は帝国と法国の両国に接する交通の要所であり、帝国とは領有権を巡って毎年戦争が起きていた。

 その戦争は徐々に、しかし確実に王国の国力を削ってきており、エ・ランテル含む王国はいずれ全土が帝国に併吞されると目されていた。

 だが死都と化したことによりエ・ランテルの戦略的価値は消滅し、帝国が竜帝に従い南方への大遠征を始めたことにより戦争の危機は去った。

 

 「戦争が無くなったことは喜ばしいわ。 毎年行われるあの戦争のせいで田畑は荒れ、人々は困窮していたもの。 ラナーも今が王国が立ち直れる最後の機会だと言っているけど‥‥。 正直、前途は暗いとしか言いようがないわね。 くだらない派閥争いに終始して、誰も王国の現状に気を向けていないわ」

 

 国に縛られない冒険者が気にすることじゃないんだけどね、と自嘲するラキュースだが、その瞳は暗い。

 高位貴族の家に産まれながらアダマンタイト級冒険者である叔父の冒険譚に憧れ家を飛び出したラキュースだったが、その実、貴族としての責任感は人一倍強い。

 国を背負うべき貴族の怠慢によって国家と国民が苦しむことは、彼女にとって何よりも耐え難いのだ。

 

 そんな彼女の気質を良く知る仲間たちは慰めの言葉をかけようとするが、丁度その時冒険者組合の扉が力強く開かれ、二本の大剣を背負った大柄な漆黒の戦士と長い黒髪を夜会巻きにし眼鏡をかけた美女が入って来た。

 

 漆黒の戦士は青の薔薇の姿を見とめると片手をあげて彼女たちの座るテーブルへと歩き出し、傍らに控える美女は戦士と青の薔薇に軽くお辞儀をすると、一人組合の受付へと歩いて行った。おそらくは報酬の受け取りと、新しい依頼の受領を行うのだろう。

 

 「しばらくぶりです、青の薔薇の皆さん。 今回の依頼はどうでしたか?」

 

 「おう、今回も大成功さ。 積もる話もあるし、そこに座れよ、モモン」

 

 戦士の名は、モモン。

 青の薔薇と同じくアダマンタイト級に位置する冒険者チーム≪漆黒≫のリーダーである。

 

 「では、失礼して‥‥」

 

 ガガーランに勧められるまま席に座るモモンだったが、早速双子の忍者が絡みだした。

 

 「今回も王国の端の方の町まで行って活躍して来たらしいな、モモン。 祝杯だ、グッいけ」

 

 「後輩のくせに先輩の私達より活躍して生意気だ。 祝ってやる、肉も上手いぞガッといけ」

 

 モモンの左右に陣取り酒と肉を差し出す双子だったが、モモンは手を振って断った。

 

 「いえ、宗教的な理由で殺生した後は人前で食事をしない事にしているので」

 

 「何だ、先輩の酒が飲めないのかー。 ‥‥で、辺境の方はどうだった?」

 

 「たまには先輩に素顔を見せろー。 やっぱり冒険者不足で荒れてた?」

 

 軽く文句は言うがあっさりと食事を下げる双子の忍者。モモンも毎回恒例のじゃれ合いなので特に気にしたふうもない。

 

 「ええ、やはり冒険者たちが多く退職し、竜帝の大遠征に参加した影響は甚大ですね。 王国中どこもかしこもモンスターの襲撃に悩まされ、対応する兵士たちも全体的に練度が低いため国中荒れ放題です。 レエブン侯の領地などはまだそれなりにマシなようですがね」

 

 レエブン侯とは、王国における最大貴族の一人である。

 国王派閥と貴族派閥を行き来する蝙蝠として評判は悪いが、両地経営の能力は確かなようだった。

 

 「やっぱり冒険者不足は何処も深刻ってわけか。 クソッ、なんでどいつもこいつも竜帝なんて訳の分からねぇ奴の始めた大遠征なんてモンに参加しやがるんだ。 噂程度だが、嫌でも聞こえてくるぜ。 南で奴らが、亜人たちに対してどんなことをやってるかってよ!」

 

 怒りのままに酒樽をテーブルに叩き付けるガガーランだったが、実際漏れ聞こえてくる南の大遠征の噂は人情家の彼女には耐えられない様な陰惨なものが多い。

 口の悪い者の中には、竜帝が行っているのは大遠征ではなく大虐殺だと言うほどだ。

 

 「気持ちはわかるが、そう怒るな。 冒険者たちが大遠征に参加するのは仕方ないだろう。 あっちは国家が後ろ盾となって支えてくれる上に、ドラゴン達の支援で勝つと決まった戦いで功績を挙げれば領土に貴族位までくれるんだ。 名誉欲や出世欲、金が目的で冒険者になった様な連中は向こうに飛びつくだろうよ。 聞いた話では、ワーカーもかなりの数が参加してるという話だ」

 

 ワーカーとは裏家業や違法行為に従事する戦闘専従者たちの事で、冒険者からのドロップアウト組などが過半を占めている者達である。

 裏家業ゆえに冒険者と比べ社会的な保証はないが稼げる職業であり金銭欲が強い者が多く、亜人からの略奪などで荒稼ぎできる大遠征には多数のワーカーが従軍していた。 

 

 「亜人の虐殺に関しても、まあ当然起こりうることだ。 もともと亜人の国で人間は家畜扱い、最大限良くて奴隷だ。 それが逆転すれば今までの恨みから殺戮に走る者はいるだろうし、そのような扱いをされていた同胞を見て義憤にかられる人間も多いだろう。 仕方のないことだ」

 

 「‥‥まあ、そりゃそうかもしれねぇけどよ。 でも、やっぱりいい気はしないぜ」

 

 ブスッとした顔で酒を口に含んだガガーランだったが、それ以上の反論はしなかった。

 気持ちはともかく、頭ではイビルアイの言葉が正しいと分かっているのだろう。

 

 「‥‥その大遠征についてですが、頼んでいた調査は————」

 

 「はい、これ」

 

 「簡潔かつ詳細に纏めてるぞ」

 

 どこから取り出したのか、ティナが本ほどの厚さの紙の束をモモンに差し出す。

 モモンはお辞儀をして紙の束を受け取るとザッと目を通し、得心したように頷くと懐から白金貨の詰まった小袋を取り出しティアの前に置いた。

 

 「毎度のことながら、ありがとうございます。 他のルートでは得られない様な情報まで載っていて、いつも助かっています」

 

 「別に気にしなくていい。 私たちも個人的に興味があって、調べたかったし」

 

 「古巣が関わってるから、私達にとっても他人事じゃない」

 

 彼女たち二人は、もともとイジャニーヤと呼ばれる暗殺者集団の頭首に連なる者たちだった。

 ラキュースの暗殺を依頼され失敗し、その後、説得されて青の薔薇に加入したのだ。

 

 「独立独歩、雇われはしても従う事はなかったイジャニーヤは竜帝を後ろ盾にした帝国の圧力に屈した」

 

 「南で、かなり無茶苦茶やってるらしい。 反発してるのも多いから、そこから情報を得てる。 そのための資金までくれてるから、こっちこそ感謝してる」

 

 白金貨も入った袋を手に取り、目にもとまらぬ早業でソレを何処かにしまったティアは言葉を続けた。

 

 「―――—で、竜帝の情報を知りたい理由は、まだ教えてくれない?」

 

 「私たち、一緒に仕事したりして結構仲良くなったよな? そろそろ信頼して教えてくれてもよくない?」

 

 「‥‥すみません、それは、ちょっと」

 

 口ごもるモモンだが、双子忍者は特に気にした様子はない。

 

 「そう、じゃあしょうがないね」

 

 「いつかは話してね」

 

 報酬さえきちんと支払われるなら、依頼人の事情は斟酌しない。

 自分たちの安全のため調べるはするが、深入りしない。

 それがイジャニーヤの在り方だったし、決して前歴が明るい者だけではない冒険者間でのマナーだった。

 二人がモモンに自重を訪ねたのは、単なる軽口である。

 

 「モモンさん」

 

 双子忍者との取引の後、しばし歓談していたモモンと青の薔薇だったが、やがて眼鏡をかけた美女がモモンの後ろに現れ、深々とお辞儀しながら報告した。

 

 「報酬の受け取り、ならびに次の依頼の受諾と情報収集が完了致しました。 いつでも出発できます」

 

 「そうか、ご苦労だったな、ユリ。 ‥‥これが今回の調査書だ、お前も目を通してみてくれ」

 

 ユリと呼ばれた美女は恭しくモモンから調査書を受け取ると、眼鏡を豪華な装飾の入った物にかけ直し、紙の束を勢いよくめくりながら速読し始めた。

 そして最後のページまで読み終わると顔を挙げ、双子の忍者に向けてお辞儀をしたのだった。

 

 「いつもながら、微に入り細を穿った詳細な情報をありがとうございます。 ボクた‥‥いえ、私どもも大変助かっております。 今後とも、どうか宜しくお願い致します」

 

 「ボクでいいと思うよ。 私的に、そっちの方が好み」

 

 「‥‥すみません、ユリさん」

 

 レズッ気のあるティアが茶化し、それをラキュースが謝罪し、ユリがお気になさらずと手を振るやり取りの後、モモンは席から立ち上がった。

 

 「では皆さん、私達はこれで。 次の依頼をこなさなければならないので」

 

 「なんだい、もう行くのかい。 もう少しゆっくりしてからでもいいじゃねぇか」

 

 「そうしたいのはやまやまですが、予定がありますので。 ‥‥そうだな、ユリ?」

 

 「はい、これから街道周辺を回りながらモンスター退治を行い、数日後以内に王国外周部の辺境伯領まで出向く必要があります。 大規模なモンスター集団の移動が確認されているらしく、かなり危険な状態だとか」

 

 「‥‥という訳です。 では、また近いうちに。 ティアさんとティナさんは、竜帝についての情報収集を引き続きよろしくお願い致します」

 

 そう言うとモモンはユリを連れて冒険者組合の出入り口へと向かい、青の薔薇たちから送られる別れの言葉に手を振って返しながら、扉の外へと消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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