この不遇な貴族に平穏を!   作:苦楽

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(原作1巻)この貴族に救援要請を!

 

今日も今日とでデュランは山積みされた仕事に圧殺されていた。

特に頭を痛めたのは、冒険者への対応である。

やれ、冒険者にも騎士団と同じく補償金を出すべきだの、冒険者の待遇が悪いだの、この国はブラック企業と同じだの、我々の要求に耳を貸さないならストライキを起こすだの、半分以上意味が分からないが政府に不満を募らせていることは十二分に伝わった。

しかも、その中心人物が防衛戦で活躍しているニホンジンと呼ばれる黒髪黒目の人間たちだから無視できない。彼らはなぜか不思議な力を持っていたり、神器と呼ばれる武器を持っていたりして実力者が多い。

そんな彼らに戦いから抜けられたら戦線が崩壊するのは目に見えているからだ。

だが、彼らの要求を飲むことはけして出来ない。

まず補償金とは騎士団の団員が殉職した場合にのみ出している。その理由は、団員が死んだ場合残された家族や親族に対する償い、また死と隣り合わせの戦場に行く団員に憂いなく戦ってもらうためでもある。

国が戦場に行くことを強いているのだから、当たり前のことである。

しかし、冒険者は事情が違う。

彼らは報酬目当てで自主的に危険地に向かい、討伐数に応じて報酬を出している。そんな彼らに補償金を出すなんて話になれば、騎士団側が猛反発するのは目に見えていた。

 

それに、そもそも根本的な問題がある。

簡単に言えば金がない。

長い間戦争を続けてきたため、この国の戦争費はすでに底を尽きかけており、現在では隣国の援助に頼っているのが現実だ。

そんな状態なのに、冒険者に補償金など払えば、この国はすぐに滅んでしまう。

 

だが、無下にして本当に戦線を抜けられたらどっち道滅ぶ。

 

完全に板挟み状態だった。

 

デュランの胃のライフはすでにゼロである。

 

こんなときは王に相談したり、同僚のクレアやレインに意見を聞きたいところ。しかし、王は武芸に秀でているが細かい政治的駆け引きのセンスはゼロに等しく、クレアは王女のストーキングもとい護衛に夢中、レインは今にも潰れそうな自分の領地に手がいっぱい。

 

まともなやつがいない。

 

デュランは絶望のあまり、机に顔を伏せて嗚咽を漏らし始めた。

もうこの国一度滅んだ方がいいんじゃないか? と病んだ考えがよぎってきた。そんなときドアがノックされた。

顔を上げて、表情を引き締めた。

 

「入れ」

「失礼します、デュラン様。お忙しい中申し訳ございませんが、早急にお耳にいれた方がいいと思いまして」

「よい。話せ」

「はっ。実は昨日、アクセルから報告が入りました」

「アクセルから? 数日前に魔王軍幹部ベルディアが近辺に居を構えたという報告は受けたが、あれは後日討伐隊を組むことで納得してもらったはずだが?」

 

なぜ魔王軍でも有数の実力者であるベルディアが、初心者冒険者の街アクセル近くに来たのか。目的は不明だが、アクセルを攻め落とすなどの動きは見せなかったことから、デュランは対応を後回しにしていた。

何か動きがあったのか? デュランはそう想定した。

しかし、事態は想定を遥かに越えていた。

 

「はい、そういう手筈でアクセルの冒険者ギルドにも通達したのですが、実は昨日ベルディアがアクセル門前まで接近してきたとのことです」

「何だと!? それで被害は?」

「いえ……その……ベルディア自身街を攻める気はなかったらしく、被害は特に報告されていません」

「そうか」

 

ほっと胸を撫で下ろした。

国の民である以上、気にかけるのは当然。デュランはそう考えている。

 

「しかし、攻め滅ぼす気がないのなら、なぜベルディアは街近くまで来た?」

「説教をしに来たそうです」

「は?」

「自分が住居としていた古城が爆裂魔法の標的にされたことに激怒して、その術者に説教をしに来たそうです」

「いやいやいや待て待て待て! 前提からすべておかしいだろ! なぜ幹部の居城に爆裂魔法を放つ!? その魔法使いはバカか!? それとも頭がおかしいのか!?」

「術者は紅魔族だそうです」

「……なら仕方ないか」

紅魔族とは、産まれながらにして魔力量が高く一族はすべてアークウィザードになると言われている戦闘に秀でた者たちである。しかし、その大半が頭がおかしく、名前もおかしいことで有名で、よく王国でも騒ぎを起こすため、デュランはそのことを実感していた。

そのため、紅魔族が何かやらかしても仕方ないと達観するくらいには慣れている。

 

「それで、報告はそれだけか?」

 

この言葉はデュランの希望でもあった。

すでに胃はズキズキ痛み、血を吐きそうだからだ。これを聞いたら胃薬を飲もうと心に誓った。

 

「いえ、怒りが収まりきらなかったベルディアは帰り際に術者に向かって死の宣告を与えていったそうです」

「何!? それはまずい、あれは腕利きのアークプリースト十人を要しても解けないほど強力な呪いだぞ!」

 

解呪するにはベルディア本人を倒すしかないと言われている。しかし、それはほぼ不可能なため、死の宣告を受ければ死ぬしかないと言われている。

となれば、呪われた魔法使いはもう……。

「呪いは術者のパーティーメンバーだったクルセイダーが間一髪で身代わりになったそうです」

「そうか……。仲間を庇って死を選ぶとはクルセイダーの鏡のような人物だ」

「それで……そのクルセイダーなんですが、ダスティネス=フォード=ララティーナ様らしく」

「ん?」

 

今何て言った? デュランは固まる思考の中、そう考えた。

冷や汗が滝のように流れる。

胃の中は、胃液が洪水になっているのかのよう荒れ荒れである。

ダスティネス=フォード=ララティーナとは、王族の懐刀とまで言われる地位の高い貴族である。それこそ無礼を働けばデュランでさえ簡単に死罪になってしまうほどだ。

ベルディアに早急な危険がないと判断したのはデュラン、すぐに対応せずに後回しにしたのもデュラン。

その結果、ダスティネス家の令嬢が死の宣告を受けた。

その答えは?

 

自分の責任問題になる。要するに死罪になる。

 

デュランは血を吐いて倒れた。

 

 





次回、デュラン死す! デュエルスタンバイ!(嘘)

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