「セントリオが俺に?」
イヴァリースの北東、バレンディア大陸の東に位置する港町“バーフォンハイム”。
“海賊”と呼ばれる海運業を主とする男達がよく集まる酒場の一角で話し込む影が二つ。
「ウ――イィ、イザックゥ、何小難しいカオしてんだ? お前も飲めよぉ」
「うっせぇ! 酔っ払いが。昼間から飲んだくれてんじゃねえよ、働け海賊め」
「だーらぁ働いてきたから飲んでんだってば」
「こっちは仕事の話をしてんだ、あっち行け! ――で、何だ?」
イザックは相手に聞く。
「未だに未開のヤクト地域が多いのは知っているな? 今回はその一つを調査して欲しい」
魔法エネルギーの素と考えられている“ミスト”が異様に高濃度になった地域である“ヤクト”では、
「待て、地域調査はヒュムのチームでやるもんだろ?」
それに、
「クラン“セントリオ”って言ったら、モブモンスター討伐の
「調査する場所が問題でな、“
「知ってるぞ、大陸を一個挟んだ向こう、ケルオン大陸の奥地だ」
「あぁそうだ、お前行った事あったろ。あそこの怪物は相当強いからな、モブハンター並みの技量が必要不可欠、て事だ」
「他の連中、特に複数人のチームの方が適役の筈だ」
「それが、回った所の連中は皆“まだ呪われたくない”の一点張りでな……」
未開の地には大概、恐ろしい尾ひれが付く物である。
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「相変わらず陰気な所だ、此処は」
イザックは幻妖の森に来ていた。
……最後に来たのは“あいつら”と一緒の時だったか
ボゥっと考えて、ミストの中を進む。
「! っとと……」
彼が素早く木陰に隠れる。視線の先には、狼に近い魔獣“タルタロス”が三頭。
……仲間を呼ばれると面倒だな
装備を確認する。後ろ腰にフランシスカ、両前腕には籠手、腰の左にメイス、背には銃が一丁、後はとっておきがいくつか。何秒か考えて、算段をまとめる。
「よし……」
左手で銃の中程を持つ。右手でフランシスカを取り出す。
覚悟を決めて影から出る。三頭が気付くが早いか、フランシスカを手近な一頭に投
直後、迷い無く飛びかかる一頭へ左腕を外に払う様にしてシールドバッシュ、頭部を捉えたが致命傷にはならなかっただろう。振り払った手をそのままに、右手を銃のトリガーに掛ける。
……どちらを狙うか
後衛の一頭が身を翻した、
「チィッ! 不味い」
恐らくその一頭は仲間を呼ぶ遠吠えをする積もりだ。照準をそちらに、即座に発射し――。
「ガッ!」
先程払った一頭が再度飛びかかって来た。銃をすぐさま捨て、構えに入ったが、姿勢制御が間に合わない。両の手で相手が開いた上下の顎を持ったまま後方に倒れる。
首元をかみ砕かんとするタルタロスと両手で顎を抑えるイザック。
「グァッ、ガウ」
「ク……ラァァ!」
イザックは全力を持って両手を左右にずらす。
……折れろっ!!
バキリ、と、嫌な音を立ててそれは崩れ落ちた
「俺がヒュムなら死んでたな……」
彼は遠くの一体を見る。
「――――――」
……“サイレント弾”にしておいて正解だったな
後ろ脚を撃たれまともに動けない様子のそれは遠吠えの仕草を取るも、全く声が出ない。イザックは腰のメイスを抜きながらゆっくりと最後の一頭に迫る――――
強暴な動物達を排除した彼は、目的の地域に辿りつく。
依頼内容は森深部の構造と森の向こう側に何が有るのかを調査する事。
森には点々と石のオブジェが建てられていた。
「“遥けき時の彼方にて、猛るミストに守られて、まどろむ聖地ギルヴェガン、至りし道を誰そ知る”だっけかなぁ」
古謡に歌われる一節には、幻妖の森の向こうには、強いミストに守られた古代都市が有るという。
……なんて、嘘みたいな話だよなぁ
彼は、一度ここに訪れている。そして、ギルヴェガンに入った事がある。確かに古都ギルヴェカンは存在したのだ。
……確かこの像を抜ければ、でかい扉が……
「? 妙にミストが濃いな……」
ミストの霧が非常に濃くなった。俗説だが、ミストが濃い空間では、奇妙な事が起きやすい。
「?」
霧を抜けた先はイザックの記憶とは食い違っていた。そこには壁ではなく、人間の大きさ程の石のオブジェがあった。
……古代人は転送装置好きだよなぁ、絶対
旧代の遺跡にはよく見かける装置で、基本的には触れた対象者を、リンクしたもう一方の装置に送る。“動作原理が分からんが便利だ、それで充分だろ”と、イザックの知り合いは言っていた。
……危険な所に転送する装置は稀だからなぁ
そのような装置の場合、必ず警告文が書き込まれている物だから、恐らく安全だ。
微細な光を放つ所から、魔力は通っている。触れればすぐに転送されるだろう。
「森の向こう側には、なにが有りますかね、っと」
イザックは無造作にそれを触れる――――
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「ここ、一体なんなんです? シュナイゼル殿下」
「さぁ? 父上の趣味の一部じゃないかな」
エリア11、旧名“日本国”の離島、神根島には、第二次太平洋戦争時になり発見され、皇帝自ら調査を進めている古代遺跡が有る。内部には扉の様な構造物と、人間の大きさ程の石のオブジェが。
「僕、技術開発担当なんだけどなぁ」
白衣の男性は言いつつも、キーボードを高速で打ち込む。
「は~い、何時でも良いよ、セシル君」
「では、解析を始めます」
遺跡の各所に配置された解析装置が起動する。
……父上、
皇族衣の男は一人、黙考する。
と、
「? あれ? 何コレ……」
白衣の男、ロイドが首を傾げている。
「ロイド、何かあったのかな?」
「殿下、あちらを」
ロイドの助手、セシルが示す先には、
「石の台座だけど……あれが何か?」
「微細だけど、徐々に発光が強くなっているんです。環境変化も外的エネルギーの流入も無いのになぁ」
「解析結果出ました。……? エネルギーが検出されていません」
「では、あれは?」
「うーん、なんでしょうかね?」
「ロイド、それでは困るんだが」
「台座の
オブジェが光に包まれる――――
「――っと? ミストが薄いな……」
「――――――!?」
「そ、総員構えぇ!」
「化け物だぁ」
オブジェの前に一頭の“何か”が現れた。
人より大きい
「リザードマン……?」
「あ゛ぁ!? あの蛮族と一緒にすんな、俺はバンガ族だ」
“見りゃ分かんだろうが”と、吐き捨てる。
「俺はクラン=セントリオの依頼を正式に受注した者だ、契約書、並びに越境許可証、及び冒険者としての行動を認可する証書もある。分かったら、早くその変に脆そうな銃を下せ」
…………。
「おい
「明らかに知的生命体のようですねぇ」
ロイドの顔には明らかに“面白そう”と書いてある。
……父上はこれを……?
「どんな力が有るか分からない、くれぐれも慎重に、あまり刺激しない様にするんだ。身元が分かるまではロイド、君の
「はぁ~いぃ、了解しましたよ」
「“バンガ”だったかな? 僕達はブリタニア軍の者だ、君の身元がはっきりするまでは君を解放出来ない。しばらく我慢してはくれないかな」
武装解除を、と、シュナイゼルは促した。
……“ブリタニア”? なんなんだ一体
イザックが界を越えた事を理解するのはまだ先の事である。
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「残念でしたぁ。君、三週間は検査を受けて貰うよ」
白衣の
……まぁ、問答無用で戦闘になるよりかはマシか
その後、転送装置を確認したが、魔力が無くなっていた。物によって充填期間が必要になる装置なので驚きもしないが逃げ出せないのは自分にとって少々都合が悪い。
「じゃあそこに座ってくださいね」
もう一人に促されて座ると、様々な装置が起動する。
「良いのか? 武器が無くともお前らなんぞ一捻りだが」
己には何一つ拘束具が為されていなかった。
「あはぁ、君にそういう趣味が有るなら付けてあげるよ?」
「いや、遠慮しておく」
「ごめんなさい、こうゆう人なの」
「…………」
「んふふー、君聞きたい事はたくさんあるんだ。えっと、バンガ君だっけ?」
「おい、アンタ大丈夫か? バンガ族を見た事無い訳ないだろ? 俺の名はイザックだ」
「あの、ロイドさん……」
二人が隠れて話し込む。
……“ブリタニア”なんて聞いたことが無い。ケルオン大陸の向こうには未確認の文明が有るのかも知れんな
「おい、地図あるか?」
「あ、はい。今お持ちしますね」
軍服姿をした女性が取りに行った。
「じゃあ、質問を再開しよう。先ずは君の経歴を聞いても良いかな?」
「バンガ族を知らねぇって事は多分、言った所で理解出来ないと思うが」
「何か手掛かりが有るかも知れない。取り敢えず言ってくれるかい?」
「……生まれはランディスだ。そこの、アー、兵士だったが、アルケイディアに占領されてからは、ダルマスカとバーフォンハイムを拠点に冒険者として生きて来た」
やはり理解出来てない様だ。
「“冒険者”は職業として認められているの?」
「あぁ、俺は
「じゃあ、ここには財宝を追って?」
「? おたからはモンスターを倒して得る物だろ」
それに、
「ここにはセントリオの依頼で来た、地域調査依頼でな。契約書はあそこにある」
テーブルに置いた荷物の一つを指す。
「そう言えば君の荷物、見慣れない物が多いのはそうだけど、装備が数百年は昔の物みたいだねぇ」
「何? 一応新しい型の筈なんだがなぁ」
思わず首を傾げる。特に銃なんかはイヴァリースで最新式の“アルクトゥルス”なのだ。
と、先程の女性が帰って来た。
「はい、世界地図で言うと、今はここにいます」
地図の地形には全く見覚えが無かった。
……相当飛ばされたらしいな
「この地図、太陽はどちらから昇る?」
「? 勿論東からですよ」
ここがケルオン大陸の南に位置する場合、ここは海を跨いだ向こう、と言う事になる。
……だが待てよ。これだけの文明が未発見なんだ。大灯台の向こう側って可能性もあり得るか?
「検査結果出ました……やっぱり、骨格構造とDNAから異なるようです」
「うーん、科学者としては認めたくないけど……」
面倒な事になりそうだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日後、二人の影が特派に赴く。
「失礼する。アスプルンド伯爵は居るか?」
「はぁーいぃ、ここに……って、クロヴィス殿下!」
研究員は皆、最大の敬意を示す。
「あぁ、そんなに畏まらずともいいよ。
彼女は室内を見回す。
「――? 見ない顔だな」
奥からイザックが顔、と言うよりか顔に被せられた布を出す。
「貴様、不敬であるぞ! 布を取ってこちらに控えんか!」
クロヴィスの後ろに控える一人が言う。
「アスプルンド、どうする?」
「大丈夫、殿下は理解しているから」
「そうか」
彼は全体を覆う布を脱ぐ。
「!?」
「ほぅ」
「イザックと言う」
不敬で無い程度に頭を下げる。
「ここまでとはね……奇形の者程度に思っていたが」
「殿下は興味が御有りで?」
「いや、用が有るのはゴットバルトだ、後は良いかな?」
「はっ、お任せを――」
「ジェレミア・ゴットバルト辺境伯だ」
「あぁ」
「ここ数日、貴様の素性について調べた、しかし何の情報もつかめていない」
更に、
「貴様は人体実験を受けた
「まぁ、そうだな。俺は純粋なバンガだし」
「通常、ここに置く必要が無いために“処分”されるが、貴様には選択肢がある」
それは、
「処分を受け入れるか、ブリタニアに忠誠を誓い、帝国のために尽くすかだ。この場合、最低限の権利は保障してやろう」
「“経典か剣か”て奴か、どうせ生き残るための選択肢は一つしかないだろ」
……例の転送装置には
「では、貴様の力を十分役立てるのだな。ついて来い――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「貴様の身体能力は常人を遥かに上回る、故に“これ”を実運用出来るだろう」
ジェレミアはイザックを連れて来た。
彼が部屋の奥から大きなケースを引き出す。
「
「俺なら使えるだろう。と?」
「そうだ。お前はこれのために生かされている」
イザックは片手でそれを持った。
「それを携帯した状態で対KMF狙撃兵として活動できる人間はいない。貴様にはその任を受けて貰う」
「良いだろう」
「よし、では貴様と
「それで、観測手は誰だ」
「既に出頭命令を出している、間もなく到着するだろう」
「失礼します、パトリック・プライス特技下士官、出頭しまし……」
入って来た男は言葉を失い立ち尽くす。
「御苦労。貴様はこれより独立分隊への所属を命ずる、ブリタニアに忠義を見せよ」
「イ、イエス・マイ・ロード」
「イザック、お前の名字を聞いていなかったな」
「そんな名は無いな」
「ならばこれよりプライスを使え。これより、AK部隊員はここが拠点となる。以上だ」
「はっ」
ジェレミアは部屋を出て行った。
「俺はイザックだ、よろしく」
「あ、あぁ……」
「驚かないのか?」
「いや、上手く理解出来てない、俺はどうしちまったんだ……」
「時間はある様だし、一から説明してやる――」
パトリック・プライスが今日を忘れる事は無いだろう。相棒であり、世界を変えた、その蜥蜴との出会いの日を。