シンジュクゲットーに置かれた布陣、そこにねじ込まれる様に駐車されたトレーラーは特別派遣嚮導技術部の所有物だ。
ナイトメアを格納するそれに轟音が響く。
「オイこら! アスプルンドォ! 居るんだろ!?」
イザックが扉を殴りつける
「それじゃ開けらんないだろ!」
程無くして扉が開く。
「こんにちは~イザック君、随分久しぶりだね。噂は聞いてるよ? なかなかどうして、活躍しているみたいだ――」
「
「うーん、名誉ブリタニア人のようだね。残念だけど、特派と言えど軍事規則は――」
「ロイドさんっ、彼……」
セシルは重傷の下士官を見て気付いた。
「え? ――あぁ! デヴァイサー君じゃあないか! いいよぉイザック君、僕らに任せて」
「は? 有り難いが一体どういう……」
――彼はもう、下士官じゃあ無くなるって事さ。
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G1ベースの外縁部、各ナイトメアを部隊単位での戦闘補助を行うオペレータルームに一人の女性がいた。いや、女性と言うには若い、その少女の仕事は勿論オペレータである。
「敵機、グラスゴーは当部隊の作戦範囲を超えました。追撃を中止、領域探索を再開して下さい」
『了解。作戦を続行する』
『良いよなぁ。お前んとこ、可愛い女の子でさ』
「ほぅ、俺では不満か?」
彼女の隣に座る男性が言った。
『いやいや大将、そう言う訳じゃねぇよ?』
「M2、二次方向に敵性目標2名、発見しました、屋上です」
彼女は実験兵装、UAVリコンの情報を元に部隊を補佐する。
……これ、正式採用出来そうね
『ったく、ゴミのように湧いてきやがる』
『もはやゴミと変わらんだろ』
「…………」
「どうした?」
「いえ、なにも……」
そう言う彼女の手は、固く握りしめられていた。
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「――ッ!?」
血染めの倉庫、ルルーシュが立つそこに、ナイトメアが一機。
「何故、親衛隊が……?」
KMFパイロット、ヴィレッタ・ヌゥが見た先にはかつての親衛隊と一人の少年の姿が有った。
『そこで何が有った? ブリタニアの学生が何故そこにいる?』
外部音声にしてヴィレッタは問う。
『答えろ、さもなくば』
ナイトメアの持つ銃を向ける、人にとっては砲に等しいそれを受ける事は死を意味する。
彼女は
『答えろ!』
少年は答える。
「そこから降りろ、今すぐに」
『……お前、何様のつもりだ』
彼の力、あの奇妙な従属の力は発動しなかった。
……そうか、やはり直接見ないと発動しない
先の高慢な言に干渉しないよう言葉を選ぶ。
「私はアラン・スペイサー。父は侯爵だ。
内ポケットにIDカードが有る。確認の後、保護を要請する」
……侯爵だと? 馬鹿な……しかし真実ならマズイ事になるか
彼女はキーを抜きとり、ナイトメアを停止、背面後部のハッチを開き機体から降りる。
拳銃を構えた彼女が言う。
「手は挙げたままでいろ。IDは私が取る」
答えるように彼は言った
「寄こせ、お前のナイトメアを」
「っ……」
数瞬の間を以って、彼女が否定を、
「解った。ナンバーはXG2-IG2D4」
「よし」
覚醒する。ヴィレッタは気付くと件の倉庫に立っていた。
「!? 私は何を――」
……そこにブリタニアの学生が居た筈……!
無い。彼女のKMFは忽然と消えていた。
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「
スザクは目覚めた。目の前には見知らぬ男女が。
「地獄に行き損ねたねぇ、枢木一等兵」
どうなっているか分からない、確か自分は撃たれた筈。彼の記憶はそう言っている。
「? あの、っ! ここは?」
「んっ? あぁまだシンジュクゲットーだよ」
セシルが重ねる。
「クロヴィス殿下の近くだから、一番安全な所だけど」
彼女は手の物を差し出す。
「これと、ベテラン下士官達が貴方を救ったのよ」
「それは、防護スーツ内の兆弾を防いだだけなんだけどね」
「大切な物?」
スザクは硝子の割れた懐中時計を受け取る。
「は、はい」
「イレヴンには、物に神様が宿るって信仰が有るそうだね。こう言うのも――」
「あの、ルル……此処には特務殿が?」
「そう、完璧な応急処置だった。彼らじゃなかったら貴方が此処にいるのも怪しい所だったわ」
「状況はどうなりましたか?」
「毒ガスは拡散したらしい。イレヴンが大量に被害に遭ったって」
「犯人はまだ見つかって無いみたい」
「そうですか、まだ……」
ルルーシュはまだ生きてるかも知れない。
「枢木一等兵。KMFの騎乗経験は?」
ロイドは不意に言った。
「え? まさか、イレヴン出身者は騎士に成れません」
「成れるとしたら?」
彼の手にはKMFのキーが有った。
「おめでとう! 世界でただ一つのナイトメアがキミを待っている。
これは変わるよ。キミも、キミの世界も」
「望もうと、望むまいとね」
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「……いるな、二人だ。50m先。撃つか?」
「行ってくる」
「
「少し大き目に話してくれ、この距離なら何とか聞こえる」
目標は、たった二人の偵察奇襲部隊らしい。瓦礫の山から顔を覗かせ、時折手に持つロケット発射器を撃ち、もう一人は背に背負う無線を操作する。
……武器が無けりゃあ、見逃せたんだがな
イザックは倒壊したビルの内部を進む。隠れ場所には事欠かない。
「カレン! グラスゴーはまだ動くか!?」
もう人間でも声が聞こえる位置まで来た。ヘアバンドの男が無線で話している。
重なる爆発の音がイザックの進行を助ける。
男の背後、イザックが前腕に隠す刃をせり出させる。脇から肋骨を通して内蔵を刺せば一撃だ。
『大丈夫、私が囮になるから、扇さんは此処の人達を逃がして!』
彼の手が止まった。
『捕まるのは私達レジスタンスだけで――』
「分かってる! だけどこれだけ囲まれていたら! ――っ!?」
男が無意識に横を向く。――気付かれた。
刹那の内にイザックは動く。右手で男の首裏を掴み左手の刃を首元に当てる。
「そのまま無線を続けろ」
扇と呼ばれた男にしか聞こえない声で言う。
『? 何かあったの?』
「やるだけ頑張るがカレン、お前も気を付けるんだ」
『分かってる、じゃあ』
「扇! 此処はもう危険っ!?」
ロケットを発射した男が振り向く。
「何だおまっ――」
「お前らは、民間人を逃がそうとしているのか?」
「……あぁそうさ! 俺達レジスタンスはともかく、何の罪も無い人達を巻き込んで、何とも思わないのか!?」
「馬鹿な、
「そうだよ! まさか此処の人間を皆殺しにするのか!?」
「違う!」
彼は男を放す。
「もしそうなら、俺らに敵意は無い。撤退補助をさせてくれ」
「信じられるか。そうやって俺達を騙す気だろう!」
「軍の包囲に無い地下道がある。俺に銃を向けながらでも構わない」
イザック頭を下げる。
「頼む、武器を持たない連中を殺したくない……!」
「ふざけるな! そんなのが通じると――」
「待ってくれ」
「扇! 信じるのか? 人かどうかも分からない奴の言葉だぞ!?」
「でも! 他にみんなを助ける方法が有るのか?
……仲間と合流する。来てくれないか?」
「分かった――」
蜥蜴は、彼らを逃がす事にした。
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電話を掛ける。数秒の後に通じた。
『ルル? 何よ今更! どこにいるの? サボってばっかりじゃ留年しちゃう――』
「そこにテレビはあるか?」
『……テレビ?』
「ごめん、大事な事なんだ」
ルルーシュはKMFのコクピットから言う。
『もう、ちょっと待ってね……ごめん、これ貸して』
「ニュースだ。シンジュクで何かあるか?」
『ニュース? えっと……交通規制だけで、他には無いけど』
「規制の理由は?」
『分かんない。特に出てないし……』
……なるほど、全てを終わらせてから軍に都合の良いように報道をするつもりか
『ねぇ、また変な賭け事やってるんでしょー。前にも言ったけど、そういう危ないのは――』
「うん、分かってる。それと、妹に帰りは遅くなるって伝えてくれ。じゃ」
通話を切る、電源も切断した。同じ様なヘマは打たない。
ルルーシュが乗るのはブリタニア軍のナイトメアフレーム、
機体の位置が全て把握出来る。
――情報を秘匿している以上、大っぴらに援軍は呼び難い。つまり、盤上の駒はこれだけ。
とはいえ、これだけの包囲網を一人で突破するのは難しい、保護を求めるのは帰って危険だ。
と、グラスゴーが奮戦する音が聞こえる。
……俺を巻き込んだ借りを返して貰おうか
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赤いグラスゴーの放ったスラッシュハーケンが、ブリタニア軍の戦車を捉える。
「ブリタニアめ……よくも!」
背後に二機のサザーランドが迫る。
「あのグラスゴーか」
ジェレミアだった。そのままアサルトライフルを向け、発射。
撃つが早いか、グラスゴーは市街を走る。
「後三十分……!」
エネルギーの残量が残り少ない事を彼女は確認する。
『……西口だ』
知らない声が、無線から響く。
「――!?」
『線路を利用して、西口方面まで移動しろ』
「誰だ! どうしてこのコードを知っている!」
『誰でも良い。勝ちたければ、私を信じろ』
……勝つ……!
彼女は、誰かも分からぬ声に従い、線路に乗って進む。
「おい、これからどうすれば良い!?」
「
と、線路の向こうから列車が来る。
『私を信じたからには勝たせてやる。この上に跳び移れ!』
「分かった!」
指示のまま、グラスゴーは跳ぶ。
……通用すると思っているのか? こんな作戦が
サザーランドは片腕で列車支え、数分せずにそれを止める。
後ろの一機に言う。
「お前はグラスゴーを追え」
『イエス・マイロ――』
跳躍したサザーランドにスラッシュハーケンが突き刺さる。
「何?」
線路沿いのビルに一機、サザーランドがいた。
「ど、同志討ち……!? 貴様何処の部隊だ!」
『敵は片腕だ!』
返答は弾丸を以って返された。
「まさかっ、テロリスト!?」
不意の攻撃、ジェレミアの機体が大きく損傷する。
「
ジェレミアがアサルトライフルを構えるが、
「うおおぉぉお!!」
先程のグラスゴーが帰って来た。
「ぐぅっ!」
堪らずジェレミアはレバーを引く。
即座にモジュール式脱出機構が機動しコックピット全体が後方に射出、ジェットにより退く。
「助かったよ! でも、どうやってサザーランドを、あれ? 何処に……」
彼女が見た先、サザーランドは消えていた。
「おーい! カレン、さっきの通信は何だ!?」
声を外部出力に切り変える。
『え? 扇さん達にも?』
「あぁ。それと、少し案が有る。今吉田達もこっちに――」
『お前がリーダーか?』
扇の無線に通信が入る。
「あ、あぁ」
『そこに止まっている列車の積み荷をプレゼントしよう、勝つための道具だ。
これを使って勝ちたくば、私の指揮下に入れ』
「これは……サザーランド!」
「こっちもだ!」
「すげぇぞこりゃ、話だけでも聞いてみるか?」
……こんなに、どうやって?
グラスゴーに乗る少女、カレンが違和感を覚える。
『グラスゴーにいる女』
「は、はい!」
『お前はそのままだ。その機体はかく乱に向いている』
「分かった」
『エナジーフィラーは?』
「あと十五分程なら」
『では、換装しておけ。10分後に、新しい指示を連絡する』
「待ってくれ、俺達はみんなを逃がしたいだけだ。こちらにも策が、おい聞いてるのか?」
『扇さん、その策って?』
カレンが応えた。
「あぁカレン、みんなも聞いてくれ。安全な脱出経路が見つかるかも知れないんだ」
“何だって?”と他のメンバーが集まる。
「ブリタニア軍部にも、この作戦に賛同しない奴がいる。
彼が抜け道を案内してくれると申し出てくれた」
戦闘服姿の男が応える。
「パトリック・プライス特務下士官だ。本作戦におけるブリタニア軍の行動は交戦規則を大幅に逸脱している。
私と、その……もう一人は道義的な側面から君達を支援したいと考えている――」
「ふざけんな!」
メンバーの一人が言う。
「そうやって俺達を一網打尽にしようって事だろ!?」
「おい玉城、せめて最後まで」
「うっせぇ! 第一、もう一人はどうしたんだよ、それで信じろって言われてもなぁ!」
「たっ、玉城後ろ!」
「あぁ? 何だよ――!?」
「……イザック・プライス特務下士官だ」
蜥蜴が、姿を現した。