「ひぃぃぃ! 化け物だぁっ」
先程の威勢は何処へか、玉城は腰を抜かして後ずさる。
「オウギ、だから言ったんだ」
この反応は予測済み。故にイザックはパトリックのみでの誘導を主張したが、扇はそれを良しとはしなかった。
「ま、ますます信じられないな! ブリキ野郎と怪物に従う位なら、あの変な無線の奴に従っていた方がまだましだ!!」
「そうだ! 玉城の言う通りじゃないか!」
「どうなんだよ、ブリタニア!」
……“どう”って言われてもなぁ
パトリックが返す。
「私は、私の軍人としての職務に従い民間人の保護を行いたいだけだ」
「実際、殺す気なら罠なんて必要無い。戦況は圧倒的なんだしな」
「俺もそう思って、彼らを連れて来た」
「お、扇さん……」
リーダーの判断に、無暗に干渉するのはチームの結束を弱める事になりかねない。
イザックが追い打ちを掛ける。
「それに、お前らが
展開する前のナイトメアなら爆撃指示で終わりだ」
つまり、
「今戦う事にしたら、少なくとも此処のナイトメアは鉄屑になるぞ」
威圧とも取れる発言。しかし、甘い言葉だけ掛けるより効果は高い。
「……確かに、こいつらの言う事は理に叶っている。妙な点は無い」
眼鏡の男が言う。
「でもよぉ……」
『どうした、何に時間を掛けている』
不意の通信が入った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「迷う暇など無いだろう、勝利を得たいなら早く――」
『待ってくれ』
……チィッ、他に選択など無いだろう
『民間人脱出の目途が立ちそうなんだ』
……何だとっ!?
完全な誤算だ。まさか断る可能性が有るとは、ルルーシュは思いもしなかった。
『だが、意見が割れてる。それに相手が相手なんだ』
「……と言うと?」
『――こちらはブリタニア軍―特務下士官、パトリック・プライスだ』
……ブリタニアだと? まさか懐柔に来たか!?
不味い、奴らが戦力にならなければ話にならない。
『我々は民間人の保護を目的としている。シンジュク地区“自警団”には“退避の補助”を要請する』
……ほぅ、そう来るか
「戦闘は望まないと、そう言う事か。収まるか?」
『収めるんだよ』
嗄れた声が応えた。
「フン、総員は搭乗急げ。これより民間人の退路を確保する」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レジスタンスの反撃が始まる頃、軍人二人は倉庫の一つに到着する。
予定通り、目標の裏口に回る。
――じゃあ頼む
裏口のドア、後方数十メートルからパトリックがサインを送る。
……よし
イザックが扉をノック、三回ごとに分けてそれを三回行う。と、
「来たな、あんたらが救世主サマてぇ訳だな?」
中から男が一人現れる。
――確認、来い
ハンドサインで後方に通達する。
「信じたくないなら、残ってくれ、レジスタンスのメンバーは此処に残る」
言った彼らに同行したのは十五名、全体の25%程だ。
「通りを渡る際は一人ずつ、安全を確認してから指示を出します。分断されても絶対に焦らずにして下さい。このサインが有ったら姿勢を低く、物陰に向かって下さい」
パトリックが手短に指示を出す。
「な、なぁ……もう、大丈夫なんだよな、貴方達についていけば、ブリタニア軍に攻撃されないんだよな……?」
「先程申し上げた通り、保証は出来ません。上層部が暴走しているようなので、最悪の場合は我々がブリタニア軍から貴方達を守ります」
「その……それってつまり……」
「戦闘する可能性もあります」
「…………」
「彼の通信が終わり次第、出発します。命を賭して、私は貴方を退避させます」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『あーアー、えーと?
通信が入る。
「ナイトメアからじゃないな、こんな忙しい時に……、フィオナ、お前の隊は?」
フィオナが応える。
「
「頼めるか?」
「イエス・マイ・ロード。回線、繋いで下さい」
通信が彼女に繋がる。
「はい、こちらG1ベース、オペレータです」
『あぁ聞こえてるか。こちら
「? 歩兵隊の無線には位置情報の送信は……」
無線が重くなり過ぎるため不可能な筈だった。
コンソールを操作すると、確かに位置情報が表示されている。
「……はい、確認しました」
『これより退避、民間人の保護を行う。補助を要請する』
嗄れた声の彼(恐らく)が言った。
だが作戦では“壊滅”、一人も残してはならない事になっている。
……それでも……
「解りました、適宜通達による補助を行います」
彼女は、フィオナは己の心に従うことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
状況は大きく変化した。
「グラウベ卿脱出! 機体はロストしました!」
「コードを変更しろ! 通信が傍受されている筈だ!」
漏れているのはIFFだ、通信より致命的だろう。
「何という失態かぁ!!」
クロヴィスが声を荒げる。
「も、申し訳ありま――」
『こんにちは!』
将軍の声を遮り、作戦図面に割り込んで来たのはロイドだ。
「なんだ!? 作戦行動中に!」
『いやぁ、そろそろ特派の嚮導兵器を――』
「今はそれどころでは無い!!」
クロヴィスは言い放つ。
「R-2、アンカー発射」
ヘリが墜ちる。
「B-7、UN弾を」
装甲車が撃破される。
「Nグループはそのまま前進」
ルルーシュの声に導かれ、レジスタンスは戦況を覆しつつあった。
「敵部隊撃破か」
……敵の選択肢は五つ
ブリタニア軍は陣を崩した。物量によって一気に叩く構えだ。
「移動完了、状況は?」
『
「味方は何処に向かっている?」
『私達の所から二時方向、およそ800メートルの地点です』
「どうするイザック、地下道の真上だ」
「何も無い事を祈るしか無いだろ、レフトクリア」
「ライトクリア、行くぞ」
『Q-1、地図は正しいんだな?』
「あぁ、旧市街は……」
声にカレンが応える。
「しかし現物も見ずに――」
『十分。ミッションNo.3、準備は良いな?』
……大丈夫なのか?
グラスゴーが居るのは地下道の中、真上に敵が誘導されているらしい。
『よし、やれ』
「分かった」
肩部のスラッシュハーケンを天井に打ち込み、その場から退避する。
『な、これは……』
「扇さん、どうしたの?」
『確認した。ブリタニアのナイトメアの居る所が丸ごと崩落した』
……まさか、本当に成功したの!?
誘導地点を崩落させたのだ、
「ロ、ロスト! 被撃破機体数確認できません!」
クロヴィスは何も言えずに後ずさる。
……誰だ、私は誰と戦っているのだ……? こいつ、まさか“藤堂”よりも
彼の脳裏を焦りが走る。
「ロイド!」
『あ、はい?』
「勝てるか? お前の“オモチャ”なら」
『殿下、ランスロットと御呼び下さい』
ロイドが笑う。
「お、おい、なんだ今の!?」
『KMF部隊の攻撃地点に大規模が生じた模様です! 我が方はナイトメアを多数ロストしています!』
「形勢逆転、か」
見ると、進むべき地下道の入り口から大量の土埃が吐き出されている。
「……地下道が塞がった。此処を拠点に防衛を行う」
『了解しました、他の脱出路を捜します』
……不味いな
AK部隊も窮地に立たされた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『嚮導兵器=Z-01、ランスロット、起動します』
特派のトレーラー、その後部が開き一機のナイトメアフレームが姿を現す。
白を基調としたKMFはまるで己を誇示するかのように輝く。
『ランスロット、起動スタンバイ』
スザクは衣服を戦闘服からパイロットスーツに変える。
「――でもゼロでは無いんですね」
彼は
『無茶はしないで、新システムで脱出機能が外されているから』
「はい、分かってます。セシルさん……これが……」
『特別派遣嚮導技術部の試作嚮導兵器“ランスロット”。
世界唯一の第七世代KMFよ』
『じゃあスザク君、初期起動に入ろうか』
「――クリア」
『
――
『敵は――』
「全部だ。レジスタンスも……ブリタニアもだ」
シンジュクは混沌の色をより酷にしていた。
レジスタンスは半暴徒化しており、非機甲目標に対してもナイトメアによる“報復”を繰り返している。
同様にブリタニア軍も徹底的な焦土戦術を展開。建造物を見れば伏兵がいると見て無差別な破壊を行う状態だ。
……誰にも見つかってはいけないか、絶望的だ
ブリタニア軍を示す印を持ち、日本人を連れたAK隊はどちらからも攻撃される要素を含んでいる。
『“自軍機”の接近を確認、通りの左から来ます』
――隠れろ
先行するイザックがハンドサインを出した。並行して、大きな背の大半を占めるAKMRを取り出す。
『単独行動のようです』
「やむを得ん場合は、撃つ」
『了解しました。お任せします』
程無くして一機のサザーランドが姿を現す。
偵察らしいそれは“ファクトスフィア”を起動、通りの両側を確認している。
「…………」
射撃体制のまま、イザックは静止する。
数度に渡り周囲を見回したサザーランドは、最後にこちらの背後、頼り数階分高い建造物に目を付けた、様に見える。
『――攻撃する様です、退避を……!』
『おいおいやべえぞ! 今五人いる!』
件の建造物には五人が隠れていた。今のブリタニアなら確実にやる。
「ッ、アタック……!」
心拍数を最小にする。狙うのはコックピット下部の腰部。至近距離だ、そしてAKMRの超大口径弾ならば弾道計算は無用に等しい。
十字線を揃える……トリガー。
人間であれば肩が吹き飛ぶ衝撃が掛かる。音を置き去りにする弾丸が通りを貫く。
『完璧だ、敵機は脱出したぞ』
「移動だ、状況は――」
『脱出経路確認出来ました。これより誘導します』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レジスタンスは勝利まで後一息の所まで来た。
『こちらBグループッ、敵影を確認!』
……? 増援か?
ルルーシュはIFFマップを確認するが、Bグループの居るエリアに敵は無い。
増援は無いと踏んでいたが、やはり実戦は違うらしい。
「状況は?」
『全員脱出したが……四機があっという間に』
……規模は相当か
「敵の数は?」
『――一機だよ一機!』
一瞬、理解出来無い。
『新型じゃないのか!? 初めてみるタイp――うわぁぁあ! ……』
「おいどうした?」
通信が途絶する。
『こちらDグループ! 一機やられた!』
「何だと!?」
Dグループは後方部隊でBグループとは対角に位置している。
「敵の特徴はなんだ?」
『み、見えない! 何処から攻撃されているのか……』
……馬鹿な! そんな機体有る訳が……
Dグループを狙うのはKMFでは無かった。
「レジスタンスの脱出経路と被っていたか……」
「気付かれてはいない様だ、次は中央の奴だ」
『こちらの新型に注意が行っています。敵増援は無いと考えられます』
つまり、後三機だ。
「了解」
「三時の風、右に2クリック」
「…………」
「全員こちらを向いていない時を狙うぞ」
数十秒の後、発射された弾丸は数瞬の飛翔を以ってKMFを撃ち抜いた。
「こっちを見ている、位置は解って無い様だが少し待て」
パトリックが指示を出す。
「おい、今撃ったのは、レジスタンスのナイトメアじゃないのか?」
「奴らは暴徒化している。撃つしか他無い」
「そんな……」
「ふ、ふざけんな! そんな馬鹿な事信じられるか!」
一人が声を荒げる。
「落ち着くんだ、下手な事をすれば敵に――」
「もう気付かれてる!!」
『ブリタニアに手を貸す裏切り者だ! ブッ\\してやらぁ!!』
外部音声にした二機が迫る。
「チィッ」
……せめて一機でも……!
残り400m、イザックはAKMRを構える。
「クリックゼロだ、300で撃つぞ」
「了解!」
しかし、回避しながら来る敵機に弾丸を当てるのは至難、イザックはそれでも狙う。
と、
『例の友軍未確認機、高速で接近しています!』
聞くが早いか、それはやって来た。
戦場に合わぬ白い機体がサザーランドを横から蹴り飛ばし、一瞬で撃破する。
予想外のそれにもう一機が止まる。
……今だ!
トリガーを引いた。弾丸は白い機体の顔横をすり抜けてサザーランドの腰部を貫いた。
だが、
「一難去って地獄だなおい!」
もう距離が無い。こちらも、背後の民間人も確認されているだろう。
イザックはリロードを、
『特務殿!』
……?
『自分です、枢木一等兵です!』
「なんだって?」
AK隊は銃を構えたまま固まる。
ナイトメアは二人の前で止まり、パイロットが姿を現す。
「ご無事でしたか!」
「お前で良かった……」
「あの方々は」
「民間人だ。助けたいが……両軍とも暴走している。もう誰も信じられん」
「自分にやらせて下さい。ランスロットなら――」
『――――全軍に告ぐ。直ちに停戦せよ』
声が響いた。