スーパーマリオ イフストーリー (完結) 作:竜音(ドラオン)
チョコはもらえましたか?
チョコは渡せましたか?
こちらが私からのバレンタインプレゼントです。
・
バレンタインデー。
それはチ(ョコ)でチ(ョコ)を洗うような苛烈な戦いの日。
乙女はみずからの心に決めた異性へと思いを込めたチョコを送る。
受け取った男性は周囲の貰えなかった男性からの射殺さんばかりの視線を受ける。
バレンタインデーとは、そんな
12月、1月も過ぎ、すでに2月も半ば。
それでもまだまだ寒さの残るそんな頃。
どの世界の女の子たちもそれぞれの予定を詰めつつ、今日という記念日に思いを寄せながら過ごすのだろう。
そんな記念日だとしても楽しめない人間は少なからず存在している。
恋人の存在しない人間たち。
通称“ボッチ”である。
彼らは道端でいちゃつくカップルたちに中指を立てながら町を歩くのだろう。
2月の半ばであることに加えて独り身であると言う事実に彼らの体には一層の寒さが突き刺さるだろう。
独り身であることといちゃつくカップルによって荒んだ心を癒すものがないかと町中を見渡してみても目に映るのはリア充とリア充とリア充ばかり。
キノコや亀が話ながら町を行き交い、耳に入るのは凡そ同じ生き物だとは思いたくない化け者共の鳴き声とそれに似つかわぬ明るい曲です。
「ストップ、ストップ!!」
「なんですか、まだナレーション中ですよ」
「悪意しか感じられないんですけど?!」
「ナレーターさん、大丈夫ですか?!」
あんまりなナレーションに思わずカメラを止めてキノピオたちが尋ねる。
カメラが撮影しているのはバレンタインのキノコタウンの様子。
キノコタウンには何人かのキノピオたちが歩いており、そのキノピオたちは揃って男女のカップルたちばかりだった。
そんな光景を見ていたマイクを持ったキノピオ(30才・独身・彼氏いない歴=年齢)は目から光を失っていた。
「大丈夫ですよ。それよりもまだナレーションが途中です。お静かに」
「あ、はい」
「・・・・・・大丈夫かな」
キノコタウンの中心には今日限定で大きなハート型のアートが置かれていた。
そこには待ち合わせやら、記念としての撮影やらでカップルがそこにはうじゃうじゃといる。
もはやこのアートには“リア充集め”とでも名付けておけばいいのではないだろうか。
あまりに醜悪なその光景に視聴者はSAN値チェックです。
「だからちょっと待って?!」
「はい、カットしてくださーい!」
「ナレーターには温かい飲み物渡して解散してー!」
「なんで番組中にいきなりSAN値チェックなんだ・・・・・・」
キノピオたちの困惑の姿が最後に映され、番組は終わった。
「・・・・・・なんだったのかしらね」
「ナレーターの精神状態が不安定すぎではないか?」
なにも映さなくなったテレビ画面を見ながらピーチ姫はポツリと呟く。
どう考えてもまともな精神状態には思えなかったナレーターの様子。
慣れた対応の他のキノピオたちの様子からいままでにも似たようなことがあったことはうかがえた。
ここはピーチ城のキッチン。
ピーチ姫、クッパ、ナハトの3人はマリオに渡すチョコ作りをしていた。
「まぁ、とりあえずはチョコを完成させちゃいましょう」
「そうだな。とりあえず、仕上げといって洗剤を手に持つのはやめろ」
「料理クラッシャー」
ピーチ姫の腕を掴み、クッパはピーチ姫の動きを止める。
なぜ油断をするとピーチ姫は洗剤に手が伸びるのか。
それは誰にも解明することのできない謎である。
「私は完成したからマリオに渡してくる」
「ちょっ、全員で一緒に渡す約束でしょ?!」
「いや、ワガハイも完成してるのだが・・・・・・」
「嘘?!」
ナハトの手には白いリボンで飾られた黒い箱。
クッパの手には赤いリボンで飾られた緑色の箱。
ピーチ姫が色々とやっているうちにクッパとナハトの2人はチョコを作り終えていたのだ。
「ナハト、とりあえず余っているチョコをやるから待つとするのだ」
「ん、分かった」
クッパからチョコを作る際の残りを受け取り、ナハトは口に運ぶ。
余っていたチョコだとしても美味しいのだろう。
もらったチョコを嬉しそうに食べている。
「これで・・・・・・できた!」
「ん、すぐ終わるくらいだったのだな」
「クッパのやつ美味しいよ」
「うむ、それなら良かったのだ」
白いリボンで飾られたピンク色の箱を頭上に掲げながらピーチ姫は嬉しそうに叫ぶ。
待ち始めてからそこまで時間を経たずにピーチ姫のチョコ作り、及び包装が終わった。
「待たせちゃってごめんなさいね」
「そこまで待っていないのだ」
「じゃあ、渡しに行こう?」
待たせてしまったことをピーチ姫は謝る。
ピーチ姫の言葉にクッパとナハトは然程気にした様子もない。
そして3人はそれぞれ自分の作ったチョコを手に、キッチンを後にした。
キノコタウン、民家前。
水道管の修理を終えたマリオは民家から出てきていた。
「ふぅ。とりあえずはこれで今日の予定は終わりかな」
軽く息を吐き、マリオは今日の他の仕事を思い出す。
今日の仕事の内容はどれも地上で終わるようなものばかり。
地下に潜ってやるような仕事がないのは楽で助かるのだが、少しばかり不思議に思える。
いつもであれば最低でも一件くらいは地下に潜るのだが、今日はそれがない。
その事実にマリオは首をかしげていた。
「マリオどの、今よろしいですかな?」
「あれ、キノじい?」
声をかけられ振り向くと、キノじいがそこにいた。
キノじいがピーチ城から出てくることは滅多になく。
出てくるとしてもピーチ姫のお付きとして出てくることがほとんどだ。
「今日のお仕事は終わりましたかな」
「え、あ、うん。今日の仕事は終わったよ。今から帰って書類をまとめるくらいかな」
「そうですか。そうですか」
マリオの言葉にキノじいは何度も頷く。
どうやらマリオの今後の予定が知りたかったようだ。
「であるならぱ、お早くご帰宅することを勧めさせていただきますぞ。それでは、私はこれで」
「そのつもりだったけど・・・・・・。なんだったんだ?」
そう言ってキノじいは歩いていってしまった。
いったいなんだったのだろうか?
早く帰ることを勧めると言っていたけど。
まぁ、書類をまとめるためにそのつもりだったし、キノじいの言葉に従っておこうかな。
そう考え、マリオは工具の入った工具箱を片手に帰路についた。
マリオの家。
キノじいに言った通り、マリオは特に寄り道もせずに帰宅していた。
一応、マリオは今日がバレンタインデーであることは知っている。
だが、毎年チョコをくれたのはルイージとピーチ姫のみ。
そのことからマリオは特に気にした様子もなく仕事の書類をまとめていた。
不意にインターホンがなった。
玄関の前に何人かいるのかかすかな声も聞こえてくる。
「はーい」
「は、はっぴぃばれんたい────なぜ言わぬのだ?!」
玄関を開けると、クッパが勢いよく飛び込んできた。
途切れた言葉からおそらくは『はっぴぃばれんたいん』と言いたかったのだろうと思える。
そんなクッパの様子をピーチ姫とナハトはニヤニヤと見ていた。
「ほんとに言うとは思わなかった」
「録画しておけばよかったわね」
「ぶっとばすぞ?!」
ニヤニヤと笑うピーチ姫とナハトにクッパは詰め寄る。
それでも反省の色はピーチ姫とナハトには見えない。
暖簾に腕押し、ぬかに釘。
何を言っても2人は態度を変えることはないだろう。
「あ、あはは・・・・・・。それで3人はなんの用で来たんだい?」
「っと、いかんいかん。本来の目的を忘れるところだった」
「まったく誰のせいかしらね?」
「ふしぎふしぎ」
マリオの問いにクッパは思い出したように小箱を取り出した。
クッパの動きに合わせるようにピーチ姫とナハトも小箱を取り出す。
その際に白々しいことを言っているが、クッパは軽く睨むだけでなにも言わなかった。
「こほん。マリオ、今日がなんの日かは知っておるな?」
「ああ、バレンタインデーだろ?もしかして・・・・・・」
「ええ、あなたが想像しているものよ」
「けっこう上手にできた」
軽く咳払いをし、クッパはマリオに今日がなんの日かを改めて尋ねる。
当然ながらマリオは今日がなんの日かを答えることはできる。
クッパがなぜそんなことを尋ねてきたのか。
マリオは一瞬だけ不思議に思ったが、もしやと思い3人の顔を見る。
マリオの様子に3人は満足そうに頷き、手に持つ箱をマリオへと差し出した。
「「「ハッピーバレンタイン!!」」」
────それはきっととても甘い。
────舌も、そして心まで溶けてしまいそうなほどに甘い。
────甘い、甘い贈り物。
─────どうか、どうか男女に関係なく幸福がありますように・・・・・・
読了ありがとうございます。
唐突に今日、残業をするはめになるとは・・・・・・
ルイージの方も書かないといけないのに・・・・・・