小麦 こなと申します。処女作なので駄文が続くと思いますが暇なときにちらっと見てあげてください。
よろしくお願いします。
プロローグ
プロローグ
いつもより暗い夜道を俺は一人で歩いていた。まるで俺だけが四角い箱に閉じ込められているような寂しく暗い夜道。
この道はいつも歩いているのだけれど、夜一人で歩くのは久しぶりな事で、こんなに物静かで広い道だとは思わなかった。朝はいつもこの道を歩いているにも関わらず。
そこから二つの分かれ道があり、自分の自宅のある方向へ歩いていく。
「どうしてなんだろうな」
ぽろっとこんな言葉が口から零れ落ちる。この言葉の真意は今日の出来事によるもので、俺自身にも理解が出来ていない。
もちろん社会人だから仕事をしていた。過去形なのは、ついさっき職場をクビになった。上の人間は一週間前から俺をクビにすると決めていたみたいだけれど。理由?さっぱりわからない。
「今回は上手くいくと思っていたんだけどな」
仕事自体は楽しかったし、たくさんの人にも出会うことが出来た。半年しか働いていないけれど、次の仕事を企画から任せてくれると聞いていたのに。
このまま俺の家へとゆっくり歩を進める。行先はアパートだけれど。
俺の部屋付近で初老の女性が掃除をしていた。いつもは軽く挨拶をして世間話をするのだけれど、真っ黒な感情である今は彼女と話そうとも思えなかった。
「ただいま」
自分の部屋のドアを開ける。九月の夜にふさわしくないやけに冷たい空気が俺を迎える。一人暮らしだから仕方がないが、こう言う時は誰かに居て欲しい気分だ。そして愚痴を聞いて欲しい。
気怠くかばんを放り投げてベッドに腰掛ける。いつもは少し料理をしてお腹を満たすのだけれど、今日はご飯がお腹に入りそうにもない。
どうやら今日起こった出来事は俺に大きなダメージを与えたようだ。このような経験をたくさんしてきたが、今回はどうやら違うらしい。
どういう事かと言うと、俺は今まで失敗ばかりの人生を送ってきた。大学受験に失敗して一年浪人したにも関わらず、第一志望どころか滑り止めまで落ちてしまい専門学校に進学した。どうせなら一発大きい夢を叶えたいと思ってバンドを結成し、メジャーデビューを目指すも挫折。卒業後もやる気が出ず一年ニートした。
そして今回、仕事を見つけて半年でクビになった。
いつもは俺と一緒に音を奏でている相棒たちも今は複数掛け楽器スタンドに立てられており、みんな横を向いてしまっていてこいつらまでもが俺の方を向いてくれない。
最近までこの部屋もにぎやかだったのに、今は閑散としている。元から狭い部屋なのに何故か今日だけ広く感じる。
もうあのような日は二度と来ることは無いだろう。
そのまま腰掛けていたベッドに寝転んだ時、ふと本棚に目が行った。
その本棚には手のひらサイズほどの木目模様の写真立てがある。写真立てには俺と、あの人のツーショット写真が入れてある。傍から見ればカップルに見える、そんな写真。
「……」
俺はベッドから立ち上がり写真立てを手に持ちながら写真を眺める。
その時、水のきれいな小川を見ているような穏やかな気持ちになった。つまり、あの人とのキラキラとした楽しい思い出を回想した。
いつも俺の事を気にかけてくれていた事、俺が仕事を終えるまで外で待っていてくれた事、仕事を達成できた事、大きな仕事の後は楽しく打ち上げをした事などたくさんある。
そしてその写真に写っているあの人はきれいな笑顔で、俺はぎこちなく笑顔を作っている。
だけれど雨が降った小川は汚い水で覆われるように、今までの思い出が一瞬にして濁った。
俺がクビになる事を知っていたくせにやけに心配を装う姿や笑顔を向ける姿。極めつけはあの人の最後の表情、そしてあの言葉が俺の頭の中を駆け回る。
“君にそんな事を言われたくない!!”
“君の顔なんてもう見たくない!!もう二度と来ないで!!”
「くそっ!」
俺は思わず木目模様の写真立てを力強く本棚に打ち付けた。大きな物音を立てた癖に写真立ては申し訳なさそうに頭を下げている。
このような行動をとって残った感情は、もうこの写真を見たくないという気持ちと何故か胸がチクチクする訳が分からない気持ちだけが残った。
どうして胸がチクチクするのかが分からない。あの人は俺を見捨てた人なのに、もしかしたら俺はまだあの職場に行きたいと思っているのか?
「もう、寝よう」
大分時間が早いけれど、今日はもう寝ることにする。早くこんな気持ちを無くしたいから。それに、最近はずっと楽しくない日々を送っていたのだから今日ぐらいは楽しい夢を見ても誰も俺を責めたりしないだろう。
今日を境にまた明日から新しい仕事を探したり、物事を整理すれば良いじゃないか。あの人の事なんて忘れてしまった方が良いに決まっている。
今の俺はそう思っていたし、それが正解だって思っている。
今日は新月。
夜空は俺と同じで、真っ暗だった。
この後、俺が想定した通り夢を見ることが出来た。