月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第9話

 

「ごめんね、結城君。全部……聞いちゃった」

 

まりなさんがライブハウスの入り口で立っていた。

別にやましい話では無いことは分かっている。バンドの解散話も良くあることだ。それに解散に至っては俺がすべて悪いという訳では無いということも分かっている。それなのに。

 

何故かまりなさんにだけは聞かれたくなかった。教えたくなかった。理由なんて分からない。少なくとも今は。

 

「どう思いましたか?俺の過去」

「どうって……。同じだなって」

「同じって?どういう事ですか?」

 

思わず聞き返してしまった。何が同じなのだろう。まりなさんも同じような経験をしたということなのか、それとも挫折経験なのか。だけれど、どうして……。

 

「この話はお客さんが帰ってからにしない?」

 

思案の中に溺れていた俺は急に返答なんてできず、気が抜けた声で「はい」としか言えなかった。そのまままりなさんは「最後まで頑張ろう」と言って元気に入っていったけれど、仕事が終わるまでずっと上の空だった。気づいたらフロア清掃を行っていたぐらいに。

 

 

清掃と機材チャックを終えて、俺はまりなさんにライブハウス内の椅子に座るように促された。まりなさんは少し申し訳なさそうな顔を作っている。

 

「その……ごめんね?勝手に君の過去を聞いちゃって」

「別にいいですよ。それより」

 

何が同じなのかを聞きたい。そして、あの後ずっと考えていた事の結論を出したい。ポピパのみんなといる時に飲んだコーヒーがお腹をぐるぐると駆け回る。

 

「私と同じなんだ。バンドの結末が」

「え?」

 

まりなさんの口からバンドの結末が話された。

まりなさんも過去にバンドを組んでいた事。ギターを担当していた事。本気でプロを目指していた事。そしてバンド内の仲が悪くなり楽器をしていても楽しくなくなってしまったという事。確かに、ほとんど同じ経験をまりなさんはしていた。

 

違うところはと言うと、まりなさんは五人組バンドで俺がスリーピースバンドだったという事ぐらいだ。それくらいにあまりにも類似点が多い。再び思案の海に飛び込む。

 

「苦しそうな顔で話していたから、心配だったんだからねー」

 

まりなさんから何か言ってもらった気がするけれど、海の中にいる俺には全く聞こえなかった。

 

「私はもう気にして無い。だからあまり思い詰めないでね、結城君」

「そうですね」

 

そう言っておいた。

 

「よし、今日はもう帰ろう。あー疲れたなぁ」

 

こうしてお互いの過去を話し終えて、CiRCLEの戸締りをした俺たちは一緒に帰り道を歩く。いつもはどんな会話をしたか覚えているはずなのだけれど、今回は全く覚えていない。覚えている会話は、

 

「お疲れ様でした。まりなさん。ではまた明日」

この別れの挨拶だけだった。

 

そう言ってまりなさんと別れた。そう言って各々帰路に就く。

明日からも忙しい。

 

帰り道。どうしても分からないから、真っ暗闇の心の中に入る。

 

確かに同じだった。俺とまりなさんは過去に同じ苦い経験をしている。

だけどどうして。

 

俺はその後も大して成功もしていないし、まりなさん以外誰も俺を見ようとしなかった。

まりなさんのその後は知らないけれど、現に今は一つのライブハウスを任されている。

 

どうしてこうも違いが生まれるのだろうか。

 

同じ境遇だったのに、持っているものが違う。

まりなさんは光を持っているけれど、俺には無い。

他人を照らすような、元気づけるような、未来を明るくするような、そんな光。

俺にはそんなまりなさんがまぶしい。

 

もう考えるのはやめる。これ以上考えたら仕事に支障が出る。そうなればイベントの成功も遠ざかってしまう。

 

イベントがイマイチだったら今後の経営が厳しくなるだろう。

明日も頑張ろう。俺はまりなさんと働けて楽しいと思っている。

 

真っ暗闇の心の中から出てくる。

 

 

けれど、俺の周りは心の中と同じで、真っ暗だった。

 

 

 

 

次の日から、俺は真っ暗闇の中に入る行為をしなくした。自分が持っていなくて他人は持っているからと言う子供っぽい感情に嫌気が差したからだ。人間、違いがあって当然なのだ。それにまりなさんと一緒に働けるなら……。

 

その後も相変わらずの忙しさが二人を襲った。特にブッキング担当であるまりなさんは出演者とこまめに連絡を取ったりと大忙しだ。でも、彼女の表情は柔らかいもので、楽しそうであるとも取れた。

 

前日のリハーサルを終えて、いよいよ明日が本番である。当日の持ち場はたくさんあるけれど、主にステージ袖で待機し、緊急事態や準備を円滑に運べるようにする役目だ。

 

イベントは最後ポピパに締めてもらう予定だ。予定と言ってもほぼ決定事項だけれど。

ポピパと知り合って三ヶ月ぐらい経つけれど、演奏を聴くのは初めてだから楽しみだ。

 

 

この日を境に、俺の心の中は真っ暗だという事を忘れていた。

 

 





次話は10月11日(木)の22:00に投稿予定です。

新たにお気に入り登録していただいた方々、ありがとうございます!
8日時点でなんと!お気に入り数が50を突破しました!!
10話ぐらいで50行けたらいいなって思っていましたからかなりうれしいです!
これも、この小説を読んでくれているみなさんのお陰です。ありがとうございます!

特に何も「記念に」とか無いんですけど……。 46345500
この数字で私のガルパ垢と友達になれます。いらないですかね?(笑)
ランクは202です。

長くなってしまいましたが
では、次話までまったり待ってあげてください。

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