月明かりに照らされて   作:小麦 こな

11 / 36
第10話

 

イベント当日。

 

俺たちスタッフの朝は早い。いつもは八時出勤なのだけれど、今日はいつもより二時間も早い。イベントは午後だけれど、併設スタジオでの練習は午前中のみ行えるためお客さんはやって来る。

 

「おはよう。今日は気合い入れていこうね、結城君」

「おはようございます。もちろんですよ」

 

いつもの如くフロア清掃と機材チェックを終えて、ライブハウス会場に足を向ける。まりなさん曰く「ガールズバンドだし飾りつけはポップでキュートな感じでお願い」らしいけれど、男の俺には何がポップで何がキュートなのかがさっぱり分からない。ポップなんてコーンぐらいしか知らない。

 

 

……。後でまりなさんに助けてもらおう。

 

朝六時に来て分かったことは、俺には女子力が皆無であることが分かっただけだった。

 

 

飾りつけはまりなさんに五回ぐらい指摘されて、ようやく解放された。

作業が終わった時にはカマキリのオスのような気持ちになった。カマキリのオスは絶対にメスには勝てない。交尾するとメスはオスを食べてしまう。

何が言いたいのかと言うと、俺は女の人の尻にひかれて生きていくのだろう。そんな気持ちになった。

 

 

そしてお待ちかねの昼休みに入る。イベントがある日にスタジオが使えるのは午前だけなので今いるのはまりなさんと二人だ。ちなみに二人一緒にお昼ご飯を食べる。

 

羨ましいだろう。そう思う奴はおとなしく手を上げろ。三分間待ってやる。良く思わない奴?そんなの皆殺しだ。

 

なんてふざけているけれど、一緒に食べるのには理由がある。イベントの打ち合わせを昼食と兼ねて行うからだ。なのでペンとメモ帳は持参する必要がある。

 

「本当に結城君ってチョココロネ大好きだよね……」

「まりなさん。お願いなので引かないでください」

 

本当に引かないでほしい。今日は三つと控えめなのだから。それに悪いのはやまぶきベーカリーであってこんなに美味しいチョココロネを世に出すから犠牲者が出る。主に俺とりみちゃん。それに甘いものは頭の回転を助長するって聞いたことがあるし今回は適任だろう。

 

 

「じゃ、そんな感じでよろしくっ!」

「分かりました。」

 

必要事項をメモして、打ち合わせは終わる。後は数時間後に始まる本番に向けて精神を集中していくだけだ。残ったチョココロネにかぶりつく。

 

「結城君」

「どうかしましたか?」

 

顔を上げる。そこには手を後ろに組んで今までで一番の笑顔をしたまりなさんがいて……。

 

「みんなを輝かせようね!」

 

きれいすぎるまりなさんに、俺は思わず見とれてしまっていた。

 

 

 

 

イベントがもうすぐ始まる。客の入りは上々らしい。

 

当日の俺の役割は以前の通りだ。まりなさんはPAを担当する。今回は照明は全バンド同じにする。色ぐらいは変えるけれど。

少し専門用語が出てきたが、照明は分かると思う。あの曲や場面に合わせてチカチカさせるあれだ。PAっていうのはマイクやスピーカーの音を調整する、いわゆる音の司令塔のようなものだ。説明が分かりづらかったら申し訳ないが許してくれ。

 

すなわち今イベントでのまりなさんは重要な役割を担っているという事だ。俺とまりなさんは無線をつけていて、まりなさんの指示が俺に行くようになっている。もちろん逆も然り。

ステージの準備が出来たか否かを伝える為だが、何か問題が発生した時は無線でやり取りを行い、解決する時も使う。そういう用途で使わないのが一番良いのだけれど。

 

俺はポケットにペンライトがある事を確認する。ステージ上は暗いから、ペンライトは必須アイテムだ。

 

イベントは順調に問題も無く消化されていく。本当は良くないけれど、無線で雑談を交わすぐらい上手くいっている。そしてもうすぐポピパの出番、大トリである。ポピパのみんなは俺と一緒にステージ袖で待機中。何やら円陣らしい事をしている。ポピパパなんちゃらみたいな掛け声で円陣を終える。

 

ステージ上のバンドが演奏を終える。前のバンドが掃けると同時にポピパと俺がステージに行き、俺は準備を手伝う。手伝いと言ってもアンプをリハーサルの時と同じイコライジングにするぐらいの軽い手伝いだ。

イコライジングって言うのはアンプの設定みたいなもの。音量や歪みなどアンプについているつまみを回して音色を調整する事。

 

 

準備を終え、みんなに頑張れと伝えステージ袖に掃ける。まりなさんに準備オッケーと伝える。まりなさんから返答が来たので香澄ちゃんに合図を送り、MCが始まる。

 

……はずなのだけれど、何か様子がおかしい。するといきなり香澄ちゃんの前にあるメインマイクが暴走する。キーーンと音を立てたり音がぶつぶつしたりする。

 

「まりなさん!メインマイクのエフェクトとゲインを下げてください!」

「下げているけど、治まらないよ!」

 

甲高い音は鳴りを潜めたけど、この音量じゃボーカルが入らない。それにぶつぶつやらブーという音は未だに鳴っている。

無線越しでもまりなさんが焦っているのが分かる。これはまずいかもしれない。

お客さんの方も「何だ何だ」とざわざわしてきた。

 

もちろん、ポピパのみんなも不安そうにしている。これから歌おうとしているのにいきなりマイクがああなってしまっては無理もない。

 

俺はステージ袖で立っていた。考えを巡らす。

この場合はどうするべきか。スタッフで出演者の近くにいるのに何もできなくて腹が立った。この瞬間、俺に出来ることは……。

 

 

このトラブルを解消することだろうがっ!

 

 

今の問題の解決で、尚且つ最短ルートを頭で組み立てながらステージに向かった。

 

 

 





次話は10月12日(金)の22:00に投稿予定です。

この小説を新たにお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!

そして、この小説に評価8と言う高評価をつけていただきました猿もんてさん!
本当にありがとうございます!!
これからも頑張りますので期待してくださいね!

ガルパ、ハロハピ2章が始まりましたね!私、パスパレ以外では美咲ちゃんが一番好きなんですよね。ガチャを引く方は、目的のキャラが当たりますよう祈っております。

では、次話までまったり待ってあげてください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。