月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第11話

 

このトラブルを解消することだろうがっ!

 

 

どうして俺がこんな気持ちになったのかは、正直覚えていない。多分だけれど、ライブハウスのスタッフとして働いているのだから失敗なんて許されないと思ったのだろう。

 

その行動をとった本当の理由が分かるのは、もう少し後になる事をまだ知らない。

 

相変わらず暴走するマイクのもとに駆け足で走っていった。解決のための最短ルートを組み立てながら。

 

「まりなさん。一度メインマイクの電源を落としてください。それとおたえちゃんのコーラスマイクも同時に切って下さい」

「わ、分かった」

 

 

マイクの暴走は止まる。まるでやんちゃ坊主が親に怒られてシュンとしたように。

キーーンと音が鳴るハウリングと言う現象の発生原因はたくさんあって分からないが、ぶつぶつやブーと鳴っている原因はおそらく……。まず優先事項から。

 

おたえちゃんのコーラスマイクを香澄ちゃんの前に置く。そしてそのマイクの電源を入れてもらう。

 

「香澄ちゃん、ごめんね。すぐ直すから。それまで有咲ちゃんとMC、お願いできるかな」

「分かりました!」

 

その間にメインマイクとPAを繋ぐ線(専門用語でキャノンケーブルと言う)を取り換える。音がぶつぶつ言っている原因はおそらくキャノンケーブルの断線が原因だと感じた。ブーと言う音は断線した時に出る音だと思う。下手にそのまま放置しておくと爆発音が鳴る。

急いで新しいケーブルと、念のために予備のマイクも用意する。

 

小走りでPA席のところまで行く。

 

「まりなさん。このケーブルでメインマイクをつなぎましょう」

「うん。分かった!」

 

キャノンケーブルをまりなさんに渡してPA席に刺されたことを確認した後、ケーブルを持ってステージまで持っていく。そして予備のマイクとケーブルを接続する。これで解消されればいいのだけれど。

 

「まりなさん。メインマイクのチェックお願いします」

「分かった。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」

 

マイクが使えるかを確認する。もちろん今、香澄ちゃんと有咲ちゃんが漫才のようなMCをしている時に「あー」とか言って確認するのはまずいのは分かり切っている。そう言う時のチェック法は爪でマイクを優しくかく。カリカリと。そのカリカリ音がスピーカーまで届いていたら成功だ。……。よし、聞こえる。暴走も無い。

 

そのまま修復したメインマイクをおたえちゃんの前に置く。今回だけこのメインマイクはコーラスマイクになってもらう。その趣旨をまりなさんに伝えてある。

 

問題は解決した。俺はステージ袖に戻り、香澄ちゃんにオッケーの合図を送る。

 

「それじゃあ、みんないっくよー!」

 

 

 

少しハプニングはあったが、今はこうしてポピパの演奏が始まっている。初めて聞くけれど、彼女たちらしいなって思ったのが第一印象だ。

 

「結城君……」

 

無線からまりなさんの声が聞こえた。この後に続く言葉が分かってしまった。だから。

 

「まりなさん。キャノンケーブルってオスとメスの性別があるってご存知ですか」

「……もうっ」

 

話を脱線させた。暗いまりなさんなんて見たくない。あの人はいつも明るくなくちゃだめだろう?

 

……そっか。

 

俺が突拍子も無く、自分らしくない行動をとった理由が、分かった。

 

 

 

「ありがとうございました。またのご来場をお待ちしております」

 

ライブはこうして無事終えることが出来た。

俺は誠意を込めてお客さんの帰りを笑顔で送る。その後はライブがあった会場の掃除という憂鬱な仕事が残っている。パーティと一緒だ。パーティの最中はとても楽しいけど片づけは気が進まない。

 

まりなさんは現在出演バンドの楽屋を回っている。今日のイベントに出演してくれた事に対するお礼と、希望されればバンドの評価や改善点を伝える。ライブハウスのスタッフはイベントが終わった後も忙しい。

 

 

お客さんが全員帰っていった。後は出演バンドたちが帰るだけだ。と言っても既に何組かは「ありがとうございました。お疲れさまでした」と言って帰路に就いている。さて、そろそろ掃除用具の準備でもするか。

 

「拓斗さーんっ!」

 

後ろからぱたぱたと走って向かってくる。この元気なのは香澄ちゃんたちだろう。

 

「ポピパのみんな。今日はお疲れさま」

「本当にありがとうございました。拓斗さん」

「今日の拓斗さん、すごくかっこよかった」

「ははは、ありがとう。沙綾ちゃん、おたえちゃん」

 

別にお礼を言われるような事はしていないと思うけど、ありがたくお礼の言葉を貰っておこう。……おたえちゃんの言葉には引っかかるが。いつもはかっこよくないって聞こえるよ?

 

その後、ポピパのみんなと少し雑談を交わしてから、みんなに帰宅を促した。女子高生の帰り道はなるべく早い時間の方が良い。トラブルに巻き込まれた側なのに、香澄ちゃんは「んー!サイコー」なんて言っていて楽しそうに帰っていった。

 

ポピパのみんなには雑談のほかに今日の評価も聞かれたから、感じた第一印象を伝え、少しテンポにばらつきがあったからメトロノームを使った練習法を伝授した。

 

実はもう一つ、ポピパの演奏を聞いて感じたことがあった。正確に言うと香澄ちゃんに感じたのかもしれない。だけれど感じたことはとても曖昧だった。

香澄ちゃんは誰かに似ている。顔とか容姿じゃなくて、何かが。

 

 

まぁ良い。早く掃除を終わらせよう。今日は早く帰って寝たい。

 

「結城君!そこまで!!」

「はい?」

 

突然のまりなさんの声に驚いた。何がそこまでなんだ。

 

「片付けは今度にして、打ち上げに行くよ!」

まじか。

「良いですね。行きましょう。良い居酒屋知っていますよ?」

「行く場所は決まってるから安心して。結城君」

 

凄い。まりなさんはきっと最初から打ち上げをするつもりで何処かに予約していたのかもしれない。明日の仕事はしんどいかもしれないがお酒の力を借りよう。

 

そう思っていた矢先、まりなさんはとんでもない行き先を指定してきた。

 

 

 

 

「結城君の家で打ち上げ、しよ?」

 

 





次話は10月14日(日)に投稿予定です。

新たにこの小説をお気に入りにしてくれた方々、ありがとうございます!
さらに!評価10と言う最高評価をしていただきました生ナマコさん、本当にありがとうございます!
誤字報告をくださった蛟龍さん、ありがとうございます。加えて読者のみなさんにはご迷惑をおかけしましたこと深くお詫び申し上げます。

本日、読者のみなさんに感謝したいことが2つあります!!
①評価バーに色が付きました!
②日間ランキングにこの作品が初めてランクインしました(22位)
これも、私の作品を見てくださっているみなさんの力が無ければ成し遂げられませんでした!本当にありがとうございます!
これからもどうかよろしくお願いしますね。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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