月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第12話

 

「おじゃましまーす!」

 

俺の後に続いてまりなさんが部屋に入って来る。玄関でちゃんと靴を揃えて上がるという動作を自然に行っていたため彼女の育ちの良さを垣間見た。

 

もちろんまりなさんに考え直すように諭したつもりだ。仮にも一人暮らしの男の家にお酒を飲むと言っているようなものなのだから。しかし結果は見ての通りだ。まりなさんの手元にはお菓子が入ったレジ袋。俺の手元にはアルコール飲料の入ったレジ袋を持っている。

 

「思っていたよりきれいな部屋だね」

「散らかっていると思ってたんですか?」

「うん。座るところあるのかなって思ってた」

 

ひどい言われようだ。少し落ち込んだような顔をしてしまったのか、すぐにまりなさんが「冗談だよー」と言っていた。今日のまりなさんはご機嫌だ。これは夜遅くまでお酒を飲む事になりそうだ。

 

机に買ってきたビールを二本、そしてチューハイを一本置いて残りを冷蔵庫に放り込む。ついでに天然水も入れておいた。

 

「それじゃ、今日はお疲れさま!かんぱーい」

「お疲れさまでした」

 

こうして二人でひっそりとCiRCLEのイベント成功を祝う打ち上げが始まった。

缶ビールをガラスコップに入れて乾杯した。まりなさんは一気に飲み干していた。結構飲めるのかもしれない。俺はちょろっとしか飲んでいない。

 

「それにしても結城君ってたくさん楽器持っているんだね」

「そうですかね?気づいたらこんなに買ってたんですよ」

 

早くも缶ビールを一缶開け、チューハイに手を伸ばしているまりなさんが部屋にある複数掛けスタンドを見ながら言った。

 

楽器スタンドの左から順にエレキギター三本、アコースティックギター、エレキベースの計五本が並べられている。高校一年の時からエレキギターを始めたが高校三年の時にアコギにはまり、長年弾いているうちにベースってかっこいいよなと感じるようになりベースも買った。ギター経験者ならピック引きに限るがほぼ問題なくベースも弾ける。逆にベース経験者がギターを弾くのはかなりの練習が必要になる。

 

まりなさんは何を思ったのか一番左に飾ってあったギターを取り出した。

 

「結城君のエレキギターって全部同じ種類で同じ色なんだね」

「俺にはストラトが弾きやすいんです。色は無意識なんですけど」

 

俺が使っているエレキギターは全部ストラトキャスターだ。CiRCLEの壁に掛けてあるやつだ。色は3トーンサンバースト。えらく大層な名前の色だが、簡単に言えば木のような色。ストレートに言えば茶色だ。

 

まりなさんが手に取ったのはFender JapanのST58。俺の二代目のギターで、個人的に三本の中で一番好きな音を出すギターだったりする。なので三代目より使う頻度が多い。

 

まりなさんが弾き始めた。アンプを繋いでいないから小さな音だけれど上手いのが分かった。それにストラトを弾き慣れている。俺でも急にレスポール(黒毛に赤いメッシュを入れた女の子が持っている赤いギターの事)を渡されてもフレット数が分からなくなってしまう。という事はまりなさんもストラト系のギターを所有しているのかもしれない。

 

楽しく引いているところを邪魔するわけにもいかないので、冷蔵庫に向かう。本当にまりなさんの飲むスピードが速い。……何か嫌な事でもあったのだろうか。

 

缶ビール二本とチューハイ、サワーを持ち机に向かう。ビールを飲みながらまりなさんを見ていると「私も飲む」なんて言ってギターを片づけてお菓子を広げ始めた。

 

「あ、そうだ!」

「どうしました?まりなさん」

「今日デジカメ持っているんだ。どう?二人で撮らない?」

 

デジタルカメラは多分、イベントの様子を撮る為に持っているんだろうけれど。なんだかまりなさんと二人で写真と聞くとなんだか恥ずかしい。それに。

 

「俺、今日全身真っ黒なんですけど。撮るなら着替えたいですね」

 

今日はステージに立つ機会のある役割だったから半袖の黒のポロシャツに黒のチノパン。スタッフがライブ準備中に目立ってはいけないから全身黒なのだが。

 

「別に大丈夫だよー。普段と変わらないし」

「そうですけど……」

 

普段もオシャレと言うわけでは無い。普段のこの時期は白の七分袖シャツに黒のズボンを合わせて働いている。春はUネックの白のシャツに黒のジャケットを羽織って黒のチノパン。いわゆるオフィスカジュアルである。秋と冬も春と同じ服装で働く予定だ。……俺ってズボンは黒色しか持って無いのかもしれない。

 

「ホームページに貼るわけじゃないし、いいよね?」

「そうですね」

 

もう照れ隠しはやめよう。どうせならいい表情で写真を撮ろうじゃないか。

 

「じゃあ撮るよー!……結城君もっと近づいて。じゃないと枠から外れちゃうよ」

「あ、はい」

「はい、チーズ」

 

カシャっという音が狭い部屋に響いた。

まりなさんは撮った写真を見せてくれた。そこには……。

まぶしいほどの笑顔で写るまりなさんの横に、少し強張った表情だが良い笑顔をした俺がいた。

 

 

 

もうかなりの時間飲んでいる。もう日付も変わってしまった。俺は控えていたから大丈夫なのだけれど……。

 

「ゆうきくん、てがとまってるよ。のめのめー」

 

まりなさんは大丈夫ではなさそうだ。目がとろんとしているし、顔も赤い。さらには会話文がひらがなになっている気がする。そろそろ本格的に天然水の力を借りる時が来そうだ。

 

「あしたはやすみだからのんでもいいんだよ?」

「え?」

 

そんな情報初耳だ。普段のまりなさんから聞かされていたなら大喜びなのだが、いかんせん今のまりなさんは泥酔中だ。本当に信じても大丈夫なのだろうか。もし明日遅刻してもまりなさんが休みって言いましたって言えば怒られはしないか。

 

「ゆうきくん。きょうはありがと」

 

まりなさんの方を向いた。相変わらず目はとろんとしているし、今にも溶けてしまいそうなぐらいぐでーっとしているけれど声は真面目そうな感じがした。

 

「……きょうのことでゆうきくんのこと……」

 

俺は初めて山に来た少年のような気持ちになった。やっほーと言って向こうの山から同じ言葉が返って来るのを待つような気持ち。早く続きを聞きたい。純粋にそう思ってしまった。

 

「k……」

「あ?」

 

思わず聞き返してしまった。あまりにも期待していた言葉と違っていたから。てっきり「す」から始まるのかと……考えが飛躍しすぎだな。何て言ったのだろう。俺には「あ」としか聞こえなかった。

 

「うにゅ……」

 

どうやらまりなさんは眠ってしまったようだ。どうしよう。まりなさんの家の場所を聞いていなかった。揺すっても起きないだろうな。薄い毛布を掛けてあげる。

今日はお疲れさまでした。まりなさん。

 

 

あらぬ誤解を招くわけにはいかないから今日は徹夜をすることにした。

何度も今日撮った写真を見ながら、徹夜した。

 

 





次話は10月16日(火)の22:00に投稿予定です。
前回は時刻を指定し忘れてましたね……今気づきました(笑)

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では、次話までまったり待ってあげてください。
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