月明かりに照らされて   作:小麦 こな

14 / 36
第13話

 

「ん……?もうこんな時間か」

 

ベッドの上から時計を見ると短い針が1を指している。あれから泥のように寝たからな。学生の時は良くこんな生活を送っていたなと感慨にふける。

 

俺は昨日、正確に言えば今日だが、徹夜してまりなさんが起きるのを待っていた。寝ている時の彼女の顔は幼く感じた。そして彼女は朝の六時頃に起床した。

おはようございますと声をかけると「え?私寝てた?」と返ってきたからそりゃもう、ぐっすりと答えた。

 

実はこの後に最大の見せ場が来るとは思ってもいなかった俺は、まりなさんに昨日俺の事どう思ったんですか?って聞いた。

そうしたらまりなさんは急に顔が赤くなり「今日はごめんね。ありがとっ!」と言い残しすごいスピードで家から出ていってしまった。

 

その後睡魔が襲い掛かり睡眠をとろうと思い、寝て今に至る。携帯にメッセージが届いていたので見てみるとまりなさんからで、今日は休みだからゆっくりしてという趣旨だった。どうやらあんな状態のまりなさんでも情報に関しては正確のようだ。

 

久しぶりの休日だし何をしようかと思っていると、机の上にデジカメが置いたままになっていた。昨日撮った写真を現像しに行こうか。このデジカメも返さないといけない。

行先が決まれば行動は速い。さっとお昼ご飯を食べて出かけた。

 

 

 

 

やってきたのはカメラの専門店。ここに来るのも受験生以来だ。

 

店に備えてあるパソコンを使ってデジカメに入っている映像を取り入れる。目的の写真を少し小さめのサイズにして購入手続きを行う。ついでに写真のデータを保存できるサービスも活用した。

 

俺がここに来たのは写真の現像だけではない。もう一つの目的があったからだ。それは。

 

「これで良いか」

 

片手サイズで木目模様の写真立てを手に持つ。やはり俺は無意識に木目模様を選んでしまうようだ。これを部屋に置いて飾ろう。そう思い、写真立てを再びレジに持って行った。

 

どうして二人が写ったあの写真を現像しようとしたのかって理由を聞かれたら困るけれど。

あえて理由を挙げるならば

あの写真を見たら、優しい光に包まれるような感じがしたから。

 

 

カメラの専門店を後にした俺はそのまま帰ろうと思ったのだけれど、帰り道に小さな楽器店を見つけた。この辺りでは江戸川楽器店しか行ったことが無かったから入店してみた。やはり音楽をやっている人間は楽器店を見つけると入ってしまうものだ。

 

感想を言うと意外だった。

小さい割にはしっかりした品ぞろえで隠れた名店だと思った。もう一つがベース専門店だった。ギターの専門店は結構あるけれど、ベースの専門店って珍しい。店名は“Le beau ciel”と言うらしい。どうやら今は店長が不在らしくアルバイトの子が店を切り盛りしていた。店ではベースを試奏させてもらって帰ったが、また来たくなるような店だった。

 

 

ベース専門店を出た後、無性にチョココロネが食べたくなったからやまぶきベーカリーで買おうと向かったが、なんと売り切れ。諦めきれなかったのでCiRCLEの仲庭にあるカフェに向かった。

 

「あ、ちーくんだ。もしかして社長出勤?」

「いや、今日は休みなんですよ。いつもの二つ下さい」

 

本当にここのカフェの店員さんとは話しやすい。なんだか仲のいい友達と話しているような感覚を持つ。それにここの店員さんは結構、いやかなりかわいい。

 

「はい、チョココロネおまたせ」

「ありがとうございます」

 

テラスでいつものようにチョココロネを食べる。そう言えば働き始めてすぐの頃、この食べている姿を見てまりなさんはドン引きしていたっけ。もう三ヶ月も経つのか。

 

「あ、ここまで来たんだからちゃんと先輩に挨拶するんだよ?ちーくん」

「先輩……?誰の事ですか?」

 

使われていないテラスの掃除をしている店員さんにそんな事を言われた。カフェの先輩店員さんが来たのだろうか。でも今まで見たことが無い。

 

「まりなちゃんだよー。お昼ぐらいから来てたよ?」

「え?そうなんですか」

 

どういうことだろう。確かにまりなさんは休みと言っていた。それにはまりなさんも含まれていたはずだ。夜遅くまで、それも潰れるまでお酒を飲んでいたのだから。

 

店員さんから教えてもらってCiRCLEに向かうと確かに関係者専用出入り口の鍵が開いている。営業はしていないみたいだけれど。入ってみると昨日のイベント会場の方から物音が聞こえた。こっそり様子を伺うとまりなさんが一人で掃除を行っていた。ため息が出る。

 

「まったく……一人で何やってるんですか?手伝いますよ」

「うわぁ、結城君!?びっくりしたよ」

 

そんなにびっくりされても心外だなとは思ったが、まりなさんにとっては俺がここにいるだけでびっくりだろうし仕方がない。俺も手を動かそう。邪魔しに来たわけでは無いのだから。

 

「結城君。ありがと」

 

俺は後ろを振り返っていないからまりなさんの表情は見えなかったけれど、声色が何だか嬉しそうだったから張り切って掃除をした。意外に俺は単純なのかもしれない。

 

 

「結城君、ちょっとスタジオに来ない?」

 

掃除が終わって、デジカメも返したし帰ろうかと考えている時にまりなさんからのお誘いが来た。スタジオで何をするのだろう。

……ま、まさかスタジオで大人のお勉強会が始まるのか!「スタジオは防音だから声出しても平気だよ?だから夜のセッション、しよ?」みたいな!興奮してきたわ。

そんなわけないか。

 

「結城君。セッションしない?」

「せ、攻めですか、受けですか?」

「え?」

 

やってしまった。まさか下らない妄想と同じ言葉、セッションと聞いてしまって訳の分からない事を言ってしまった。夏なのに冷たい汗が止まらない。何とか話を戻さなくては。

 

「そ、そのギターって倉庫に置いてあったギターですよね」

「え?うん。これ私のギターなんだ」

 

そうだったのか。知らなかった。もしかしたら閉店後とかにスタジオで思いっきり弾くために置いてあるのかもしれない。ともかく、話を戻すことに成功した。

俺は貸出用のギターを持ってきてスタジオにあるMarshallアンプに接続し、準備を整える。

 

「このアンプでセッションなんて、贅沢ですね」

「あはは、本当だね」

 

 

やはりまりなさんはギターが上手くて、こっちもノリノリになってしまいセッションは夜遅くまで続いた。

だけれど、たまにはこう言うのも悪くないと思った。

 

 





次話は10月18日(木)の22:00に投稿予定です。

また新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
通算UAも5000を突破しました!これも読者のみなさんのお陰です。
温かい読者さんに囲まれて自分は幸せ者だなと感じております。

では、次話までまったり待ってあげてください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。