月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第14話

 

気候が変わり、大分涼しくなってきた。今は九月下旬。

CiRCLEで働き始めて半年が経った俺は中々の労働力を発揮していると思う。

 

八月は今まで以上に忙しかった。CiRCLEは女子高生が主なお客さんである。故に夏休みを迎えた彼女たちはスタジオに良く足を運んでくれる。もちろんイベントも多く開催したため、休みもほとんど無かった。ちなみにイベント終わりの俺の家での打ち上げは恒例行事になっている。何度か飾ってある写真を見てからかわれたけれど。

 

九月上旬、俺は傷心した。

ポピパのみんながスタジオを利用してくれた時に今年の体育祭に見物したいから見に行っても良いかを問うたところ、有咲ちゃんに「一般公開していませんよ」と言われた。とどめの一撃でまりなさんにも嫌な目で見られ、戦闘不能になった。

 

……と色々あって現在に至るという訳だ。今日のスタジオ予約表を見ても今日はどこのバンドも予約が無かった。暇だ。

 

「結城君。楽器店に……あれ?だらけてるね」

「予約表見ましたけど、今日誰も来ないんですね」

 

八月と今の半分ぐらいの忙しさで働きたい。忙しすぎるのも嫌だけれど、暇すぎるのも考え物だ。

 

「落ち着いてきたからね。ほら、結城君。仕事」

「機材の購入でしたっけ。行ってきます」

 

購入ぐらいネットで済ませられるけれど、故障品や劣化品が届いてしまうこともある為、CiRCLEでは現物を見てから購入。その商品を発送してもらうことになっている。小さなライブハウスだからこそ出来る技なのかもしれない。

 

そう言えば言い忘れていたが、俺は八月の最後のイベント後にまりなさんから次のイベントのブッキング担当をしてくれと言われた。そのイベントはいつになるか分からないけれど、責任重大な仕事が遅かれ早かれやって来る。

 

「結城君。気を付けてね」

「はい。分かりました」

 

 

 

 

やってきたのはCiRCLEの近くにある楽器屋である江戸川楽器店。いつもお世話になっている。不足している機材や最新の機材などを購入予定だけれど、どのくらいの量を買うかは俺が決めて良いらしい。まりなさん曰く「結城君なら信頼できる」だそうだ。

 

あらかじめ不足している物や断線しそうな物はメモにピックアップしておいた。これらは優先的に購入するとして、何か面白い物はないだろうか。見て回ることにしよう。

 

配線類やエフェクターなど購入用紙に記入し大体こんなものだろうと思いレジに渡そうと思っていると、ある売り場に目を奪われた。

その場所にあったのはギターケース。その中でも特にハードケースの方に目が行った。まりなさんとセッションをした翌日、物置に行くとまりなさんのギターがあった。が、そのギターはギタースタンドに掛けられたままだった事を思い出した。

 

「あのままだったらほこりがつくし……」

 

梅雨の時期だと湿気が多くなり、ギターが悪くなってしまう。そもそも日本は湿気が多い国だからギターに適していない国だ。ハードケースなら湿度管理も出来るし長期保管に向いている。

ただ、あのギターの所有者は俺ではなくまりなさんだ。勝手にハードケースを買われても困るかもしれない。ハードケースは持ち運びが大変だし。

 

結局、答えが出ないまま時間だけが過ぎていき、このまま帰らなければまりなさんに不審がられるからハードケースは自分のお金で購入し、俺の家に届くようにしておいた。他人の心配より自分の方を優先した。

 

 

CiRCLEに帰ってくると、椅子に座ってギターを弾いているまりなさんがいた。アンプを介さない為、弦そのものの音だけが小さく響く。挨拶を軽く済まし、断線した配線類や古くなった機材の整理を始める。古いがまだ使える配線類や機材もある為、物置に移動させたり家に持って帰ったりする。

 

「君が来てくれて、本当に助かったよ」

「急に来て変な事言うのやめて下さいよ」

 

物置にギターを置きに来たまりなさんがらしくない事を言う。それにまりなさんの笑顔にドキっとする。

 

「本当だよ?あ、結城君。今日はもう仕事あがっても良いよ」

「掃除とかしなくて良いんですか?」

「今日暇だったから結城君がいないうちにやっておいたんだ」

 

それなら仕事をあがらせてもらおうか。まりなさんに挨拶をして今日は帰ることにした。たまには家でゆっくりギターを弾こう。

 

もうすぐ日が暮れる。夕焼けは一瞬にして消えてしまうけれど、あの美しさは一日で一番の絶景だろう。こんな時間に帰るのは久しぶりかもしれない。

ふと自分の腕時計を見ようとした時。

 

「あ、時計CiRCLEに忘れてきたかも」

 

どうやら機材整理の時に腕時計を外したままだったらしい。社会人になってから毎日腕時計をするようになったので時計が無いと落ち着かない。時間もたっぷりある事だ。CiRCLEに戻ることにしよう。

 

戻ってきたけれど、受付の場所にまりなさんはいなかった。お手洗いに行っている可能性もあるし深く考えないでおこう。

そのまま物置に向かうと物置から何やら声が聞こえる。

 

「あ、オーナー。お久しぶりです」

 

まりなさんがいた。どうやらオーナーと電話をしているようだ。少し気になったから身を潜めて聞き耳を立てる。どうやら会話は始まったばかりみたいだ。

 

「……はい」

 

この後の会話を聞いて、目の前が真っ暗になった。良く代表的な比喩に水を奪われた魚のようだ。とか聞いてどんな感じだよって今まで思っていたけれど、今ならわかる。

息が苦しい。

呼吸は、出来るはずなのに。

 

 

 

 

「それって結城君に、ここを辞めてもらうってことですよね」

 

 




次話は10月20日(土)の22:00に投稿予定です。
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では、次話までまったり待ってあげてください。

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