「朝早くに申し訳ございません。CiRCLEの結城拓斗です」
「久しぶりだね。結城」
電話の相手はオーナー。俺をまりなさんにクビにしろと提言した張本人。だけれど彼の協力が必要だ。何度断られても、粘るつもりだ。本当に俺は自分勝手だなってつくづく思う。
「CiRCLEの社員として、最後のチャンスを俺に下さい!」
「最後のチャンス?」
「イベントを企画します。それにはオーナーの協力が必要なんです」
そう。イベントを企画する。それは利益を増やすためでは無く、知名度を大きくするというものでも無い。「音楽を本気でやりたくてウズウズしている子達を誰かに見つけてもらえる」ライブイベントを。
経緯と詳細をオーナーに伝える。
どのようなイベントにするか。イベントの企画全てを自分がやる事。訳あってCiRCLEに行かない事。そしてイベント当日、オーナーにも来てもらう事。
「給料もいりません。お願いします!やらせてください!」
「うーん……」
ここで断られる訳にはいかない。もちろん悩む理由も分かる。まだイベント自体白紙に近いし成功するかも分からない。しかも俺がお願いしているのだ。向こうは俺を信頼していない可能性の方が高い。
「……分かった。良いだろう」
「本当ですか!ありがとうございます」
「ただし、無理はしないように、分かったな?」
そう言って電話が切れた。まず第一関門は突破した。この後は出演バンドのブッキングをしていきたいが、どうしようか。
今回のイベントの意図と合致するようなバンドがそんな簡単に見つかるか。
……いるじゃないか!いつも練習が終わっても元気で、音楽が好きな子たちがやっているバンドが!
さっそく俺は彼女に電話をかける。
「いつもお世話になっています。CiRCLEの結城拓斗です。……久しぶりだね。香澄ちゃん」
香澄ちゃんに電話した。単刀直入にバンドのみんなに話したい事があるから会える日にちを教えてと問うと「今日の放課後大丈夫です」と言ってきた。即答で。本当に大丈夫か心配になる。また有咲ちゃんに怒られるんじゃないかな。なんて想像したりする。
ちなみに待ち合わせ場所は羽沢珈琲店というところらしい。俺は行ったことが無いのだけれど、香澄ちゃんがそこで待ち合わせをしようと提案があったので乗った。
待ち合わせ時刻の四時半に珈琲店の前に着いた。どうやらまだポピパのみんなは着いていないらしい。立っていても仕方がないし先に店に入ろうか。
「いらっしゃいませ。一名様でしょうか」
「後から五人来るんだけど、大丈夫かな」
「はい。大丈夫ですよ。こちらのお席へ」
真面目そうな女の子が注文を取ってくれるそうだ。俺はカフェオレを注文した。見た感じ高校生ぐらいで学校帰りに働いているのかと思い、感心した。俺は仕事にも行ってないから。
それにしてもこのお店の雰囲気、好きかもしれない。なんと言うか、家でもないのに落ち着けて、さらには温かく迎えてくれる。例えるなら幼馴染の家にお邪魔するような気持ちになれる。
「あ、拓斗さん。こんにちはーっ!」
「こんにちは、香澄ちゃん。一人?」
「あはは……走ってきちゃって」
なんだか既視感があるやり取りだ。香澄ちゃんのそう言う期待の裏切らない姿勢は好きだ。きっとこの後みんなが走って追いついてくるのだろう。ならば店前で待っておかねば。有咲ちゃんのぷるぷるをみるチャンスだ。
実際にはそう言う行動には移せなかった。なぜならすぐにみんながやって来たから。もちろん、この後のやり取りにも既視感があった。でも、なんだかほっとするやり取りだったりする。
「す、すみません。時間に遅れちゃって」
「ううん。気にしないで。りみちゃん」
ポピパのみんなに好きな物を頼んでいいよ。と言って注文させた。俺の個人的な用事でみんなに集まってもらったのだからこれぐらいはしなければ。もちろん奢りで。
「それで、拓斗さん。私たちに用って何ですか?」
頼んだチョコレートケーキをフォークで切りながら沙綾ちゃんが聞いて来た。もうすぐ本題に入ろうか。……香澄ちゃんはがっつり食べているけれど。
「うん。実はね」
彼女たちに詳細を話す。もちろん、俺とまりなさんとの間で起こった出来事を伏せて。この子達に迷惑をかけたり心配させたりしてはいけないと思ったから。
「今、俺はCiRCLEで行うイベントを企画しててね。ぜひ君たちにも出て欲しい」
「ライブ?出たいですっ!」
「おまえ決めるの早すぎだろ!?」
「えー!有咲は出たくないのー?」
確かに決めるのは早いかもしれないけれど、決断の早さは香澄ちゃんの良いところだと思う。悩むのも大事だけれど、この先決断の早さも必要になる。
「結城さん。聞きたいことがあるんですけど」
「何かな?りみちゃん」
「どうして私たちなんですか?」
その質問はもっともだと思うし、大事だと思う。どうしてポピパのみんなに出てもらいたいか。もちろんたくさん理由があるけれど、一言で言うと……。
「君たちポピパは、本気で音楽をしているから……かな」
みんなの視線が一斉にこちらに集まる。表情は三者三様って感じだった。五人いるんだけれど。これから他のバンドにも出演してくれるようにお願いするつもりだ。ポピパは技術はまだまだでもっと上手いバンドはたくさんあるけれど、彼女らほど音楽を楽しみつつ本気でやっているバンドはいないと思う。だから心が惹かれる。
まりなさんがこのバンドをイチオシな理由が分かる。
「今すぐ決めなくても大丈夫だから。ゆっくり考えて結論を出してくれたら良いよ」
それじゃ。と俺は珈琲店を後にする。つもりだった。
「拓斗さん」
振り向くと、香澄ちゃんを中心にみんなが立っていた。さっきまで表情がバラバラだったのに今はみんな同じ表情をしている。
この子達はすごいなって思った。
お願いするのは、俺の方なのに。
「「「「「私たちにそのイベント、出演させて下さい!」」」」」
次話は10月26日(金)の22:00に投稿予定です。
新たにこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
評価10と言う最高評価をつけていただきました 風禰さん!(字が正しく変換されなくてすみません)
同じく評価10と言う最高評価をつけていただきました ハッピー田中さん!
評価9の高評価をつけていただきました Wオタクさん!
同じく評価9の高評価をつけていただきました アクアランスさん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとうございます!
今回のお話で拓斗君がカフェオレを飲んでいるんですけど、前編では酒類を除くとコーヒー(ブラック)しか飲んでいません。飲み物も拓斗君も何かが変化したんですね。
長くなってしまいましたが。
では、次話までまったり待ってあげてください。