月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第22話

 

「三日後に、皆さんにお伝えしたいことがあります。羽沢珈琲店に来てください」

 

三日前、このメッセージをガールズバンドパーティ出演者の代表に送った。みんな本当に律義で返信はすぐに来た。全員参加できるみたいだ。

貴重な放課後に時間をいただくのだから、有意義な時間にしよう。いや、する。

 

そう意気込んで、鏡を見る。

多少疲れた顔をしているけれど、昔の顔と少し雰囲気が変わったような気がした。

もし今証明写真を撮ったならば、履歴書に貼られたような犯罪者のような写りの悪い照明写真にはならないと言う事を言いたかっただけなんだけれど。

 

 

 

 

集合時刻の午後五時。みんな真剣な顔つきで座っている。お店で働いている羽沢さんと若宮さんも緊張しているように思える。

 

「本日はお忙しい中集まってくださり、本当にありがとうございます。皆さんに、一つ提案があります」

 

みんな息を飲むような緊張感を醸し出している。別にそんなに緊張しなくてもいいのだけれど。姿勢を正して提案をする。

 

「参加バンド五つで一つのMIXバンドを作って、そのMIXバンドで新曲をやってみませんか?」

 

みんな、目を丸くしている。予想外の提案だったのだろう。それに普通のライブイベントでMIXバンドなんて作らないから初めて過ぎて驚いている可能性もある。ボーカルは出演するすべてのバンドから出てもらい、演奏隊は各バンドから一名ずつ出てもらう形式だ。

 

「目的は、何ですか?」

 

上原さんが質問をする。

 

「みんなで一体感を作って楽しくライブをしてほしくて、MIXバンドが良いんじゃないかなって思いました。イベント名にもぴったり合致しますから」

 

みんなが納得したような表情をしている。けれど、俺がMIXバンドにこだわるには大きな理由がある。

 

「それに、このMIXバンドを組むことで、五バンド全体に相乗効果が見られると確信しています。せっかくのライブイベントなので皆さんには成長していただきたいのです」

 

俺はこう睨んでいる。俺は闇雲に知っているバンドを勧誘した訳では無い。意図的に方向性のバラバラなバンドを集めたのだ。みんながこの意図に自分から気づいてくれたら、今後のバンド生活も良いものになるはずだ。

 

「その相乗効果って何ですか?」

「それは自分たちで気づいてほしいから答えない。ごめんね、丸山さん」

 

 

その後、色々な質問が飛び出したけれどみんな納得してくれたみたいで、俺の提案に乗ってくれるそうだ。湊さんも同意してくれたからかなりうれしい。

作詞作曲を今から行うというのは中々リスキーだ。後一ヶ月ちょっとしか残されていないから。けれど、彼女たちなら出来る。そう思う。

 

「あ、そうだ。最後に聞きたいことがあったんです!」

 

忘れるところだった。正直、この件がこの集会一番の目的と言っても過言では無い。みんなが集まっていて、尚且つ直接話せる機会なんてそう多くないのだから。

さぁ!力強く言うんだ!

 

 

 

「皆さんの服のサイズ、教えてください!!」

 

 

一瞬にして場が凍り付いた。あれ、俺おかしなこと言ったっけ?

 

「へ……ヘンタイ!」

 

丸山さんに切り捨てられた。現役アイドルに罵られました。ふへへ。

他のみんなの顔を見たけれど、全員がジト目だ。

 

俺は庭に生える雑草のような気持ちになった。

こんなジト目で見られながら、引っこ抜かれ、捨てられるのか。

 

 

とにかく、重要な事は伏せて服のサイズを俺に送ってほしいと伝えた。SとかMで良いからと言ってもあまりいい顔はされなかった。最近の女子高生は怖い。別にスリーサイズを聞いている訳じゃ無いのになぁ。

 

みんなが解散して、一人で少しゆっくりする。

 

「急にあんなこと言い出して驚きましたよ。カフェオレです」

「ありがとう。羽沢さん。服のサイズって女子高生にタブーなんだね」

 

このお店は個人的に気に入っている。ただ、CiRCLEの中庭にあるカフェに行けてないから少し寂しい。あの店員さんはお客さんが一人減ったとしか考えないだろうが。

 

「相席、いいかしら」

「もちろん、どうぞ」

 

湊さんがいる。もう帰ったのだと思っていたけれど、まだいたらしい。二人で話したいことがあるのかもしれない。

 

「私はまだ、あなたの言う足りないものが分からないの」

「湊さんってせっかちだね」

「真面目に聞いているのだけれど」

 

もし、そんなすぐに分かるなら苦労はしないと思うけれど。でも湊さんの気持ちも分かる。俺もバンドをしていた時は時間が無いって思い込んで勝手に自分を追い込んでいた。

 

「じゃ、特別ヒント。ガールズバンドパーティに参加するバンドの長所をメモしてみて」

「それで、効果があるのかしら」

「あるよ。それと君たちはまだ若い。視野を広げてみたらどうかな?」

「視野を……広げる?」

「これは、昔失敗した先輩からのアドバイス。受け取ってよ」

 

俺はカフェオレをぐっと飲み干して、湊さんの方をじっと、力強く見る。

 

「君たちの事も期待しているから」

 

君たちの実力は申し分無いのだから、あともうちょっと他の角度から自分たちを見れるようになれば面白くなる。

 

「アドバイスありがとう。私からも一ついいかしら?」

何だろう。

 

 

 

「女の人に服のサイズを聞くときは目を血走らせてはダメよ」

 

「……善処します」

 

どうやら無意識に血走ってしまうらしい。俺の目は。

湊さんには乾いた声で返すことしか出来なかった。

 

 




次話は11月3日(土)の22:00に投稿予定です。
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後編、ガールズバンドパーティ編も折り返しに入っております。私個人の意見なんですけど、小説は後半になるにつれて面白くなるものが好きなんですよ。
次話辺りからドンドン話が進むと思います。

前回のあとがきで次回作の事を書きましたが、この小説が完結してから投稿するつもりですので、その旨ご理解の程よろしくお願いいたします。
次回作まだ全て書けていませんが……。執筆頑張ります。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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