月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第24話

 

「いらっしゃいませ……。お前、拓斗か」

「……。久しぶりだな」

 

本当に久しぶりだ。だいたい三年ぶりぐらいだと思う。

ここで会ったのも何かの運命なのかもしれない。お互い少し気まずい視線のやり取りをしている。

 

「時間があったら、少し話さないか。雄二」

「三十分の休憩を前倒しでもらうからちょっと待ってろ」

 

 

 

「お前、コンビニで働いてたのか」

「まぁな。拓斗、お前は何しているんだ?」

 

雄二は昔、俺がスリーピースバンドをやってた時にドラムを担当していた。すなわち俺とメンバーだった人間、それが雄二だ。

短髪なのと無駄に筋肉質なのはあの時から変わらない。

 

「俺か?……フリーターって感じだな」

「はぁ?……まぁ拓斗っぽいな」

 

俺っぽいか。確かにそうかもしれない。こいつとのバンド生活もそんなに長くなかったけど高校からの知り合いだから俺の事を良く知っている。

でも、俺は雄二と世間話をしたい訳ではない。

 

「雄二、お前のバンド生活を勝手に終わらせて悪かった」

「はぁ?拓斗。いきなりどうした?」

 

俺は語り始めた。CiRCLEっていうライブハウスで働き始めた事、そして先輩にひどい事をやってしまった事。

 

「その時にやっと気づいたんだよ。俺は自分の利益になる事しか考えてなくて、その行動が他人を不幸にさせてたって事が」

 

それはバンドを組んでいた時もそうだった。俺が無茶な練習を強いてしまった。楽しくなかったはずだ。雄二だって高校は軽音楽部。俺と同じで音楽が好きだから俺の誘いにも乗ってくれたのだろう。

 

「あんなバンドの終わらせ方して、ごめん」

 

これを元バンドメンバーに伝えたかった。音楽を嫌いにさせてしまったのでは無いかって今更気づいた。だから一言謝りたかった。

深々と頭を下げる。許してもらえなくても良い、だけど俺の嘘偽りないこの気持ちを伝えたかった。

 

頭を下げているから分からないけど、前から笑い声が聞こえた。

 

「はーはっは!何言ってんだ拓斗。俺は今も音楽が好きだぞ!」

「え?」

「それに、拓斗とスタジオで殴り合ったのは今では良い思い出だ」

「まじかよ……」

 

俺は良い思い出なんて無いぞ。あの時の雄二はすごく強くてボコボコにされた。こっちは素手なのに雄二はドラムスティック持っていたのだから。あの後ドラムスティックが怖くなってしまい、ドラムスティックを見ただけでじん麻疹が出るほどだった。

 

「拓斗、お前変わったな」

「そんな事ねーよ」

 

そんな簡単には人は変われないだろ?でも考え方の変化は少しずつだけれど、変わったかもしれない。真実は俺には分からないけれど。

 

「でも、俺は今、先輩の夢を実現させる手伝いをやってる。その手伝いが終わったら退職だけど、今は凄く楽しいよ」

「そうか。かっこいいじゃん、拓斗」

「男に言われてもキモイだけだ」

「そりゃ、そうだな」

 

しばらく二人で笑いあう。俺が雄二にした罪は消えない。だけれど、犯した罪を覚えておいて、しっかり償おう。

 

「ほんと、お前変わったよ。過去の失敗に気づけたなら、それは変わってる証拠だろ?」

「雄二、めっちゃキモイ」

「ひでぇ!」

 

変に大人ぶった事を言うのも昔と変わらないなって思った。また、機会があったらスタジオで音を合わせたいなって素直に思う。可能ならば三人で楽しく音を合わせたい。

 

「雄二、俺を受け入れてくれてありがとう」

「なんだよ、拓斗。お前の方がキモイぞ。それと」

なんだ?

「みっちゃんは音楽やってるらしいぞ。それに確か専門店を作ったって電話で聞いたぞ」

 

あいつにもいつか、直接あって謝らないといけないな。

 

女の子なのに寝る間を惜しんで、ずっとベースを練習していたらしい彼女は高校三年間で見違えるほど上手くなって、音楽で生きていきたいって俺に笑顔で答えてくれたっけ。

 

「そうか。……いつかあいつにも直接会いに行くよ」

「今から電話しようか?」

「いや、いい。自分であいつを探すよ」

 

電話で呼び出すのはダメな気がした。

自分から探して話した方が良い気がした。

 

「そうか。そろそろ俺仕事に戻るわ。またな」

 

もうそんな時間か。楽しい時間はあっという間に過ぎる。最後に雄二に伝えることがあるから、柄にもないけど大声で言った。

 

「今月の二十四日に俺が企画したライブイベントがある。良かったら雄二も来いよ!」

「分かった。考えとくよ」

 

雄二の考えておくはほぼ確実に来る時のセリフだっけ、と思いながら離れていく影を最後まで見送った。

 

レジ袋に入った発泡酒はもう冷たくないけれど、今日ぐらいは冷たくなくても良いんじゃないかなって思えた。

 

 

 

 

雄二と別れてから、俺はそのまま帰路に就く。たまにはあのコンビニにも顔を出して何か買ってやるかと思いながらアパート前まで着いた。

そのままいつものようにゆっくりと歩を進める。大家さんが見回りをしていた。

 

「いつもお疲れ様です」

「あんたに言われたくないよ」

 

ここのアパートの大家さんは活発だなと思う。普通こんな見回りなど毎日行わないだろう。

 

「傷ついちゃいますよ?俺」

「そんなに頼りないのかい?最近の男は」

 

ちなみに、以前俺の家の前にいた女性の事はまだ分かっていない。帰りながらきょろきょろと周りを確認しても人がいる気配が全くない。

大家さんもあれからその女性を見ないらしい。ますますその女性は幽霊なんじゃないかって思えてきた。俺の家の前で現れる幽霊とかシャレにならないけれど。

 

「それじゃ、失礼します」

「いつも遅くまでお仕事ご苦労さん」

 

大家さんは口が少し悪いところもあるけれど、ちゃんと住人の事を把握しているし優しいところもたくさんある。

 

そのまま俺は家のドアを開けて、ベッドに腰掛ける。

今日はギターを弾きたい気分だけれど、先にやらなくてはいけない事がある。

携帯電話でオーナーに電話を掛ける。

 

 

「夜分遅くに申し訳ありません。結城です」

「結城か。どうだ?良い調子か?」

「順調ですよ」

 

定期的にこうしてオーナーに状況を報告している。俺の勝手なわがままにこうして付き合ってくれるオーナーには感謝しかない。俺は今年、良い人達に囲まれているんだなってつくづく思う。

 

出演者たちも良い感じに仕上げてきてくれている事や、一体感が増すと思いあれを製作中だと言う事など。伝えることはたくさんある。

 

「あ、それとガールズバンドパーティのポスターが出来上がったんです。出演者の子たちが作ってくれて。この後FAXで送ります」

「おお!そうか。楽しみに待っているよ」

 

きっとオーナーも見たら驚くはずだ。あのポスターはプロ顔負けだから。

ポスターも出来上がり、後の仕事はリハーサルぐらいだ。本当にもうすぐなんだ。

 

「……。それにしても、本当に良いのか?結城」

 

急にオーナーの声が真面目なものに変わった。本当に良いのか……か。申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、俺は良いと思っている。俺の、最後の仕事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガールズバンドパーティの企画者、責任者は全て私と言う事にして」

「はい。良いんです。前日リハーサルをすべてオーナーに任せてしまう事、本当に申し訳ございません」

 

 

 




@komugikonana

次話は11月6日(火)の22:00に投稿予定です。
新しくこの作品をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
Twitterもフォローしていただいた方、ありがとうございます!

評価9と言う高評価をつけていただきました 小石音瑠さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとうございます!

明日の23時にTwitterで次回作のタイトル発表を行います。興味があればぜひ見てください。ユーザー情報からすぐ飛べますよ。

今回「みっちゃん」と言う人が会話で出てきましたが、今作で出てくるまで待っててください。今はまりなさんの方が優先ですからね。
……もうみっちゃんの名前が分かってしまった人がいたらお手上げです(笑)

では、次話までまったり待ってあげてください。

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