月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第27話

 

「結城君」

 

俺はゆっくりと後ろを向いた。

そこには、神妙な顔をしたまりなさんがいた。

 

俺はなんて言えば良いか分からなかった。本当は以前のように楽しく話したい。だけれど彼女を傷つけた時の顔が、セリフが、頭から離れてくれない。

「君の顔なんてもう見たくない!!もう二度と来ないで!!」って言葉。

 

だから、出来る限り顔を伏せて話しかける。

 

「……今日のライブイベント、良かったですね」

「そうだね」

「あのイベント企画したのってオーナーらしいですね。感動しました」

 

そう言って俺は歩を進める。そのまま帰ろうと思った。

 

「またCiRCLEに来ちゃってすみません。もう帰りますので」

 

まりなさんは俺なんて見たくないって思っているのに。これ以上まりなさんを傷つけたくない。

本当はこんな事言いたくないし、謝りたい。それなのに臆病な俺は開きたいと願っている口を無理矢理抑え込んだ。

 

けれど、俺の右手が後ろに引かれた。

 

「待って!結城君!」

 

俺はそのまま前を向いたまま、まりなさんの声に耳を傾ける。

まりなさんの震えた声が胸をチクチクさせる。掴まれた右手からも震えを感じ取れる。

 

「ガールズバンドパーティ。企画したのって本当は結城君だよね」

「……違いますよ」

「もう隠さなくて良いよ。オーナーとポピパのみんなから……聞いたから」

 

俺は目を大きく見開いた。

だからあの時、沙綾ちゃんは公園でまりなさんの事を聞いてきたんだ。内緒にしておいてってお願いしたのだけれど、多分タイミングが遅かったのだろう。

 

「企画した目的までは知らないけど……。本当に良いイベントだったよ」

「そうですか。俺も大成功でほっとしてますよ」

「ねぇ、結城君。こっち向いて?君と顔を見て話したい」

 

ゆっくりと振り向いた。同時に驚いた。なんで……

まりなさんの目から涙が溢れて、こぼれていたから。

そして、まりなさんは俺の胸に飛び込んできたのだから。

 

 

「ごめん、なさい結城君。うっ、うっ、……ごめんなさい」

「ちょ、ちょっとまりなさん!どうしたんですか」

 

正直思考が追いつかない。どうしてまりなさんが泣いていて、抱き着いて来たのか。

全部、俺が悪いのに。

 

「君につらい思いをさせたから」

「あれは俺が悪いんですよ。クビになるのも当然です。ですから、泣かないでください」

「違うの!あれは……私の、勘違い、で。うっ、うっ、結城君に他の場所で、研修させるって、意味だって」

 

頭が真っ白になる。あのクビ宣言がまりなさんの勘違いだったとしたら、俺が勝手に被害妄想しただけ。ろくに真相を聞かずに人の話を聞かなかった俺のミスじゃないか。

 

「それなのに!私がきちんと君に伝えていれば、こんな事にはならなかった!君につらい思いをさせなくて済んだ!」

 

まりなさんの嗚咽がひどくなる。こんな状態なのに、俺は彼女に何もしてあげられない。そんな自分が、嫌だ。

 

生意気かもしれないけれど、まりなさんの目からこぼれる涙を優しく指でふき取る。

 

「私、結城君がいなくなって寂しかった。謝る為に何回か、君の家の前まで行ったけど君に会えなくて、このまま君がっ!消えちゃってもう二度と会えなくなると思った。それが、怖かった!」

 

待って。それじゃあ、俺は。

大家さんが見た女性がまりなさんだとしたら、俺はまた、まりなさんを傷つけたんじゃないか。

……何やってるんだよ!

 

「オーナーに君が最後のお願いで、イベントを、企画しているって、聞いて、私……君に見捨てられちゃったって、思った。だから!最後に、君に、会いたかった」

 

まりなさんを強く抱きしめた。

 

「だから……だからぁ」

「このイベント、まりなさんがいつまでも、ずっと笑っていてほしいから、企画したんです」

「えっ?」

「今まで、俺に楽しい時間をたくさんくれたまりなさんに感謝の気持ちを伝えたくて企画したんです。企画者を秘密にしたのは、まりなさんにひどい事しておいて『何を今更』って思われたくなかったからです」

「そんな事っ、絶対に思わないよ!」

「まりなさんを見捨てるどころか、毎日まりなさんの事考えていたぐらいですよ?」

「うんっ、うんっ」

「だけれど、俺の行動がずっとまりなさんを苦しめていたんですよね。……。まりなさん、たくさん傷つけて、心配させて、ごめんなさい」

「っ!私も、ごめんなさい!」

 

ううっ……うわぁあああ、うう、うぅあああ――――――――

 

 

まりなさんは泣きながら謝って来る。「ごめんなさい、ごめんなさい」って。まりなさんはもう良いんですよ、謝らなくて。

その思いを乗せて、彼女を包み込む。

 

今回の俺の犯した罪の大きさを、実感しながら。

 

 

 

「落ち着きましたか?まりなさん」

「あとちょっとだけ、このままでいよ?」

 

まりなさんの涙の冷たさが俺の体温によって浄化され、温かさが満たされていく。

冷たいものと温かいものが合わさったら中間になる。プラスとマイナスを合わせるとゼロになるように。でもさ、この時ぐらいは常識なんて概念はぶっ壊してもいいだろ?

たまには非常識も悪くないから。

 

俺は、まりなさんに聞く。今回の目的は達成できたか。

 

「まりなさんの夢、叶いましたか?」

「結城君。私の夢、覚えていてくれてたの?」

「はい。『音楽を本気でやりたくてウズウズしている子達を誰かに見つけてもらう』ことですよね」

「……。半分正解だね」

「半分?なんですか?」

「うん。私はその後に君の力を貸してって言ったよ?だからまだ半分。君と一緒に、音楽を本気でやりたくてウズウズしている子達を誰かに見つけてもらう事が私の夢だよ?それとね」

 

 

 

 

 

 

「私は結城君の事が好き」

 

え?まりなさん……。

 

「人の為に動けて、いざと言う時には頼りになって、喧嘩して傷つけた相手なのに私の事を想って働きかけてくれる。そんな結城君が好き」

「俺で良いんですか?……まりなさんにひどい事もしたのに、そんな俺で良いんですか」

「うん。もちろんだよ」

「……。俺もまりなさんの事が好きです。暗闇にいた俺を、ぽかぽかと温かい場所に導いてくれた、まりなさんが好きです」

 

「ねぇ結城君。いや、拓斗君」

「何ですか?」

 

 

 

 

 

「もう、離れないで。ずっと一緒にいて」

 

 




@komugikonana

次話は11月10日(土)の22:00に投稿予定です。
次話はエピローグです。

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では、次話までまったり待ってあげてください。



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