月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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エピローグ

 

エピローグ

 

 

「もうそろそろ勘弁してくださいよ」

 

肌寒さを感じるようになってきた季節、街は一足早くクリスマスムードを漂わせている。俺はとあるライブハウスで働いている。現在は昼休み中であり、お昼ご飯を選んでいるのだけれど。

 

「だーめ!ちーくんが嘘をついたんだから」

「ははは……」

 

どういう事なのかはちょっと昔にさかのぼる。

 

 

 

 

俺とまりなさんが付き合う事になったあの後、その場で俺はオーナーに電話をかけた。もちろん自分の意思でそのような行動をとった。胸元にいるまりなさんとずっと一緒にいたいと思ったから。そしてこれからも夢を持ち続けたかったから。

 

オーナーに仕事を続けたいと伝えたところ、彼は二つ返事で了承してくれた。さらに休職期間だったにも関わらず、通常通り給料を入れておいたと言われた。もちろん拒否はしたけれど、「九月から十一月の結城は他の場所で研修していたんだろ?」だって。

やっぱりオーナーには頭が上がらない。

そのままオーナーに誘われて、まりなさんと三人で居酒屋で打ち上げをしたけれど、朝まで家に帰してくれなかった。

 

 

そのような経緯でCiRCLEに復帰できた俺は翌日から働いた。そこに待っていたのはカフェの店員さん。彼女はオバケを見たような顔になって「なんでちーくんがいるの!?」と聞いてきたから、仕事復帰ですと伝える。

「じゃあ、ちーくんは嘘をついたんだね?……毎日ここでチョココロネを十個買ってくれたら許してあげる♪」

そんな嬉しそうな顔をされたら、俺の答えは一つしかないじゃないか。

 

 

 

 

「はい、お持ちどうさま!いつもの十個とミルクティーです!」

「ありがとうございます」

 

もうこの大きなお盆を持つのも慣れたもの。それよりも毎日十個食べても全く飽きないパンを作れるやまぶきベーカリーは天晴れなものだ。今日も千円札が無くなる。

 

「ふふっ。またたくさん買ったね」

「一つもあげませんよ?まりなさん」

 

本当はライブハウス内でご飯を食べるのはよろしく無いのだけれど、まりなさんから特例で許可が降りた。チョココロネをハムスターのように頬張る。

 

今、俺の右手には腕時計が戻ってきている。倉庫にあったのをまりなさんが見つけたらしい。戻ってきた時には見違えるほど明るくなっていた。まりなさんが黒くなった古い金属バンドを新しく変えてくれたのだ。

 

「拓斗君。一週間前のガールズバンドパーティが大好評でオーナーが第二弾を企画して欲しいって言ってたよ」

「オーナーに伝えておきます。ガールズバンドパーティは一年に何回も行いませんって」

 

ガールズバンドパーティが終わって今日でちょうど一週間が経過した。ガールズバンドパーティはCiRCLEの持つ経営記録を大幅に塗り替えたらしい。その影響でここ最近はCiRCLEの知名度が瞬く間に広がっていき、ガールズバンドと言えばCiRCLEとまで業界内ではささやかれているのだそうだ。

 

ちなみに情報ソースはオーナー。本当かどうかは知らない。

本当かどうかなんてどうでも良い。だって俺とまりなさんは、音楽を本気でやりたくてウズウズしている子達を誰かに見つけてもらう為にライブイベントを行うのだから。

 

ガールズバンドパーティは俺に、大切なことを教えてくれた。

人を思いやる大切さ。力を合わせる重要さ。そして、今までの俺の愚かさ。

 

「拓斗君の企画、楽しみだなぁ」

「まりなさんも手伝ってくれないと、やる気出ないんですけど」

「ふふっ。拓斗君、言うようになったね」

 

だって事実ですから。

俺はまりなさんに大切なことを教えてもらえるきっかけをくれたのだから。

先輩として、恋人として。俺にとってあなたは欠かせない存在なんですよ。

 

「拓斗君。実は第二弾ガールズバンドパーティより先に頑張らなくちゃいけない事があるんだ」

「そうなんですか?」

「うん。ロッキンスターフェスって言うイベント」

「あぁ、全国各地のライブハウスが集まるイベントでしたっけ。聞いたことあります」

「そう!さすが拓斗君だね。私たち招待されてね」

「ありがたい話ですね」

「本当にね。それで相談があるんだけど……CiRCLE代表のバンドはどのバンドが良いかな?」

「まりなさん。俺の答えは決まってますよ。一バンドなら……。まりなさんも本当は決めているんですよね?」

「わ!流石私の彼氏だね。じゃあ、せーので一緒に言わない?外れたら罰ゲーム」

 

まりなさんはうきうきしている。罰ゲームは何にするかなんて決める必要は無い。だって外すわけが無いから。これで外したら笑いものだし、もうすでに店員さんの罰を受けているからダブルブッキングはシャレにならない。

 

 

「「せーの!」」

 

 

これからの人生、きっと山あり谷ありだと思う。俺の今までの人生もそうだった。だけれど、今の俺には何故か明るく見えるんだ。

 

月明かりに照らされて

 

「「……!!」」

 

 

 

 

俺は、今日も働く。

 

 

 




@komugikonana

次話は11月12日(月)の22:00に投稿予定です。
……終わりじゃないの?って思っている方も多いと思いますが、10月30日(21話)に月明かりの未公開情報をTwitterで開示しますって言って公開した情報ですが、Afterstory全7話を公開しますので、もう少しだけ続きます。RPGの裏ストーリーだと思ってください。「CiRCLING編」をお届けします。これが終われば完結です。

この小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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同じく評価9と言う高評価をつけていただきました シコスタルさん!
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この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!

では、次話までまったり待ってあげてください。

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