月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第2話

「おはよう、結城君。今日も一日頑張ろうね」

「おはようございます、まりなさん。先に機材チェックしておいたので確認お願いします」

「お、仕事が早いねー。りょーかい」

 

そう言ってまりなさんはライブハウスに併設されているスタジオに入っていった。

 

俺、結城拓斗がここ、「CiRCLE」で働き始めて一週間になる。今はフロアの清掃を行っている。結構きれい好きだからか、掃除は嫌いじゃない。

機材チェックとフロア清掃は就業前と就業後の二回行われる。

 

このライブハウスで働いてから分かった事が二つある。

 

一つ目、CiRCLEはオーナーさんがこのあたりで活動しているガールズバンドを応援したくてこのライブハウスを作ったそうだ。この情報はまりなさんからも聞いたが、オーナーさんからも直接聞いた。すなわち、ここの出演者は女の子だけなのだ!!

控えめに言って素晴らしい。

 

ちなみにオーナーさんは想像していたより気さくな方で助かった。個性の塊!って感じのおじさんが出てきたらどうしようと思っていたけれど、その考えは杞憂に終わった。

 

 

二つ目は……

 

「働き始めて一週間で言うのもあれですけど……全然お客さん来ませんね。」

「き、気のせいだよ。きっと……」

 

機材チェックを終えたまりなさんが苦笑いをしながら答えてくれる。

 

 

そう。客足が少ない。

近くに二つも女子高があるにも関わらず。しかも二校とも中等部まである割と規模が大きい学校だ。軽音楽部は存在しているのだろうか。

近々何かしらの策が必要になるような気がする。

 

このライブハウスは歴史が浅く、知名度も低いらしい。

 

そろそろまりなさんはポジティブな事を言ってくれるはずだ。ここで一週間働いた俺には分かる。素直に言うと、いつでも物事を前向きにとらえられる彼女の姿勢は俺にはまぶしい。俺にはそんな思考を持っていないから。

 

「でもね」

ほらきた。

「私はうまくいくと思うんだよね」

「どうしてです?」

「私の夢を知っている仲間が増えたからだね。結城君に来てもらってよかったよ」

 

まだまりなさんの話には続きがあった。

 

「たくさんの子達を見つけてもらえるような場所を一緒に作ろうね!」

 

俺はそこまで言ってくれるなんて全く想定していなかった。

どうやらまりなさんの方が一枚上手だったようだ。

 

 

 

 

ライブハウスでの仕事も午後の中盤あたりに差し掛かる。

 

仕事の昼休みは一週間毎日チョココロネを食べている。

今日はやけにお腹が空いたので昼飯に中庭にあるカフェでチョココロネを九個買った。そして一個ずつ確実に咀嚼していった。ハムスターが大好きなヒマワリの種を食べるような感じをイメージしてもらうとわかりやすいと思う。カフェの店員さんからは「チョココロネ君」と呼ばれるようになった。この呼び名は長く続かないのだけれど。

ちなみに今日の俺の食事シーンを目の当たりにしたまりなさんは、ドン引きしていた。

 

 

まぁそんな感じで昼飯を食べすぎて今すごく眠い。

睡魔が昼間に食べたチョココロネのチョコ並みに詰まってきた。

 

まりなさんは何やら真剣にデスクワークをしているから少しうたた寝してもばれないんじゃないか。

 

 

妄想が少し暴走する。世間体を重視する表の俺では絶対に言わないような事。

もし寝ていてもまりなさんが優しく起こしてくれるんじゃないか……。たとえば「ほぉら結城君。早く起きないとイタズラ、しちゃうぞ?」みたいな。ちなみに声はセクシーに。よし寝よう。

 

なんて妄想していると、一人の女子高生が中に入ってきた。

 

 

「こんにちはーっ!!」

「はい?誰?」

 

どこの学校かはわからないけど制服を着ている。背丈を見るにたぶん高校生じゃないかな。それに頭から猫耳が生えている。ん?猫耳?

とにかく、元気で活発そうな女の子だ。

 

突然で、尚且つ大声だったので思わず「誰?」って言ってしまった。完全に不意をつかれた。

落ち着いてよく見ると背中に楽器のソフトケースを背負っている。ベースほど長くは無いからおそらくギターケース。

間違いない。お客さんだ。

 

 

「いらっしゃいませ。こんにちは」

 

 

 

 

これが、俺とPoppin’Partyとの初めての出会いだった。

 

 

 




次話は9月28日(金)の22:00に投稿予定です。
まだ始まってばかりなのにこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

いよいよ明日がイベント最終日ですね!みなさんが一人でも目標としている順位まで到達出来る事を願っています!

では、次話までまったり待ってあげてください。

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