月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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Afterstory3

 

まだ夜にもなっていないのにそこら中に若い男女が手やら腕やらにくっついて歩く姿を多く見る。それもそのはずで、今日は十二月二十五日。

そんな街中に幸せオーラが漂っている中、俺は忙しく足を動かす。まだ今日はマシだ。昨日なんて俺の目の前でキスしたカップルを何組も見たし、夜の街へと消えていくカップルも見た。少しは自重して欲しい。

 

俺は今日もロッキンスターフェスの準備に取り掛かっている。まりなさんが物販するグッズをデザインまでしてくれた。ステッカーやキーホルダーだけでなく、タオルやTシャツまで。

ちなみに俺もデザインを手伝ったのだけれど、自分からその役割を退いた。俺に絵心は無いし、デザインなんてもっての外。まりなさんは「わ、私は好きなデザインだけどなー……」とフォローしてくれたが、まりなさんの声も震えていたので彼女に任せた。

 

そして出来たデザイン案をお店の方に直接出しに行ったり、電話で話した後にFAXで送ったりを俺が担当している。

 

今日はブースで用いる細かい物を購入している。例えば文房具とかで、テープやハサミなんかも一様買っておいた。ペン類は以外にあるのだけれど、テープとかって意外となかったりする。

そのままCiRCLEに戻ろうと思いながら歩いていると。

 

「おっ」

 

何か良さげなお店を見つけ、そのまま入店した。

 

 

 

 

「おかえり、拓斗君」

「お疲れさまです。まりなさん」

「帰ってきて早々ごめんなんだけど、ポピパのみんなが練習見て欲しいって言ってたよ」

「分かりました。覗いてきますね」

 

ロッカーにチェスターコートとお店で買った物を入れ、文房具類をまりなさんに渡してから、併設スタジオに向かう。

音が鳴り終わった事を確認し、ノックをする。

 

「練習お疲れさま、みんな」

「「「「「お疲れさまです!」」」」」

 

 

まだ三週間ちょっとしか経っていないのに新曲が出来ており、感想を聞かせて欲しいらしかった。もちろんまだ粗さも目立つし、アレンジしたい部分なんかもあったけれど良い感じに出来上がっている事に安心した。粗さはこれから詰めていけば良いし、アレンジはポピパのみんなに任せればいい。技術的や表現的なアドバイスをした。

 

あの後、少し休憩時間を作りチョココロネをかじっているとりみちゃんがやってきた。どうやら相談に乗ってほしいらしい。

今まで知らなかったけれど、りみちゃんはポピパの作曲を担当しているらしい。俺が指摘した箇所のアレンジを迷っているようだ。俺は貸出用のアコギを持ってきて、二時間ぐらい二人で曲を思案した。

 

 

「すみません、先に掃除をさせてしまって」

「いいよ、それくらい。曲は良い感じに出来そう?」

 

りみちゃんとの相談し終えた時には、もう閉店時間に差し迫っていた。既に会計を済ましていたポピパのみんなは帰っていき、俺は大急ぎで物置に行きアコギを置いた。

戻ってきた時にはまりなさんが先に掃除を始めていた。

 

「ヒントをあげただけですよ。でも、良い感じになりそうな気はします」

 

新曲は俺たちの曲では無い、ポピパの曲なのだ。だからアレンジとかは本人たちに任せた方が良い。今後のノウハウにもなる。

俺は掃除を終えた後、機材チェックをこなした。そこからロッカーに向かいチェスターコートと買った物をかばんに入れてCiRCLEを後にする。

 

 

「今日もお疲れさま、拓斗君!」

「お疲れさまです」

 

まりなさんはいつも、俺が機材チェックを終えて戸締りが完了するまで待っていてくれる。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。寒いのに待たせてしまう事、そして。

 

「その……まりなさん、すみません。クリスマスなのに何もできなくて」

「ううん、良いの。仕事が忙しいし、拓斗君が近くにいるだけで良いから」

 

せっかく恋人になったのに、まりなさんに何もできなかった事。レストランの予約も、イルミネーションが綺麗なところに行く計画も。

だから俺は、かばんに入れてあった物を取り出す。

 

「大したものではないんですけど、クリスマスプレゼントです」

「えっ!?」

 

黒くて、四角い箱をまりなさんに渡す。正直かなりベタなものだから喜んでくれるか分からないけれど。

 

「開けても、良い?」

「もちろんです」

 

まりなさんが箱を開ける。そこにあるのはシルバーの丸いネックレス。俺にはこの丸が、満月に見えたんだ。

 

まりなさんはネックレスを見て、「わぁ」と声を漏らした。その後に見せたまりなさんの表情がとびっきりの笑顔で、

 

「ありがとう!拓斗君!」

 

そんな笑顔を見た俺は、裁縫の時に使う針山のような気持ちになった。

心をチクチクと針でつつかれる、刺される。けれど痛くはなくて、心地いい。

 

「ねぇ拓斗君。今日は手を繋いで帰ろ?」

「そうですね」

 

恐る恐る手を繋ぐ。お互い顔を見合わせる。寒さのせいか、恥ずかしさのせいか分からないけれど、ほんのり顔が赤くなっていた。

チクチクと刺される針の量が増える。ドキドキする。

 

恋人となって初めて手を繋いで帰った。最初は普通に手を繋いでいた。けれど二人が分かれる時間が近づいてくると、自然と恋人繋ぎになっていた。まだ別れたくないという心情が行動に移されたかのように。

 

 

 




@komugikonana

次話は11月18日(日)の22時に投稿予定です。
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最近急に寒くなってきましたね。読者のみなさんも体調には気を付けてくださいね。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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