月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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Afterstory4

 

新しい年になって早二週間が経った。後一週間でロッキンスターフェスが始まる。

新年にはまりなさんと初詣に行きたかったのだけれど、母親に実家まで帰ってこいと言われたため一緒に過ごせなかった。実家に帰ってもやることが無いからずっとロッキンスターフェスで用いるチラシを作って過ごす残念な正月を過ごした。

 

そして昼下がりの現在、腰痛で動けなくなっている。腰痛の原因、それは

 

「もう、だらしないなー。拓斗君」

 

まりなさんに罵られる。フェスで物販する商品を運んでいたのだけれど、最近はめっきり運動をしていなかったのが仇となった。今日の夕方に業者さんが来るからそれまでに運ばなくてはいけない。

 

「イベントまであと一週間か~、よーしっ!」

 

スタジオからポピパが出てきた。今は猫の手も借りたい。この猫耳少女たちに商品を運ぶ手伝いをしてもらおう。ついでに沙綾ちゃんに湿布も貼ってほしい。

 

「ポピパのみんな、練習お疲れ。暇があったら手伝ってほしい事があるんだけど」

「拓斗さんのお願いだもんねっ!分かりましたー!」

 

倉庫にあるからゆっくりで良いから持ってきて、と伝える。

すると香澄ちゃんが「あー!」と言うから何だろうと思っていると、こっちを向いてにやにやしている。

 

「拓斗さんの携帯の待ち受け画面の女の人って誰か、手伝いが終わったら教えてくださいねーっ!」

 

香澄ちゃんを始め、ポピパのみんなは倉庫に向かっていった。爆弾を落として。一度あの子には練習方法よりも礼儀作法を教えなくてはいけない。

と思っていると、肩をすごい力で掴まれる。

 

「拓斗君。待ち受け画面の女の人ってだれかなー?」

「勘違いですって!まりなさん!」

 

 

 

 

かなりの段ボールが受付まで運ばれてきた。この調子だと夕方までに間に合いそうだ。

まりなさんは心なしかまだ顔を赤くしている。あの爆弾を処理するために俺の携帯の待ち受けを見せた。もちろん保存されている画像もすべて提示したから疑いは晴れたけれど、羞恥心は居座ったままだった。

 

運ばれてきた荷物を出入りの邪魔にならないように壁に寄せる作業をしているとポピパのみんなが戻ってきた。香澄ちゃんがなにやら大きいケースを持っている。

 

「ねえねえまりなさん、拓斗さん!地下にエレキギターの入ったハードケースが置いてありましたけど、もしかして誰かの忘れ物じゃないですか?」

 

俺とまりなさんは顔を見合わせる。あのハードケースの中身は……。

 

「それ、私のギターなんだ」

「えっ!まりなさんのギターだったんですか!?」

「うん。たまにスタジオで拓斗君と弾いているんだ」

 

まりなさんのギターは、俺たちが恋人になった後からハードケースに入れて保存している。ハードケースを持ってスタジオに入る時のまりなさんの笑顔を見るだけであの時、ハードケースを買って良かったと思える。

 

「ひょっとして、まりなさんもバンドやってたんですかっ!?良かったらその話聞かせてくださーいっ!!」

「私も聞きたい」

 

本当にこの子達はバンドの話を聞きたがるな。俺の時もそんな感じで聞いて来たっけ。だけれど、俺と同じくまりなさんのバンドの結末もあまり良い物ではない。

 

「……あはは。その話はおいおいね」

 

一瞬、まりなさんは暗い顔になった。

俺はあの時のまりなさんの気持ちが分かった。「苦しそうな顔で話していたから、心配だったんだからねー」って言ってくれた、あの時。

多分ポピパのみんなにバンドの話をし終えた後の俺も、こんな表情をしていたのかもしれない。

 

 

 

「では、よろしくお願いします」

 

俺は業者さんに段ボールを渡し終えお礼を言い、トラックが見えなくなるまで見送った。きっと香澄ちゃんがギターを持ってきたのは運命なのかもしれない。だから

 

「まりなさん、せっかくギターがあるんですしセッションしましょうよ」

「あ、うん。良いよ。しよっか」

 

「まりなさん」

 

ギターのチューニングをしているまりなさんに言葉をかける。今のまりなさんはちょっとでも触れると形が変わってしまう粘土細工のような感じがしたから、優しく。

 

「バンドの過去を話すのって意外ときついですよね」

「え?」

「俺もポピパのみんなに話し終えた後、結構心が痛くなりました」

 

練習前に暗い雰囲気にさせてしまったから尚更だ。だけれど俺はその後は普通に過ごせたし、もうバンドの過去に囚われることも無くなった。まりなさんがいたから。

 

「でもあの後、まりなさんに言葉をかけてもらってから楽になったんです。俺は言葉では上手く言えないですけど、音で伝えますよ」

「拓斗君……」

 

そう言って貸出用のギターをアンプに繋げる。そして伝える。

バンドの結末が良かろうと悪かろうと否定する人なんて誰もいませんよって。

 

 

 

「ありがとう、拓斗君」

 

セッションが終わる。今日は柄にもなく情熱的になったし、まりなさんも俺の音に合わせてくれた。音で感情を表す事が出来るのは音楽だけ。だから音楽は偉大なのかもしれないし、いつの時代でも愛される理由なのかもしれない。

 

「拓斗君は……」

「はい。何ですか?」

 

まりなさんは何かにすがるような表情で俺の方を見る。このような表情をするまりなさんは出会って初めて見るもので、少し不安になる。

 

「拓斗君は、さ。またバンドをしたいって思う?」

 

俺は少し考えた。音を重ねる楽しさを知っているし、雄二と会った時にはまたあいつを入れた三人で音楽をしてみたいと感じたから。

 

「そうですね。やっても良いかなとは思ってますよ」

「……そっか」

 

俺はこのまりなさんの表情が気になった。どこかに行ってしまいそうな雰囲気だったから。だから俺は伝える。言葉は話さなきゃ伝わらないから。

 

「大丈夫ですよ」

「拓斗君?」

 

俺の気持ちは決まっているから。

 

 




@komugikonana

次話は11月20日(火)の22:00に投稿予定です。
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ついにAfterstoryも折り返しまできました。
今回のお話は結構大事なんですよね。
今後どうなっていくか注目ですね。次話からロッキンスターフェス当日となります。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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