月明かりに照らされて   作:小麦 こな

4 / 36
第3話

「いらっしゃいませ。こんにちは」

 

俺はお客さんであろう女の子に出来る限りの営業スマイルでそう言った。女の子一人だろうか。まぁスタジオで自主練習かもしれない。やっぱり家にあるようなミニアンプとスタジオにあるアンプじゃ天と地の差だし、音作りも兼ねてだろう。俺も思いっきり弾きたくなってきた。

 

「あ、こんにちは香澄ちゃん。今日は一人なの?」

「そろそろ来ると思います!」

 

どうやらまりなさんとこの女の子は知り合いらしい。常連さんだったりするのだろうか。それにそろそろ来るっていうことは遅れてくる子もいるのだろう。学生だし仕方がない。俺も追試のオンパレードだった。

 

「はー、はー……」

一人の女の子が疲れた表情で入ってきた。金髪のツインテールの女の子だ。先に来た香澄ちゃんだっけ?その子と同じ制服だから同じバンド仲間だろう。

 

いや待て。この子凄く胸がでかい。ふつうにまりなさんよりも大きいだろう。この大きな胸をぶら下げて走ってきた……だと!?絶対にぷるんぷるんじゃないか!彼女が走っている姿を想像する。

……今年の体育祭は参加必須だな。もちろん見る専門だ。

 

「やっと追いついた……。ほんっとに言うこと聞かねーやつだな!ちょっとは人の言うことを聞けっての!」

「だって早く来たかったんだもーん!いいじゃん、有咲ぁー」

 

香澄ちゃんが勝手に先走って来たみたいだな。そりゃ他のメンバーも怒るだろう。

でもこの口論にもちゃんと友情みたいなものを感じられる。仲は良さそうだな。

 

その後すぐに他のメンバーだと思われる三人が到着した。この三人も走ってきたのだろう。お疲れ様だ。でもこうやって見ると五人ともかわいい。この地域の女の子偏差値はすごそうだ。

 

「みんなほんとに元気だね!若いっていいなー」

 

まりなさんはにこにこしながら彼女らと会話している。こういう空気は苦手だ。一人だけ会話についていけないという空気。

俺はまりなさんに目線で訴えてみた。

 

「そうだ。みんなに新しく入ったスタッフを紹介するね」

 

さすがはまりなさん。気づいてくれた。相手は高校生だ。無難な自己紹介をすれば引かれることはないだろう。

 

「CiRCLEの新人スタッフの結城君です」

 

少し咳払いをする。みんなの顔を見て言った。

「みなさんこんにちは。新人スタッフの結城拓斗と言います。よろしくね」

 

 

 

 

その後、五人からも簡単に自己紹介してもらった。

 

最初に来てくれた猫耳の女の子は戸山香澄ちゃん、担当はギターボーカル。金髪ツインテールの女の子が市ヶ谷有咲ちゃん、キーボード担当。清楚黒髪ロングの女の子が花園たえちゃん、リードギター担当らしい。少し恥ずかしがり屋の女の子が牛込りみちゃんでベース担当。ポニーテールとシュシュが似合う女の子が山吹沙綾ちゃん。ドラム担当だ。

この五人からなるバンドがPoppin’Party、通称ポピパだ。

 

現在、ポピパは併設スタジオで練習を行っている。スタジオに入る時もにぎやかに入っていった。気持ちは分かる。砂漠を歩いている時に念願のオアシスを見つけたような気持ちになる。俺も学生の時にテンションが上がって普段やらないドラムを叩きバスドラムを破ったのはいい思い出だ。

 

なんて過去を思い出してしみじみしているとまりなさんがやってきた。

 

「どう?ポピパのみんな。元気だったでしょ」

「ほんとです。若いっていいですね」

「急におっさんになってるよ……」

 

社会人にあの元気は出せないだろう。スイカ割りを「もうちょっと右」みたいな指示もなしに叩くレベルで難しい。でも……

 

「ポピパがどんな音楽を奏でるかは興味あります。想像はつきますけど」

「ポピパは私イチオシのバンドなんだ。今度のイベントに出てもらう予定だからその機会に聴いてみてよ」

 

なるほど、まりなさんのイチオシか。かなり期待が持てる。最近の高校生は技術も高いのだろうか。彼女たちが楽器歴何年かなんて知らないけれど、ライブハウスのイベントに出演できるくらいだし。俺がギターを始めた頃の四月なんてコードチェンジもできなかった。Fコードを弾けるようになったのは七月だ。かなり遅めの上達スピードだろう。

 

「きっとポピパのファンになるよ」

「期待しておきます」

 

「それとね」

なんだろう。

「有咲ちゃんが来たとき結城君の目が見開いていたのはどうしてかなー?」

ばれてた。そういうのは気づかなくていいのに。

「え、えっと……それは……」

「それは……何かなぁ?気になるなぁ」

 

まりなさんの笑顔が怖い。鏡を見ていないから分からないけど、目が泳ぎまくっているのだろうな。「有咲ちゃんの胸をガン見してました」なんて死んでも言えないだろう。

最近の高校生はかわいい子が多いですね。ああいう子がタイプなんです。なんて言えば誤魔化せられるかと考えていた時だった。

 

スタジオのドアが大きく音を立てた。

 

スタジオのドアは防音の為かなり重たい。そのドアが思い切り開いたのだ。何かあったに違いない。もし何かあったら……。身体が凍り付いたかと思うほどゾッとした。

 

 

「助けてーっ!」

 

涙目の香澄ちゃんが出てきた。彼女の相棒である赤いギターと共に。

 

 

 

 




次話は9月30日(日)の22:00に投稿予定です。
次話あたりから物語が少しづつ加速していきますので、お楽しみに!(小並感)
引き続きこの小説をお気に入りにしてくださった方々、そして投票してくださった方ありがとうございます!そして今後ともよろしくお願い致します。

感想とかあればぜひ聞かせてください!「面白くない」とかでも良いので(傷つきやすいタイプです)

チャレンジイベントが終了しましたね。みなさんお疲れ様でした!
私は地味に全体、楽曲順位ともに3000位台をキープしました。報酬ウマウマ(笑)

長くなりましたが
では、次話までまったり待ってあげてください。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。