月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第5話

 

「それじゃ、まりなさん。お先に失礼します」

「はーい。お疲れさまー」

 

今日の仕事も大きな問題も無く終われた。そろそろこのライブハウスで働くことにも慣れてきた。天気予報によると、もうすぐ梅雨入りらしい。ギターにとっては天敵となる季節。

ギターは湿気に弱いのだ。

 

それにしても最近の女子高生はとっつきにくいように感じる。ポピパは別だけれど。どんな女子高生かの例を挙げると黒毛に赤いメッシュが入った子とか、銀髪で猫が好きそうな子とか。どちらもスタジオを使ってくれている大事なお客さんなのだけれど、話を振ってもそっけない対応で終わってしまう。

 

「あ、ちーくんだ。今日はもう仕事終わったの?」

「はい。今日は早くあがらせてもらいました。」

 

うちのライブハウスの中庭にあるカフェの店員さんが挨拶してくれた。「ちーくん」についてなのだけれど、最初は「チョココロネ君」って呼んでくれていたけど、どうやら語呂が悪い上に呼びにくいらしく五月には「ちーくん」に変わっていた。個人的にはちーくんと言う呼び名は気に入っている。

 

「ちーくんの大好きなチョココロネがちょこっと残っているんだけれど、買わない?」

「あ、じゃあちょこっと買います。」

「ありがとうございまーす。ちーくんが来てからチョココロネを多く取り寄せるようにしたんだから感謝してよねー」

 

本当にここのチョココロネはおいしい。しかも手ごろな値段。給料の半分をここのチョココロネに変えられても文句を言わない自信がある。

 

なんて考えながらお金を出している時、店員さんのとある言葉に引っかかった。さっきチョココロネを取り寄せているって言っていたような?どういう事だろう。

 

「あれ?ここのチョココロネって自家製じゃなかったんですか?」

「ありゃ、知らなかったの?近くのパン屋さんから取り寄せているんだよ」

「詳しく」

 

思わず前のめりになって店員さんに言い寄ってしまったからか、CiRCLEで働いてから早くも二度目となるドン引きを食らった。二週間に一回ペースである。

 

 

 

 

お宝情報を手に入れた俺はその週の休日、そのパン屋さんに向かうことにした。仕事はどうしたって?有給を取った。せっかくの有給制度だ。使わなくちゃもったいない。それに最近は睡眠不足もあって昼間まで寝ていたかったのもある。

 

手に入れた情報によるとお店の名前は「やまぶきベーカリー」。商店街に店を構えており列をも作る人気店らしい。あまり商店街には来たことがなかったので土地勘はないが前もって携帯で調べておいたからスムーズに行けるはずだ。

 

「見つけた。ここだ」

 

やまぶきベーカリー発見。夕焼けにも映えるかなりおしゃれな店構え。お店に入る前からこんなにもいい匂いがするなんて。手に入れた情報に不備はないようだ。早速中に入ろう。

 

「いらっしゃいませー。ってあれ?拓斗さん?」

「え?」

 

ついに俺のチョココロネ好きがこの街にも知れ渡ってしまったのかと思って声のした方向に目をやると、そこには知っている人が店員の恰好をしてレジにいた。

 

 

 

 

情報を整理すると、やまぶきベーカリーは沙綾ちゃんのご両親が経営しているお店だった。そして沙綾ちゃんもよくお店の手伝いをしているらしい。本当に良くできた子だと思う。まぁ、俺も気づくべきだった。お店の名前と沙綾ちゃんの名字が一致していることに。

 

「拓斗さんがうちに来るのって初めてですよね?」

「うん。CiRCLEの中庭のカフェにあるチョココロネが大好きでね。そこの店員さんにここで仕入れているって聞いて来たんだよ」

「そうなんですか!ありがとうございます」

 

店に入って思ったけれど、人気店だけあってたくさんのパンが並べられている。チョココロネを目当てに来たけれど、他のパンも買っていいかもしれない。時間も時間だし値引きされているパンたちもいるけど、誰もが規則正しく列をなしている。

 

「ということは拓斗さんもチョココロネが好きなんですか?」

「も?と言うことはやっぱり人気あるの?」

 

人気があるのも当然だろう。あのチョコの甘さと苦みの絶妙なバランス。それに生地も忘れちゃいけない。あの生地がチョコをくるんで味全体を支えている。初めて食べた時なんて本当に驚いた。

 

「りみりんもチョココロネが大好きなんですよ」

「そうなんだ」

 

これは朗報だ。実はポピパの残りメンバーである四人はそれなりに仲は良くなっていたが、りみちゃんだけは少し距離があるように感じていた。もしかすると、ポピパの中で一番仲良くなれる素質を秘めていたのはりみちゃんだったのかもしれない。

 

「そうなんです。好きすぎて曲まで作るぐらいですから」

「えぇ!」

 

先を越された。俺も初めてチョココロネを食べた後にチョココロネに捧げる歌を作ろうと思い立って夜な夜な時間を作っては作曲していた。ちなみに歌詞は完成済みだ。やるな、りみちゃん。よし、今度チョココロネ談話でもしよう。

 

なんて思いながら沙綾ちゃんと楽しく話をしていると後ろから肩をぐっとつかまれた。しかもかなり強い力で。もしかしたらレジで精算しようと思っていたけど、沙綾ちゃんと話してばかりだったからレジ前が開かず苛立っているのかもしれない。でも、暴力はいけないだろう。

 

そう思っていたから、少しにらんで後ろに振り向いた。

 

後ろに振り向いた瞬間、広場で野球のバッターをやっている少年のような気分になった。

放った会心の当たりがこの町で一番のカミナリオヤジの家に吸い込まれていくような、今までは楽しかったのが一瞬にして無になるような。そんな気分。

 

どうしよう。冷や汗が止まらない。

 

 

「結城君は女子高生をナンパするために有給をとったのかなー?」

「ははは……」

 

まりなさんはとっても笑顔だ。

どうしてやまぶきベーカリーにまりなさんがいるんだ……。

 

沙綾ちゃんに「助けて」と目線でメッセージを送った。

沙綾ちゃんは苦笑いをしながら「ありがとうございましたー」と言った。

 

 

 





次話は10月4日(木)の22:00に投稿予定です。
新たにこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!

そして評価9という高評価をつけてくださいました穂乃果ちゃん推しさん、感謝の言葉をこの場を借りてさせていただきます。本当にありがとうございます!


ガルパ、ついにドリフェスが始まりましたね。皆さんに欲しいキャラクターが当たりますよう祈っております。私はパスパレファンなのでそれなりに引くと思います。

さてさて
では、次話までまったり待ってあげてください。

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