月明かりに照らされて   作:小麦 こな

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第7話

 

梅雨が明けそうな季節になった。気温も高くなり、暑いのが苦手な俺にとっては憂鬱な季節だ。ギターを背負うと一段と背中の蒸れが激しくなる。そんな季節がもうすぐやってくる。

 

俺はここ、ライブハウス「CiRCLE」で忙しい毎日を送っている。どうして忙しいのかと言うと、週末にライブハウスでイベントを行う予定になっているためだ。もちろん、まりなさんも忙しい。言い方は極端だが、ここ最近はずっとライブハウス内を走り回っているような気がする。要するにそれぐらい忙しいのだ。

 

それに加えて、本番も近いということはリハーサルも近いということで……今週は忙しくなりそうだ。

 

ちなみに今日の俺の仕事は少し楽しみだったりする。理由は……お、出てきた。

 

「練習、たのしー!」

「今日も、楽しかった」

 

香澄ちゃんとおたえちゃんを先頭に併設スタジオから出てくる。今日の俺の仕事は出演バンドとの打ち合わせだ。そして今日の打ち合わせはポピパだからかなりリラックスしながら話も出来る。

 

「みんな、練習お疲れさま」

「「「「「お疲れ様です」」」」」

「これから打ち合わせだけど外がいい天気だから中庭でしようか」

 

ライブハウスの外にある中庭の方にみんなを案内する。普段は机と椅子×2のセットだけれど、今日は珍しくいい天気だったから外でやるかと思い立ち、あらかじめ六つ椅子を用意しておいた。

 

「う~ん、今週のライブ楽しみっ」

「あんまりライブ中に話しかけてくるなよ」

「えー、いいじゃん。有咲ぁー」

 

練習が終わってすぐなのに本当に元気だ。特に香澄ちゃん。バンドが、そして音楽が好きなのだろうな。

 

ちなみにチョココロネ好きを活かしてりみちゃんとは仲良くなったと思う。おたえちゃんも仕事関係で楽器屋に行く時などで会うことが多く、結構話す。たえちゃんからおたえちゃんに呼び方が変わったのは最近だけれど。

 

「あ、あの……一つ案があるんですけど……いいですか?」

「うん、大丈夫だよ。りみちゃん」

 

あの真面目なりみちゃんから提案と来た。これは期待度が高い。耳をかっぽじって聞き洩らしの無いようにせねば。

 

「ライブ中に、チョココロネを投げたいんですけど……」

 

さすが、この前チョココロネ同盟を締結した仲だ。その考えは無かった。こんな盟友を持てて俺は幸せだ。とてもいい案なのだが……

 

「それは今度にしよう。りみちゃん」

「わ……分かりました」

 

流石に「ここのライブハウスってライブ中にチョココロネ飛んでくる所だよね」なんて噂されたら俺たちは一巻の終わりだ。ただでさえ売り出し中のCiRCLEには大打撃だ。それにそんな世間の目に晒されて働くなんて俺には無理だろう。ごめんね、りみちゃん。だからそんな顔をしないで。

 

「じゃ、気を取り直してこれから打ち合わせを始めます」

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

 

 

打ち合わせも終わりに差し掛かる。雑談交じりで楽しく過ごせたから、俺にとっても有意義な時間となりそうだ。ポピパのみんなも真剣な話の時は真剣に聞いてくれたし、みんな良い子たちだ。

 

「結城君、ちょっといいかな?」

「分かりました。みんなちょっと待っててね?」

 

呼ばれたからみんなに断ってからまりなさんの方に向かう。ポピパのみんなは「はーい」やら「分かりました」をわざわざ言ってくれる。

 

「どうしたんですか?まりなさん」

「この後予約を入れてくれていたバンドの子達がキャンセルになってね。」

なるほど。

「ポピパのみんなが入りたそうだったら入っていいよって伝えてくれる?」

「分かりました」

 

まりなさんが空いている時間帯を教えてくれた。まだ少し時間はあるけれど、彼女たちに伝えておこう。

 

「おまたせ」

 

楽しそうに談笑している女子高生たちの輪に入る。なんだかみんなワクワクしているような気がする。なぜだろう。まぁいいか。伝えることを伝えよう。

 

「みんなこの後時間ある?もし良かったらなんだけど、この後スタジオ空いてるから使っても良いよ」

 

まだ時間があるけどね。と付け加えて伝えた。

 

「本当ですかっ!やったー」

「だから抱き着くなっつーの!」

 

香澄ちゃんと有咲ちゃんのいちゃいちゃは何度見ても飽きない。有咲ちゃんが振りほどこうとするたびに揺れる胸!最高である。でも最後は許容してあげる有咲ちゃん!最高である。

 

「あ、そうだ!」

 

香澄ちゃんが突然大声を出す。今日はいちゃいちゃが少ない。結構がっかりしている俺がいた。

 

「拓斗さんがバンドをしていた時の話が聞きたいです!」

 

なぜ急にそんな事を……。それにバンドをしていたなんてまりなさんにも話していないのだけれど。女子高生の情報網は怖い。帰って来た時にワクワクしていたのはこの件かもしれない。

 

「そんなのみんな興味ないでしょ?」

「私は興味ありますよ。拓斗さんのバンド」

 

沙綾ちゃんが言う。試しにみんなの方を見てみると、聞きたそうな表情を隠しきれずにいる。何か他の話題に移そう。女子高生なら恋愛話でもしていたら忘れるはず……

 

「少し時間ありますし、良いですよねっ!」

 

香澄ちゃんが身を乗り出して言う。みんなも寄ってくる。これはもう観念するしかなさそうだ。漢軍に囲まれた項羽もこんな気持ちだったのだろう。四面楚歌とはよく言ったものだ。

 

「分かった。話すよ。だけど面白い話じゃないから文句言うなよ」

 

 





次話は10月7日(日)の22:00に投稿予定です。
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